普通って何なん?(脚本)
〇オフィスのフロア
侘助 ナギ「・・・・・・」
侘助 ナギ(上京して数ヶ月経つけど・・・ まだ慣れへんなぁ)
芹澤 宗馬「ナギちゃーん、さっきの会議の資料って まだ何部か残ってる?」
侘助 ナギ「えーっと・・・ あ、3部ある」
芹澤 宗馬「ほんと? もらってもいい?」
侘助 ナギ「ええよ」
芹澤 宗馬「ありが── って、なんか疲れてない?」
侘助 ナギ「別に? ツーブロくんに気にしてもらうほどちゃうよ」
芹澤 宗馬「ツーブロくんって・・・ 同期なんだし、名前で呼んでよ」
侘助 ナギ「せやなぁ、ごめんごめん」
芹澤 宗馬「それ絶対悪いと思ってないヤツじゃん・・・」
侘助 ナギ「それより芹澤くん・・・ おかしいと思わへん?」
芹澤 宗馬「ん? おかしいって、何が?」
侘助 ナギ「その・・・山田部長」
芹澤 宗馬「えっ?」
芹澤は顔をそのままに視線を動かした。
芹澤 宗馬「・・・いつもと同じだと思うけど」
侘助 ナギ「いや、まあ・・・ それはそうやねんけどさぁ」
芹澤 宗馬「じゃ、資料ありがとねー」
侘助 ナギ(やっぱ、おかしいと思ってんの 私だけなんかな・・・)
侘助 ナギ「あ、内線・・・ 噂をすればホニャララやな」
侘助 ナギ「もしもし、侘助です」
山田の声「ごめん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど・・・」
ナギが振り返ると、申し訳なさそうに
手を合わせている山田の姿があった。
侘助 ナギ「あ・・・はい、分かりました」
ナギは受話器を置くと足早に山田の座席へ
向かった。
〇オフィスのフロア
侘助 ナギ「お待たせしました。 またパソコンですか?」
ナギの姿に山田は安堵の笑みを浮かべた。
山田 太郎「そうなんだよ。 また画面が固まっちゃって・・・」
侘助 ナギ「・・・ちょっと失礼しますね」
侘助 ナギ「っていうか部長、デスクトップにファイル 置きすぎですよ」
山田 太郎「うーん、整理しようとは思ってるんだけど ねぇ・・・」
侘助 ナギ「使ってないファイルとかあるんじゃ──」
ふと、一つのファイルがナギの目に
留まった。
侘助 ナギ「『対象Xとの戦績』?」
山田 太郎「そ、それは・・・得意先! 得意先のファイルだよ」
侘助 ナギ「いや、戦績って書いてますけど」
山田 太郎「いやぁ、僕たち営業にとっては 一つ一つが戦いというか・・・」
侘助 ナギ(なんで隠すんやろ・・・どうせアレやろ、 このXってヒーローなんちゃうの)
山田 太郎「わ、侘助さん! あんまり見られると恥ずかしいんだけど」
侘助 ナギ「誰が言うてんねん」
山田 太郎「ええっ?」
侘助 ナギ「すみません、つい心の声が・・・」
山田 太郎「心の声って──」
侘助 ナギ「パソコン、これで大丈夫やと思います」
山田 太郎「ありがとう、助かったよ」
侘助 ナギ「・・・あの」
山田 太郎「うん?」
侘助 ナギ「部長って、怪──」
山田 太郎「????」
侘助 ナギ(怪人ですか、って・・・ この一言が出ぇへんねんなぁ)
山田 太郎「侘助さん?」
侘助 ナギ「・・・いえ、なんでもないです」
山田 太郎「でも──」
侘助 ナギ「また何かあれば言ってください」
山田 太郎「・・・・・・」
〇オフィスビル前の道
侘助 ナギ(はぁ・・・やっと終わった。 今日は晩ご飯作るのメンドイし、 適当にコンビニで──)
通行人A「なぁなぁ、あれって何かの撮影?」
通行人B「ホントだ。 こんなとこでも特撮って撮るんだな」
侘助 ナギ(ん? 撮影?)
