エピソード15-菫色の刻-(脚本)
〇風流な庭園
例えば、Aさんが怪しいとして、
〇タクシーの後部座席
Aさんには犯行ができなさそうなら
玄人「うぅ・・・・・・っ・・・・・・」
〇畳敷きの大広間
Aさんは犯人になる可能性はあるのか。
〇畳敷きの大広間
〇畳敷きの大広間
〇貴族の部屋
リエ「成程。刃物が苦手だと想定される人物が凶器に刃物を使えるのかということですね」
黒野すみれ「はい。あと、フィクションでもあるまいし、」
黒野すみれ「毒なんてそんなに簡単に手に入るんでしょうか・・・・・・」
リエ「うーん、確かに、毒殺って入手が難しそうですよね」
リエ「よくミステリーなんかだと、理科系の学部の劇薬庫とかから盗んだりしてますけどね」
黒野すみれ「・・・・・・」
リエ「まぁ、それはフィクションですが、私なら別の人がやったんじゃないかと思いますけど」
黒野すみれ「別の人、ですか?」
リエ「ええ、それは黒野様が言われるように」
〇配信部屋
〇貴族の部屋
リエ「Aさんと関係の深いA'さんがやったかも知れません」
リエ「あとは、Aさんが刃物が苦手だというのは演技で虚構なのかも知れない」
〇風流な庭園
〇貴族の部屋
リエ「って、すみません。お話しくださいなんて言っておいて、」
リエ「私、全然、お役に立ててないですよね」
黒野すみれ「あ、いえ・・・・・・。大丈夫です」
本当は混乱している状態には変わりないけど、
大丈夫、というのは半分だけ本当のことだった。
黒野すみれ「(やっぱり、人に話すと、少しだけ安心する)」
黒野すみれ「(私が考えていることもあながち間違いじゃないのかなって思えるから・・・・・・)」
黒野すみれ「リエさんに話せて良かったです。もし、誰にも話せなかったら、」
黒野すみれ「同じようなことで悩むのをやめられず、繰り返していたと思いますし」
リエ「黒野様・・・・・・」
私もリエさんも話さなくなり、雨音が次第に聞こえる。
私はこの時点では食事を終えたばかりになるが、
リエさんが紅茶とクッキーを用意してくれた。
リエ「あ、このクッキー。シェフではなく、私が作ったものになりますが、」
リエ「よろしかったらどうぞ」
と言われ、私はお礼を言い、クッキーを1つ手にとる。
昨日のミニャルディーズのミニタルトとは違い、
美味しいけど、良い意味でプロっぽくなくて、
どこかほっとする味がする。
張り詰めていた何かが解けていくようだった。
黒野すみれ「(って、昨日がもう何日も前のように感じるな・・・・・・)」
〇城の会議室
本当に現実感がない、昨日の出来事。
黒野すみれ「(確かに、強烈に覚えているのに・・・・・・)」
〇貴族の部屋
リエ「でも、今のままでは困りますよね。状況は残念ですが、少しも変わってませんし」
リエ「せめて、何か、決め手でもあれば良いのですが・・・・・・」
黒野すみれ「ええ、だから、決め手が欲しいんですけど、どうしたら良いのか、分からなくて」
黒野すみれ「それに・・・・・・」
リエ「それに・・・・・・?」
黒野すみれ「こんなことを言うと、おかしいかなって思われると思うんですけど、」
黒野すみれ「あまりに現実感がなくて、TVの中の出来事みたいに思えてくるんです」
リエ「TVの中の出来事?」
黒野すみれ「ええ、確かに経験したことなのに、何だか、夢とか架空の出来事のように思えてきて」
何度も何度も違う過去を繰り返すうちに自信がなくなる。
あれは本当に起こった出来事、なのか?
