JKセッケン

砂部岩延

おっさん、JKになる(脚本)

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〇オフィスのフロア
  ──華の金曜日
  定時前のオフィスの中には、早くも弛緩した空気が流れていた。
  そんな中、まっすぐにモニターを見つめて、キーボードを打鍵し続ける男が一人。
  時計の長針が頂点を過ぎる。
  男はすかさず勤怠システムを開いて、流れるように退勤ボタンを押し、鞄を手に立ち上がる。
清木正「それでは、お先に失礼いたします」
  折り目正しく頭を下げ、ずれたメガネを指で押し上げる。
同僚男「お。清木(きよき)も今日は、定時で上がり?」
  隣の席のチャラい同僚が声をかけてくる。
同僚男「じゃあさ、この後飲みに行かね?」
同僚男「実は総務の子たちと軽い合コンみたいのあんだけど。 急だったから、まだ人数足りなくて」
同僚男「清木もたしか独り身だろ? ちょうどいいじゃん」
清木正「お誘いありがとうございます」
清木正「しかし、申し訳ありません。 今日はこのあと、用事がありまして。 また機会がありましたら、お願いします」
清木正「それでは、お疲れ様でした」
  男──清木正(きよきただし)は再び頭を下げて、ずれたメガネをクイっと押し上げると、足早にオフィスを後にした。
同僚女「清木くん、どうかしたの?」
同僚男「合コン誘ったんだけど、用事あるってさ」
同僚女「あーねー。清木くんだし。 飲み会とかもほとんど来ないよね」
同僚男「マジメっていうか、カタイっていうか・・・」
同僚女「ちょっとロボットみたいなとこあるよねー」
同僚女「家でもずっとあんなカンジだったりして」
同僚男「ナニを楽しみに生きてんのかねー」
同僚女2「でも、今、清木くん・・・」
同僚女「うん?」
同僚男「ナニナニ?」
同僚女2「ちょっと、笑ってたような・・・」

〇エレベーターの中
  ──早く

〇大企業のオフィスビル
  ──早く

〇改札口前
  ──早く・・・

〇駅のホーム
  ──探しに行かなくては

〇電車の中
  ──JK(の匂い)になれるセッケンを!!
  生まれてからこのかた、三十余年。
  小中高から社会人まで。
  マジメすぎるだの、オカタイだのと言われ続けてきた。
  たしかに私は、華やかな遊びなど知らないし、女性と付き合った経験もない。
  しかし、私にだって欲求はある。
  欲望もある。
  劣情だって抱く。
  同時に、私には分別がある。
  現実と空想を切り分けて、混同しない。
  正しい教育が根付いている。
  だからこそ私は、私の中の欲求を、誰にも知られず、こっそりと満たす。
  巷で噂の、JK(の匂い)になれる石けん。
  『フェロコ』
  発売からまだ数日にもかかわらず、全国各地で品薄になっているという。
  分別のある世の中の成人男性たちが、己の劣情を誰にはばかるでもなく処理するために、求めてやまないのだろう。
  かくいう私も、そのひとりだ。
  家や職場の近くの薬局やスーパーでは、どこも売り切れだった。
  今日は通勤路線のすべての店を回ってでも、必ずや『フェロコ』を手に入れる。
  そして土日の休みを使って思う存分、欲望と快楽の世界を満喫する予定だ。
  ふふ、ふふふ。ふふふふ。

〇街中の道路
清木正「そんな・・・まさか・・・」
  私は、絶望していた。
清木正「ない・・・どこにも・・・」
  全国的な品薄とは聞いていたが、ここまでとは思ってもみなかった。
  同好の士たちの情熱を、私はどこか甘く見ていたらしい。
清木正「いや・・・まだだ・・・ どこかに、必ずある・・・!」
  駅前の薬局やスーパーは軒並み探して回った。
  駅から離れた商店街などをひとつずつ、虱潰しに回っていく。
清木正「あきらめない・・・ 私は・・・絶対に・・・!」

〇商店街
清木正「あとは・・・ここだけ・・・」
  思いつく限りの場所を巡って、あと残されたのは、家からだいぶ離れた小さな商店街だけだった。
  もしここにもなければ、あとはもうフリマアプリのウルカリを頼るほかはない。
  ハイエナの如き浅ましい転売屋たちが売る定価の何十倍もの品々。
  私は誇りある成人男性として、かの悪逆な詐欺師たちに手を貸すことを拒んできた。
  むしろそのような悪逆邪智の輩こそが、全国的な品薄の原因と言っても過言ではない。
  しかし、ことここに至っては、その誘惑に屈してしまいそうな自分がいる。
清木正「たのむ・・・あってくれ・・・」
  私は正に真摯な祈りを捧げながら、巡礼者のごとく、商店街の店をひとつずつ巡っていく。

〇ボロい駄菓子屋(看板無し)
清木正「あ・・・あった・・・!?」
  果たして私は、それを見つけた。
  商店街の最奥。
  何の店かも分からぬ古びた建物の棚の一角に、目当てのパッケージを見つける。
  思わず手に取ると、すぐさまレジ──番台へと駆け寄る。
店員「それをお買い上げですか? フフフ・・・」
  古びた店の外観に似合わない妖艶な店員に、すべてを見透かされたような心持ちになる。
店員「ありがとうございます。 またのお越しを・・・フフフ」
  年甲斐もなく赤面し、あたふたと逃げるように店を立ち去る。
清木正「でも・・・これでやっと、私も・・・!」
  逸る気持ちを抑えきれず、私は駆け足気味に家へと帰った。

〇白いバスルーム
  家に帰り着くなり、私はまっすぐに風呂場へと向かい、湯を張る。
清木正「よ・・・よし・・・! 使うぞ・・・!」
  全裸になって、手に持った石鹸の包み紙を破る。
清木正「すん・・・すん・・・? あまり、それらしい匂いはしないが・・・?」
清木正「やはり、身体を洗わないとダメなのだろうか・・・」
  軽くシャワーを浴びて、石鹸を泡立て、身体に塗り込んでいく。
清木正「・・・やはり、それっぽくは・・・ 一応、流してみるか・・・」
  泡を流して、再び身体の匂いを嗅ぐ。

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コメント

  • 粉砕骨折の下りで爆笑しました。
    面白い〜♪
    タイトルから気になっていたのですが、期待を裏切らない内容に感激しました。
    続き楽しみです。

  • JKの匂いの石けんとか香水とか、一部の人に流行りましたよね。笑
    でも、清木さんが手に入れたものはニセモノで!
    怪しい日本語の商品ってたまに見つかりますよね。
    おもしろかったです。

  • 笑いながら最後まで読ませて頂きました。会話のテンポもよくて、一気にタップしてしまいました。JKセッケン、、、 いいですね。

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