1話完結 ~掌編・詩・ ワンシーン 集~

千才森は準備中

肉と営業  (描写)(脚本)

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〇レストランの個室
  ナイフの先で切り分けた肉の
  深みのある朱色を ぺろり。
  ズシッと 舌にのしかかる旨味は、
  自身が養分の塊であることを
  存分に主張してきた。
  炙られた肉の香ばしさを 感じる度に、
  自分が 人間という動物であることを
  思い出させられる。
  自らは狩猟も採集もしない、仕事のために生まれたロボットのような進化を遂げた私たちだけど、
  多種族の肉を噛みしめている時だけは、
  自分の属性が、いまだに俗世に浮かんでいることを自覚させられる。
  それにしても・・・
  血の色を残す焼き加減が 本当に好み。
  この街で1番 と言って良いほどの
  ステーキじゃないかしら?
  差し向かいに座る男が、羽のように繊細な薄さのグラスを一息にあおり、干した。
  そして、配慮の欠片も感じさせない音を
  立ててグラスを置くと、てらてらにテカる
  野暮ったい唇を開く。
  あふれ出る肉汁がたまらんねぇ
  彼が、街を陰で動かしているファミリーの
  一員と紹介されたのだけど、本当であれば
  この界隈では仕事にならないわね。
  小物過ぎて、下手に情報を預けたら
  ちょっとした弾みで外部に漏れてしまいそう。
  君もさぁ、そんな硬そうな肉塊より、
  蕩けるサシの入った キルシュニス種のお肉を食べなって
  女の子なら、柔らかい方が好きでしょ?
  丁寧に焼かれたレアの具合を考慮すれば、
  この店のテーブルに乗せられる料理は
  どれもこれも美味しいのでしょう。
  それでも、この先、向かいの皿で
  グチャグチャに切り分けられた
  キルシュニス種とやらを頼むことはない。
  溶け出す肉汁と一緒に、
  この男の顔まで 流れ出てきそうだもの。
  美味しい料理を口にしながら
  味に酔えないなんて、
  ずいぶんと酷い拷問。
  この前うちの店に来た、君の所の子、
  リウナ君だっけ?
  可愛いね~
  やっぱり営業は顔と体で選んでいるのかい?

〇ポリゴン
リウナ(チャオ!)
  あのリウナ君も肉好きと見たね!
  あの触り心地の良さそうな
  むっちりとした胸とお尻は、
  肉料理が好きなタイプだ
リウナ(・・・はあ?)
  あんな子に密着されて
  優しくおねだりされたら
  大口の契約でも、ついついサインしてしまいそうだよ
リウナ「F――k You!! 誰がするか!!」

〇レストランの個室
  あ、もちろん君も綺麗だよ?
  どうせ、この交渉は ご破算なんだから、
  大人しく食べてろ。
  汚らしい口を開かないで。
  本人は にこやかだと思っているであろう
  しつこい笑顔を向けられたけど、
  社交辞令の笑みを返すだけで 精一杯だった。
  こんな男を 相手にするとわかっていたら、
  出しゃばらずに “番犬”リネーフリア を
  見送っていたのに・・・。
  彼女が相手をしていたら、
  会って10分後には 男の顔が晴れ上がっていたはず。
  そう、
  当初は 彼女がここへ来る予定だった。
  でも、口下手の彼女では 接待業務は苦痛
  だろうと、今夜のセッティングを
  買って出たのだけど、
  こんなに価値のない相手なら、
  むしろ敵意を向けられる程度の
  度胸を備えている方が、
  都合が良かったのかもしれない。
  時間的拘束の無駄なこと、この上ない。
  あ、
  もちろん、この店に瑕疵(かし)はないのよ?
  最後の一口になっても 飽きが来ない。
  憎らしいほどの・・・
  いや、ただただ憎たらしい味だった。
  血肉の残り香に恋をしてしまいそうな程に。
  自分がこんなに肉食だったなんて
  思わなかったわ。
  真っ赤な血肉が、
  私の心の深層に触れてくれたことだけが、
  この時間の唯一の救いね。

〇未来の都会
  赤のワインを頂けるかしら?
  さあ、グラスが空いたらサヨナラよ。
  この男にも、この店にも、
  この街にも用はなくなった。
  次の戦場は、富裕層の多い湾岸都市。
  ウチの製品がどれだけ通用する?
  いつになく、腕が鳴るわね。
  ごちそうさま♪

〇未来の都会
  おしまい〆

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