いつか薔薇色の走馬灯

さくらだ

第4話「外の世界へ」(脚本)

いつか薔薇色の走馬灯

さくらだ

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〇簡素な部屋
  第4話
  「外の世界へ」
ヴィクター「まずいな・・・」
女「逃げた方がよさそうだね」
  ヴィクターが窓を開ける。
ローズ「ま、窓から逃げるの?」
ヴィクター「ローズは僕に掴まって」
ローズ「きゃっ!」
  ヴィクターは私をひょいと横抱きに抱え上げる。
ローズ(わ、わ、わ! 顔が近い!!)
女「あたしは先にいくよ 手伝ってやれるのはここまでだ」
ヴィクター「ああ、助かったよ」
女「健闘を祈るよ」
  女の人は窓の外に消えていく。
ヴィクター「僕らもいくよ」
ローズ「わっ!」

〇中東の街
  着地したヴィクターが私を地面に降ろす。
ヴィクター「大丈夫?」
ローズ「ええ・・・」
ローズ(な、何ドキドキしてるのよ! 今はそんな場合じゃないのに!)
ヴィクター「敵は宿の中に入ったみたいだ」
ヴィクター「今がチャンスだ 逃げるよ」
ローズ「え、ええ」
  ヴィクターは私の手を引き、路地裏を駆け出す。

〇巨大な城門
  市門
ローズ(やっぱり門は閉まってる それに・・・)
  門番も立っている。
ローズ(これじゃ出られないわ)
ヴィクター「門番 予定より二日遅れたが、通してくれ」
門番「はい」
ローズ「え?」
ヴィクター「事前に根回ししておいたんだ こうやって通れるように」
ローズ(根回しって・・・ あ、二日前って私の誕生日?)
ローズ(ということは・・・)
ローズ(あの日、ここを通って外に出るつもりだったってこと?)
ローズ(やっぱりヴィクターは約束を守ってくれるつもりだったんだ・・・!)
ローズ(それなのに私ったら彼を疑って・・・)
  門番は大門の横にある小さな通用口を開けてくれる。
門番「どうぞお通りください」

〇草原
  壁の外に広がる草原を少し進むと、すぐに黒々とした森の縁にぶつかった。
ローズ「こ・・・ここをいくの? この暗い森を?」
ヴィクター「怖い?」
ローズ「うん・・・」
ヴィクター「大丈夫だよ 二人一緒なら」
ヴィクター「僕はこのまま捕まって 二度と君に会えなくなる方が怖いよ」
ヴィクター「──たとえ君がもう僕を好きじゃなくても、ね」
ローズ「ヴィクター・・・」
  彼の悲しげな表情を見た途端、ぎゅっと胸が締め付けられる。
ローズ「っ・・・ごめんなさい!」
ローズ「私、バカだったわ・・・ あなたを疑ったりして」
ローズ「あなたは私との約束をちゃんと守ろうとしてくれたのに・・・」
ローズ「私は血筋や顔立ちに惑わされて 本当のあなたを見失ってた」
ヴィクター「ローズ・・・」
ローズ「あなたが好きよ、今でも・・・」
ローズ「今さら嫌いになんてなれない・・・ なれるわけがないわ」
ヴィクター「・・・本当に?」
ローズ「ええ」
ヴィクター「──よかった!」
ローズ「きゃ!?」
  ぎゅっ
  ヴィクターが私を抱きしめる。
ヴィクター「僕こそずっと黙っててごめん 僕らの家のこと・・・」
ヴィクター「怖かったんだ 君に嫌われるんじゃないかって・・・」
ローズ「嫌ったりなんかしないわ・・・」
ローズ「だって私、家同士の対立なんて何も知らなかったんだもの」
ローズ「こんなふうになってやっとわかったの・・・ 私たちを取り巻くいろいろなこと」
  私はヴィクターの手を引き、森へと一歩近づく。
ローズ「・・・いきましょう?」
  さっきまで恐ろしかった森。
  しかし、今はもう何とも思わなかった。
  家同士の対立だとか。
  この恋はきっと誰にも
  祝福されないことだとか。
ローズ(そういうことを考えたら、あの壁の中にいるよりも・・・)
  私たちから全部を取り上げて
  この身一つにしてくれる森の方が
  ずっと優しい気がしたから──

