嘘と魔法と銀行員

まと

2デッドストック後編(脚本)

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まと

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〇空
  一年前──

〇ダイニング(食事なし)
カンナ社長「パパ、何? 大事な話って」
社長の父「呼び出して悪いな。 ライブ配信は良かったのか?」
カンナ社長「パパのためだもん。 早めに切り上げてきちゃった」
社長の父「実は、会社を売ることにした」
社長の父「黒川さんが頑張ってくれてね、 良い値段がついたんだ」
カンナ社長「M&Aってこと? あんまり良いイメージないけど・・・」
社長の父「ドラマの観すぎだよ。 買ってくれるのは、とても良い会社なんだ」
カンナ社長「あたしたちは、どうなっちゃうの?」
社長の父「カンナは好きなことをしなさい。 会社を売ったお金でね」
社長の父「これは前祝いだ」
カンナ社長「飛行機のチケット・・・」
社長の父「オープンジョーだ。 全世界どこでも乗り降り自由だよ」
社長の父「他人の目を気にせず、 好きなところに行けるよ」
カンナ社長「ありがとう! ねえ、どこ行く?」
「すみませんね」
???「パパはお留守番です」

〇ダイニング(食事なし)
カンナ社長「え、誰・・・」
社長の父「・・・彼は香月さん。 経営課題を専門に扱うコンサルタントだ」
香月「八菱銀行系列のコンサルですよ。 仕事も彼女も、いつでも募集中です」
社長の父「・・・約束の日は、明日のはずだ」
香月「ええ。でも、海外に高跳びでもされたら 困るなと思いまして」
香月「追いかけるのに、 余計なエネルギー使いますしね」
香月「だから今、 支払ってもらおうと思ったんです」
香月「期日前返済は、 銀行では嫌がられますが・・・」
香月「俺はもう銀行員じゃない」
香月「・・・よし、 これだけ残ってくれたな」
カンナ社長「ちょっと、どういうこと!? パパはどこに行ったの?」
香月「あぁ。変に恨まれても困るから、 一応説明しておきますね」
香月「パパは俺とコンサル契約を結んでました。 それで、この銃を貸していたんです」
香月「ただの銃じゃありません。 ヒトをアメにできる銃です」
カンナ社長「アメ? そんなもの、 工場でいくらでも作れるじゃない」
香月「俺たちの言う『アメ』は、それとは違う。 記憶とエネルギーの塊のことを言うんです」
香月「この銃で生きている人間を撃つと、 記憶とエネルギーの塊、 通称アメができるんですよ」
カンナ社長「記憶はなんとなく分かるけど、 エネルギーって・・・?」
香月「生命エネルギーですよ。 生きている人間なら、みんな持ってます」
香月「こう言えば分かりますか? 死にゆく人間に、アメを与えると生き返る」
カンナ社長「どうしてパパが、そんなものに 手を出さなきゃいけなかったの・・・」
香月「生き返らせたい誰かが、 いたんじゃないですか?」
カンナ社長「──!!」

〇病室

〇ダイニング(食事なし)
カンナ社長「パパは『カンナは世界一ラッキーだな! 奇跡的に息を吹き返したよ!』って・・・」
香月「『殺したいほど愛してる』と言いのけた ストーカーの犯人にヤられたのに?」
カンナ社長「じゃあ、 パパはあたしの為に何人も・・・」
香月「さあ。一人かもしれませんよ。 貴女を愛する若い人なら、一人で足りる」
香月「・・・俺は行きますね。 コンサル料はもらったし」
カンナ社長「ママ・・・」
カンナ社長「・・・待って」
カンナ社長「あたしと、契約しない?」

