寝坊助(脚本)
〇オフィスのフロア
カタカタカタ
キーボードを叩く音が
深夜のオフィスに響く。
エイジ「あー・・・終わんねぇ・・・」
細川 永二 26歳
大学卒業後、IT系に就職。
入社直後は輝いていた瞳も濁り
現在、度重なる残業にて心身共にボロボロ。
そして過労死寸前である。
カタカタカタ
エイジ「あぁ、ダメだわ、 もう無理。無理でーす」
エイジ「あのクソ上司が・・・ 仕事押し付けやがって・・・」
エイジ「クソ・・・ こんな会社すぐに辞めてやる・・・」
エイジ「・・・でも 最低でもこれは今日中に終わらせないと」
エイジ「これが終われば、休みが待ってるんだ・・・」
カタカタ
エイジ「だから今だけ踏ん張って・・・ なんとか・・・・・・」
カタ カタ
エイジ「・・・・・・・・・・・・」
カタ
エイジ「・・・・・・」
バタッ
〇黒
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
キーンコーンカーンコーン
おーい。
エイジ「zzz」
おーい。起きろって。
〇教室
エイジ「うーん・・・」
エイジ「って朝・・・っかよ まずい。ソッコーで終わらせなきゃ・・・」
エイジ「って・・・・・・は?」
エイジ「ここは・・・」
女生徒「何寝ぼけてんのさ」
女生徒「ほら。 今週うちの班掃除当番だから、箒持って」
状況が把握できない。
エイジ「あ・・・あぁ」
いや、分かった。
これは夢だ。
一瞬で理解できた。
これが明晰夢ってやつだな。
懐かしいな・・・高校の頃か?これ。
友達はできなかったし、
楽しかったとは言い難いけど。
まぁ、気楽な毎日だったなぁ。
毎日何も考えず過ごして──
ってやばい。
思い出にふけってる場合じゃない。
早く起きて仕事に戻らなきゃ・・・
・・・
・・・・・・
起きたくねぇなぁ・・・・・・
・・・
・・・どーせ起きたらまた仕事なんだ。
ちょっとぐらい夢見てたっていいよな。
女生徒「ほら ボーッとしない! とっとと動く!」
・・なんで夢の中でまで仕事せにゃならんのだ。
エイジ「はい。これ」
女生徒「えっ。これって。箒返されても、」
エイジ「それじゃ」
女生徒「って、ちょっとちょっと! どこへ行く!」
〇まっすぐの廊下
エイジ「さらば、うるさい女生徒よ。 掃除を押し付けてしまってすまんな」
さてと、ここからどうしようか。
いやしかし、見れば見るほど懐かしい。
少し古臭いロッカーとか、ケツが痛くなる椅子とか、気になってはいたけど最後まで買えなかった購買のパンとか。
あぁ・・・もし、この頃に帰れたら
しっかり青春をやり直してぇなぁ・・・
「あっ」
こいつは・・・キヨノブ。
尾原 清信。
小学校の頃からの友達・・・だった。
キヨノブ「よ、よう!」
・・・・・・・・・話しかけられた。
エイジ「あー・・・えっと久しぶりだな」
キヨノブ「あ、あぁ。そうだな、」
エイジ「お前だいぶ雰囲気変わったよな」
キヨノブ「おう。高校デビューだよ」
そうそう、そうだった。
高校デビューしたんだ。こいつは。
エイジ「いい髪型だな。似合ってる」
キヨノブ「お、おう。サンキュな」
当時は別に僻みも妬みもしなかった。
気軽に話せる友達がいなくなって寂しいとは思ったが。
エイジ「今から帰る所か?」
キヨノブ「あー、いや、えっと、お前と話したいなぁって」
キヨノブ「だからさ、屋上行かね?」
エイジ「えっと、うん おっけ」
ありえないな。
向こうから俺を話に誘うなんて・・・そんな事あるはずない。
あいつは高校で完全に俺とは違う道に行ったんだ。
・・・・・・夢の中だからだろうな。
〇学校の屋上
エイジ「んで、話したいってなんだよ」
キヨノブ「いや、そのままの意味だよ。 雑談しようぜ」
キヨノブ「中学の頃みたいにさ」
キヨノブ「あの頃は楽しかったなぁ。 放課後にゲームとかしてさ」
エイジ「なんだよ。お前それじゃ今が楽しくないみたいな言い方だな」
キヨノブ「うん。本心から楽しいとは言えないな」
まさか。そんなはずはない。
お前は間違いなくキラキラした青春を送っていた。
キヨノブ「俺、陽キャになろうと意気込んだけどさ なんか、少しだけ息苦しいんだよな」
キヨノブ「俺の周りさ、悪い奴らじゃないんだけど ちょっとだけオタクに偏見があるんだよ」
キヨノブ「だからさ、自分の本当に好きな物が言い出せないのが辛くてさ」
キヨノブ「それだけなんだけど、やっぱり人間好きな物について話している時が1番楽しいだろ?」
キヨノブ「だからお前とずっと話したかった」
エイジ「そうか」
ありえない。が、
エイジ「じゃ、沢山話そう。今まで話せなかった分」
エイジ「そうだな。今期の覇権アニメのヒロインの話なんてどうだ?」
エイジ「お前。どっち派だよ」
キヨノブ「おう。 そりゃもちろんショートっ娘の方よ」
エイジ「お前、昔っからお清楚な子が好きだよなぁ」
キヨノブ「いや、違うんだよ、俺は透明感のある子が好きなだけであってだなぁ!」
エイジ「お前それを清楚好きだと・・・」
────
〇学校の屋上
エイジ「・・・・・・はぁ」
キヨノブ「だいぶ日が暮れてきたな」
エイジ「あぁ。そろそろ帰んなきゃな」
キヨノブ「・・・あぁ」
そうだ。夢は必ず終わりが来るもの。
所詮この会話も俺の理想にすぎない。
目が覚めれば仕事が待ってる。
・・・
でもまぁ、良い夢だったし、
少しやる気も出てきた。
さぁ。帰ろう
・・・
さて、夢から覚めるにはやっぱり頬をつねるのが定番かな。
ギューッ
エイジ「いって」
・・・・・・・・・痛い?
ペシーン!
キヨノブ「痛った!」
・・・・・・・・・は?
なんで、痛い?
そしてこいつはなぜ自分の頬を叩いて痛がっている?
一瞬ある仮定が頭に浮かぶ
まさか、まさかとは思うが。
いやありえない。いや、しかし本当に、本当に!
「俺達、本当に高校生に戻ったのか?」
気付いたら高校生の自分に、しかも親友と2人とも!大半のオトナが憧れるこの展開、永二たちがまず行うことは何か、今後が気になります。
ずっと夢だと思って読んでましたが…夢じゃない?
なんだか不思議な世界ですね。
たしかに学生時代は早く大人になりたくて仕方なかったなぁと思いました。
実際に大人になると、学生時代に帰りたくなると言う。
高校生のときはその日々が当たり前でなんにも考えてなかったりしますが、社会人になって振り返ると本当に懐かしいですし、その時ならではの楽しさがもう手に入らないからこそ蘇ってきたりしますね。