いとしこいし

甘楽カラ

エピソード1(脚本)

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〇学校の校舎
小石川糸「あっ、村上君・・・」
村上君「・・・」
小石川糸「あのさ・・・。うん、え~と、あのぉ~」
村上君「なんか用か?」
小石川糸「え~と、え~と・・・。 村上君、元気?」
村上君「はあ? なんだそれ?」
小石川糸「あ、うん。 元気だといいなと思って」
村上君「・・・ほっとけよ」
小石川糸「村上君・・・」
恭子「ほっほ~、糸の好みはクラメンですか!」
小石川糸「えっ? ちがっ! そんなんじゃないって・・・クラメンって?」
恭子「暗くてイケてるメンズ」
小石川糸「だからそんなんじゃないって!」
恭子「まあまあそれはさておき・・・」
小石川糸「置くんだ、サテ!」
恭子「実は糸に頼みたいことがあって!」
小石川糸「またあ?」
恭子「最近、彼とうまくいってなくて。せっかく糸にくっつけてもらったのに、申し訳ない! ズレてきたんだよね、なんか」
小石川糸「しょうがないな~。オンキリキャラハラハラフタランパンツソワカ~」
  目を閉じて呪文を唱えた。見えて来たのは恭子と彼氏。二人の左手の小指には赤い糸が結ばれている。
小石川糸「う~ん、色・太さは申し分ないんだよね。ちょっとだけタイトにしておくよ」
恭子「ありがとう! 困ったときの糸頼み! サンキュ!」
  運命の相手とは小指と小指が赤い糸で結ばれているという伝説は有名だ。その運命の糸を『糸師』は見ることができる。
  私は代々続く糸師の家系に生まれついた。
小石川楽哉「なにぼ~っと突ったってるんだ?」
小石川糸「楽ニィ! それに哀ニィも!」
小石川楽哉「お前が哀ニィを連れて来いって言ったんだろ?」
小石川哀史「それで問題の子ってどこ?」
小石川糸「それが・・・。さっき隣を通ったその子になんて声をかければいいかわからなくて『元気?』って聞いたらプイっと帰っちゃった」
小石川楽哉「あははは。毎日教室で会ってるクラスメイトから元気かって聞かれたら、そりゃ~引くだろ」
小石川糸「ええ~? でもこういうときってなんて話しかければいいか本当にわからないんだもん」
小石川哀史「ラクもそんなに糸をからかうなよ。それで? 糸はその子の何がそんなに気になるんだ?」
小石川糸「うん・・・。その子、村上君って言うんだけど、左手の小指から赤い糸が出ていないんだよね。まったく、ちょろっとも!」
小石川楽哉「そりゃ~そういう人間だっているよ。一生運命の相手に出会えないヒトや、奥手でこれから生えて来るってことだってあるだろう?」
小石川哀史「生えるって、糸を植物みたいに言うな、ラクは」
小石川糸「でも私偶然見ちゃったんだ。いつも長袖のシャツで隠してるけど、腕や胸のあたりにいっぱい痣や傷がついているのを」
小石川哀史「虐待・・・されているのかな?」
小石川糸「そんな気が・・・。お父さんと二人暮らしって言ってたから相手はお父さんかなと思って。哀ニィなら、悲しみの糸、断てるでしょ?」
小石川哀史「そうだな。・・・糸は相変わらず優しいな」
  糸師には、私のように赤い糸が見える他にも、楽ニィみたいに楽しませる相手と楽しむヒトの青い糸が見える者・・・、
  哀ニィみたいに悲しませる相手と悲しむヒトを繋ぐ黒い糸が見える者もいる。糸師は、糸を緩めたり縮めたりのチューニングしたり、
  断ったり、他の人に繋ぎ直したりすることができるのだ
小石川哀史「まだ駅にいるかもしれないから、行ってみるか、その村上君を探しに」
小石川糸「うん!」

〇新橋駅前
小石川糸「あっ、あそこ!」
小石川哀史「あの子か・・・。なるほど、あの子の悲しみの糸はボロボロだな。色も黒じゃなくて色あせてネズミ色だし」
小石川糸「哀ニィなら村上君の悲しみの糸、断ち切ることができるでしょ!?」
小石川哀史「それが・・・。なんて言えばいいのかわからないけど、あまりにも悲しみが風化しすぎると、逆にヒトは哀しいと思わなくなるんだ」
小石川糸「じゃあ助けてあげられないの? 村上君を助けられないの?」
小石川楽哉「おおーい、噴気ニィを連れてきてやっとぞ!」
小石川噴気「おい、あの子、相当にヤバイぞ!」
小石川糸「ヤバイって?」
小石川噴気「たぶん親から日常的に虐待を受けてるっていう糸の予想は当たってる。彼の感情は悲しみを通り越して怒りに変わっている」
小石川噴気「それももう自分ではその感情を抑えきれないところまで来てる。このままじゃ・・・」
小石川糸「このままじゃなに?」
小石川噴気「あいつ殺すぞ、自分の父親を」
小石川糸「なんとか・・・なんとかできないの!? 噴ニィの力で怒りの糸を断ち切ってよ!」
小石川噴気「糸が・・・白色の怒りの糸がものすごく太い。それに色だ! 白というより、白銀だ! こんな凄まじい怒りを俺はみたことがない!」
小石川糸「切れるんだよね? 噴ニィには、村上君の怒りの糸、切ることができるんだよね!?」
小石川噴気「やってはみるがこれだけの太さになると・・・」
小石川噴気「仕方ない、やってはみるが。六根清浄!急!急!如!律!令~~~!」
村上君「う・・・」
村上君「うう・・・」
村上君「ふっ・・・」
  私にはこの三人の兄の上にもう一人、兄がいる。喜びの黄色い糸を司る喜ニィだ。
  ヒトの親指から小指までの五本の指は、それぞれの色の糸で別の誰かと結ばれている。喜び、怒り、悲しみ、楽しさ・・・
  喜怒哀楽の感情に恋をプラスした五本の糸。その糸を私たち糸師は自由自在に操ることができる。私はまだこのとき、
  この能力を与えた神の「意図」に気付かずにいた・・・

次のエピソード:エピソード2

コメント

  • 一般的に想像する糸と言えば運命の赤い糸ですよね。
    でもこの物語のように糸から色々な情報がわかるのも理屈として通ってますよね!すごい斬新な観点だと思いました!

  • 糸ちゃん可愛いですね♪その糸ちゃんに恋愛相談できる友達の恭子ちゃんは、糸ちゃんの理解者でもあり、もしかして最強!?( *´艸`)
    お兄ちゃん達かっこいいですね!
    村上君、怒りが治まって良かった。お父さんには運命の糸でお仕置とかして欲しいですけど、それで改心するような人ならいいな。
    続きが楽しみです❤

  • それぞれ専門が違う糸師が存在するというなら、誰でもが頼りたくなりますね。糸師たちの良い『意図』で、繋ぐべき縁を導いて、切るべき縁は断ち切ってほしいです。とても有意義なお話だと思います。

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