Σ怪人エゴバイター

香久乃このみ

Σ怪人エゴバイター(脚本)

Σ怪人エゴバイター

香久乃このみ

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Σ怪人エゴバイター
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〇シックなバー
  ──その噂は、静かに浸透していた──
「!?」
「おい! 見ろ! これって、噂のあれじゃ・・・!?」
「あっ、流れた!? くそぉ、どこ行った!」
「なぁにぃ~?」
「出たんだよ! ほら、赤文字で 『消えてほしい人は?』ってやつ!」
「あー、リプに名前書いとくと、 怪人エゴバイターがその相手を 消してくれるって噂の?」
「・・・本当に?」
「ウソじゃないって! あ~、クソッ、どこ行った!? 『いいね』かブクマしとけばよかった!」
「残念だけど、『いいね』もブクマも できないらしいよ」
「で、誰の名前を書くつもりだったの?」

〇学校の校舎

〇教室の教壇
月穂「そんでさー」
成美「マジでぇ?」
和泉「本当だって!」
未果「・・・・・・」
成美「・・・ハァ」
成美「なに?」
未果「!」
未果「あ、あのね、成美ちゃん! 昨日、お母さんと映画見てたんだけど!」
未果「主人公が私みたいだと思って お母さんに話したら 「ふぅん」 としか言ってくれなかったの!」
未果「ひどくない? 私はもっと、主人公の苦しみを通して 私のことを理解してほしかったのに!」
成美「・・・・・・」
月穂「話、終わった?」
未果「えっ?」
和泉「その話、アタシら関係ある?」
未果「あの、私はただ、 成美ちゃんに話を聞いてほしくて・・・」
成美「・・・・・・」
成美「そうなんだー、大変だねー・・・」
成美「で、もういい?」
未果「!」
月穂「成美、さっきの話の続きだけどさ、 隣のクラスのヤツが 実際に試してみたらしくてー」
成美「ウソでしょ? あはははは!」
和泉「ほら、その時の画像SNSに載せてる!」
成美「ちょ、顔! 顔! ひどすぎる!」
未果「・・・・・・」
和泉「杵築、まだなんか用?」
未果「・・・・・・」
成美「やめてよ!」
未果「!」
成美「今、手首見たよね? アンタのそう言うトコ 本当に無理なんだけど!」
未果「・・・っ」
「真中ー、 イジメすんなよー♪」
成美「うっさい、してねーし!」
月穂「気にしない方がいいよ、成美。 成美に付きまとって、一方的に まくしたてるあいつが悪いんだから」
成美「・・・うん」
和泉「ねぇ、前から気になってたんだけど、 なんで杵築のヤツずっと長袖なの? こんなに暑いのに」
月穂「それがさぁ、あたし見ちゃったんだ。 あの袖の下、手首のところに 傷跡がびっしりあって・・・」
和泉「うっそー! それってリスカってやつ? ヤバ~・・・」
成美「あのさ」
和泉「ん?」
成美「あいつのこととか、もういいじゃん? それよりさっきの話の続きしよ?」
月穂「そだね」
和泉「ほら、さっきの画像のここ見てよ!」
成美「うわぁ~。あははは!」

〇屋上の入口
未果「ひっくひっく・・・」
未果(ひどいよ、成美ちゃん)
未果(成美ちゃんだけは、私のことを 分かってくれる友だちだと 思ってたのに・・・)
未果「どうしてこんなことに なっちゃったのかな・・・・・・」
???「うわぁ、すごいね。 リスカってやつ?」
未果「っ!?」
未果「誰、ですか?」
シン「ぼく? シンって言うんだ、栂瀬(とがせ)シン。 初めまして」
未果「はじめ、まして・・・」
シン「どうしてキミは こんなところで一人泣いてるの?」
未果「・・・・・・」
未果「友だちに、裏切られて・・・」
シン「裏切り? 友だちなのに? それはひどいね!」
シン「ぼくでよければ話聞くよ? 吐き出せば、気が楽になるかもしれない」
未果「・・・・・・」
未果「あのね・・・」

〇教室の教壇
  成美ちゃんはね、
  私が落ち込んでた時に、
  声をかけてくれた人なの
成美「どしたん? 顔、暗いじゃん」
  私、お母さんと上手くいってなくて。
  その話をしたら成美ちゃんは
  味方になってくれたんだよ。
成美「へー、大変だね。 でも、あんたは頑張ったと思うよ。 えらいえらい」
成美「きっとお母さんも、 そのうち分かってくれるよ。 元気出しな」
  成美ちゃんは私の理解者になってくれた。
  心を許せる人だと思った。
  親友になれると思った!
  信じてたのに・・・

