黒兎少女

武智城太郎

第六話 生贄(後編)(脚本)

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〇一軒家
  深夜、零時──

〇男の子の一人部屋
和人(あれから一週間。教室ではあいかわらず、くだらない会話ばかり)
和人(ゲームにサッカーに動画にアイドル)
和人(インコ殺害事件の話題が、一言も出てこない!)
和人「もういちど、おれの凄さを見せつけてやる!」

〇ゆるやかな坂道
  和人は家を抜け出し、トランクケースを背負って自転車で出発する。

〇公園の入り口
  三十分ほどで、〈月の沢公園〉に到着する。
  広い敷地面積を誇る都市公園だ。
和人(夜に来たのは、これが初めてかも)
和人「ここに留めておいて大丈夫だろう」

〇林道
和人(よし。誰もいないし、外灯も少ない)
和人(このまま道なりに進んでいけば、すぐに〈しょうぶ池〉に着く)
  そこに棲むカルガモの群は、メディアでもたびたび紹介されている人気者だ。
和人(みんな仰天するだろう。恐怖に怯えるだろう。インコ殺戮以上に)
和人(外灯・・・誰かいるぞ)

〇公園のベンチ
  六、七歳の少女が、ベンチシートにちょこんと座っている。
和人(子供・・・!?)
和人(一人だ。周りに誰もいない)
  少女は和人には目もくれず、魔法のコンパクトのオモチャを無言でいじっている。
  うつむいているが、色白で小動物のような可愛い顔をしている。
  和人は激しく動揺し、真後ろにあるケヤキの幹に身を隠す。

〇木の上
  和人は、肩が上下するほどに息を荒げていた。
  インコの比ではないほど、硬く勃起させて。
  ボウガンを取り出すと、すぐさまアルミ矢をセットし──
  安全装置を外す。

〇公園のベンチ
  和人は幹から姿をあらわし──
  少女の小さな背中に狙いを定める。

〇オフィスビル前の道
柏木倫子「駅前以外は、わりと静かな町ね」
柏木倫子「下車したのは、これが初めてだわ」
  横断歩道を越えた先に、目的の場所が見える。
柏木倫子「あそこね」

〇公園の入り口
柏木倫子「〈月の沢公園〉か。名前くらいは聞いたことあるけど」
柏木倫子「たしか、池にカモの群がいるのよね」
柏木倫子「食べちゃダメよ」
サンドル「鳥にがっつくほど卑しくない」

〇林道
柏木倫子「ここで、まちがいないみたいね」
  倫子は魔力によって夜目がきくため、すぐに確信にいたる。
柏木倫子「あそこだわ」

〇公園のベンチ
柏木倫子(小学一年生くらいかしら)
  少女の後ろに立っていた和人が、サッとケヤキの幹に身を隠す。
柏木倫子(あれで見つかっていないつもりなの?)
柏木倫子(まあ、いいわ)
柏木倫子「一人? お母さんは?」
  倫子は少女のとなりに腰かける。
ユウナ「・・・・・・」
柏木倫子(人見知りしてるみたいね)
柏木倫子(左の頬が赤く腫れてる・・・)
柏木倫子「ほら、サンドルっていうのよ。撫でてあげて」
ユウナ「猫ちゃん」
  少女は、毛並みのいい背中をぎこちなく撫でる。
サンドル「ニャー」
柏木倫子「あなた、名前は?」
ユウナ「ユウナ」
柏木倫子「ユウナちゃん、お母さんはいつ迎えに来るの?」
ユウナ「わかんない。男の人がいなくなったら」
柏木倫子「それはお母さんのお友達? ときどき家にやってくる人?」
  ユウナは小さくうなずく。
柏木倫子「ユウナちゃんは、その男の人が好き?」
  大きくかぶりを振る。
柏木倫子「どうして?」
ユウナ「暗いのこわいから、おそとに出たくないっていったらぶたれたの」
柏木倫子「ユウナちゃんが知ってる人の家は、近くにないの?」
ユウナ「オトモダチのエリちゃんの家がごきんじょで、おじさんもおばさんもとってもやさしいの」
ユウナ「でもこんな時間に行ったらダメだって、ママが」
柏木倫子「かまわないわ。今のぶたれた話をそのおじさんたちにして」
柏木倫子「そしたら、その嫌いな男の人はもう来なくなるから。わかった?」
ユウナ「・・・・・・」
柏木倫子「ユウナちゃん、言う通りにしなさい」
  反響のかかったような奇妙な発声で囁く。
柏木倫子(子供は暗示が効きやすいわ)
柏木倫子「さてと」
  倫子はベンチから立ち上がり、
柏木倫子「あなたはそこで盗み聞き?」
  おずおずと和人が姿をあらわす。

〇木の上
  ボウガンはトランクケースにしまって、幹に立てかけてある。

〇公園のベンチ
柏木倫子「中学生が、こんな時間に何してるのかしら?」
和人「ちがう、おれは高校生だ!」
柏木倫子「入口にあった自転車、あなたのでしょ」
柏木倫子「〝白山二中〟ていうステッカーが貼ってあったわよ。自転車通学者用の」
和人「お、おれのじゃない!」
  倫子は、幹に立てかけてあるトランクケースに目をやり、
柏木倫子「あれに入ってるのはボウガン?」
和人「あ、あれにはギターが・・・」
柏木倫子「そういえばニュースでやってた、小学校のインコ事件はあなたの仕業?」
和人「な、なんでそんな・・・」
柏木倫子「だって、上着のポケットから矢が出てるし」
  和人はあわてて内ポケットを確認するが、矢はちゃんと収まっている。
柏木倫子「冗談よ。ほんとうは、あなたがさっきの女の子をボウガンで射ろうとしてたのが見えたの」
和人「・・・・・・」
柏木倫子「あら、自販機があるのね」
柏木倫子「ちょっと待ってて。喉が渇いたから」
  和人に背をむけ、歩き出す。
赤瀬和人「待て」
  倫子は振り返る。
柏木倫子「あら、なに?」
和人「顔を知られた。学校も! 警察に行く気だろう!」
柏木倫子「そんな面倒なことしないけど」
和人「ウソつけ!」
柏木倫子「そんな震える手で撃てるかしら」
和人「おれは殺戮の王だ・・・!」
柏木倫子「そうは見えないわね」
和人「恐怖の大王にして破壊の・・・」

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コメント

  • グッジョブでした!なるほど、彼の性癖だったとは...いつも背筋が凍るお話、ありがとうございます😊

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