第一話(脚本)
〇荒野
???「───ッ!!」
???「・・・・・・」
???「君が守りたいものは、 それひとつで守れるのか?」
???「・・・苦戦しているようだけれどね」
???「君の本当に大切なものも、」
???「それ以外も、」
???「比べるまでもない」
???「全て守ってみせろ」
???「────ッ!!」
???「・・・・・・・・・」
???「────おめでとう」
???「君は今から、」
???「魔法使いだ」
???「・・・君の願いが叶うことを、私が願おう」
〇荷馬車の中
リア(・・・・・・)
リア「────っ!」
リア(────キナルス・ユオン公爵さま)
リア(そうだ、わたし────)
リア(公爵さまと馬車に乗って、)
リア(それからすぐ眠ってしまったみたい)
リア(・・・それにしても)
リア(いまのは 夢だったのかな)
リア(でも、)
リア(ママはめずらしいって言ってたこの目の色と)
リア(全く同じ色の目だった!)
リア(それに、髪の色も)
キナルス・ユオン「・・・・・・」
キナルス・ユオン「先程、レネテュオンの領内に入った」
リア「あっ」
リア「すみません! 眠ってしまって・・・」
キナルス・ユオン「問題ない」
キナルス・ユオン「疲れていただろう」
キナルス・ユオン(この状況なら当然だが、 夢見が良くなかったように見える)
キナルス・ユオン「・・・大丈夫か?」
リア「あ──」
リア(リア!しっかりしなきゃ!)
リア(わたしがなぜ馬車に乗っているのか)
リア(忘れてはだめ)
リア(そして、)
リア(怖気づくわけにもいかない)
リア(落ちついて・・・)
リア「はい」
リア「まだ、なにもかもこれから、ですから」
キナルス・ユオン「そういうことを言っている訳では──」
キナルス・ユオン(・・・・・・)
キナルス・ユオン「夢見が悪かったのかと思って、な」
リア「えっ?」
リア「えっと、その・・・」
リア「ご心配には、およびません」
リア「ですが──」
リア「ありがとうございます!」
キナルス・ユオン「──っ、オホン」
キナルス・ユオン「なら良い」
キナルス・ユオン「であれば──」
キナルス・ユオン「ユオン公爵邸までは まだ時間がある」
キナルス・ユオン「着くまでに、 先程できなかった話の続きをさせてほしい」
キナルス・ユオン「構わないか?」
リア「は、はい!!」
リア「よろしくおねがいします!!」
リア(──そう、わたしとママの知らない話を)
リア(わたしは知らなければならない)
リア(ママ、わたし──)
リア(必ずママのかたきを討ってみせる!!)
〇英国風の部屋
時は少し遡り────
3時間前。
ギギィ──────
古びた音を立ててドアが閉まった。
いままで気にもしなかった耳障りな音は、
わたしの日常が変わってしまったことを
知らせる合図のようだった────。
リア「ママ・・・」
リリアン「・・・・・・・・・」
リア「ママごめんなさい」
リア「お医者さん、つれてこられなかった・・・」
リア「死んでしまったら、もう何もできないって」
リア「魔法使いなら分からないけど、」
リア「私はただの医者だからな、って」
リア「ママ・・・」
リア「わたしを一人にしないで・・・」
ママの横たわるベッドに近づくけれど、
触れることはできなかった。
リア(触れるのが、こわいから・・・)
古い木造建てのいたるところから、
冬の夜風が入り込む。
身を切るような冷たさで、
部屋の温度を下げ続ける。
リア(でもそれでいいの)
リア(夏はなまものが傷みやすい・・・)
リア(──反対に冬は長く保つ)
リア(ママに、教わったこと)
リア(わたしがママに触れてしまえば、)
リア(少しでも温度を伝えてしまったら、)
リア(そこからママの体は・・・)
リア(ママは────)
リア(だれだろう・・・)
リア(────何も聞こえない)
リア(もしかしてお医者さん?)
