第三話 通り魔(前編)(脚本)
〇商店街
裏通りにある寂れた商店街──
〇古本屋
その一画に、古書店〈遠々堂〉がある。
〇本屋
一階はありふれた品揃えだが、その地下には──
〇古書店
古今東西の珍書が並ぶ、知る人ぞ知る異空間があった。
倫子は、この店の常連である。
柏木倫子「たぶん本物だ。データも充実してる」
下校途中の今も、著者不明の『悪魔辞典』を念入りに品定めしていた。
柏木倫子(値段は28000円・・・)
柏木倫子(この内容と希少性なら、むしろ良心的な値段だ)
柏木倫子「だけど、私の経済力では・・・」
後ろ髪引かれつつも、本棚にもどす。
柏木倫子(この異様な気配は・・・!)
〇商店街
柏木倫子(気配の源はこっちだ・・・)
柏木倫子(どこだ・・・?)
???「おれが悪いんだ! どうなってもいいんだーっ!」
通りの先から、若い男の怒鳴り声が響いてくる。
〇リサイクルショップ(看板文字無し)
柏木倫子「ここか。リサイクルショップ・・・」
???「だから何だっていうんだっ!」
〇リサイクルショップの中
東高生「おまえらに関係ないだろ!」
意味不明なことをわめきながら、制服姿の少年が暴れている。
まるっきり半狂乱だ。
女性店主は恐怖で立ちすくんでいる。
〇リサイクルショップ(看板文字無し)
店の前では、だんだんと野次馬が増えていく。
野次馬「あれ、東高の制服じゃない?」
野次馬「東高って、真面目な秀才校だろ」
柏木倫子(あれだ! 気配の源!)
〇リサイクルショップの中
少年の背後に、異様な影のようなものが寄り添っている。
それが、怯えている女性店主をゆっくりと指差す。
東高生「どうせおれは頭が悪いんだーっ!」
少年は、その指示通りに襲いかかる。
髪をわしづかみにし、力まかせに振り回す。
〇リサイクルショップ(看板文字無し)
野次馬たちは、この乱行に息を飲んでいる。
柏木倫子(一般の人間には、あの黒い影は見えてない・・・)
???「柏木さん!」
ぐいっと腕を引っ張られる。
木村香織「あぶないって! こんなところに立ってちゃ」
木村香織「犯人がこっちに逃げてくるかもしれないし」
柏木倫子「クラスの・・・」
九条綾音「早く行こうよ、香織。怖いよ」
野次馬「お巡りさん、こっちです!」
警官「警察だ!! 女性を離しなさい!!」
影は滑るように店外に出てくると、空に舞い上がって姿を消す。
すると、大暴れしていた少年が一瞬で正気にもどる。
警官に取り押さえられても、ポカンとしている。
柏木倫子「そうか、通り魔・・・!」
〇アーケード商店街
成りゆきで、倫子は駅までのわずかな道のりを彼女らと歩くことになった──
柏木倫子(どちらとも挨拶したことさえないわ)
木村香織「いや~、あんなことめずらしいね。この商店街、いつも平和なのに」
柏木倫子「ええ・・・」
九条綾音「柏木さんも中央駅なんだね。古本屋さんに入って行くのをたまに見かけるよ。本、好きなの?」
柏木倫子「ええ、まあ・・・」
木村香織「柏木さんって部活入ってたっけ? あたしはバスケ部で、彩音は吹奏楽なんだ」
柏木倫子「帰宅部・・・」
九条綾音「あたしは外国の絵本が大好きなの。柏木さんは?」
木村香織「クラウンベーカリーのミルクパンってすごく美味しいよね。彩音と映画に行ったとき二個も食べちゃったよ」
九条綾音「柏木さん、〈小さな森〉に入ったことある? すごくカワイイ小鳥のティーセットがあるの」
柏木倫子「そ、そう・・・」
健全な女子高生が放つ、キラキラとした輝き。
柏木倫子(おそろしく居心地が悪い・・・)
〇駅前広場
木村香織「じゃあね、柏木さん」
柏木倫子「ええ・・・」
柏木倫子(幸い、電車の方向は逆だった・・・)
倫子はホッと胸をなでおろす。
〇古いアパート
〇怪しい部屋
柏木倫子「街中にいる悪魔は初めて見たわ」
サンドル「珍しくはない。これからもちょくちょく遭遇するだろう」
サンドル「人間に憑きたがる悪魔は多いからな」
柏木倫子「ふうん」
ちなみに母親の朋子は、今夜は女友達の家に泊りである。
アラフォー女子たちのパジャマパーティーを開くのだそうだ。
倫子は机にむかい、〝通り魔〟を検索する。
柏木倫子「これね。〝通り悪魔、通り者ともいう。気持ちがぼんやりとしている人間に憑依し、その人の心を乱すとされる日本の妖怪──」
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通り魔、怖っ!!肉体を奪った目的は何だろう...続きも楽しみです!