死神珍奇譚

射貫 心蔵

家族ごっこの死神(脚本)

死神珍奇譚

射貫 心蔵

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〇一軒家
  ご飯よーッ!!

〇本棚のある部屋
  全国のグータラな姉を持つ弟諸君
  おはようございます
  戦いの時間がやってまいりました
  姉ちゃんを叩き起こす!

〇部屋の前
  可愛い妹や幼馴染みを起こすのなら
  男冥利に尽きましょうが──
  姉となると話は別です

〇魔物の巣窟
  このビジュアルから何を連想致しましょう?
  屈強・剛健・傑物・・・・・・
  少なくとも純情・可憐・乙女などの
  しとやかワードは出ますまい
  起こしたら「うるせぇ起こすな!」と息巻き
  放っといたら「起こせバカ!!」と殴りかかる
  筋肉と理不尽、ここに極まれり

〇部屋の扉
  せめて人並みの容姿ならキュンとするのに

〇女の子の一人部屋
コウ「起きろコラ、メシの時間だ!!」
姉ちゃん「う~ん」
姉ちゃん「おはよ、コウちゃん」
姉ちゃん「コウちゃん?」
コウ「あのォ、どちら様でしょう?」
姉ちゃん「ふぇ?」
姉ちゃん「やだなぁ、お姉ちゃんですよぉ」
コウ「お姉ちゃん?」

〇ソーダ
  これが──
  これに!?

〇女の子の一人部屋
コウ「ないないないない!!」

〇おしゃれなリビングダイニング
  父さん、母さん!
コウ「知らない女が姉ちゃんを名乗ってる!」
姉ちゃん「何言ってるの? コウちゃんったらァ」
お父さん「おはよう、二人とも」
お母さん「バカなこと言ってないで さっさと食べちまいな!」
コウ「ちょっとまて! なんとも思わないのか?」
コウ「あのゴリラがこんなになる訳ないだろう!?」
姉ちゃん「ふえーん!」
姉ちゃん「ヒドイよコウちゃん、ゴリラだなんて!」
お父さん「コウ、お姉ちゃんを泣かすんじゃない!」
お父さん「はよ謝らんかい!」
コウ「わ、悪かったよ ごめんな・・・・・・姉ちゃん」
姉ちゃん「エヘヘ、わかればいいのです!」
お母さん「お姉ちゃんも 悪口位で泣くんじゃありません」
姉ちゃん「は~い!」
  両親は変化に気づいていませんでした

〇散らばる写真
  アルバムで過去の写真を漁りますと──
  見事なまでにすり変わっていました

〇一軒家
  元の姉は
  完全に忘れ去られてしまったのでしょうか?

〇通学路
コウ「アカン、遅刻する」
姉ちゃん「呑気にアルバムなんか見てるからよ!」
コウ(アンタが偽物だって証拠を掴みたかったのさ)
姉ちゃん「コウちゃん、前! 前!」
コウ「へ?」
ヒミコ「あわわわ、遅刻なのだぁ~!」
コウ「チョベリバ!」
「いっつー!」
姉ちゃん「ちょ、大丈夫?」
ヒミコ「痛いよぉ~」
  コレは僕の幼馴染みで
  クラスメートの明石家ヒミコ(17)
  明石家神社の一人娘で
  祭事の折、巫女さんを務めます
コウ「あのなぁ」
コウ「毎朝ヘッドバットをかますのはやめろ この人間魚雷!」
ヒミコ「コーチンが立ちはだかるのが悪いのよさ!!」
姉ちゃん「二人とも、急がないと遅刻するよ?」
ヒミコ「ほよ?」
姉ちゃん「なぁに?」
  じぃ~
姉ちゃん「え、何? なんかついてる!?」
ヒミコ「・・・・・・」
ヒミコ「なんでもないよ!」
コウ「・・・・・・」
ヒミコ「それよか グズグズしてると本当に遅刻するのだ!」
コウ「そうだな、ダッシュで行くぜ!」

〇学校脇の道

〇名門の学校

〇学校の昇降口
「セ~~~フ!!!」
ヒミコ「まだ油断は禁物 勝負は教室の席に座るまでなのだ」
姉ちゃん「二人とも、トイレに行きたくなったら 素直に手を上げるんですよ?」
「わーっとるわ、子供か!」
姉ちゃん「ぬははは、バハハ~イ!」
ヒミコ「あの姉ちゃん、少々過保護とちゃう?」
コウ「皆の視線が痛いぜ」

