私は怪人

杉本太祐

エンジョウ・マキの場合(脚本)

私は怪人

杉本太祐

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〇歩道橋
  ーーまず、
  くさい。
  鼻の中に、剣山を入れられたのかと思った。
  「くさい」を通り越して、これはもう、「痛い」だ。
エンジョウ・マキ「すみません。そこのお兄さん」
臭い中年男性「なにか?」
エンジョウ・マキ「「それ」、止めてほしいんですけど」
臭い中年男性「・・・何の話ですか?」
エンジョウ・マキ「すっとぼけます? それとも、無自覚?」
  どちらにしろ、今回はスピード解決を心がけよう。
  でないと、鼻がもげる。
臭い中年男性「か、怪人!?」
マキ(変身態)「・・・その呼ばれ方、好きじゃないですね」
くさい中年男性(変身態)「驚かすなよ。 仲間だったんだな」
マキ(変身態)「初対面の相手を、仲間と呼ぶほどお人好しではないつもりですが・・・」
くさい中年男性(変身態)「でも、アンタも俺と同じバケモ──」
マキ(変身態)「もし私を仲間だと言うのなら」
マキ(変身態)「すぐに「それ」を止めてください」
くさい中年男性(変身態)「さっきも言ってたな。 一体、何の話をしている?」
マキ(変身態)「あなたの身体、どこからかガスみたいのが出てるんです。 それも多分・・・」
マキ(変身態)「・・・かなり強い、毒のガス」
くさい中年男性(変身態)「!!」
くさい中年男性(変身態)「そ、そんなものが俺から!?」
マキ(変身態)「残念ながらね。あと・・・」
マキ(変身態)「──すっごく、くさいんです」
マキ(変身態)「きっと、自滅しないよう自身には無効なんでしょうが、」
マキ(変身態)「周りはたまったもんじゃありません」
マキ(変身態)「ましてや普通の人が吸ったら、どうなることか」
くさい中年男性(変身態)「し、知らなかったんだ。 自分にそんな力があったなんて・・・」
マキ(変身態)「今知ったってことですね。 なら、それでいいです」
マキ(変身態)「とにかく、もうガスを出さないでください」
くさい中年男性(変身態)「わ、分かった・・・」
くさい中年男性(変身態)「・・・・・・」
マキ(変身態)「・・・・・・」
マキ(変身態)「・・・」
マキ(変身態)「すみません、ずっとくさいんですけど」
くさい中年男性(変身態)「どうやって止めるんだ!?」
マキ(変身態)「知りませんよ。 自分の身体のこと、他人に聞かないで」
くさい中年男性(変身態)「俺だって知らないんだよ!!」
くさい中年男性(変身態)「くそ、どうして俺がこんな身体に!!」
マキ(変身態)(・・・目に見えてガスの勢いが増した)
マキ(変身態)(気持ちが昂って、逆に活性化ーーってところか。 声の掛け方が悪かったかな)
マキ(変身態)「・・・・・・分かりました。 お手伝いします」
くさい中年男性(変身態)「頼むよ。たす、助けて・・・」
マキ(変身態)「動かないでくださいーーね」
マキ(変身態)「あ」
マキ(変身態)「少し痛いけど我慢してくださいね」
くさい中年男性(変身態)「さ、先に言っ・・・て・・・・・・」
エンジョウ・マキ「うーん、近づくと尚臭い。 でも止まったから、良しとしますか」
くさかった中年男性「・・・う、う〜ん」
エンジョウ・マキ「しばらくしたら目は覚めますから。 安心してください・・・聴こえないか」

〇テクスチャ3
  【怪人】と呼ばれる存在が現れて、もう半年は経つだろうか
  人種、年齢、性別を問わず。
  それはある日、突然、原因不明に発現する。
  政府は対応に追われている。
  だけど、具体的な策は何も取られていないのが現状だ。
  そして、そうしている内にも【 怪人】たちの暴走によって事件は起きる。
  そんな日々のニュースを私ーーエンジョウ・マキは、他人事のように感じる。
  だけど、全然、他人事ではない。
  私もある日、怪人になった。
  でも、この呼び方は好きじゃない。
  私はこの変化を、【才能】だと思うことにしている。
  これまで気づかれなかっただけで、ずっと自分の中に眠っていた才能。
  私の力。
  初めてなのに、簡単に楽器を演奏できちゃう人とかと同じ。
  私は、そう思うことにしている。
  つまり、人とは違うけど「いたずらに特別視」していないってこと。
  背が高い。
  足が速い。
  腕から毒針が出る。
  ・・・・・・同列に考えてほしいけど、やっぱり難しいのかな。
  とにかく。
  私はある日、サソリかハチかクモか。
  あるいはそれらが混ざったような姿と、能力を手に入れた。
  だからと言って、私の日常はそんなに変わっていない。
  何があっても、私は私。
  いや、違うか。
  変わらないように努力していることがある。
  それは・・・
「悪いことをしている人を見つけたら、ちゃんと注意する・・・・・・ってこと」

