離婚危機の夫婦の話(脚本)
〇明るいリビング
娘「うあぁああん」
離婚の危機の女性「おー、よしよし」
娘「ふぇ、ふぇ」
離婚の危機の女性「お嬢様は縦揺れが好きですねぇー」
娘「キャハハ」
育児疲れの男性「おい」
育児疲れの男性「今日こそ、流し屋の所に一緒に行こう」
離婚の危機の女性「もー、またその話?」
離婚の危機の女性「そんな一般男性に話した所で何が変わるのよ」
離婚の危機の女性「そんな所に行くぐらいなら、抱っこするのを代わって欲しいぐらいね」
育児疲れの男性「俺が抱いたら、また愚図るだろ?」
離婚の危機の女性「力を抜いてあげれば良いって何度も言ってるじゃない!」
育児疲れの男性「分かってるよ!」
育児疲れの男性「頑張ってやってるけど、泣くんだから仕方ないだろ!」
娘「ふぇ、ふぇ」
娘「うぁああぁぁあん!!」
離婚の危機の女性「おー、よしよしごめんねぇ」
育児疲れの男性「俺・・・」
育児疲れの男性「流し屋さんに離婚の相談してたんだ」
離婚の危機の女性「どういうこと?」
育児疲れの男性「流し屋さんに結論を急ぐなって止められてたけど、」
育児疲れの男性「こんな状態じゃ、もう無理だろ?」
離婚の危機の女性「待ってよ」
育児疲れの男性「話し合う機会すら、お前は与えてくれないじゃんか」
離婚の危機の女性「・・・」
育児疲れの男性「俺、一人で流し屋さんの所に行ってくるから」
育児疲れの男性「気が向いたら来れば?」
離婚の危機の女性「ち、ちょっと待ってって!」
娘「うぁああぁぁん!!」
離婚の危機の女性「私だって泣きたいわよっ!」
〇空
〇田舎町の駅舎
「おや、流れ星・・・」
「田舎は良いなぁ・・・」
「もしもし?」
「お時間、よろしいでしょうか?」
「あぁ、今は誰も居ない」
「佐々木 優希についてですが」
「・・・」
「やはり、支援の継続を希望しているようです」
「・・・そうか」
「良かった」
「荻島 功助とファミレスで泣いて語り合っております」
「ふふ、そうかそうか」
「!!」
「あぁ、それじゃあまた、連絡するよ」
育児疲れの男性「お邪魔でしたか?」
「いえ、とんでもありません」
「どうぞお座りください」
育児疲れの男性「ありがとうございます」
「お久しぶりですね」
育児疲れの男性「はい、ご無沙汰しております」
「奥様はいかがですか?」
育児疲れの男性「やはり、無理でした」
「・・・そうですか」
育児疲れの男性「悔しいです」
育児疲れの男性「僕の話に耳も傾けてくれなくて」
「・・・」
育児疲れの男性「きっかけのお話をされていたでしょう?」
「え?」
育児疲れの男性「僕じゃないといけないと」
育児疲れの男性「結婚するに至ったきっかけ、ですよ」
「えぇ、お話ししました」
育児疲れの男性「今から、その時の話を、させてください」
「かしこまりました」
「聞かせてください」
〇オフィスのフロア
育児疲れの男性「僕たちは会社の上司と部下として知り合いました」
育児疲れの男性「我が社では、プリセプター制度を導入しており、」
育児疲れの男性「会社で勤めている先輩と新入社員の後輩が」
育児疲れの男性「マンツーマンで指導をする制度のことを言うのですが、」
育児疲れの男性「私が入社3年目で、初めてプリセプターとして受け持ったのが、」
育児疲れの男性「彼女だったんです」
育児疲れの男性「僕たちが恋に落ちるのに、そう時間はかかりませんでした」
「・・・」
育児疲れの男性「社内恋愛でしたから、」
育児疲れの男性「周囲になるべくバレないように毎日を過ごしていました」
育児疲れの男性「そして、2年の交際を経た後、」
育児疲れの男性「僕の方からプロポーズをしたんです」
育児疲れの男性「彼女は二つ返事で了承してくれました」
育児疲れの男性「でもよくよく考えてみると」
育児疲れの男性「僕が実家暮らしだったのも相まって」
育児疲れの男性「社会人5年目で貯金が1000万あったからだと思います」