〇学校の廊下
  キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪

〇教室
  あちゃー、チャイムが鳴っちゃった!
  ねぇコーチン、先生いるかな?
  いねぇだろ
  あのヒゲ時間にルーズだから
  今ごろ職員室を出たとこ──
コウ「ろ・・・・・・」
先生「おはよう」
「お、おはようございます!」
先生「遅刻十連おめでとう! 褒美に一週間の掃除当番を進呈する!!」

〇名門の学校

〇名門の学校

〇教室
コウ「そらそらそらそら!!」
ヒミコ「ていていていてい!!」
コウ「よーし、こんなモンだろう」
ヒミコ「ラーメン食べて帰ろう!」
コウ「その前に、ちょっと話をしたい 最後まで笑わずに聞いてくれるか?」
ヒミコ「自信ないけど言ってみるのだ」
コウ「姉ちゃんのことなんだが──」
コウ「アレは本当に姉ちゃんだろうか?」
ヒミコ「ぷ!」
コウ「まてまて、まだ早い」

〇魔物の巣窟
コウ「前は間違いなくこうだったんだ」
ヒミコ「なんなのだ、このイメージ映像?」
コウ「それが一夜の内に──」

〇花模様2
  こんなになっちまった

〇教室
コウ「人間、こうも極端に変わるものだろうか?」
コウ「家族はこの変化に一切気づいてない」
コウ「まるではじめから あの女が姉ちゃんだったみたいに」
コウ「お前は気づいたか?」
ヒミコ「ノーコメント」
コウ「ズルい感想だな」
ヒミコ「異変に気づいてないのは家族だけ?」
コウ「いや」
コウ「他にも気づいた人がいると思い 昼休みにキャツの教室を張ったんだが──」

〇教室の教壇
  上手く溶け込んだモンだ

〇教室
コウ「俺も自信が揺らいできたよ」
コウ「ゴツイ姉貴なんかはじめからいなくて あの美人こそがモノホンなんじゃないかと」
ヒミコ「・・・・・・」
ヒミコ「コーチンはどっちがいいのだ? 美人か、ゴリラか」
コウ「そりゃあ美人の方がいいさ! かわいくて優しくて 踏んだり蹴ったりしないもんな」
コウ「でも、ゴリラは家族だ」
コウ「ジャイアンだのブタゴリラだの ゴジラだのカバオだの言ってきたが──」
コウ「いなくなるのは寂しいよ」
ヒミコ「それでこそコーチンなのだ!」
ヒミコ「コーチンの言う通り 美人の姉ちゃんはゴッツイ姉ちゃんに とって変わろうとしている」
ヒミコ「もし本物の姉ちゃんを助けたいのなら──」
ヒミコ「コレを使うのだ!」
ヒミコ「今夜寝るとき コレを枕の下に敷くと真実が見えるよ」
コウ「真実って?」
ヒミコ「コーチンの本来の居場所 ゴッツイ姉ちゃんのいる世界」
コウ「SF物でよく見かける並行世界って奴か」
ヒミコ「似てるけどちがうのだ」
ヒミコ「胡蝶の夢だよコーチン」
コウ「胡蝶の夢?」

〇蝶
  夢の中で、蝶々がヒラヒラ舞っているのだ
  果たして自分は蝶々の夢を見ているのか──
  それとも蝶々の方が本物で
  自分は蝶々の見ている夢に過ぎぬのだろうか

〇教室
コウ「『うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと』 に似てるな、江戸川乱歩の」
ヒミコ「我々が現実だと思っているこの世界も 誰かが見ている夢の一部に過ぎない かもしれないのだ」
コウ「今日はずいぶん文学的だな」
ヒミコ「たまには知的な一面も見せないとね!」

