エピソード9-多色の刻-(脚本)
〇新緑
黒野すみれ「んっ・・・・・・」
黒野すみれ「ちょっと眩しいんだけど・・・・・・」
あまりの眩しさに私は目を閉じてるんですけどと思うと、
目を開ける。
どことも分からない場所。
周りには誰もいなくて、そこにはただ緑が広がっていた。
黒野すみれ「どこなんだろう? ここ」
見覚えがあるか、ないか・・・・・・敢えて言うなら、
見覚えがあるかも知れないし、ないかも知れない、だ。
黒野すみれ「(昔、トキが言ってたことがあったなぁ)」
〇土手
物部トキ「私、たまに思うんだよね。凄いリアルで強烈な印象のVTRとか見てるとさ」
物部トキ「何年も経った時、あれは実際に起こったことだったんじゃないか」
物部トキ「そんな風に思うこともあるんじゃあ・・・・・・って」
物部トキ「逆に、本当に経験してたとしても、それがあまりに実感がない経験だったら、」
物部トキ「何年か経った時、何かの番組のVTRみたいに思えてくる」
物部トキ「確かに、人の記憶というのはひどく曖昧だなって・・・・・・」
〇新緑
黒野すみれ「(トキってたまに不思議なこと、言い出すんだ)」
黒野すみれ「(そう言えば、初めて会った時も森で会ったんだっけ?)」
〇森の中
「こんにちは。貴方にも変えたい過去をあるの?」
まだ小学生だった私は
同じく小学生だったトキに出会った。
さらさらとした金色の髪が風に揺れている神秘的な子。
ちなみに、この時の私は
父の仕事が終わるまで待っていたものの、
待ちきれず、1人で遊べそうに行けそうな森に来ていた。
???「そうだったんだ。じゃあ、私と遊ばない? 私の名前は・・・・・・」
〇新緑
黒野すみれ「(そのことがきっかけで友達になって、中高と一緒だったんだ)」
黒野すみれ「(そう言えば、あのボール、どうしたんだろう? 流石にもう持っていないよね)」
父が買ってくれたボール。確か、友情の証ってことで
私がボールをあげたら、
代わりに指輪をあげると言ってた。
〇黒
〇新緑
黒野すみれ「(ったく、使い古しのボールと指輪じゃあ釣り合わないって思ってたけど)」
黒野すみれ「(明石家の親戚のお嬢様なら普通なのか? しかも、覚えていなかったし)」
〇豪華な客間
物部トキ「指輪? そんなこと、あったっけ?」
黒野すみれ「(まぁ、実家も)」
〇異世界のオフィス
黒野すみれ「(マンションも凄かったし)」
〇森の中
〇黒
そんなトキが春刻や秋川さんを・・・・・・
なんて、とても考えたくはなかった。
〇貴族の部屋
コンコンコン!
黒野すみれ「・・・・・・っ」
コンコンコン!!
私はドアをノックする音で、目を覚ました。
黒野すみれ「すみません、どうぞ!!」
私はマリさんからもらった情報が書かれた資料を
読み進めていて、いつの間に眠っていたらしい。
私はベッドから跳ね起きると、
読んでいた資料を封筒にしまい、ノックに応えた。
リエ「おはようございます・・・・・・って、もうすぐお昼ですけどね」
黒野すみれ「えぇ!! もうそんな時間なんですか!?」
リエさんの言葉に私は部屋にある時計を見る。
彼女の言う通り、時計は12時まで10分程というところで
とてもおはようという時間ではない。
黒野すみれ「すみません、まさか、そんなに時間が経っているなんて思わなくて」
おそらく、朝食も用意してくれたのだろうし、
私の世話だけじゃなくて、他にも仕事があるのだろう。
そんなことを考えていると、リエさんはバスケットを
テーブルに置いた。
リエ「いえいえ、今日の未明は凄い雷と雨でしたからね。なかなか寝つけなかったのでは?」
リエさんは私をそんな風に気遣うと、カーテンを開けて、
窓を開ける。
確かに、今は梅雨の時期だ。
だから、突然の雷雨も何ら不思議なものでもなかった。
黒野すみれ「ええ、そんなところです。えーと、私の服ってどうなりましたか?」
実は、昨日、ドレスを着た時にあのいつもの服は
リエさんによって洗濯に回されていた。
普段、そこまで神経質に洗濯をする方ではない為、
あと1着しか着替えはない。
黒野すみれ「(ドレスを貸してもらえるくらいならそれ以外の服も借りられるだろうけどさ)」
宿泊場所に、食事に、衣服まで借りるというのは
流石に悪かった。
リエ「申し訳ありません。洗濯は終えているのですが、乾燥に時間がかかっているようで」
リエさんは案の定、何か、着替えをと言ったので、