〇港の倉庫
暴れる怪人「──なんなんだよ、テメェ!!」
マキ(変身態)「通りすがりの一般市民です」
暴れる怪人「こんな物騒なやつ、何が一般市民だ!」
マキ(変身態)「お互いさまです」
暴れる怪人「なんで怪人が、同じ怪人の邪魔するんだよ!」
マキ(変身態)「怪人だったら、好きなことをしていいとでも?」
マキ(変身態)「私からしたら、邪魔してるのはアナタの方ですよ」
マキ(変身態)「怪人のイメージ、勝手に悪くしないでください」
暴れる怪人「イメージ? そんなの、関係ないんだよ!」
暴れる怪人「この力があれば、誰も、俺を止めることはできない!」
暴れる怪人「誰も、俺を馬鹿にすることなんてできない」
暴れる怪人「今度は俺が、俺が好きなように生きるんだ!」
マキ(変身態)「好きなように生きるのは同意ですし、応援します。 でも・・・」
マキ(変身態)「それを、他人を傷つけることの正当性にするのは許せません」
暴れる怪人「お前・・・お前も、俺を否定する気かー!!」
暴れる怪人「邪魔をするなら、人間だろうと怪人だろうと──」
暴れる怪人「──”ぶっ殺す”っ!!」
マキ(変身態)「・・・・・・」
マキ(変身態)「アナタの事情は知りませんし、正直興味ありません」
マキ(変身態)「ただ、そういう台詞は・・・勢い任せにでも使ってはいけません」
マキ(変身態)「──怪人なら尚更です。 冗談では、済まされませんよ」
暴れる怪人「冗談なんかじゃねえ。本気だってこと、見せてやる!」
マキ(変身態)「──ッ!!」
マキ(変身態)「その割には、随分と腰が引けたパンチですね」
マキ(変身態)「実際に、誰かを殺したことは?」
暴れる怪人「う、うるせぇんだよ──っ!!」
マキ(変身態)「分かりやすい反応」
マキ(変身態)(じゃあ、お仕置き程度にしてあげないと)
暴れる怪人「──なっ!?」
マキ(変身態)「毒針です。 念の為、アナタには2発打ち込ませてもらいました」
暴れる怪人「・・・そ、そんな」
マキ(変身態)「安心してください。 私は、ぶっ殺すつもりありませんから」
マキ(変身態)「毒と言っても、麻痺するだけ。 しばらく動けなくなるだけです」
暴れる怪人「う、うぅ・・・」
エンジョウ・マキ「──!」
エンジョウ・マキ「途中からそんな気はしてましたが・・・・・・やっぱり、ただの子供か」
エンジョウ・マキ「一人の少年の非行を止めることができた・・・のかな」

〇一人部屋(車いす無し)
  これが、私の日常。
  この繰り返しが、私の生活
  私は・・・確かに怪人。
  でも、だからって人間じゃなくなったわけじゃない。
  私はこれからも、エンジョウ・マキ。
  人間じゃないとしても。
  怪人だとしても。

〇黒背景
???「ち、近づくな! こっち来るな!!」
マキ(変身態)「待って。 違う、違うの。 私は何も・・・」
???「く、来るんじゃねえ! この──」
  バケモノ
マキ(変身態)「──!!」
???「──ガッ!」
マキ(変身態)「これ・・・私・・・」
マキ(変身態)「違う・・・私・・・私は・・・」

〇一人部屋(車いす無し)
エンジョウ・マキ「私は──バケモノじゃない」
  そう、私は決してバケモノなんかじゃない。
  だから私は、普通の良心ある者として、暴走する怪人を止めているにすぎない
  正義なんかじゃない。
  そんな大義がなくなって、【人間】だったから誰もすべき正しい行い。

〇歩道橋
くさい中年男性(変身態)「し、知らなかったんだ。 自分にそんな力があったなんて・・・」

〇港の倉庫
暴れる怪人「お前・・・お前も、俺を否定する気かー!!」

〇一人部屋(車いす無し)
  私には2本の毒針が備わっている。
  一つは右腕に宿る、怪人さえも無力化できる強力な麻痺毒。
  もう一つは・・・。
  左腕に宿る、怪人さえも一突きで絶命する、猛毒の針。
  初めて怪人となった時、私はその能力のことを知らなかった。
  だから──知らずに、使ってしまった。
  あれ以来、私は左腕の毒針だけは使わないと固く誓っている。
  相手が人間か、怪人かは問わない。
  相手が誰であろうと、命を奪うことは許されない。
  人間って、そうするでしょ?
  だから、私もそうする。
  だから、考えなしに暴れて、無責任に能力を使う怪人を許せない。
  私はバケモノなんかじゃない。
  だから、正しいことをする。
  正しいことが・・・できるはず。
  例え姿形が変わっても──
  私は、私なのだから──。

コメント

  • 主人公は、悪を根絶やしにする正義のヒーローではなく、怪人の能力を才能と捉え、あくまで人の道から外れた者だけを嫌う。つまり、姿形はどうあろうと人は人なのだという強いメッセージ性を感じました。
    が、同時にタイトル「私は怪人」とあるように、どこかで人外の部分を自覚してしまっている部分が切ない気もしました。

  • マキさんの人間としての精神力、怪人としての哲学はとても魅力的ですね。自分のふるまい一つで、自分が属する人種の印象を左右するという点もとても共感しました。海外に住んでみて、日本人は礼儀正しいという印象を多くの外国人が持っていることをしり、それは何十年も前に海外に移住した日本人の方々の功績でもあると思いからです。

  • 怪人は才能。心に響きました。どんな環境におかれても、自分がそれをどう受け止めるかで全然変わってくる。
    …続編が読みたい。

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