怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード19(脚本)

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〇廃ビル
  思わず声が出てしまいそうになるのを、慌てて押さえた。
  周囲には埃(ほこり)と綿が舞い散っているが、男が鉈(なた)を振り下ろす手を緩める気配はない。
  バクバクとうるさい鼓動を必死で沈める。
  この人、絶対やばい人だ。
茶村和成「逃げよう」
  口をパクパクと動かすと、スワはゆっくりと頷く。
  しかし、後ずさったときにかかとで瓦礫を蹴ってしまった。
  鋭い音が廊下に響く。
  やばい、と思い前を向くと、鉈を手にしたままの男と目が合った。
「ッ逃げろ!!」
  どこからともなく発した声を合図に、俺とスワは猛ダッシュで逃げ出した。

〇廃ビル
  後ろで乱暴にドアが開く音と、大男の狂ったような声が聞こえてくる。
  全力疾走のまま階段を駆け上がった。
「おい茶村!」
  スワの焦った声が俺の名前を呼ぶ。
  振り向くと、階段を下っているスワの姿が目に入った。
茶村和成(しまった、上に行ったら逃げ場がない)
  だが悩んでいる時間はなかった。
  俺とスワはそのまま二手に分かれて、上と下へと逃げた。
  男は俺を追って来ている。一気に階段を駆け上がり、最上階までたどりついた。
  息を整えようと近くの柱の影に隠れ、もつれそうな手で携帯を取り出す。
茶村和成(・・・くそっ、圏外か)
  他に外部との連絡手段はない。
  どうすればいいのか焦っていると、なにかに見られている気配がして顔を上げた。
  目の前に、いつのまにか少女が立っていた。
  驚いて漏れそうになった声を、なんとか飲み込む。
  青い花が散りばめられたワンピース。
  色素の薄い茶髪は高い位置でひとつにまとめられている。
  そしてその身体は、うっすらと透けていた。
茶村和成「ッ・・・」
  逃げようにも、すぐそばまで男が来てるかもしれないため迂闊(うかつ)には動けない。
  そのままの状態で、しばらく睨(にら)み合う。
  だが、一向に少女が危害を加えてくる様子はなかった。
  どうやら敵意はないらしい。
  少し安堵して息をつくと、少女はなにかを訴えるように俺に手を差し出した。
  誘われるがままにその手を握る。
茶村和成「・・・!!」

〇白
  そして次の瞬間、白い光に包まれた。

〇広い公園
  セミの鳴き声がする。
  頭上近くから照りつける陽光が眩しい。
  気づくと俺は、見覚えのない小さな公園にひとりでポツンと立っていた。
茶村和成「え・・・あ、あれ?」
茶村和成「廃ビルにいたはずじゃ・・・」
  焦って周囲を見回すと、背後に廃ビルにいた少女の姿があった。
  少女は砂場で山を作りながら楽しそうに遊んでいる。
「いっくぞー!」
  俺が少女に声をかけようとしたとき、後ろから声が聞こえた。
  ばっと振り向くと、少年がバケツいっぱいに水を溜めてすぐそばまで走ってきていた。
  しかし、少年は俺の身体をすり抜けて、そのまま少女の方へ走っていった。
茶村和成「!?」
  少年が持っていたバケツの水は、少女のいた砂場に撒かれた。
  できた泥をすくい上げて、ふたりは大きな砂の山を補強している。
  呆気にとられつつ、笑顔の少年の横顔になんとなく既視感を覚えた。

〇白

〇廃ビル
  再び白い光に包まれたかと思うと、俺は廃ビルへ戻ってきていた。
  今のはなんだったんだ・・・?
  不可解な顔をする俺を気にすることなく、少女は廊下の方へと走り出す。
  その背中を見つめていると、少女は数メートル進んだところで立ち止まった。
茶村和成「・・・ついてこいってことか」
  男がいないか確認しつつ、少女の後に続く。
  少女は廊下を音も立てず進み、一番奥の客室の前で立ち止まった。
  促されように、慎重に客室のトビラを開ける。
  部屋に足を踏み入れて少女の方を振り向くと、そこにはもう誰もいなかった。
茶村和成「・・・・・・」

〇荒れたホテルの一室
  少女がここに俺を導いた理由を考えながら、部屋の中へと進んでいく。
  すると、奥の方から小さな呻(うめ)き声が聞こえてきた。
  警戒しながら声がする方へと向かう。
  そこには、バタバタと不自由そうにもがいている人物がいた。
茶村和成「由比!」
  由比は両腕と両脚を縛られ、口に太いガムテープを貼られていた。
  慌てて駆け寄って拘束を解いてやる。
茶村和成「大丈夫か!?」
由比隼人「っぷ、はあ、はあ・・・ッ・・・」
由比隼人「な、なんで・・・茶村、ここに・・・?」
茶村和成「お前の母さんからお前と連絡がつかないって電話が来たんだよ」

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