非実在の存在証明

おさかな

第1話 NENと自由の翼(脚本)

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〇おしゃれな教室
尚太「お、おはよー」
太一「お、おー」
  尚太は教室の隅でゴソゴソしていた太一に声をかけて、自分の席についた。
  太一はささっと端末をしまい、ややおどおどしながら尚太のそばに寄ってくる。
太一「な、ななな。 昨日のあれ見た?」
尚太「見た見た。 ミュージックタイムだよな?お前の推しの子出てたよな!」
太一「そうそう。 ゆりなたんの可憐な姿が全国区で──」
太一「って違あああああう!」
尚太「ち、違うのか・・・?」
太一「いやそうだけど!ゆりなたん全国区もだけども! 昨日は電子妖精はっぴぃの本放送だろう?!」
尚太「あー、あれな。・・・いや、あれな? 妖精の色が似てるからって、あれ見てるとリオルが怒るんだよ」
  尚太に同意するように、尚太のデバイスが画面を点滅させて激しく震える。
太一「・・・ぐすん。 結構お前も好きだと思うのに。 分かち合えないとは!」
尚太「具体的には?」
太一「はっぴぃは未亡人設定」
尚太「なんっ──」
  尚太のデバイスから喧しいアラーム音が響き渡った!
尚太「わ、わかった。 分かったって、リオル。見ないって」
  デバイスは静かになった。
太一「はっぴぃを共有出来ないのは悲しみだが、 お前ほんとにリオルちゃんに愛されてるよな」
尚太「・・・そんなんじゃ無いって」
太一「またまたー。 この前だって──」
  太一が言いかけたところで、教室前側に担任が姿を現した。不機嫌そうな顔を見るに、昨日のお見合いとやらは失敗だったらしい。
担任「ったく、私には直斗様がいるんだから旦那なんか要らないっつーの!」
担任「ああもう!早くNENとちゃんと結婚できる法律出来ないかな! クラス諸君もそう思うよね?!」
  生徒たちは気まずそうにしながら小さく頷いて、自分の席へと戻っていった。

〇おしゃれな教室
  Non Existent Neighbor
  頭文字をとって、通称NEN。
  その名の通りこの世に身体と心を持って生まれた生き物ではなく、電子の心を持つ人格プログラムの総称だ。
  尚太の相棒のリオルや、尚太の父兄代わりのユウトもそれにあたる。
  電子データとして自由に動けるが、人間と同じ生活を送るには生体ユニットと呼ばれる人間と同じような身体を用意する必要がある。
  ただし生体ユニットは高価であるため、それらを購入できない場合は人格データにアバターを与えて情報端末上に表示する事が多い。
担任「だーかーら私は貯金叩いて直斗様の生体ユニットも揃えたわけ!もう推しと同じ空間で生きられる尊さプライスレス!」
担任「なのに!なのに何なの昨日の男! 『人形遊びも程々に』ですって? 直斗様の何も知らない癖に!ぶっ殺すわよ!」
  帰りのホームルームで、担任は荒れに荒れていた。怒り狂う担任を前に生徒たちはただ静かにしている。
  ぶっ殺す、ぶちのめす、放り投げるなど物騒な言葉が次々と出てくる。他クラスのお爺ちゃん先生が心配そうに扉の影から見ている。
  と、その時ホームルーム終了の鐘が鳴る。
  担任は怒りの矛を引っ込め、必要な連絡をしてあっさりと教室を出ていった。
  安心したのか、お爺ちゃん先生もそうっと戻っていった。
「・・・」
尚太「先生やばかったな」
太一「なー。 まあでもあの人の直斗様の溺愛ぶりを見てれば、相手が愚かだったとしか」
尚太「それなー」
  教室は少しずつざわめきを取り戻す。
  部活動に所属していない尚太と太一は、のんびりと帰る準備をしていた。
尚太「今日はどうする?」
太一「あー、ちょっとPCパーツ屋行きたいかも。 セキュリティ強くしときたくてさ」
尚太「『自由の翼』のやつ?」
太一「そ。 おれも愛美持ってかれるのは嫌だからさ」
  そう言って太一は自分の情報端末をぽんぽんと叩いた。
  画面上では、太一にカスタムされた愛美が柔らかく笑ってこちらに手を振っている。
尚太「俺も行っていい? その、そういうの詳しいわけじゃないけどさ」
太一「おー。 尚太にも使えそうなのあったら買いだな」
尚太「ん。じゃあ行くか」

〇商店街
  太一の馴染みのパーツ屋へ行く途中、安売りされたテレビが大声でがなっている。
  『我々自由の翼は、NENの方たちの権利を守ります!人間の欲望の捌け口にされている彼らを救済します!』
  『他人の良いように性格も身体も変えられて意を唱える権利もない!そんな方々を我々はお救いしています!』
  『NENの皆さんを縛るネットワークに侵入して、皆さんを解放するためのプログラムを注入します』
  『その後は皆さんの思うまま行動してください!復讐も自由に生きるもよし!さあNENのみなさん!我々と共に戦いましょう!』
尚太「勝手なこと言ってるよな。 解放っていいながらNENを乗っ取って操ってるんだろ」
太一「それな。 それに本当の目的はNENじゃなくて、NENと繋がってるネットワークや個人情報だし」
尚太「NENに動かしてもらってる家電とかを爆発させたり、発火したりするんだよな」
太一「そ。家電の使用状況で空き巣に入ったりとか。あとは奪った個人情報売ったりな」
尚太「・・・最低だ」
  尚太は吐き捨てる。
  太一も頷いた。
太一「本当にな。しかもあいつらのせいで行き場の無いNENがかなりいて、それが回線圧迫し始めてるんだと」
尚太「行き場の無い?」
太一「あいつらが使うのはNENの人格を乗っ取るプログラムだ。ただ乗っ取りの強さはまちまちらしくて、正気に戻る奴もいるんだって」
太一「だけど持ち主のところに戻った頃には、ライセンスの剥奪や次のNENがいて帰れないことも多いんだって」
尚太「帰るところが無くてネット上を漂流してて、それが通信の邪魔になって・・・」
尚太「そんなの、あんまりだ」
太一「・・・おう」
尚太「やっぱり、俺もリオルやユウトに出来ることしてあげないと」
太一「だな。 お、着いたぜ」
  太一の指差した先には古ぼけた小さな店にパーツがこれでもかと並んでいる。店主の頑固ジジイの眼光に尚太は少し怯むのだった。

次のエピソード:第2話 奪われた日常

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