In the Game(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
氷見 恭介「・・・今まで、ありがとう。 明日の帰りに提出してくるから」
氷見 彩海「ええ、よろしく・・・ こちらこそ、今までありがとう。 明日の昼にはここを出て、実家へ帰るわ」
テーブルの上に置かれた離婚届を、夫の恭介が乾いた音を立てて書類ケースへと仕舞い込む。
私は氷見 彩海。職業はゲームプランナーだ。夫の恭介はゲームプログラマーをしていて、同じ会社に務めている。
同時期に就職した同期であり、共に協力し時にはライバルのように対立し、やがて結ばれた私達は今日まで夫婦でもあった。
氷見 彩海「・・・それじゃあ、おやすみなさい」
氷見 恭介「ああ、おやすみ。よく休んでくれ」
〇部屋のベッド
それぞれの寝室へ戻り、明かりを消す。
・・・結婚して6年。30代も後半へ差し掛かり、子供にも恵まれなかった。
互いの仕事が多忙だったこともあり、些細なすれ違いやいざこざから擦り切れていった夫婦関係も、明日で終わり。
氷見 彩海「・・・どこで、私達は間違ったのかしら?」
幸せだった頃を思い出して、一筋の涙が頬を伝い枕へと零れ落ちる。
それでも無情に睡魔はやってきて、私は目を閉じた。
〇美しい草原
朝、聞こえてくるのは鳥の声。
それと共に、どこかで聴いたことがある穏やかなギターの旋律。
とても今が2月とは思えない、心地よい春の暖かさ。鳥の声に混じって、どこか遠くから獣のような遠吠えが聞こえてくる。
氷見 恭介「彩海、起きろ!彩海!」
恭介の切羽詰まった声と揺すぶられた肩の振動で目が覚め、体を起こすとそこはベッドではなく、柔らかな草原の上だった。
氷見 彩海「ここ、どこなの?それに恭介、あなた隣の寝室で寝てた筈でしょ。どうして・・・」
氷見 恭介「話は後だ。彩海、この場所を覚えているか?」
恭介は深刻な顔をして私を見つめる。寝起きで頭がついていかないが、ギターの旋律といい確かに、どこか懐かしさを感じる。
???「お目覚めですか、氷見ご夫妻」
答えに辿り着く前に、突然どこからともなく草原全体にアナウンスのような、機械的な声が響く。私は驚いて恭介の傍へ身を寄せた。
すると同時に、見知らぬ4組の夫婦らしき人々がこちらへ歩み寄ってきた。
その顔を見るに、今の状況を飲み込めていないようだ。
社長「申し遅れました、私はハッピーライフ・カンパニーの社長で御座います。お二人は弊社の社員ですが、お話するのは初めてですね」
ハッピーライフ・カンパニー。胡散臭い社名だがホワイト企業のお手本として、常にその名を社会に連ねている大手企業だ。
『全てのお客様に幸福を』という信条を掲げ、様々な事業に手広く進出している。そのゲーム部門に私と夫は勤めていた。
氷見 恭介「まさか、社長がそんな・・・。仮に、もし本当だとしたら、目的は何なのでしょうか?」
社長「よくぞ聞いて下さいました。・・・氷見ご夫妻、あなた方は今ハッピーではありませんね?」
訝しみながら問いを投げかけた恭介に、社長はさも悲しそうな声色で質問を返す。京介の表情は曇り、苦々しい声色で答えた。
氷見 恭介「・・・離婚の話、ですか」
社長「はい。ワタクシは弊社の社員には常に幸せであって欲しい。それでこそハッピーライフ・カンパニーのあるべき姿」
社長「そこで夫婦の愛情を、共に人生を歩む幸せを思い出して頂く為に、おふたりにはこのゲームをクリアして頂きます」
氷見 彩海「待って、ゲームってこの・・・」
私はこの場所がどこか思い出し、思わず二人の会話に口を挟む。
ここは、私達が新人の頃に初めて共同開発したゲームの中だ。
社長「そう!こちら4組のご夫婦と競争でストーリーを進め、クリアできた最初の一組だけを開放します。その際、ひとつの願いを叶えます」
社長「その名もLovebirds in the Game!愛し合う五組のおしどり夫婦達よ、ゴールを目指して共に羽ばたくのです!」
社長「・・・あ、ちなみに他四組の皆様の願いは既に確認済み。これから自己紹介をして頂く際に、併せてご紹介させて頂きますね」
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この5組の夫婦で何かしらのゲームをして戦うのでしょうか。
生き残れる、帰れる組みと、そうでない組みと…。
本当に全員ハッピーになれるのか…?
氷見夫婦の離婚前夜にゲームが勃発しました。何か楽しくなるような気配で二人の関係が好転するのか気になるストーリーでした。次回が楽しみです。
不謹慎かもしれませんがこういったサバイバル系のストーリーはとてもワクワクします。ふたりが力を合わせなければ脱出不可能、ジ・エンド。さてどうなるのか、ハッピーエンドで絆が深まることを願うばかりです。