その理不尽に、制裁を。

Alma@Wellクリエイター

扉を開けたらソコにいたのは!(脚本)

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〇異世界のオフィス
  『桐野法律事務所』のドアのインターホンを押して、名前を名乗ると、
  ドアが開いた。
  窓の外には異世界が広がっている。
  ぇぇ、なんで?
  ここ、本当に法律事務所!?
武光 詩乃「お待ちしておりました」
  は?
  武、武士・・・・・・!!
  なんで?
  いきなり、異世界に転生!?
  ──て、漫画か!!
  どういう世界観なの?
  いや、事務所のドアは、
  普通のドアだったよね!?
  
  ストレスのあまり、幻覚でも見えてるのか、私。
桐野 透「こんにちは。 体調不良の中、ご足労ありがとうございます。 昨夜電話で話した弁護士の桐野と申します」
  「は、はい。
  よろしくお願い致します」
  
  いやいやいや。
  
  なんで、普通なの?
  彼女は私にだけ見えてる幽霊ですか!?
ウサイ・オリバー「ひとまず、お茶でもいかがでしょうか」
  なぜ、白衣。
  どうして法律事務所で、そんな格好を?
  混乱する私は、言われるまま、ソファに座った。

〇異世界のオフィス
ウサイ・オリバー「どうぞ」
  良い香り。
  ほっとする甘い香り。
  一口飲んで。
  ──ごふ。
  吹き出しそうになって、
  コンコンと咳をする。
  
  にが!?
  辛い!!
  なにこれ!!
  
  こんな紅茶って!
桐野 透「ウサイさんの紅茶を飲むと、 すごく元気になりますよ。 さぁ、ぐいっと!!」
  にこやかに微笑まれる。
  
  絶対無理。
  
  向かいに座った彼は、事務所のメンバーを見上げた。
  「経理担当の武光 詩乃さん。
  彼女は、取り憑かれやすいらしく、身を守るために武具を着ています」
  唐突に不穏な話だなぁ。
  
  ・・・・・・でもまぁ。
  人間で良かった!!
  
  うん、そう思おう。
  なんか、彼女の背景が暗いけれど。
  気のせいということにしておこう。
武光 詩乃「不運が顔に出てる」
  うう。
  なんだか、歓迎されてない。
  「かなりネガティブで、発言も重いし、
  暗いですが、時々冷たく、きついですが、スルースキルを磨く練習と思ってくださいね」
  ──・・・・・・。
  「庶務と通訳担当のウサイ・オリバーさんです。
  漫画が好きで、この部屋のアイデアも彼が」
ウサイ・オリバー「はい! 異世界転生ものにヒントを得ました!」
  「いつ来ても日本じゃないみたいと好評なんです」
  褒めてるの、それは。
ウサイ・オリバー「ボクは、日本の漫画を愛しています。 努力と根性という言葉を最初に覚えました。 いつでも心に太陽を!」
  武光さんと、ウサイさん、
  正反対の感じだなあ。
  ウソでしょ。
  
  ええ。
  ──あれ、白衣の件はスルーなの?
  「それと」
  ──ん?
  
  するりと足元に近付いてきたのは。
キューさん「にゃんにゃ」
  可愛い!
  めちゃ、キレイな猫だ。
  
  毛並みが美しい。
  「この子は、キューさん。
  ウサイさんが、可愛いから、
  キュートと名付けたんですよ」
  キューさんは、
  足に、スリスリと身体を擦りつけ、
  それからソファに上がり、
  私の横で丸くなる。
桐野 透「──少しは、リラックスできましたか?」
  「あ、はい・・・・・・」
桐野 透「クライアントは、既にクタクタの状態で、 どうにかしたいと私の事務所のドアを勇気を出して叩きます」
桐野 透「その勇気に応えるためにも、 この場所は、少しでも気が紛れる場所になればと思っているんです」
  確かに気は紛れた。
桐野 透「まぁ、リラックスというより、驚かれることの方が多いんですけど」

