エピソード2(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
楠エリカ「エッヘヘ、宋人くんゲット♪」
藤堂ミキ「エリカちゃん、よく考えたの? 宋人くんはいい子だけれど」
楠エリカ「エリカさん、どこに行くんですか?」
楠エリカ「ううん、私もデートしたことないし、ミキちゃんにお任せしようかな」
藤堂ミキ「んもう、テキトーだなあ。 恋人なんだから、映画でも遊園地でもなんでも行けばいいじゃない」
楠エリカ「あ、じゃあ映画にしようよ! 私、「シン・怪獣のあとしまつ」が見たかったの!」
柊宗人「ええ? あれって評論家が酷評してるヤツなんじゃ・・・採点サイトでも『史上最悪でつまらないランキング一位』って」
藤堂ミキ「あ、エリカちゃんはそういうのなんにも気にしないから」
楠エリカ「さあさあ映画館よ」
街はずれの小さな映画館だ。
『抜刀マン、ビギニンズ』
『シン・大怪獣のあとしまつ』
『パリピ桓騎』
と人気作が並ぶ。
柊宗人「あ、『パリピ桓騎』は評判がいいです。中華の名将、桓騎の現代転生もの・・・」
楠エリカ「いいからいいから、じゃあ『シン・大怪獣のあとしまつ』を三枚」
藤堂ミキ「いえいえ、二枚でしょう? 初デートなのに、私が邪魔しちゃ悪いよ。二人でいってらっしゃい」
楠エリカ「さあさあ開演だよ」
そして、『シン・大怪獣のあとしまつ』は始まった。
柊宗人「(うーん、やっぱりチープな怪獣だなあ)」
明らかにツギハギのある怪獣。
しかし、何故か次の場面が気になる。
「うおお! 怪獣め、この消費税500%ビームを食らえ。一秒ごとに電気代100万円だ!」
「そこまでして、俺を倒して何になるウルトラよ。終わった後で、結局財政破綻で終わりだぞ?」
「かまわん、もはやこれは意地! ただ意地と世間体だけでお前を倒す、怪獣め!」
柊宗人「怪獣映画で『財政破綻』って・・・」
楠エリカ「アッハハハ、おもしろーい!」
柊宗人「そうか・・・この映画は怪獣映画になぞって、日本の政治経済を皮肉るメタファーなんだ。 コメディだけどシニカルな」
柊宗人「それが分からない評論家とユーチューバーから酷評されて・・・」
楠エリカ「あっ、終わったあ! やっぱり面白かったね! 宋人くん!」
柊宗人「僕・・・この映画の監督のファンだったんです。前作の『堺の中心で愛を売る』がすごく良かったので」
柊宗人「なのに、会ったこともない人たちの酷評を真に受けて、『つまらないのかな』みたいに思ってた・・・」
楠エリカ「けど、見たら面白かったね!」
柊宗人「・・・はい」
映画館から出て、通行人が歩いていく。
通行人A「結構、面白かったけど、感想ログで見ると酷評ねえ」
通行人A「よく分からないけど、偉い評論家が言ってるなら、駄目だったのかしら・・・?」
柊宗人「・・・僕もいつの間にか、あの人みたいになってた・・・映画ファンなのに」
楠エリカ「宋人くん、どうしたの?」
柊宗人「エリカさんは、僕にこれを気づかせようとしたんですか・・・?」
楠エリカ「ええ?」
柊宗人「僕が・・・他の人を気にしすぎているってことを気づかせるために?」
楠エリカ「えええ? 私、そんな難しいこと考え付かないよ」
楠エリカ「私、この映画が見たかったの。それだけよ! しかも、宋人くんと一緒で楽しかった。あ、メロンパンが売ってる!」
楠エリカ「私、メロンパン二つ買うね」
柊宗人「・・・どうすれば、あんな風に生きれるんだろう?」
藤堂ミキ「あ、見終わったあ? 映画は楽しかった?」
柊宗人「はい・・・ 物凄くいい映画でした」
藤堂ミキ「やっぱりねえ。私、エリカちゃんとは付き合いが長いんだけど、あの子は『ジャケ買いの天才』みたいな子で」
藤堂ミキ「本当に勘だけで、『この映画とドラマ、良さそう』みたいにして、本当によく当たるのよ」
楠エリカ「はい、メロンパン。さあ、食べて」
柊宗人「さっき食べたばっかり・・・」
楠エリカ「ここのはまろやか味で全然違うのよ~」
柊宗人「はい・・・美味しい」
藤堂ミキ「んもう、宋人くんはまた難しいこと考えてるね?」
楠エリカ「何を考えたの?」
柊宗人「僕は・・・実は最初から官僚になりたいワケじゃなかったんです」
柊宗人「本当は、映画監督になろうと思ってたんだけど、『無理だな』って自分で思って・・・」
楠エリカ「えええ!? そうだったの!?」
柊宗人「気が付いたら、別にやりたくもない勉強を」
楠エリカ「じゃあ、宋人くんは映画監督になって、さらに官僚になるの!? スゴーイ!」
柊宗人「いや、だから官僚希望じゃないって話を・・」
楠エリカ「スゴイよ! そんな仕事に二つもつくなんて! そんな人の彼女で鼻が高いよ、宋人くん!」
楠エリカ「さあ、デザートにアンパンかクリームパンにしましょう!」
柊宗人「全然ハナシ聞かないなあ・・・」
藤堂ミキ「無駄よ、エリカちゃんには『ネガティブな話』がまるで聞こえないの!」
楠エリカ「さあさあ、次は水族館にでも行こうか!」