育児疲れの男性「実際、結婚して実家から出てみると」
育児疲れの男性「ローン、光熱費、食費、結婚式の費用・・・」
育児疲れの男性「諸々の費用で半分ぐらい飛んで行ってしまいました」
〇明るいリビング
育児疲れの男性「その上、結婚して妊娠してからというもの」
育児疲れの男性「彼女の態度はどんどん横柄になっていきました」
育児疲れの男性「悪阻がキツいんだから仕方ない」
育児疲れの男性「身重なんだから仕方ない」
育児疲れの男性「そうやって自分を宥めてきましたが、」
育児疲れの男性「冷静に考えて思ったんです」
育児疲れの男性「僕の貯金額が減っているから」
育児疲れの男性「早く別れたいんじゃないか?」
育児疲れの男性「子どもも出来たし、用済みなんじゃないか?」
育児疲れの男性「彼女は僕を愛していたんじゃなくて、」
育児疲れの男性「金銭的な面でしか僕のことを見てなかったんじゃないか?」
育児疲れの男性「・・・」
〇田舎町の駅舎
育児疲れの男性「そう思うようになってしまいました」
育児疲れの男性「きっと、僕がプリセプターでなければ」
育児疲れの男性「彼女は僕に見向きもしなかったでしょう」
「そう考えていらっしゃるんですね」
育児疲れの男性「はい」
「答えは、奥さんに聞くのが一番ですよ」
育児疲れの男性「え?」
育児疲れの男性「お、お前・・・」
育児疲れの男性「文香はどうした?」
離婚の危機の女性「お母さんに預けてきた」
離婚の危機の女性「私が、そんな卑しい女だと思ってたの?」
育児疲れの男性「・・・」
育児疲れの男性「うん」
離婚の危機の女性「酷い・・・」
育児疲れの男性「ごめん」
育児疲れの男性「でも、それ以外説明が付かないだろ?」
離婚の危機の女性「・・・」
育児疲れの男性「お前が俺に冷たく当たる理由も」
育児疲れの男性「俺の話を聞きたがらない理由も」
離婚の危機の女性「理由、理由って」
離婚の危機の女性「理由がなくちゃ、不機嫌になっちゃいけないの?」
離婚の危機の女性「理由がなくちゃ怒っちゃいけないし」
離婚の危機の女性「泣いても駄目だってこと?」
離婚の危機の女性「毎日、毎日、3時間置きに起こされて、」
離婚の危機の女性「ミルクをあげて落ち着いたと思ったら」
離婚の危機の女性「貴方が音を立てて帰ってきて、また泣き出して」
離婚の危機の女性「それでイライラして愚痴を吐き出したら」
離婚の危機の女性「喋らなくなったのはどっちよ?」
離婚の危機の女性「その上、離婚したいとかいう相談を」
離婚の危機の女性「見知らぬ無関係の人間に夫がしてるだなんて分かったら」
離婚の危機の女性「話を聞きにくるしかないじゃない」
離婚の危機の女性「全部私が悪いみたいに言ってるけど」
離婚の危機の女性「先に私の話を受け入れなくなったのは、アンタの方よ」
育児疲れの男性「・・・」
離婚の危機の女性「それでもまだ、被害者ヅラするつもり?」
育児疲れの男性「・・・ごめん」
離婚の危機の女性「同職だし、仕事の辛さだって分かってるつもりだったわ」
離婚の危機の女性「でも、それ以上に、」
離婚の危機の女性「アンタは会社の人に愚痴が言えるかも知れないけど、」
離婚の危機の女性「私は喋れもしない娘と四六時中一緒で、」
離婚の危機の女性「目を離したら怪我をさせるかもしれないから」
離婚の危機の女性「毎日、毎日、気が張ってて」
離婚の危機の女性「心休まる瞬間なんて一切ないの」
離婚の危機の女性「本当に本当に毎日息苦しいの」
離婚の危機の女性「そんな状態で、昔みたいに優しく出来ると思う?」
育児疲れの男性「・・・」
離婚の危機の女性「それに、オムツだってミルクだって、」
離婚の危機の女性「私のやり方を見て覚えようともしないじゃない」
離婚の危機の女性「・・・何が頑張ってるよ」
離婚の危機の女性「私の頑張りだって認めなさいよ!!」
「まぁまぁ、奥様」
「落ち着いてください」
離婚の危機の女性「・・・すみません」
「・・・」
「少しは落ち着かれましたか?」
