エピソード1(脚本)
〇海底都市
静かだ。
都市が沈む湖に俺は潜っていた。
gloooom「(さっき逃げてきた奴がいるはず)」
潜水モジュールを身につけたら、三分間潜り続ける事が可能だ。しかし時間が切れたら呼吸困難で必ず姿を見せるはずだ。
gloooom「(そろそろ三分過ぎたぞ)」
gloooom「(来た!)」
俺は左腕を女に向かって構えた。loooov-e素粒子は左手の拳に貯まっていく。
gloooom「(いけっ!)」
gloooom「(外した!?)」
〇アマゾン川のほとり
DJ peach「ふぅ、危ない」
gloooom「待て!」
DJ peach「私、あなたに何かした?」
gloooom「してないけど、キルさせてもらう」
俺は改めて左腕を女に向かって構えた。
DJ peach「私、あなたのプリンセスになれるかもしれないじゃない?結構可愛いと思うんだけどな」
女は俺の肩に寄りかかってきた。
恋愛リアリティウォー。仮想世界を舞台に、100人のプレイヤーが自分のアバターを使って繰り広げるバトルロワイヤルゲームだ。
エリアに落ちているアイテムを取得し、プレイヤーを次々とキルしていく。最後に残った二人がカップルになれる。
リアルタイムで世界中に生配信され、ゲーム終了まではおよそ一週間くらいだ。
勝った二人はナイト&プリンセスと呼ばれ、このゲームを視聴している世界中の観客の投げ銭を独り占めできる。
ゲームが始まると、プレイヤーは同性のライバルや、好みではない異性のパートナー候補をキルしていく。
そのため、自分のパートナーが見つかるまでは同性のライバルをキルするのが定石だ。
しかし、俺は。
gloooom「俺のプリンセスはもう決まっている。だからあなたには申し訳ないがキルするだけだ」
DJ peach「もうプロミスしたの?」
俺はピンクゴールドに輝く左手の薬指を女に見せた。
DJ peach「あっそ!こりゃヤバい!」
女はブーストモジュールで空高く飛んだ。しかし俺は軌道を予測して照準を合わせた。
gloooom「いけるっ!」
RainbowLoad「待てっ!」
突然、俺はタックルされた。
RainbowLoad「すまんな」
男は倒れた俺の頭を狙って、拳銃の形を模擬した指をこちらに向けた。
gloooom「しまった!」
RainbowLoad「1キル、いただき!」
【RainbowLoadはキルされました】
Azu535「危なかったね」
gloooom「Azu535!助かった!」
Azu535「gloooomが集めた武器、あっちの家に集めておいたよ」
gloooom「一旦、待避するか」
〇平屋の一戸建て
バトルステージのフォーシーズンアイランドは四季に分かれた4つのエリアがある。このサマーエリアは日本がベースである。
Azu535「居間にまとめておいたから」
gloooom「ありがとう」
Azu535「向こうにもう一つトレジャーボックスあったから、開けてくるよ」
gloooom「気をつけてね」
Azu535「恋人同士だったら、「いってきます、愛してるよ」とか言うのかな?」
Azu535は輝いている左手薬を俺に見せた。
Azu535「いってきます」
いってきますの後、聞こえるか聞こえないかの声でAzu535は何か呟いた。
〇実家の居間
gloooom「だいぶ武器も溜まったな。これで戦いも有利に進められるはず」
俺は左腕に融合させたバズーカを取り出し、右手に拳銃を融合させた。
俺がこのゲームに参加した理由は千紗がこのゲームに参加すると知ったからだ。
千紗、俺の初恋。
小学校で一緒だったが、中学校で離れてから会っていなかった。
しかし、あるニュースで千紗の名前を見てしまった。
〇SNSの画面
「あの高校のイジメで自殺したニュース、犯人知ってるんだけど」
「え?知り合い?」
「自殺まで追い込むなんて悪魔だろ。晒せ晒せ」
「紅青葉高校の 三枝田 千紗」
「女子高生の皮を被った悪魔な件 ○枝田 千紗 三○田 千紗 三枝○ 千紗 三枝田 ○紗 三枝田 千○」
「皆、証拠が無いんだから 三枝田千紗が犯人とか 書き込んじゃダメ!訴えられるよ! 三枝田千紗 三枝田千紗 は無実!」
「へー、こんな所に三枝田って表札があるんだ」
「犀薔薇大学経済学部三年生 三枝田千紗の兄さんは なんで妹を止められなかったんですか?」
「三枝田千紗の父親は大学病院の医師 母親は幼稚園の先生 恵まれた人生リスペクト!」
三枝田千紗。珍しい名字だから彼女に間違いない。俺は絶対に信じられなかった。彼女がイジメなんかするはずがない。
誹謗中傷は瞬く間に広まった。家族全員で引っ越した事もネット情報で知った。
俺は信じていた。あの千紗がイジメなんかするはずがない。
〇実家の居間
絶対に千紗はそんな事をしない。本人から直接それを聞きたい。俺が参加したのは、それだけの理由だった。
まさか開始早々に会えるとは。
〇クリスマスツリーのある広場
Azu535「きゃぁ、裸?」
gloooom「装備が見つからなくて」
Azu535は俺に指銃を向けた。
Azu535「キモイからキルしていい?」
