in the 少女のエスケープ

エビハラ

Exchange(脚本)

in the 少女のエスケープ

エビハラ

今すぐ読む

in the 少女のエスケープ
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇不気味

〇壁
  薄暗い部屋で、省吾は目を覚ました。
「いって・・・っ!!」
  それと同時に、ひどい頭痛がした。
「ここは・・・?」
  見知らぬ景色だった。
「あ・・・あれ? 声が・・・」
  ふと違和感を覚え、省吾は自分の喉に触れた。
  そこを通った声が、自分のものではないように感じたからだ。
  省吾は、今年で21歳になる。
  随分と前に声変わりも終えている。
  それなのに、子供が話すような高い声が喉から出ていた。
「あー、やっぱり変だ」
  省吾が感じた違和感は声だけではなかった。
  視界も妙だ。
  壁や天井が異様に遠く、周りにある家具がやけに大きく感じる。
  まるで、身体が縮んでしまったみたいだ。
  省吾は部屋の中を見渡す。
  この状況は、何かがおかしい。
(俺は、どうしたんだ? たしか成瀬のアパートに来て、それから・・・)
  省吾はできる限り、意識を失う直前の記憶を思い出そうとした。
  その時。
省吾「えっ・・・」
  目の前に、少女が立っていた。
  驚いたような表情を浮かべている。
省吾「な、なんで・・・」
  違う。
  目の前に少女はいない。
  そこにあったのは、鏡だった。
  全身が写るほどの、大きな姿見。
  それは鏡に映る省吾自身の姿だった。
省吾(・・・俺、女の子になってる!?)
  金色の髪に、青い瞳。
  年齢は十歳くらいだろうか。
  本来の省吾の姿とは、似ても似つかない。
省吾(う、嘘だろ、おい・・・)
  おそるおそる、右腕をあげてみる。
  鏡の中の少女も、同様に動いた。
  やはり、間違いない。
省吾(ど、どういうことだ。なんでこんな・・・)
  省吾は鏡から後ずさった。
  足がもつれ、尻餅をつく。
省吾「いてっ!」
  薄汚れたフローリングに手をつくと、そこには埃が薄く積もっている。
省吾(ここはどこなんだ!? 俺の身体は、どうなっちまったんだ!?)
  呼吸は荒くなり、心臓の鼓動がやけにうるさい。
  省吾は、動揺していた。
省吾(落ち着け・・・ こういう時は深呼吸だ、深呼吸)
  肺で空気を大きく息をすると、ようやく動悸がおさまってきた。
  省吾は改めて、鏡の中を覗き込んだ。
  見知らぬ少女には違いない。
  しかし・・・
省吾(俺は、この子の顔を見たことがある・・・)
  古い記憶ではない。
  それを目にしたのは、つい最近の筈だ。
省吾(あれは、確か・・・)
  少女の顔を、どこで見たのか。
  それを思い出す事に、省吾は意識を集中させる。
  それは、今朝の事であった・・・。

〇駅前広場
  友人の成瀬が住むアパートの最寄り駅で、省吾は電車を降りた。
省吾(あいつ、まだ家に居るかな・・・)
  成瀬から突然連絡が入ったのは昨日の事だ。
  一週間ほどペットを預かってほしいという。
省吾(いつも急なんだよな・・・)
省吾(まあ、ショコラちゃんのお世話は大好きだから、別にいいけど!)
  ショコラとは、成瀬の飼っているペットの猫である。
  猫好きの省吾は、ゾッコンだった。
  それを知っている成瀬に、都合よく使われていることには、まだ気づいていない。
省吾(成瀬のやつ、ショコラちゃんの餌とか、ちゃんと用意してるのかな・・・)
  駅前を通り過ぎようとした省吾は、そこに人が集まっていることに気がついた。
男性「情報提供にご協力おねがいします!」
男性「娘の手がかりを探しています!」
  数人の大人が、ビラを配っている。
  省吾にも目の前にも差し出された。
省吾(行方不明者、か。 そういえばこの辺りでそんな事件あったな)
  『十年前に行方不明になった娘を探しています』
  と書かれたチラシには、その子供の顔写真も印刷されていた。
  名前は「相馬エリー」と言うらしい。
省吾(・・・見た事ないな。 10年前の写真なら、なおさら分からないや)
  省吾はもらったチラシを折り畳んでポケットに突っ込んだ。
  その後、特に気にすることもなく、成瀬のアパートへと向かった・・・