〇けもの道
  なるべく早く都から離れたいとはいえ、夜の森は危険なので、
  今日のところは少しだけ進んで、すぐに寝床を確保しようということになった。
ヴィクター「ここにしようか ここなら二人寝られそうだし」
ローズ「うん」
  二人並んで地面に寝転ぶ。
  すると、ヴィクターが私の左手を握ってきた。
ローズ「ど、どうしたの?」
  手袋を外される。
ヴィクター「・・・」
ローズ(あれ? 怖い顔してる?)
ローズ(あ!)
  今、気がついた。
  私の左手の薬指に、指輪がはまっている。
ローズ(これ・・・結婚指輪? サイラスにはめられたの?)
ヴィクター「・・・トリアにあげちゃえばよかったな この指輪」
ローズ「え? 誰?」
ヴィクター「さっきの女の人」
ローズ「ああ・・・」
ローズ(トリアっていうのね、あの人)
ヴィクター「でも、持っていればそのうち路銀になるか・・・」
  ヴィクターは指輪を私の指から抜き去ると、
  私のズボンのポケットにねじ込んだ。
ヴィクター「お金はないよりあった方がいいしね・・・ 必要になるまで君が持ってて」
ヴィクター「でも、ムカつくから着けないでね」
ローズ「あはは! ヤキモチ妬いてくれてるの?」
ヴィクター「妬くだろ、普通・・・」
ローズ(なんかかわいい・・・)
ローズ(こんな穏やかな気持ちなったのいつぶりかしら・・・)
  私たちは指を絡め合い、手を繋いだまま眠る体勢になる。
ヴィクター「明日からヤングットの街を目指すよ」
ローズ「ヤングット・・・? って、叔父が領主を務める街だわ」
ヴィクター「だからさ そこで保護を求めるんだ」
ヴィクター「途中でトリアと合流して街まで送ってもらえることになってるから、二人だけの危険な旅も長くは続かないよ」
ローズ「うん・・・」
ローズ(私はもっと二人きりの旅を続けたいけど・・・)
  これからのことを話していると、リラックスしてきたのか、
  だんだんとまぶたが重くなってくる。
ローズ(野宿なんてはじめてだから ちゃんと眠れるか心配だったけど・・・)
ローズ(心配はいらなそうね)

〇けもの道
  翌朝
ローズ「ふあ・・・」
  朝日が昇り、目が覚める。
ローズ(あれ?)
ローズ(ヴィクターがいない・・・ どこにいったんだろう?)
ローズ(あ!)
  ヴィクターは少し離れたところでこちらに背を向け、
  茂みに隠れるようにしゃがみ込んでいた。
ローズ(何してるのかしら?)
ローズ「おはよう、ヴィク・・・」
  ぬるっ
ローズ「え?」
  足に何かが触れた。
ヘビ「シャァァァ!」
ローズ「きゃああああっ! ヘビ!?」
ローズ「た、助けてヴィクター!」
  私は跳び上がってヴィクターに抱き着く。
ヴィクター「わっ! 何!? ローズ!?」
ヘビ「シャァァァッ」
  ヘビはこちらに襲いかかってくることもなく、すぐに茂みの中へと逃げていく。
  どうやら通りかかっただけらしい・・・。
ローズ(な、なんだ)
ローズ「もう、びっくりさせないでよ!」
???「おい、今の聞こえたか?」
???「ああ、こっちの方だ!」
ヴィクター「・・・くそっ」
ローズ「え?」
  木々の向こうから、知らない男たちの声が聞こえた。
ローズ(も、もしかして私、今何か悪いことしちゃった?)
  ガサガサ!
兵士「いたぞ!」
兵士「おまえら、昨日ハロウズ屋敷から逃げたやつらだな!」
ローズ(え!? うそ!? ハロウズ家の追手!?)
ローズ(もうこんなところまできてるの・・・!?)
ヴィクター「見つかった・・・! 逃げるよローズ!」
ローズ「う、うん!」
兵士「追いかけろ!」
兵士「おう!」

〇けもの道
  数十分後
ローズ「はぁ、はぁ・・・」
  私とヴィクターは森の中を逃げ回り、なんとか敵を振り切ることに成功した。
ローズ(敵はいなくなったけど・・・ でも、ここはどこなのかしら?)
ローズ(ずいぶんと奥に入ってきちゃったみたいだけど・・・)
ローズ「ねえヴィクター・・・」
ローズ「あ、あれ?」
  辺りを見回す。
  ヴィクターが、いない。
ローズ(うそ・・・!)
ローズ(は、はぐれちゃった!? どうしよう・・・)
ローズ(とにかく、ここでじっとしてても仕方ないわよね?)
  私はヴィクターの姿を探して、フラフラと森の中を歩き出す。
  しかし──

〇けもの道
  彼と合流できることはなく、そのまま夜を迎えてしまった。
ローズ(マズい・・・もう夜だわ 完全に迷ったみたい)
ローズ(こんなときに追手や猛獣とでも出くわしたら・・・)
ローズ(か、考えるのやめよう! 怖くて動けなくなりそうだわ・・・)
ローズ(ん?)
  心細い気持ちで歩いていると、木立の隙間にちらちらと明かりが見えることに気がついた。
ローズ(何かしら?)
  近づいてみると、
ローズ(人の声だわ!)
ローズ(助かった! 誰かいるのね!)
  見ず知らずの人間でも、たった一人で森で夜を明かすよりはずっといい。
ローズ「すみません! 道に迷ってしまったんですが──」

〇森の中
  話し声が、ぴたりと止んだ。
ローズ「!?」
  開けた場所に、篝火(かがりび)を囲んで、たくさんの男たちが座っていた。
  人数は、3、40人ほど。
  彼らはそれぞれ、手元に物々しい武器を置いていて──
???「あ? なんだ、おまえ?」
ローズ(この人たちのこの格好、この雰囲気 もしかして──)
ローズ(盗賊!?)
  第4話「外の世界へ」終
  
  第5話に続く

次のエピソード:第5話「盗賊の宴」

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