第一話「死んだはずの幼馴染」(脚本)
〇橋の上
2020年、夏――。
100年に一度と言われる
超大型台風が東京に迫っていた。
唸るような豪風雨の中、
避難警報が鳴り響く。
俺は幼馴染の神崎セナの手を引いて
避難所に走っていた。
城井奏太「いいか! 絶対に俺の手を離すなよ!」
神崎セナ「・・・ごめんね、奏太(かなた)」
城井奏太「?」
神崎セナ「私、昔からいつも迷惑ばかりかけてた」
城井奏太「バカ。こんな時に何言って──」
セナは突然立ち止まり、
俺の手を振りほどいた。
それは明確な意志を持った拒絶だった。
城井奏太「セナ・・・?」
神崎セナ「私は・・・一緒には行けないの」
城井奏太「え?」
神崎セナ「ごめんね。今までずっと、ありがと」
城井奏太「さっきから何言ってんだよ! 急いで避難しないと──」
神崎セナ「私のこと、忘れないでね」
雷鳴が轟き、一瞬だけ目をつぶった。
俺はその一瞬をずっと後悔している。
目を開けると、壊れた橋の手すりの前で、
セナの靴が片足だけ落ちていた。
城井奏太「セナ・・・?」
そしてセナは、跡形もなく消えていた。
〇黒背景
それから三年。
セナが俺の前に現れることは
二度となかった。
俺は今も――
セナを忘れられずにいる。
『忘れ去られた世界の君へ』
〇ゲームセンター
バーチャル・ガン・シューティングゲーム
「夢想」の周りには、人だかりができていた。
城井奏太「・・・まあこんなもんだろ」
俺が叩きだした得点が、
全国三位にランクインされるのを、
野次馬たちが眺めていたからだ。
店の入り口から言い争う声が
聞こえてくる。
不良1「あんたさ、人にぶつかっておいて、 それはないんじゃねーの?」
男子高校生「で、でも飛び出してきたのは そっちの方で・・・!」
不良2「てめえがフラフラ歩いてただけだろうが!」
男子高校生「ごめんなさい! 僕、失礼します!」
不良1「待てよ!」
こういうのには関わらないことが一番だ。
無視してその場を去った。
〇大きな木のある校舎
〇学校の屋上
放課後のタイミングを見計らって
屋上に行くと先客がいた。
高島春斗(たかしまはると)――
高校に入ってからできた友達だ。
高島春斗「なんだよ、お前。そのボロボロの恰好」
城井奏太「ほっとけ」
高島春斗「授業さぼってばかりだと進級できねえぞ」
城井奏太「そんときは・・・学校辞める」
高島春斗「かぁー、今どき中卒って マジ終わってんぞ。いいのか?」
城井奏太「学歴なんて意味ねえよ。 それで世界が変わるわけでもねえし」
高島春斗「セカイ? 学校にもまともに通えない奴が 言う言葉か?」
城井奏太「ほっとけ」
高島春斗「俺を見ろ! 授業は真面目に出て品行方正、 次期生徒会長候補でエリート街道 まっしぐらだ!」
城井奏太「そんな奴が入学して二か月で、 三回も彼女変えるかよ」
高島春斗「ぐっ・・・バレてたか」
城井奏太「お前、意外と目立ってんだよ」
高島春斗「お前も彼女くらい作れ。それだけで 灰色の学園生活がパラダイスだぞ」
城井奏太「興味ねえ」
高島春斗「セナ・・・って言ったよな? まだ忘れられないのか? 幼馴染のこと」
春斗が、セナという言葉を意識して
使っているのはわかった。
試しているのだ、俺が動揺するかどうか。
城井奏太「・・・もうとっくに忘れたよ、あんなやつ」
高島春斗「はあ・・・」
城井奏太「なんだよ、その溜息」
高島春斗「お前が嘘下手だということは よーくわかった」
〇大きな木のある校舎
日が暮れる頃に正門を出ると、
空はすっかり暗い雲に覆われていた。
???「お前だな・・・? 弟をイジメたのは」
声の方を見ると、強面の男が立っていた。
その後ろにはゲーセンにいた二人組の
不良もいる。
あの時、結局無視が出来なかった俺は、
ゲーセンにもどって、
不良どもに殴りかかったのだ。
体格のいい男「見ず知らずの奴を助けて、 ヒーロー気取りか?」
城井奏太「ヒーロー・・・なんかじゃねえ」
体格のいい男「?」
城井奏太「好きな女の一人も救えないのに」
〇黒背景
神崎セナ「ごめんね。今までずっと、ありがと」
〇大きな木のある校舎
城井奏太「俺は・・・バカに絡まれている可哀そうな奴を放っておけなかっただけだ」
体格のいい男「なんだと・・・!」
男がナイフを取り出した。
城井奏太「! そりゃ反則だろっ・・・!」
〇入り組んだ路地裏
奴らは二手に分かれて追ってきた。
矢のように全速力で走りながら、
路地裏に飛び込む。
城井奏太「ハァ・・・ハァ・・・!」
小さく幽かに、それでいて
どこか懐かしい声が俺を呼んだ。
???「奏太!」
城井奏太「・・・誰だ?」
体格のいい男「見つけた! もう逃げ場はねえぞ!」
城井奏太「今の声は・・・いや、そんなことは──」
路地の先にあるビルの扉が開いている。
奴らが襲い掛かって来る寸前に駆け出した。
暗く長い階段を二段飛びで駆け上がると、
その先にある大きな扉に飛び込む。
次の瞬間、俺は明るい光に包まれた。
〇荒廃した街
目を開けると世界が一変していた。
見慣れた街が荒れ果てていたのだ。
建物の窓ガラスは割れて散らばり、
横転した車は煙を吐いていた。
人の姿はほとんど見当たらなかった。
城井奏太「なんだこれ! 街が!?」
男「・・・ウウッ」
城井奏太「あ、あの! すみません!」
男「・・・ウウウッ!!」
城井奏太「ここはいったいどこなんですか。俺は──」
次の瞬間だった。
目の前で、パーンと風船が弾けるように
男の頭が吹き飛んだのだ。
城井奏太「うわあぁぁぁぁ!!!」
若者1「今だ! 前に出ろ!」
武装した男たちが俺を取り囲み、
銃を突き付けていた。
若者1「こいつもアビオか!?」
城井奏太「・・・ア、アビオ?」
若者2「おい貴様! なんでこんなところにいる!?」
若者1「誰か首の後ろを確認しろ!」
城井奏太「いや、あの・・・! ちょっと待ってください! 俺は──」
???「そこを一歩でも動いたら撃ち殺す!」
そいつは不意に現れた。
俺は自分の目を疑った。
だが、そいつの姿には、
昔の面影が残っていた。
神崎セナ「お前、どうして──」
城井奏太「・・・セナ?」
衝撃の始まりでびっくりしました。タイトルからなんとなく不穏な空気を感じてましたが、怖いですね。主人公がどうなってしまうのか、気になります。次回も楽しみにしてます。
1話目からココロ揺さぶられる展開ですね。
セナとの再開は果たして、吉となるか凶となるのか?
どんどん読みたいと思ぃます。