〇壁
省吾(そうだ、この顔はあの時の・・・! 行方不明になった女の子だ!)
  記憶を辿り、省吾はそれを思い出した。
  しかし、辻褄があわない。
省吾(待てよ・・・。 あの子が行方不明になったのは、十年も前のはずだ)
省吾(他人の空似だろう・・・。 ・・・クソッ、バカなことを考えている。 そんなこと、ある訳ないのに!)
  頭に浮かんだ考えを払うように、省吾は頭を振った。
  だが、あり得ないことならもう既に起きている。
  目の前の鏡に映る自分の姿が、まさにその証拠だ。
省吾(なんでもいい。 どこかに、今の状況がわかるものはないのか・・・?)
  部屋の中を見渡す。
  その中には、古ぼけた液晶のテレビもあった。
省吾(これ、映るのか?)
  一か八か、電源を入れるスイッチを押す。
  すると、液晶画面に映像が映し出された。
  どうやらニュース番組が放映されているようだった。
  省吾はテレビに近寄り、食い入るように画面を見つめた。

〇テレビスタジオ
アナウンサー「続いてはスポーツニュースです!」
アナウンサー「開会が迫ったオリンピックに向けて、選手団も続々と現地に到着している模様です」
アナウンサー「来たるロンドン五輪ではメダルラッシュが期待されています」
アナウンサー「注目なのは、前回の北京大会に金メダル大本命と言われるこちらの・・・」

〇壁
省吾「ロンドン・・・オリンピックだって!?」
  省吾は思わず立ち上がった。
  ロンドン五輪。
  省吾の記憶が正しければ、それが行われたのは2012年のこと。
  10年も前の話だ。
省吾「・・・いや、録画だ! 誰かが、俺を騙そうとしてる!! そうなんだろ!?!?」
  省吾は声に出して、そう叫んだ。
  これは誰かが仕組んだ事で、扉の奥には「ドッキリ大成功」と書かれた札を持った人間が飛び出そうと構えている。
  もしそうなら、どんなによかっただろう。
省吾「なあ、誰かそう言ってくれよっ・・・」
  その時だった。
省吾「うわっ!?」
  省吾の足元を、大きい揺れが襲った。
  ミシミシと部屋の壁が軋み、天井に吊るされた照明が揺れる。
  比較的、大きめの地震だった。
  省吾は床に這いつくばり、手で頭を覆う。
  揺れがおさまった頃、テレビから聞こえる音声が緊張感のあるものに変わっていた。

〇テレビスタジオ
アナウンサー「速報です」
アナウンサー「先程、長野県北部を震源とする地震が発生しました。 マグニチュードは5.2。最大震度は5弱と計測されています」
アナウンサー「各地の震度は以下の通りです」

〇壁
省吾「そんな・・・」
  アナウンサーは、ライブ中継で地震の発生を伝えている。
  それはここで感じた揺れとリンクしていた。
  番組は、今放送されているものだ。
  録画ではない。
  つまり
省吾(・・・10年前の世界に来てしまったのか?)
省吾(しかも、行方不明になった女の子の身体で!?)
  省吾は愕然とした。
  膝から崩れ落ちる。
省吾(どういうことだ・・・)
  頭の中はぐるぐると混乱している。
省吾(そ、そうだ。 まずはここを出なきゃ・・・)
  省吾は、扉の前に立った。
  そこにあるはずのドアノブがない。
  内側から開けられないようになっているのだ。
省吾「おいッ・・・ ここから出してくれッ!! 俺は、違うんだ!! 違うんだよッ!!!」
  小さな拳を握り、扉を叩いた。
  部屋の中に、その音が虚しく響く。
  何の反応もない。
省吾「出して、出してよ・・・」
  溢れ出る涙が止まらなかった。
  この時代から10年後。
  あのビラをもらった時点で、まだこの子は見つかっていない。
  どこかに売り飛ばされたのか、それとも命を奪われたのか。
  行く末はわからないが、幸福な未来でないことだけは明らかだ。
省吾(このままじゃ俺も・・・)
  省吾は鼻を啜り、服の袖で涙を拭いた。
  泣いている場合じゃない。
省吾(なんとかして、ここを脱出してやる・・・)
  目の前の扉をキッと睨む。
  少女は誘拐されている。
  扉の先にそれを仕組んだ人間がいる筈だ。
省吾(相手はこっちが子供だと思ってる。 油断をする筈だ。チャンスはある・・・!)
  一度折れそうになった心を、省吾は奮い立たせた。
  省吾には、こうと決めたらやり切る意地がある。
省吾(助かってやるさ・・・ この子も・・・俺自身もッ!!)
  省吾は拳を固く握った。
  運命を変える脱出劇が、いま始まった。

コメント

  • 自分が少女の身体に、そしてその少女は10年前に行方不明のまま、、、不可解で恐ろしい現象が重なる驚きの展開ですね。この現象の真相は如何にして起こったものか、続きが気になりますね。

  • いきなりこんなことになったら、頭の中が混乱してしまいますよね。
    女の子が行方不明になった理由とも関連してるんでしょうか。

  • あの絶妙なタイミングで地震が起こったことを考えてみても、人間のちからを超えたなにか神のような大きな存在に試されているような予感がしました。真相が知りたくなりますね。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