いつか薔薇色の走馬灯

さくらだ

第3話「すべてから逃げ出して」(脚本)

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〇貴族の部屋
  第3話
  「すべてから逃げ出して」
ローズ(この声・・・ 間違いないわ)
ローズ(この人が彼なの? 私の大好きな・・・)
ローズ(でも、この顔・・・)
ローズ(明らかにハロウズ家の血を引いてるわよね?)
  ハロウズ家の人間は、全員憎むべき敵のはずで。
  部屋には、頭から血を流して倒れるハロウズ家の嫡男がいて──。
ローズ(サイラスを殺したのは、私で・・・)
ローズ(つまり私は──)
  彼の家族を殺してしまったの?
ローズ「っ!」
  思考が追いつかなかった。
  パニックになった私は、部屋の窓を開け、
少年「あ! ローズ!」
  ──少年の前から姿を消した。

〇中世の街並み
  市街
  窓から飛び降りた私は、真下にあった生垣がクッションになったおかげで
  運よくほとんど無傷で済み、そのままハロウズ家の敷地から転がるように逃げ出した。
ローズ「はぁ、はぁ・・・!」
  混乱する頭で無意識に足を向けたのは──

〇養護施設の庭
  荒れ果てた我が家だった。
ローズ「はぁ、はぁ・・・」
ローズ(バカね・・・ ここにきたってどうしようもないのに)
ローズ(でも・・・ どうしてなの?)
  私はふらふらと、彼とよく話していた花壇の奥まで歩いていく。
ローズ(彼は・・・隠してたっていうの? 私たちが敵同士だってこと)
ローズ(じゃあ、あの約束は何だったの?)
ローズ(私と結婚するなんて、最初から嘘だったってこと・・・?)
ローズ(私を助けると言ったのも?)
ローズ(一緒に旅に出ると言ったのも?)
ローズ(最初からそんなつもりなかったの・・・?)
  頭ではわかっている。
  こんなところで泣いていても仕方がないって。
ローズ(でも、もうどうしたらいいのかわからない・・・)
  この国では貴族殺しは重大な犯罪だ。
ローズ(私はきっと・・・捕まったら死刑になる)
ローズ(だから早くどこかに身を隠さないくちゃいけないのに・・・)
  しかし、絶望で体が動かない。
  ガサッ
少年「ローズ・・・ やっぱりここにいた」
ローズ「あなたは・・・!」
少年「君ならここだと思ったよ きて」
少年「ここだと追手に見つかる」
ローズ「追手って・・・ あなたがそうじゃないの?」
少年「違うよ 僕は君を助けにきたんだ」
ローズ「え・・・助けに?」
少年「サイラスを殺したのは僕ってことになってる」
少年「屋敷は今、混乱してるはずだ 今のうちに逃げるよ」
ローズ「え── あっ」
  少年は私の手を引き、裏通りに向かって駆け出す。

〇中東の街
  路地裏
追手「いたか?」
追手「いや、いない」
  表通りから、私たちを探す声が聞こえてくる。
  私は少年に手を引かれながら、忍び足で路地裏を進むが、
ローズ(・・・本当に信じていいの? この人のこと・・・)
少年「・・・ローズ あの日は本当にごめん」
ローズ「え?」
少年「君の誕生日」
ローズ「あ・・・」
ローズ(謝ってくれたってことは、わざと約束を破ったわけじゃないってこと?)
ローズ「・・・ならどうしてきてくれなかったの?」
ローズ「私、ずっと待ってたのよ」
少年「本当にごめん・・・」
少年「捕まってたんだ 父──フィリップ・ハロウズに」
少年「君の部屋に通ってるのがバレて・・・」
ローズ「え?」
少年「──っと、着いた」
  目的の場所に到着したようで、会話が中断される。
少年「話はあとにしよう」
少年「すぐに戻ってくるからここで少し待ってて」
ローズ「あ、ちょっと!」
  少年は一人で裏口から建物の中に入り、
  約束通り、ものの二分ほどで戻ってくると、
少年「お待たせ いこう、ローズ」
  私の手を優しく引き、建物の中に引き入れる。

〇簡素な部屋
  そこは宿屋だった。
  私は手を引かれるまま、二階の部屋に入る。
女「いらっしゃい」
ローズ(だ、誰?)
女「おお! この子が例のあんたのカノジョ?」
女「なかなかかわいいじゃん!」
少年「うるさいな 無駄口叩いてるヒマないだろ・・・」
女「で、今から手はず通りにやればいいの?」
少年「ああ 予定より少し遅れたけど・・・」
女「じゃ、お嬢ちゃんはちょっと準備が必要ね」
女「男は出てった、出てった!」
少年「はいはい・・・」
  少年が部屋を出ていく。
女「お嬢ちゃんはこの服に着替えてね そのカッコじゃ目立ちすぎるから」
ローズ「え?」
女「え? じゃないよ もたもたしてるヒマないんだ さっさと着替えな」
ローズ「は、はい」
  女の人には有無を言わせない雰囲気があって、私はわけもわからないまま渡された衣服に着替える。
女「うん、サイズはよさそうね」
女「最後にウィッグを被って・・・」
女「──これでよし!」
ローズ「な、なんですか? この格好」
女「変装だよ うん、これならギリギリ男の子に見えるね」
女「ヴィクター! もう入ってきていいよ」
  少年が戻ってくる。
  彼も着替えていたようだ。
ローズ「あなた・・・ヴィクターっていうの?」
ヴィクター「うん そういえばまだ名乗ってなかったね」
女「さて」
女「あんたたちには今からこの都を出て、森に向かってもらうよ」
女「いいね?」
ローズ「森って、街の外に広がってるあの森ですか?」
女「他に何があんのさ」
  どうやらこの人は、私たちをこの都から逃がそうとしてくれているらしい。
ローズ(たしかに森に逃げれば捕まる可能性はぐんと下がるわ・・・)
ローズ(でも・・・)
ローズ「この時間じゃ市門が開いてないんじゃ・・・」
  この街──王都イルヴレアは周囲をぐるりと灰色の市壁に囲まれている。
  その門は普通、夜は開かない。
ローズ「なのにどうやって・・・」
  ドンドン!
  そのとき、宿の正面入り口の方から、激しく扉を叩く音が聞こえた。

〇中世の街並み
兵士「ハロウズ家の使いのものだ 屋敷から逃げたある人物を探している」
兵士「この辺りに潜んでいる可能性があるから 中を確認させてもらうぞ」

〇簡素な部屋
ローズ(どうしよう! 追手が・・・!)
  第3話「すべてから逃げ出して」終
  
  第4話に続く

次のエピソード:第4話「外の世界へ」

コメント

  • 長年閉じ込められていたローズが真っ先に自分の家に戻ってきたシーンは切なかったです
    無事に逃げ切れるといいですね

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