〇荒れた倉庫
カンナ社長「パパを生き返らせるために、 アメが必要だったわ」
カンナ社長「かつて、 死にかけたあたしを救ったようにね」
伊藤「ニュースで見ました。 やばい事件でしたね。 しかも、まだ捕まってないとか・・・」
カンナ社長「あの犯人みたいな変質者って、 たくさんいるみたい」
カンナ社長「色んな子からDMくるんだけど、 『もう死にたい』って子も多くて・・・」
伊藤「『死にたい』って言われたから アメにしようとしてたんですね」
伊藤「でも、どうして僕を撃ったんですか?」
カンナ社長「それは、香月さんに言われたの」
カンナ社長「『生きている人間を撃つと、  エネルギーと記憶がアメになる』」
カンナ社長「『若い人はエネルギーが多い。  幸せな人は味が良い』」
カンナ社長「『自殺死亡者の味を、  パパは舐め続けたいか?』って」
伊藤「僕が悩みがなさそうで、 若かったから、ってことっすか・・・」
黒川「あのアメで オヤジさんは生き返る予定ってわけか」
黒川「だから表向きにも 死んだことにしていないんだな」
カンナ社長「ええ。消えたことにしてるの。 遺体は香月さんが預かってる、って」
カンナ社長「パパは寿命の大半をコンサルに支払った。 残りの命で、アメを残してくれたの」
カンナ社長「香月さんから受け取ったわ。 銃と一緒にね」
黒川「それでアメを作る、と・・・ おかしいと思わなかったのか?」
黒川「死んだ人間が生き返るわけない。 そもそもアメを食べれないだろ」
カンナ社長「あたしは彼の言葉を そのまま繰り返しただけよ」
黒川「一番おかしいのは 自殺死亡者の味はマズい、ってくだりだよ」
黒川「あんたも死ぬほど大変な目にあって、 悩みを聞く立場なら分かるだろ」
黒川「悩みのない人間なんて、いない。 いたとしたらボケてるか、 それか死んでるか、どちらかだ」
カンナ社長「銀行は、あたしを信用してないみたいね」
黒川「あんたも銀行に信用をなくして、 嘘つきのコンサルに走ってるしな」
伊藤「・・・」
伊藤「あれ?」

〇荒れた倉庫
伊藤「ここの貸出、 特約ついてるんですね」
伊藤「『第三者との契約を破棄した際は、 その限りではない・・・』」
黒川「オヤジさんがM&Aをする条件として、 既存の貸出につけた特約だよ」
黒川「カンナ社長が第三者、 つまりコンサルとの契約を破棄すれば 『取消』を取り消せるってことだ」
伊藤「そうしたら、また僕が アメになりません?」
黒川「ここの貸出は、 毎月決まった日に返済するタイプだ」
黒川「その場合、元に戻る日は最終返済日、 つまり最後に金を返した日に戻るんだよ」
黒川「最後に返済したのは、 先月の末だったから・・・」
カンナ社長「え・・・」
カンナ社長「じゃあ香月さんとの契約を破棄すれば、 パパも戻ってくるってこと?」
黒川「・・・良いのか?」
黒川「女経営者としてインフルエンサーになったのは、オヤジさんが死んだ後だ」
黒川「その前まで戻るってことは、 女経営者でもなくなるし、 ただのモデル崩れになるってことだぞ」
カンナ社長「ばかにしないで」
カンナ社長「コンサル契約なんて、 ソッコー破棄してやるわ」
黒川「おそらく奴は、 コンサル料金を請求してくる」
黒川「生命エネルギーを取られるぞ。 今みたいに若くはいられない」
カンナ社長「ふん。良いのよ。 シミがあって、シワがあっても」
カンナ社長「フォロワーが減っても、 信じてくれる人がいれば!」

〇タクシーの後部座席
伊藤「良かったですね。カンナ社長、 オヤジさんと再会できそうで」
伊藤「でも、オヤジさんが死んでないって、 どうして分かったんですか?」
黒川「契約者が死んだら、 あの契約書も失効するんだ」
黒川「効力を発揮した、ってことは まだ生きてるんだろうと踏んだのさ」
伊藤「じゃあ、あのコンサルはどうして カンナ社長にアメを作らせるように 仕向けたんですかね?」
黒川「必要だったんだろう。 カンナ社長は父親のためなら アメを作るだろうし」
黒川「仮に全てがバレても、 インフルエンサーになる前には戻らないと 踏んでいたんじゃないのかな」
伊藤「カンナ社長のことバカにしすぎです。 経営は無理だろうとか、 父親より自分を最優先するだろうとか」
黒川「美人に対しては、みんな思うんだよ。 どこかに悪いところがあって欲しい、って」
黒川「私も、彼女は 自己承認欲求の塊だと思ってたしな」
黒川「・・・そろそろ駅か。 私は課長の送別会に行くから」
黒川「もし降りるなら、 今がラストチャンスだぞ」
伊藤「俺も行きます。 なんか気分変わりました」
伊藤「・・・僕、気付いたんですよね」
伊藤「若くて幸せな味より、 たっぷり罪の味を含んでる方が 絶対美味しいだろ、って」
黒川「それって、どういう・・・」
伊藤「やっぱり年上で、 色々と経験を積んだ女性が良いなって!」
黒川「──!!」
伊藤「あ、こう言った方が分かりやすいか」
伊藤「コンビニで何年も売られてる、 老舗企業のアーモンドチョコの方が、」
伊藤「デパ地下にある、キラキラ新商品の おしゃれなチョコより美味いっす!」
黒川「・・・伊藤、てめえ」

〇空
伊藤「え。何か僕、悪いこと言いました? クロさん、やめてください──!!」

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