衝撃音と共に、ナギの目の前に一人の男が
飛び込んできた。
???「ぐっ・・・ なかなかやるじゃないか」
侘助 ナギ「え」
???「お嬢さん、ここは危ない。 向こうへ逃げて!」
侘助 ナギ「す、すみません!」
侘助 ナギ(ヤバ、撮影中やのに・・・・・・ 私映ってもうたんかな)
ナギがそんなことを考えていると──
???「フハハハハ! お前の力はそんなものか!」
侘助 ナギ(あれ? この声は──)
侘助 ナギ「・・・」
山田 太郎「・・・」
山田 太郎「えっ」
侘助 ナギ「山田部長・・・ なんでここに・・・」
???「おいダマーヤ! お嬢さんから離れろ!」
山田 太郎「ちょ、金剛貴志! タイム!」
金剛 貴志「はぁ?」
ダマーヤと呼ばれた男は金剛に手招きし、
何やら耳打ちをしている。
山田 太郎「ヒソヒソ・・・で、頼む・・・」
金剛 貴志「・・・ヒソヒソ・・・だな」
侘助 ナギ(いやヒソヒソて・・・ 何してんねん)
話し合いが終わったのか、
両者は再び間合いを取った。
金剛 貴志「いくぞ、御社!」
侘助 ナギ「お、御社?」
山田 太郎「かかって来い! 弊社の力を見せてやる!」
侘助 ナギ「弊社・・・?」
通行人A「変な特撮だなぁ」
通行人B「行こ行こ」
金剛 貴志「うぉぉぉぉぉ!!!!」
山田 太郎「ぬぁぁぁぁぁぁ!!!!」
侘助 ナギ「・・・・・・」
侘助 ナギ「山田部長!!!!!!!! ええ加減にしてください!!!!!!!!!!!!」
山田 太郎「!!!!!!」
侘助 ナギ「そんなんで乗り切ろうとしても 無駄ですからね!?」
山田 太郎「あ・・・」
侘助 ナギ「もう・・・いいですっ」
ナギは足早にその場を立ち去った。
山田 太郎「わ、侘助さん!」
金剛 貴志「・・・・・・」
金剛 貴志「・・・今日は休戦だな」
〇公園の砂場
侘助 ナギ「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
山田 太郎「侘助さん、待って!」
侘助 ナギ「ほっといてくださ──」
侘助 ナギ「あっ!」
ナギは砂場の縁に足を引っ掛け、
前のめりに転んだ。
山田 太郎「大丈夫!?」
侘助 ナギ「いたた・・・」
山田 太郎「と、とりあえずベンチに座ろう」
侘助 ナギ「いえ、私は──」
山田 太郎「ちゃんと話そう。 僕もこのままじゃ嫌だし・・・」
侘助 ナギ「・・・はい」
ナギとダマーヤ──もとい、山田は
公園のベンチに腰を下ろした。
侘助 ナギ「・・・・・・」
山田 太郎「・・・ごめんね、ビックリさせて」
侘助 ナギ「いや、ビックリっていうか・・・ 「まぁそうやろな」って感じです」
山田 太郎「えっ? もしかして、僕が怪人ってこと・・・ 知ってたの?」
侘助 ナギ「いや見たまんまでしょ・・・ 逆に、なんで分からんと思ってたんですか」
山田 太郎「だ、だって周りの人は何も──」
侘助 ナギ「そう、そこなんですよ!」
山田 太郎「えっ?」
侘助 ナギ「部長、見た目がこんなんやのに! 誰も何もツッコまんし!」
山田 太郎「こ、こんなんって・・・」
侘助 ナギ「薄々「怪人かな?」って思ってたけど、 実際ほんまなんやって思ったら・・・」
侘助 ナギ「っていうか、新卒で入社した会社の上司が 怪人やったなんて・・・」
侘助 ナギ「・・・っ・・・」
山田 太郎「わ、侘助さん?」
侘助 ナギ「こんな会社、辞めるー!」
山田 太郎「あわわわ・・・ お、落ち着いて──」