〇屋上の入口
シン「裏切った?」
未果「そう! 急に私のことを避けて 他の子とばかり遊ぶようになった」
未果「クラスのみんなもそう」
未果「成美ちゃんは人気者だから、 成美ちゃんと同じように 私と距離を置くようになった!」
未果「私、何もしてないのに・・・」
シン「・・・・・・」
シン「今、成美ちゃんのことどう思ってる? 大切な友だち?」
未果「大切だけど・・・、 中途半端に突き放すなら、 最初から私にかまわないでほしかった」
未果「出会ったことすら忘れたいくらい! 成美ちゃんなんて消えちゃえばいい!」
シン「へぇ・・・」
未果「・・・・・・」
シン「ねぇ、この噂知ってる?」
シン「あるSNSで、 『消えてほしい人は?』 って赤文字が表示されたら」
未果「リプに消えてほしい人の名前を 書けばいいんでしょ? 怪人エゴバイターが消してくれるっていう」
未果「知ってるけど、 そんな画面実際に見たことないし。 怪人なんてそもそもいるわけが・・・」
未果「あれ?」
未果「シン君? ・・・どこに行ったんだろう」
未果(そう言えば、シン君 学ラン着てなかった? ウチの学校はブレザーなのに・・・)
未果「えっ?」
未果(消えてほしい人・・・)
未果(真中成美、と・・・)
未果(・・・・・・。 やっちゃった・・・)
未果「ふふ、バカみたい。 こんなので人が消えるわけないのに」
未果「でも、ちょっとすっきりした」