〇異世界のオフィス
桐野 透「話しは、会社からある程度伺っています。本当に嫌な思いをされましたね」
  労るような優しい声だった。
  
  じんわり胸が温かくなる。
桐野 透「完全に心を壊すまででなくて 本当に良かったです」
桐野 透「あなたが闘うと言われるなら、 協力は惜しみません」
  「・・・・・・でも。
  弁護士の方を雇うのって何十万もしますよね。
  私、そんなに」
桐野 透「あなたの勤務している会社とは業務提携しています」
桐野 透「会社が、カスタマーハラスメントを疑った事案に限り、弁護士にかかる費用は会社が支払う契約となっています」
  「・・・・・・闘うってどういう?」
桐野 透「カスタマーハラスメントは、刑事罰での立件が難しいとされる事案です。ですから、民事訴訟で訴え、訴訟を起こすつもりです」
桐野 透「訴訟を起こし、損害賠償が認められれば、 あなたの対応は適切であり、 相手の対応は不適切だったと認められたことになります」
桐野 透「相手を罰することはできませんが、 相手に誤りを認めさせることはできます」
桐野 透「しかし。 あなたに大変な負担がかかります」
桐野 透「そのときにあった出来事を克明に思い出す必要がありますから。 けして感情的にならず、客観的な事実のみを明らかにする、」
桐野 透「辛い、苦しい、そういった感情を抜いて事実のみを抜き出すんです。 想像以上にキツイことだと思います」
桐野 透「確かに、訴える相手は、 電話口の人間かもしれません。 ──ですが、自分の受けた痛みと再び向き合う、その相手」
桐野 透「それは過去の自分です。 闘う相手は、あなた自身です」
桐野 透「裁判は、時間がかかります。 途中で投げ出したくなるかもしれません」
桐野 透「それでも、逃げることなく闘い抜いて、 あなたの受けた痛みを苦しいままで終わらせないと決意してくれるなら、」
桐野 透「私達は、あなたを決して ひとりにはしませんし、 最後まで共に闘います」
???「バカヤロー!!」
  耳鳴りがする。
  耳元で聞こえるカスタマーの怒鳴り声。
  
  手が、カタカタと震える。
  一息ついて。
  私は、紅茶を飲み干した。
  そして、彼を見つめる。

〇異世界のオフィス
  「協力してもらえませんか。
  私、どうしても納得いきません。
  意味なく怒鳴られ、暴言を吐かれて。体調不良になったこと」
  「今回は、私に落ち度があると思えないんです。
  カスタマーのしたことは間違っていると証明したい」
  「私と一緒に闘ってください」
桐野 透「もちろんです。 行き過ぎたカスタマーハラスメントは、犯罪ですから」
桐野 透「私達は、カスタマーハラスメント対策委員会と名乗り活動しています」
桐野 透「あなたのように、カスタマーハラスメントで苦しむ人々の力になるために」
桐野 透「『理不尽には、制裁を』 それが、私達のモットーです」
キューさん「にゃーん」
  私は、顔を上げた。
ウサイ・オリバー「元気と根性があれば、どんなに相手が巨大でも打ち勝てる」
  熱い。
武光 詩乃「本当の苦しみはこれからですよ」
  ──恐い。
  
  ・・・・・・でも。
キューさん「にゃんにゃ」
  「みなさん、よろしくお願い致します」
桐野 透「一緒に頑張りましょう」

コメント

  • カスタマーハラスメントは多そうな気がします。
    クレームにならないクレームを、大声で言ってくるんですよね。
    ナビダイヤルにすることで、ちょっと減ってきたらしいですが、まだまだ多いようで。

  • 同じ人間として、人が傷つくほどに避難したり怒鳴ったりする人がいるということはやはり悲しいです。個性が強くちょっと不思議な皆さんが仲間に加わったので、今後スッキリする展開が期待できそうですね。

  • 昨今はハラスメントに対して大分騒がれるようになりましたが…。それでもなくならないのは何故なのか…。
    弱い立場にあたる人間は私は嫌いです。

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