ギギィ─────
キナルス・ユオン「・・・リア」
リア(わたしを知ってる?)
リア「ど、どなたですか?」
キナルス・ユオン「驚かせてすまない」
キナルス・ユオン「私は キナルス・ユオン」
キナルス・ユオン「君の父親になるためにここへ来た」
リア(な、なんなの突然!?)
〇英国風の部屋
キナルス・ユオン「・・・・・・」
キナルス・ユオン(二人で住むには手狭な家だ)
キナルス・ユオン(そしてかすかに────)
キナルス・ユオン(毒の匂い)
キナルス・ユオン「・・・リア」
リア「はいっ!」
キナルス・ユオン「リリアンの一人娘の、リアだな?」
リア「そうです・・・」
キナルス・ユオン(瞳の色に、髪の色・・・)
リア「その、ユオンさまは、貴族の方ですよね?」
キナルス・ユオン(間違いなさそうだ)
キナルス・ユオン「ああ」
リア「その、どうしてここにいらしたのか・・・」
リア「父親になるというのは、一体どういう──」
キナルス・ユオン「──すまないが、」
キナルス・ユオン「あまり時間がない」
キナルス・ユオン「リア、リリアンが亡くなったことを 知っている人間はいるか?」
リア「さっき、お医者さんのところに行ったので・・・」
キナルス・ユオン「──医者か」
リア「お医者さん以外には、まだ誰にも・・・」
キナルス・ユオン「やはり時間がないな」
キナルス・ユオン「リア、よく聞いてくれ」
キナルス・ユオン「夜が明ける頃には、 ここに大勢の人間がやってくるだろう」
キナルス・ユオン「リリアンを苦しめた連中だ」
リア「ママを、苦しめた・・・?」
キナルス・ユオン「君達のかかりつけの医者が、 薬か何かを出していただろう」
リア「最近、ママの元気がなくて・・・」
リア「栄養剤を、毎日出してくれていました」
キナルス・ユオン「──栄養剤などではない」
キナルス・ユオン「飲んだ人間を、少しずつ弱らせる毒だ」
リア「毒!?」
リア「そんな、はず・・・」
キナルス・ユオン「間違いない」
キナルス・ユオン(王都で押収したことがあるものと同じ匂いだ)
キナルス・ユオン「そいつらは、 君を捕らえて連れて行くだろう」
キナルス・ユオン「王都にな」
リア「王都!?」
リア「そんな、わたし、」
リア「王都に行ったこともないんです!」
リア「なのになんで・・・」
キナルス・ユオン(十中八九──)
キナルス・ユオン「君を利用するためだ」
キナルス・ユオン(私も人のことは言えないが・・・)
リア「何のために・・・」
キナルス・ユオン「後で必ず教えよう」
キナルス・ユオン「だから今は、君に選んでほしい」
キナルス・ユオン「君が捕まれば 王都に移送され、 リリアンはこの家に1人で残されてしまう」
キナルス・ユオン「私は君を守りたい そして、彼女をきちんと弔いたい」
キナルス・ユオン「レネテュオンで過ごすのも、きっと悪くない」
キナルス・ユオン「手伝ってくれないか?」
リア「レネテュオンに、ユオン・・・」
リア「ユオン公爵さまでいらっしゃいますか!?」
キナルス・ユオン「ああ」
キナルス・ユオン「国の北側の国境地帯──」
キナルス・ユオン「山脈が冬を抱いて閉じ込める土地が、 我がレネテュオンだ」
キナルス・ユオン「テネルド王国唯一の公爵家が守る、 君にとって一番安全な場所でもある」
キナルス・ユオン「君とリリアンを 私に守らせてくれないか?」
〇荷馬車の中
時は戻り────
馬車の中。
キナルス・ユオン「────では、順を追って話そう」
キナルス・ユオン「私が領地を離れ、 君とリリアンの元に向かったのは」
キナルス・ユオン「リリアンから手紙で連絡があったからだ」
キナルス・ユオン「彼女は早い段階で」
キナルス・ユオン「『自分が飲んでいるものは栄養剤などではない』」
キナルス・ユオン「そう気付いていた」
キナルス・ユオン「故に、古い付き合いの私のところに 手紙を送ってきたのだろう」
キナルス・ユオン「彼女を救うことは出来なかったが・・・」
キナルス・ユオン「──手紙には、 もちろん君のことも書かれていた」
キナルス・ユオン「リリアンによく似た、 『世界で一番可愛い娘がいる』とね」
リア「ママ・・・」
キナルス・ユオン「たしかに、よく似ている」
キナルス・ユオン「リリアンと──」
キナルス・ユオン「アンネルに」
リア(アンネル?)