gloooom「ちょ、ちょっと待って。もう2キルされて、最後なんです。彼氏に立候補しますから」
Azu535「アピールポイントは?」
gloooom「恋人をむっちゃ大事にします」
Azu535「本当?」
gloooom「とりあえずのお供ペット扱いでいいですから。きびだんごいらずの犬猿雉です!ワンワン!」
Azu535「面白い人ね」
Azu535「はじめまして、Azu535です。あなたは?」
gloooom「gloooomです。あ、あまり体は見ないで・・・」
Azu535「ふふ、かわいい」
Azu535「これ、着る?」
gloooom「似合っちゃうけど大丈夫かなぁ」
Azu535「私と一緒にいきませんか?」
gloooom「俺でいいんですか?」
Azu535「服着てくれたら、考えてもいいけど。これ着てみて」
gloooom「何これ?」
Azu535「似合うじゃない!いこう、忍者さん。私を守って!」
〇イルミネーションのある通り
Azu535「忍者似合ってたのに」
gloooom「あれ、意外と目立ちますよ」
Azu535「そっか」
gloooom「そうだ。なんでAzu535はこのゲームに参加したんですか?」
Azu535「私、過去の自分を捨てたくて。優勝したら人生変わるかもでしょ?」
gloooom「過去に何か?」
Azu535「ネットで誹謗中傷とか?昔の話だけどね」
俺はまさか、と思いAzu535に訪ねた。
gloooom「まさか、千紗?」
Azu535「え?なんで?」
gloooom「俺、大志。黒田大志。覚えてる?小学校の時の」
千紗を探しにきた俺だったが、まさか最初に千紗に会えるなんて。俺は思い出して欲しくて小学校の話をした。
Azu535「懐かしい、そうか。大志君だったんだ。偶然だね」
gloooom「偶然じゃ、ないよ」
Azu535「え?」
gloooom「応募一ヶ月前に、第一段の参加者発表されてた。そこで見たんだ。千紗の名前」
Azu535「私に、会いに来たって事?」
gloooom「こんなに早く会えるとは思ってなかったけど」
Azu535「嬉しい」
gloooom「小学校の時、イジメを助けてくれて嬉しかったんだ。それからずっと好きだ。もう28歳なのにな」
Azu535「大志君、プロミスしようか」
プロミスは恋人契約にあたり、ゲーム内においてパートナーの弾が当たってもキルされない。
gloooom「え?!」
Azu535「私も大志君の事、忘れた事なかった」
俺の左手薬指と、Azu535の薬指がピンクゴールドに輝き始めた。
こうして俺はAzu535とプロミスした。
〇実家の居間
武器をメンテナンスをしていたら、夕方になっていた。
gloooom「えっ!?銃声?!外か?!」
〇平屋の一戸建て
Azu535「待ってよ」
noone「やり直そう」
Azu535「今更?」
noone「もしくは、キルだ」
gloooom「Azu535!どうした?」
noone「はじめまして」
gloooom「誰?」
俺は男に右手拳銃で狙いをつけた。
noone「私をキルしたら、Azu535さんが悲しみますよ」
gloooom「どういう事だ?」
noone「Azu535との関係者です」
Azu535「あなたとはもう関係ない」
noone「昔の彼氏にそんな冷たい態度をとるなんて」
Azu535「鬱陶しいんだけど」
noone「やり直そう。俺が悪かった」
Azu535「時間は元に戻らないんだよ、ユージくん」
俺は、親しげな「ユージくん」という言い方にひっかかった。
gloooom「お前、やっぱどこかいけよ」
Azu535「待って。だったら私がやるから」
Azu535は刀が融合された右手を構えた。
noone「じゃあ選べよ。その男と俺と」
Azu535「簡単よ」
Azu535は目をつぶった。
Azu535「ごめんね」
gloooom「Azu535が謝る必要は」
俺はAzu535に斬られた。
体が少しずつ消えていく。俺は何かの間違いかと思い、Azu535の顔を見た。
gloooom「(笑顔?!)」
Azu535「行こう」
Azu535は俺に嘘をついていたという事か。何故見抜けなかったのか。
Azu535と男の左薬指が光っていた。
俺の薬指の光が消えてしまっていた事に気づかなかったのが敗因だ。
ただ
俺だって、簡単にキルされるわけにいかない。
【gloooomはキルされました】
ゲームなのだから、むしろ嘘や裏切りは当たり前だと思って挑まなければいけなかったかも。そもそもAzuが本当に千紗かどうかも怪しい。読切ではないので、これから二転三転して驚天動地のラストに着地してほしいなあ。
ゲームなど全くやらない私なのに、現実がゲームの中に投影されたようなストーリーに引き込まれました。主人公は、どこかで生き残っているのでは・・と淡い期待を持っています!
第一話だけで、ゲーム設定の紹介から主人公と千紗のキャラクターまで全て包括された内容ですね。衝撃のラストも含めて読切としても成立するくらい。そんな中、主人公の巻き返しがあるのか、続きも気になります。