ハッピーエンドは嫌いだから

烏川 ハル

ハッピーエンドは嫌いだから(脚本)

ハッピーエンドは嫌いだから

烏川 ハル

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〇居酒屋の座敷席
  とある小説投稿サイトのオフ会にて。
  酒が入った拍子に、ついつい俺は、本音を漏らしてしまった。
俺「大きな声では言えないけど・・・」
俺「実は俺、恋愛小説のハッピーエンドって嫌いでね」
  隣に座っていた女性――Sさん――の表情が曇って、せっかくの美貌が少しだけ崩れる。
  ああ、やっちまった・・・。
  大きく後悔する俺。
  彼女の「物語の主人公とヒロインは、絶対に幸せに結ばれて終わるべき!」という主義主張は、作品に表れていたのに。
Sさん「・・・」
  Sさんがその不満を口にする前に、反対隣から声が聞こえてきた。
???「どうしてです?」
  これは助け舟になる。
  そう思った俺は、そちらに振り返った。首だけでなく、体ごと全体で。
  Sさんのような典型的な美人とは違って、十人並みの器量だ。
  普段は化粧なんてしないけれど、せっかくのオフ会なので、頑張って整えてきました・・・という感じだ。
  文句を言いたそうなSさんを見ているより、こちらの相手をする方が居心地よいはず。
俺「ああ、だって・・・」
俺「恋愛もののハッピーエンドって、なんか単純なやつが多くない?」
???「単純・・・ですか?」
俺「ご都合主義というか、とってつけたような感じというか・・・」
俺「途中までそんな雰囲気まるでなかったのに、最後の最後で強引にハッピーにさせてる感じが・・・」
Sさん「その雰囲気の落差にこそ、物語としてのインパクトやカタルシスが・・・」
  後ろからSさんの声が聞こえてくるが、バッサリ無視。
  俺の背中には、耳は存在しないのだ。
  一方、正面の女性は、パッと表情を明るくした。
???「ああ、それならわかります!」
???「たとえ恋愛ものでも、唐突なのはダメですよね」
???「物語なんだから、ちゃんと伏線がないと・・・」
???「そう言いたいのですね?」
俺「そうそう、そういうこと」
???「例えば、推理小説で意外な犯人が出てきても、手がかり不十分で説得力が足りない場合、逆にシラケてしまう・・・」
???「それと同じですね!」
俺「そうそう、興が醒めるよね」
  彼女の言葉を言い換えて、適当に頷いておく。
  この人の作品を読んだことはないのだが、ミステリを書く人なのだろうか?
  恋愛ものとミステリとでは方向性が違うから、重ねて考えるのは少し変な気もするが・・・。
???「例えば、異世界転生もので主人公が強いと爽快感あるけど、あまりに無双が続いたら『また同じパターン?』と、呆れたり飽きたり」
???「それと同じですね!」
俺「そうそう、食傷気味というかウンザリしちゃうよね」
  やはり頷く俺。
  今度は例え話そのものがピント外れな気もするが、「恋愛小説のハッピーエンドも単純にパターン化している」と言いたいのだろう。
  この人、ミステリだけでなく、最近流行の異世界転生ものも書くのだろうか?
  そういう作品は俺から見ると、いわゆる『チート無双』という言葉に単調なイメージがあって、読まず嫌いだったのだが・・・。
???「ああ、良かった!」
???「私と同じ考えの人、同じサイトにいたんですね!」
???「作品を読んでいても感想欄のコメントを眺めていても、なかなか心から賛同できるのが見つからなくて・・・」
???「今まで、ちょっと寂しかったんです!」
  彼女も少し酔っているらしく、嬉しそうに俺と握手すると、握ったままブンブン振り始めた。
俺「そうそう、俺の方こそ嬉しいよ!」
俺「しかも隣に座った人が、偶然そうだったなんて!」
  今度は『適当に頷く』ではなく、かなり本心からの言葉を口にする。
  この人と俺は、作品の趣味嗜好が結構一致するかもしれない。
  彼女の作品ならば、ミステリでも異世界転生ものでも、それこそ恋愛ものでも、心から楽しめそうだ。
  早速、帰ったら彼女の作品を読んでみよう。
  そのためには、彼女の名前を聞いておかないと・・・。
俺「ところで、ごめん。名前、なんだっけ?」
俺「最初の自己紹介で、聞いたはずだったけど・・・」
???「ああ、そうですよね」
???「ああいう自己紹介って、まだ個々の印象も薄いうちに名前だけ一気にたくさん聞かされるから、覚えきれませんよね」
???「えーっと、私の名前は・・・」

〇結婚式場のレストラン
「・・・というのが、二人の馴れ初めでした」
  出会いのエピソードを披露宴で語る俺たちに対して、会場からツッコミが返ってくる。
「お前ら自身がハッピーエンドじゃねーか!」
  (おわり)

コメント

  • ハッピーエンド好きなんですが、たしかに最近はいつの間にか好かれてたり、伏線がなかったり、そういった感じのが多いですね。
    シチュエーションが良ければ、それはそれで有りな感じで楽しく読んでますが!
    ラストすごく良かったです。みんなのツッコミ!

  • 私自身はハッピーエンドものも好きですが、主人公の意見にも共感してしまいますね。メイン男女が確実に結ばれるお約束って、いわば水戸黄門ドラマ(事件→大立ち回り→印籠→一件落着)のような安定感ですよね。その様式美を追求するのか、その枠に嵌らずに描いていくのか、オフ会あたりで盛り上がりそうなネタですねw

  • 恋愛ものって映画でも小説でも、女性と男性で好みも別れるし、どちらかというと女性に人気のあるものにかぎって男性には・・という傾向ありますよね。かくいう私も、やっぱりハッピーエンドは幸せな気持ちを分けてもらえる気がして好きです。

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