侘助 ナギ「上司が悪者なんて最悪や。 親になんて言うたら・・・」
山田 太郎「・・・悪者、か」
侘助 ナギ「・・・?」
山田 太郎「僕は、僕らは──それぞれの正義があって 戦ってるんだよ」
侘助 ナギ「それぞれの・・・正義?」
山田 太郎「そう。 だから・・・見た目だけで悪者だって、 決めつけないでほしいんだ」
侘助 ナギ「・・・・・・」
侘助 ナギ「いや、どう見ても悪者でしょ」
山田 太郎「あー、うん・・・ それはまぁ、否定しないけど・・・」
侘助 ナギ「でも・・・」
〇オフィスのフロア
山田 太郎「ワビスケ、さん?」
侘助 ナギ「は、はい」
山田 太郎「へぇ、珍しい名前だね。 羨ましいな、僕ってめちゃくちゃ普通だから」
侘助 ナギ「えっ?」
山田 太郎「ほら、名前。 山田太郎って記入用紙の見本みたいでしょ?」
侘助 ナギ「ああ、名前・・・いえ、いいと思います」
山田 太郎「そ、そう? ありがとうね」
侘助 ナギ「・・・・・・」
山田 太郎「・・・上京して慣れない環境で色々大変だと 思うけど、大丈夫だからね」
侘助 ナギ「えっ?」
山田 太郎「ここの会社、みんないい人たちだし! 僕も全力バックアップするし!」
侘助 ナギ「あ・・・ありがとうございます」
〇公園の砂場
侘助 ナギ「悪い人じゃないのは・・・分かります」
侘助 ナギ「上京したばかりで不安な私のこと、 気にかけてくださって・・・ 正直、心強かったです」
山田 太郎「侘助さん・・・」
侘助 ナギ「と、とにかく! 仕事には支障がないようにしてくださいよ?」
山田 太郎「もちろんだよ! 怪人になってから結構経つし、その辺りは ちゃんとやってるから」
侘助 ナギ「結構経つんや・・・ せやのに、周りの人なんも言わへんのですね」
山田 太郎「そうだねぇ。 みんな、いい意味で個人主義なのかも?」
侘助 ナギ「ヨソはヨソ、ウチはウチみたいな?」
山田 太郎「まぁ、そんな感じなんじゃない? だって東京だし」
侘助 ナギ「いや強引過ぎますって!」
山田 太郎「あはは、ごめんごめん」
侘助 ナギ「ところで・・・ その、対決はもうええんですか?」
山田 太郎「ああ、さっき金剛貴志から「また明日」って LINEあったよ」
侘助 ナギ「LINEて・・・めっちゃ仲良いですやん」
山田 太郎「ただの業務連絡だから! 全然仲良くないよ!」
侘助 ナギ「そんなムキにならんでも・・・」
山田 太郎「あ、そうだ返信しとこ」
侘助 ナギ(とりあえず、まぁ・・・ 今のところ何も問題ないし、ええか)
侘助 ナギ(・・・上司が怪人以外は)
山田 太郎「明日は絶対勝ぁぁぁぁぁぁつ!!!!!!!!!!!!」
誰も山田部長にツッコまない雰囲気、なんとなく空気感が伝わって面白かったです🙌ひーとのヒソヒソ場面が良きでした😆
弊社〜!御社〜!に笑いました(≧∀≦)
それにしても、山田さんの製造元、もうちょっと擬態機能でも付けてやれよ!とツッコミたくなりました(それだとお話にならないですけどね)
新人ちゃんには東京は見た目で判断できない、ヤバい奴が一杯だよ〜とアドバイスを!
会社の人達は知っているけど、あえて知らないふりをしている優しい人達だと思いました( ^∀^)
部長が怪人だったら平凡な日々がどう変わるのか?面白い設定ですし、これからどうなっていくのかという期待感もあり、読みきりなのがもったいない気もしました。また、やたらとBGMを入れている作品が多い中、要所要所で効果的に使用しているのも勉強になりました。