〇学校の屋上
  一方その頃、渦中の人は──
名もなきクラスメート「一目惚れしました! 付き合って下さい!!」
名もなきクラスメート「ゴ、ゴメン クラスメートに一目惚れだなんて失礼だよね」
名もなきクラスメート「自分でもおかしいと思う 昨日まで全く意識しなかったのに 今朝教室で顔を合わせた瞬間、ドキンと」
名もなきクラスメート「まるでその、魔法にでもかかったみたいだ 一目惚れの魔法に」
名もなきクラスメート「頼むよ、友達からでいいから」
姉ちゃん「・・・・・・」
姉ちゃん「・・・・・・」
姉ちゃん「確かにアナタは魔法にかかってる」
姉ちゃん「私を好きになるハズないもの」
名もなきクラスメート「僕は本気だよ、君と仲良くなりたいんだ!」
姉ちゃん「いいえ」
姉ちゃん「私の正体を知ったら、きっと嫌いになるわ」
名もなきクラスメート「嫌いになんかなるもんか! 付き合うと言わなきゃ僕は自殺する!!」
姉ちゃん「軽々しく死ぬと言うのはやめなさい」
姉ちゃん「家族が悲しみます」
名もなきクラスメート「家族だって? 君に何がわかる!?」
姉ちゃん「わかるわ、よーく」
姉ちゃん「四日前 ペットのリスが亡くなりましたね」
姉ちゃん「名前はチッチ 家族が家に帰らぬ中、唯一の心の拠り所」
名もなきクラスメート「なぜそれを?」
姉ちゃん「事情通なもので」
姉ちゃん「リスが死に 孤独に陥ったアナタは彼女の代役を探した」
姉ちゃん「それが私」
名もなきクラスメート「君、エスパーか何か?」
姉ちゃん「当たらずしも遠からずってトコね」
姉ちゃん「家に帰って軒下を調べてごらんなさい チッチの遺した新しい命が ミィミィ鳴いているわ」
名もなきクラスメート「ホントかい?」
姉ちゃん「早く行かないと、私が連れてっちゃうから」
名もなきクラスメート「わかったよ、ありがとう!」
名もなきクラスメート「それと、軽はずみに告白してゴメン だけど僕は、本当に君を──」
姉ちゃん「いいのよ、忘れましょう」
姉ちゃん(青春、か)

〇一軒家

〇一軒家

〇部屋の前
姉ちゃん「おやすみコウちゃん!」
コウ「おやすみ」
姉ちゃん「ねぇ」
姉ちゃん「私、お姉ちゃんだった?」
コウ(あぁ、もうかわいいなチクショウ!)
コウ(お姉ちゃんだよ! ホントのお姉ちゃんよりお姉ちゃんだよ!!)
コウ(むしろ赤の他人でいて欲しかったよ!!!)
コウ(でもここで肯定したら、アイツは──)
コウ「・・・・・・」
コウ「さぁな」
姉ちゃん「・・・・・・」

〇本棚のある部屋
コウ「えっと、枕の下にコイツを──」
コウ(姉ちゃん、無事でいてくれよ)

〇一軒家

〇一軒家

〇黒
姉ちゃん「起きろコウ! 起きるんだ!!」
死神「死にたくなければ起きなさい!!」

〇病室(椅子無し)
コウ「うわぁぁああああ!!」
お父さん「コウ、目が覚めたか」
コウ「父さん」
お母さん「よかった、私はてっきりお前まで──」
コウ「母さん」
コウ「俺は一体・・・・・・」
お父さん「覚えてないか? 川で溺れたんだよ」
コウ「川で?」
コウ「・・・・・・あっ!」

〇川に架かる橋
  いつだったか
  学校帰り、姉ちゃんと一緒になった
  悪態をつきつつ川を眺めると──

〇水たまり
  犬が溺れていた

〇川に架かる橋
姉ちゃん「まってろ、いま助けるぞ!」
コウ「おい、お前泳げねーだろ!?」

〇水たまり
姉ちゃん「助けろコウ! 死んじまうよぉー!!」

〇川に架かる橋
コウ「ったく世話の焼ける!」

〇水の中
  姉ちゃんは助かりたい一心で
  俺に飛び乗り、首にしがみついた!
コウ「ぐ、ぐるじい・・・・・・じぬ」
コウ「ガクッ」
姉ちゃん「コウ!」
姉ちゃん「うぐ、ゴボゴボゴボ──」
姉ちゃん「ガクッ」
名犬ロンリー「ブァヴ!」