離婚の危機の女性「はい」
「では、奥様にお訊きしたいことがあるのですが」
「離婚したいと思ったことはございますか?」
離婚の危機の女性「いいえ」
「即答ですね」
離婚の危機の女性「なんだかんだ、愛してますから」
離婚の危機の女性「子どもの面倒をマトモに見てくれなくても」
離婚の危機の女性「私の愚痴をマトモに聞いてくれなくても」
離婚の危機の女性「私の頑張りを当たり前だと思っていても」
離婚の危機の女性「それでも、この人の隣に立っていたいと」
離婚の危機の女性「そう考えるぐらいには、愛してますから」
離婚の危機の女性「伝わってなかったのが辛いですけど」
育児疲れの男性「・・・」
「いかがですか?」
育児疲れの男性「・・・」
「僕としては」
「こんな素敵な奥様を逃すのは」
「非常に惜しいと思うのですが・・・」
育児疲れの男性「・・・」
育児疲れの男性「僕は、馬鹿ですね」
育児疲れの男性「一体、彼女の何を見ていたんでしょうか?」
離婚の危機の女性「貴方・・・」
育児疲れの男性「”先輩の技術は見て盗め”」
育児疲れの男性「僕は彼女にそう教えたはずなのに・・・」
育児疲れの男性「育児に関しては彼女の方が先輩のはずなのに」
育児疲れの男性「指導者として恥ずかしい限りです」
「・・・」
「では、お二人のお考えは一致したということで」
「よろしいでしょうか?」
「はい」
育児疲れの男性「まだ、もう少し一緒に歩んでいきたいと思います」
離婚の危機の女性「私も溜め込まずに、吐き出したくなったら此処に伺うことにします」
「それは、良かったです」
〇空
「おや、また、流れ星ですよ?」
〇田舎町の駅舎
育児疲れの男性「本当だ」
離婚の危機の女性「なんだか、久しぶりに空を見上げた気がします」
「嫌なことがあると、ついつい俯いてしまいますから」
育児疲れの男性「そうですね」
離婚の危機の女性「私、意地を張らずに、もう少し早く来れば良かったです」
育児疲れの男性「だから、何度も言っただろ?」
離婚の危機の女性「ごめんなさい」
「まぁまぁ、こうして仲直りも出来たわけですし」
「今晩ぐらいは言い合うのはよしてください」
育児疲れの男性「そうします」
育児疲れの男性「せっかくだし、少し飲みに行かないか?」
離婚の危機の女性「久しぶりに良いわね」
「それでは、いつでもお待ちしておりますので」
育児疲れの男性「はい、ありがとうございました」
離婚の危機の女性「本当にありがとうございました!」
「・・・」
「そろそろ」
「潮時かな・・・」
「実優・・・」
「もしもし」
「賢治様、鍵山の動きがありました」
「・・・」
「分かった」
〇田舎町の駅舎
翌日──
ヤングケアラー「あれ?」
不良の男子高校生「いねぇな・・・」
ヤングケアラー「体調不良かな?」
〇田舎町の駅舎
翌々日──
JK①「おかしいね」
JK②「最近、本当に見かけなくなっちゃった・・・」
〇田舎町の駅舎
来る日も来る日も
彼が姿を現すことはありませんでした。
まるで流れ落ちた雫のように
最初から居なかったかのように──。
読もう読もうと思っていたのを貯めてしまいまして、ようやっと最後まで読めました!どの話も流し屋さんの人柄が伝わってくるお話でした。きっと彼の人生から、様々なことを見て考えてきたからこそ出てくる台詞だったんだろうな、と。辛いときには俯いてしまいがち、でも上を向けば星がある。私も上を向いて歩こうと思います。
素敵な物語に心が優しくなれた気がします。ありがとうございました。解明編も後ほど読ませて頂きます!
完結おめでとうございます&お疲れ様です。
って終わりかーい!
Σ\( ̄∀ ̄;)
まさか最後まで流すとは…… まあ完結編があるらしいので楽しみに待っております。
しかしやはり『人間』とか『人と人との関係』を書くのがうまい。これこそドラマ。物語。
急にいなくなると寂しいですね😭
彼は一体どこへ行ってしまったのか😱
完走おめでとうございます😆💰️