〇魔界
未果「ここは・・・?」
未果(確か私は、 お風呂から出て宿題をしたあと ベッドに入ったはず・・・)
未果(これは、夢?)
成美「杵築・・・」
未果「えっ? 成美ちゃん!? どうして!?」
成美「・・・ここ、どこ?」
未果「わからない。 でも」
未果「成美ちゃんと一緒で嬉しい!」
成美「・・・・・・」
未果「ねぇ、成美ちゃん聞いて。 TVでボランティアの人が頑張ってるの 見てたらね」
未果「私なんてなんの役にも立ててなくて 生きていていいのかなぁ、って すっごく悲しくなっちゃったんだ」
成美「・・・チッ」
未果「それでね、私ね」
成美(私、私、私、私・・・・・・ いい加減にしろっつの)
未果「ねぇ、成美ちゃん、私ね。 ねぇ、聞いてる?」
???「おやおや随分と楽しそうだね」
???「とても互いに『消えろ』と 願った者どうしとは思えない」
未果「『互いに』?」
成美「誰!? 姿を見せなよ!」
シン「初めまして」
未果「シン、くん?」
成美「知り合い?」
シン「栂瀬シン、それは仮の姿」
エゴバイター「ぼくの名はエゴバイター。 以後お見知りおきを」
エゴバイター「片方のお人だけ」
未果「っ!」
成美「ふざけんな! 早く元の部屋に戻せよ! こんなところ、一秒だって・・・」
成美「なに? 天秤!?」
成美「きゃああああ!!」
未果「ひぁああああ!!」
  未果は天秤の左の皿へ、
  成美は右の皿へと
  乗せられてしまう。
成美「ちょっと、下ろせよ! アタシとこいつを天秤にかけるとか 意味わかんないんだけど!」
未果「成美ちゃん、さっきのはホント?」
成美「は? 何が?」
未果「私のこと、『消えろ』って願ったの?」
未果「あのヒト言ってた。 私たちは『消えろ』と願った者どうしだって」
成美「!」
未果「成美ちゃん、リプしたの? 『消えてほしい人は』って 赤文字のあれに、私の名前を?」
成美「それはアンタも同じでしょう!?」
未果「ひどいっ! どうして成美ちゃんは私を嫌うの!? 私は成美ちゃんのこと好きなのに!」
成美「アンタねぇ!」
  ガクリと天秤が傾く。
  未果の乗った皿が下がった。
未果「え? 何?」
エゴバイター「あははは、面白いことになったねぇ」
エゴバイター「この天秤ってさ、エゴの強い方に傾くようになってるんだよ」
成美「エゴの強い方・・・」
未果「わ、私の方が悪いってこと? どうして!? 私は被害者なのに!」
未果「成美ちゃんが私を避けるから、 クラスのみんなも私を無視するように なっちゃったんだよ?」
未果「ひどすぎるよ! こんなのいじめだよ! 成美ちゃんの方が加害者なのに!」
成美「あんたって、自分のやってること 全然わかってないよね」
成美「アタシに付きまとって、 話すのは自分のことばかり!」
成美「少しでも気に入らない返事をしたら アタシのことひどいひどいって罵って!」
成美「泣いてわめいて! 自分の都合でアタシを振り回して!」
未果(あっ、天秤がまた下がった!)
成美「そんでアタシが思い通りにならないと、 あてつけにリスカしてさ。 自分だけが可哀相って本気で思ってる!」
未果「や、やだ、どんどんと天秤が下がる!」
成美「耐えられなくなって距離を置いたのに、 今度は周りに いじめだ裏切りだって言いふらして!」
成美「アタシからすれば、 あんたの方が加害者だよ!」
成美「自分の体を人質にして、脅迫して、 アタシをコントロールしようとして!」
未果「成美ちゃん、やめて! 天秤が下がってるの! 怖いよ!」
エゴバイター「はい、終了~」
エゴバイター「天秤は完全に 未果さんの方へ傾いたねぇ。 見事なエゴだねぇ」
成美「・・・ふん」
未果「エゴなんてうそよ・・・。 私はいつだっていっぱい我慢して みんなに優しくしてるのに」
エゴバイター「さて、エゴの塊である未果さんには ぼくのエネルギーになってもらおうか」
未果「エネルギー?」
エゴバイター「うん。 ぼくはね、人のエゴで生きる存在だから」
未果「えっ!? いや! なに!?」
  未果の体が光に包まれ、
  やがて手に乗るほどのクリスタルに
  閉じ込められる
「な、なにこれ!? やだ、助けて! 成美ちゃん!」
エゴバイター「いただきます」
  未果の閉じ込められたクリスタルは、
  ゴリッと音を立て
  怪人の顎の間で砕けた
成美「ひっ!?」
  エゴバイターの口は
  丹念にクリスタルを砕いてゆく。
  ゴリッゴリッと音を立てて
  微かに、悲鳴が聞こえた気がした。
  やがて・・・
  エゴバイターの喉が動き、
  クリスタルが完全に飲み込まれたことが
  見て取れた。
エゴバイター「あぁ、なんて濃厚で芳醇な味わい。 無邪気に煮詰められたエゴって まろやかで深みがあるから好きだなぁ」
成美「・・・ひどい」
エゴバイター「ひどい? 彼女に消えてほしいと願ったのは キミだよ?」
エゴバイター「キミがSNSに書き込まなければ、 ここに二人そろって 呼び寄せられることもなかった」
成美「アタシがあいつの名前を書いたから?」
成美「あいつが、アタシの名前を書いたから・・・」
エゴバイター「その通り」
成美「だけど、こんな・・・。 ここまでしなくても・・・」
エゴバイター「自分は悪くない、と言ってる? ふふ、キミのエゴもいい感じに 熟成されてきたねぇ」
エゴバイター「はは、残念。 ぼくが取り込むエゴは 一度につき一人分だけ」
エゴバイター「命拾いしたね」
エゴバイター「キミが二度とここに 呼びよせられないことを祈ってるよ。 真中成美さん」

〇学校の校舎

〇教室の教壇
月穂「聞いた? 杵築、行方不明だってさ」
和泉「うわ。リスカの次はそれ? あいつほんと、かまちょだよね」
成美「・・・・・・」
月穂「ほんと、無理」
月穂「もし『消してほしい人は?』の 赤文字が回ってきたら 書き込む名前ナンバー1だよ」
和泉「わかる~」
成美「だめ!」
和泉「成美?」
成美「それ、回ってきても 絶対に名前書いちゃだめだからね」
月穂「・・・・・・」
和泉「やだ、成美。 あんなの噂だし、 怪人とかホントにいるわけないじゃん」
成美「・・・うん。 そう、だね・・・」

〇モヤモヤ
  怪人エゴバイター
  シグマ計画の置き土産との噂もある
  Σ怪人エゴバイター ──終──

コメント

  • 面白かった…リアリティがすごいw
    怪人というテーマだとついついバトルものを考えてしまうけど、こういうアプローチもあるんだ、と感度しました

  • すごく引き込まれるお話でした❗女子高生たちの会話がリアルで、あーこういうのあるあるって分かりすぎました😨
    設定もめっちゃ凝ってるしスチルも豊富で、恐怖感倍増でした😊

  • 学校って、みかのような人もなるみのような人も必ず居ますよね・・・。とてもリアルに感じました。周りの人にエゴをぶつけないように気をつけようと思いました。とても好きな作品です。

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