〇病室(椅子無し)
お父さん「お前たちは気を失い ドンブラコ、ドンブラコと川を下った」
お父さん「その間犬は懸命に吠え続け 岸辺の人々に存在を知らしめた」
お父さん「そこからはわかるな? 善意ある方の伝達で救助隊が駆けつけたのだ」
お父さん「犬に感謝しろよ? 命の恩人だ」
コウ(なんてこった 助けるつもりが、逆に助けられたのか)
コウ「姉ちゃんはどうした?」
「・・・・・・」
  二人の沈黙が
  答えを雄弁に物語っていました
コウ「嘘だろ、殺しても死なねぇ女傑が」
コウ「アンタが死んだら 俺は誰とケンカすりゃいいんだ?」
コウ「バカ野郎!」
姉ちゃん「ケンカじゃない、スキンシップだ」
姉ちゃん「私はお前に 姉らしいことを何一つしてやれなかった」
姉ちゃん「許せ」
死神「死せる魂は一つのみ コウくんになるかお姉さんになるか 私にも見当がつきませんでした」
死神「お姉さんは「私の魂を持っていけ!」と 胸ぐらをつかみ恫喝、もとい進言し 躊躇なく命を捧げたのです」
死神「背中合わせの姉弟愛 私なぞ足元にも及びません」
姉ちゃん「私にできる唯一の孝行だ、長生きせぇよ」
死神「偽者でも お姉ちゃんになれて楽しかった」
死神「ありがとう、コウちゃん」

〇病院の入口
  僕は病院で一夜を過ごし、翌日退院しました

〇朝日
  それから更に幾日か過ぎ──

〇川沿いの道
ヒミコ「お帰りコーチン」
コウ「ただいま」
コウ「そうそう、これ返すよ」
ヒミコ「私のお札、どこでコレを?」
コウ「病室の枕にはさまってた 夢の中でヒミコにもらったんだ」
ヒミコ「不思議な夢もあったものなのだ」
コウ「案外夢じゃないのかも」
コウ「俺は常々こう願っていた 《もっと可愛い姉貴が欲しい》」
コウ「願いは叶えられた、夢の中で」
コウ「美人で優しい理想の姉貴 彼女がいれば、ブスは用済みだ」
コウ「結果当人は消失し、亡くなった」
コウ「夢が現実を浸蝕したんだ」
コウ「俺は姉ちゃんが消えてなくなるのを 望んでいたのかもしれない」
ヒミコ「それは違うのだ」
ヒミコ「もし本当に邪魔者だと思っていたら コーチンはコッチに戻ってこれなかった」
ヒミコ「美人の姉ちゃんを現実として受け入れ 永久にあちらの住人になっていたのだ」
ヒミコ「胡蝶の夢だよコーチン」
コウ「お前、夢の中でもそんなこと言ってたな」
ヒミコ「こうは考えられない? コーチンが見た夢は、件の女の妄想だった」

〇雲と星
  別世界の住人だから
  誰からも名前を覚えてもらえず
  存在すら認知されない
  孤独なのだ、寂しいのだ
  彼女は思った
???(家族ってどんなだろう?)
  普段は頼りないけど、やる時はやるお父さん
  強気なようでいて、涙もろいお母さん
  生意気だけど、本当はお姉ちゃん想いの弟
???(そんな家族がいたら、素敵だろうなぁ)

〇川沿いの道
ヒミコ「そんな彼女の念波が 生死をさまようコーチンに奇怪な夢を見せた」
ヒミコ「無線が怪電波を傍受するようにね」
コウ「件の女は何者なんだろう?」
ヒミコ「知る必要ないのだ 人間、知らない方がいいこともある」
コウ「・・・・・・」

〇時計
  彼女は思春期の揺らぎが見せた
  幻だったのでしょうか?
  僕にはもう、知る由もありません

コメント

  • 全16話、完結お疲れ様でした。
    今回は最終話らしく、死神さんのエゴが見られる回でしたね。それでいて、自身の立ち位置を崩さない絶妙な加減で。彼女のことをもっと知りたくなりますが、詳しく知らないほうがまた彼女らしくあるのかと。読み応えのあるオムニバス、ありがとうございました。

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