それとも、あれは本当に起こった出来事だけど、
脳が勝手に作り出した出来事、もあるのか? とか
混乱してきて、いつかのトキや春刻の言葉が
耳元を掠めて、消えていく。
〇土手
物部トキ「人の記憶というのはひどく曖昧だなって・・・・・・」
〇黒
明石春刻「ものにも記憶がある。曖昧な人の記憶なんかより確かな記憶がね」
〇森の中
〇新緑
〇新緑
〇畳敷きの大広間
〇貴族の部屋
黒野すみれ「曖昧すぎて嫌になる」
リエ「黒野様・・・・・・」
黒野すみれ「あ、すみません。何だか、自分が嫌になってしまって・・・・・・」
黒野すみれ「ダメですね。私・・・・・・」
おそらく、窓の向こうの、
陰鬱な天候というのもあるのだろう。
それに加えて、
酷く曖昧な記憶と残念な推理力しかない自分自身。
嫌にならない訳がない。
リエ「黒野様」
黒野すみれ「はい」
リエ「自分が嫌になる。それで、良いじゃあありませんか」
黒野すみれ「え?」
リエ「自分が嫌になること、多分、誰にでも少なからずあるでしょう」
リエ「そんな時、大抵の人は嫌にならないように必死になるのでしょう」
リエ「しかし、それでは、苦しいだけです」
黒野すみれ「苦しい、だけ?」
リエ「えぇ、黒野様は既に苦しんでいます」
リエ「そんな時は必死にならないことだけ考えられれば良いのではないかと私は思います」
黒野すみれ「必死にならないこと・・・・・・だけ?」
リエ「はい、私は黒野様の味方です。少なくとも、今は」
黒野すみれ「今は・・・・・・」
リエ「そう、本当はこれまでも、これからもずっと、と言いたいところですが、」
リエ「この家の当主の力をもってすれば、ある過去をなかったことにできます」
リエ「ただ、未来は確定できません。それはきっと、当主を含めて、誰にも・・・・・・」
リエ「だから、今・・・・・・」
リエ「今という時点だけは黒野様の味方ですし、そうあることを私自身も望んでいるのです」
リエ「だから、黒野様のお気が済むまで話を伺います」
リエ「黒野様が見たかも知れないこと、されたかも知れないこと、黒野様が必要でしたら、」
リエ「お聞きしますし、何かに書き留めましょう。間違っていても良いのです」
リエ「間違ってたら、その時は消して、正しいものを書き留めるだけです」
黒野すみれ「リエさん・・・・・・すみません、ありがとうございます」
〇黒
それから、私はゆっくりと自分が見たこと、
してきたことを思い出した。
間違っていても良い。
〇風流な庭園
はっきりと印象に残っている場面や、
〇屋敷の書斎
それこそ、何度も見たようなもの
〇露天風呂
確かに覚えているが、事実か虚構か、少し迷う場面に
〇銀閣寺
出来事・・・・・・。
〇貴族の部屋
リエ「成程、やはり、庭であるBさんを見かけた時のことが気になるんですね」
黒野すみれ「ええ、私の目の前にいたBさんが一瞬にして、私の後ろに回り込んで」
黒野すみれ「刺したのは無理だったかと・・・・・・」
リエ「でも、Aさんも難しい。何故なら、フィッシュナイフを持っただけで震えていたから」
黒野すみれ「ええ、だから、A'さんがやったか、別の人がやったか」
もし、別の人ならそれは誰なのか?
〇レンガ造りの家
〇諜報機関
〇森の中
〇貴族の部屋
リエ「そもそも、Aさんの演技なのか・・・・・・」
〇城の会議室
〇貴族の部屋
リエ「黒野様。上手く行くかは私にもお約束できませんが、少し考えがあります」
黒野すみれ「考えって・・・・・・本当ですか?」
リエ「ただ、それは黒野様を間違いなく、危険な目に遭わせるものです」
リエ「それでも、黒野様は実行されますか?」
〇黒
私はリエさんの問いに、はい、と答えた。
〇車内
〇大きな日本家屋
〇風流な庭園
私の背中を刺そうとした刃先が
防刃チョッキと同じ素材で作られたドレスで弾かれる。
黒野すみれ「(刃物でくるのは分かってた。だったら、こっちも!!)」
私は櫛形の小さなナイフを取り出す。
勿論、息の音を止めたりはしない。
ただ、足を止める。誰が私を刺したのか、知る為に。
ナイフが金属に当たる音。
金属製の何かが硬い地面に落ちる音。
黒野すみれ「(誰・・・・・・この人?)」
顔は分からず、体型もマントのようなものを
羽織っていて、分かりにくい。
黒野すみれ「(でも、やるしかない!!)」
落としたものを拾う為、僅かに隙のできた腕を目掛けて、
ナイフを振るう。
ただ、もうその人には隙はなかった。
私の一撃を避け、遥か彼方に去っていく。
あんな俊敏な人間の動きは見たことはなく、私はまだ
私が襲われたことが信じられなかった。
黒野すみれ「(逃げられた・・・・・・でも、まだ最悪の状態じゃないみたい)」
どうやら、あの人は落ちてしまったもの全てを
拾うことなく、去っていったらしい。
黒野すみれ「(余程、古いものだったんだ。でも、これであの人を追い詰めることができる)」
私は地面に手を近づけると、
銀色に鈍く光っている輪っかを拾う。
それはチェーンの一部分だった小さな1リンクで、
私はあの人のある持ち物を思い出していた。
〇黒
〇風流な庭園
黒野すみれ「(とにかく、これをハンカチで包んで・・・・・・連絡しなきゃ)」
私は銀色の小さな輪っかをハンカチに包むと、
次に、リエさんにメッセージを送った。
リエさんはすぐ来てくれるらしい。
〇貴族の部屋
〇大きな日本家屋
〇車内
〇宮殿の門
〇貴族の部屋
黒野すみれ「(もしかしたら、途中で襲われるかもって思ったけど、)」
黒野すみれ「(リエさんのおかげで、ここまで帰ってこられた)」
黒野すみれ「(あとはあの人の資料を読んで、備えるしかない)」
私は資料の山から封筒を探した。
勿論、あの人のことが書かれた封筒で、私はとうとう
目的の封筒を見つけた。