私は着替えとして持ってきていた服に着替えた。
黒野すみれ「(まぁ、今日はあんまり暑そうじゃないからこのかっこでも良いか)」
「失礼いたします」
リエさんは私が着替えている間に、
紅茶の用意をしてきてくれたらしく、
私は遅すぎる朝食、殆ど昼食の食べ始めた。
リエ「次の紅茶はどうしますか? フレーバーものや少し甘めな味わいのもありますよ」
黒野すみれ「いえ、もう大丈夫です。ご馳走様でした」
ハムや卵、ツナにきゅうり、チーズやレタスといった
定番のサンドウィッチに、ローストビーフやマンゴーの
果肉等が入った豪華なサンドウィッチは美味しかった。
黒野すみれ「あ、料理してくれた人にも美味しかったですって言ってもらうことって可能ですか?」
黒野すみれ「昨日の料理も、今日の料理も本当に美味しかったので」
リエ「ええ、それくらいお安い御用ですよ。シェフも喜ぶかと思います」
リエさんは微笑むと、バスケットやティーカップ等を
片づける為、部屋を出ていく。
黒野すみれ「(結局のところ、昨日はあまり資料が読めなかったんだよな)」
黒野すみれ「(でも・・・・・・今はこれだけ分かれば何とかなるかな?)」
〇宇宙空間
〇貴族の部屋
黒野すみれ「(秋川さんの捜査資料。他の人の情報は犯人の疑いが出てきた時に調べれば良い)」
〇黒
何故なら・・・・・・推理小説を
〇書斎
黒野すみれ「読んでたら、人がめちゃくちゃ出てくるし、そんなこと、言ったっけってなるし」
〇貴族の部屋
黒野すみれ「(それにその人の過去とか情報を知ってしまったら、決めつけてしまうから)」
そう・・・・・・例えば、
〇黒
トキはそんなことをするような子じゃないって
黒野すみれ「(人の考えていることなんて本当のところは正確には分からないんだから)」
〇貴族の部屋
黒野すみれ「えーと、『警察による秋川昂(のぼる)氏の捜査記録』」
〇風流な庭園
黒野すみれ「まず、遺体が発見されたのは10日前・・・・・・」
黒野すみれ「いや、5日前に戻って、1日経ってるからこの時点だと6日前かな?」
黒野すみれ「時刻は22時9分。場所は明石春刻が本邸に移る前に住んでいた屋敷・胡蝶庵の庭」
黒野すみれ「発見者は明石春刻。但し、通報したのはエマさんだった・・・・・・って、それはそうか」
あんな感じでも当主なのだから、通報も任せるのだろう。
黒野すみれ「警察の捜査としてはまず明石春刻に事情を聞こうと試みたが、彼はその日を境に失踪」
黒野すみれ「明石春刻を除く明石家の人間、使用人、明石春刻の婚約者・物部トキに」
黒野すみれ「調査の手を入れたが、その時刻に犯行が可能な者はいなかった」
黒野すみれ「(まぁ、罠的なものだったら、その時の不在証明って意味ないらしいけど)」
私は父の受け売りを思い出すと、情報を読み進めていく。
黒野すみれ「明石春刻の所在は現在でも不明なものの、以下の3点から彼が氏を殺害した可能性は低い」
黒野すみれ「と考えられる」
1.毒物の入手が困難であること。
2.氏との関係は良好であったこと。
3.氏は重病を患っており、余命幾許もなかったこと。
黒野すみれ「え・・・・・・余命幾許もないって・・・・・・」
こんなことを言ってしまうのはあまり気が進まないが、
そんな人間をリスクを冒して、殺害するだろうか。
黒野すみれ「いや、秋川さんは本当に巻き込まれただけ・・・・・・なんだ」
黒野すみれ「(犯人がいるのなら・・・・・・その人の狙いは・・・・・・)」
〇風流な庭園
〇風流な庭園
〇貴族の部屋
黒野すみれ「・・・・・・以上、不明なこともあるだろうが、氏は病で失意のうちに」
黒野すみれ「自害したという見解にて警察の捜査は終えた」
黒野すみれ「一応、屋敷内を調べようとしたのだが、みだりに入ってはいけない場所であることと」
黒野すみれ「そもそも屋敷には鍵をかけられていて、その鍵は明石春刻が所有する鍵以外はないとの」
黒野すみれ「ことらしい。あ、でも、ここに付箋がある」
但し、鍵がなくても入る方法がある。と書かれていた。
黒野すみれ「・・・・・・エマさんかな?」
私はエマさんの顔がやけにハッキリと思い浮かんだ。
〇車内
エマ「春刻様を狙うご兄弟を物理的、あるいは社会的に抹殺する」
エマ「等々をしてしまうと、今度は他のご兄弟様に公平ではなくなる」
〇貴族の部屋
黒野すみれ「まぁ、それならそれで遠慮はなしで」
そして、私は
〇車内
〇大きな日本家屋
胡蝶庵にやって来た。