キナルス・ユオン「アンネルは、リリアンの姉だ」
キナルス・ユオン「そして、私の妻でもある」
キナルス・ユオン「リリアンに君という娘が居たように、」
キナルス・ユオン「私とアンネルにも娘が居た」
キナルス・ユオン「ネリアだ」
キナルス・ユオン「・・・アンネルもネリアも、 1ヶ月前に亡くなってしまったが」
リア「そう、だったのですね・・・」
キナルス・ユオン「アンネルにネリア、リリアンも」
キナルス・ユオン「それぞれ死因は違うものだが、」
キナルス・ユオン「3人の死に関わっている人間達がいる」
キナルス・ユオン「この国の王族、反魔法組織、魔教」
キナルス・ユオン「これら全ての人間か、」
キナルス・ユオン「まだ潜んでいる輩もいるかもしれない」
キナルス・ユオン「妻と娘、リリアンまで命を落としたとあっては」
キナルス・ユオン「ユオン公爵家と繋がりのある人間が狙われるのは必至のようだ」
キナルス・ユオン「これは、 君を保護した理由のひとつでもある」
リア「・・・危険があるのはわかりました」
リア「ですがなぜ──」
リア「古くから国境を守り、」
リア「優れた騎士を大勢抱え、」
リア「時には魔法使いに選ばれた方もいらっしゃるという──」
リア「由緒正しい貴族家のユオン公爵家を 敵に回すようなことを?」
キナルス・ユオン「・・・その年で随分と詳しいな」
リア「いえ、これは──」
リア「最初に気付けなかったことが不思議なくらいに、有名なお話ですので!」
キナルス・ユオン「そうか」
キナルス・ユオン「──ユオン公爵家を敵に回す主な理由は、」
キナルス・ユオン「私が ユオンの名を持つ人間を、 魔法使いにするつもりでいるからだろうな」
リア(理由はあとにしても──)
リア「魔法使いを選ぶのは、 始まりの魔法使いさまなのでは・・・?」
キナルス・ユオン「その通りだ」
キナルス・ユオン「私は 次の魔法使いの『条件』を 満たそうとしただけに過ぎない」
キナルス・ユオン「それすらも許せぬということなのだろう」
キナルス・ユオン「相当な嫌われようだよ、まったく」
キナルス・ユオン「だが幸いにも」
キナルス・ユオン「『条件』を満たす君が、 いま私の目の前にいる」
キナルス・ユオン「リア、君には・・・」
キナルス・ユオン「死んでしまった私の娘に、 なり代わってほしい」
キナルス・ユオン「魔法使いになれた暁には この国の悪を暴き、」
キナルス・ユオン「私と君の大切な家族のかたきを、 共に討ってはくれないか?」
お母さんはわかっていて薬を飲んでたんですね。
リアがこれからどうなるのか気になります。
見事お母さんの仇がうてるのか?
…だといいなぁと思っています。
読み進めるほどどんどん面白くなってきました。やはり位が高い人たちというのは、いつの時代も狙われやすいのですね。リアちゃんもユアンさんもさぞかし悲しかったでしょう。二人には幸せになってもらいたいです。
どんな時代もどんな世界も、力持つものが羨まれ、そして疎まれるのが常なのかもしれませんね…。
お母さんの仇を、是非取ってほしいです!