非実在の存在証明

おさかな

第2話 奪われた日常(脚本)

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おさかな

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〇通学路
  頑固親父のパーツショップからの帰り道。
尚太「おじさん、ちょっと怖かったけど色んなこと教えてくれたな」
太一「おー。あのおっさん人見知りが凄いんだよ。 仲良くなればもっと色んなの教えてもらえるぞ」
尚太「そっか。 今日は取り敢えず教えてもらったセキュリティソフト入れておこう」
太一「おー。今度感想聞かせてくれよな」
尚太「うん。 ・・・あ、じゃあ俺こっちだから」
太一「おー。じゃ、また明日な」
尚太「また明日ー」
  尚太は太一と別れ、1人帰路に着く。
  尚太の買い物に興味があるのか、画面を点滅させてリオルが何買ったの?と顔を覗かせる。
  尚太が買ったセキュリティソフトを見せれば、なんとなく分かったのかリオルはうむうむと頷いた。
  そうこうしていればすぐに家に着く。
  尚太は一度リオルのいる端末をしまって、玄関の扉を開けた。

〇明るいリビング
尚太「ただいまー」
  ・・・
  返事はない。
尚太「あれ? 母さんは今日休みじゃなかったっけ? ユウトと2人で出かけてるのか?」
  その時、尚太の端末が激しく振動した。
尚太「リオル?」
リオル「この端末と家のネットワーク、すぐに遮断して!」
尚太「え、」
リオル「早く!」
  尚太は言われるまま、家で使っているネットワークと自分の端末を繋ぐ回線を遮断した。
尚太「こ、これで大丈夫か?」
リオル「うん。大丈夫。 ・・・私は、ね」
尚太「・・・え、」
  その時、リビングの方から物の割れるような音が聞こえてきた。
尚太「な、なんだ?!」
リオル「・・・」
  尚太は慌ててリビングの扉を開ける。
  そこには──
リサ「ユウトやめて! どうして?!」
ユウト「うるさい!」
  声を荒げるリサとユウトが、割れた皿を挟んで対峙していた。
  滅多に聞くことのないユウトの大きな声に、尚太は肩を揺らす。
尚太「ど、どうしたんだよ2人とも・・・?」
リサ「尚太・・・。 ユウトが、ユウトが・・・」
  母の言葉に、尚太はユウトを見た。
  いつも穏やかに笑っている顔が、ひどく歪んで見たことのない表情をしている。
尚太「ユウトどうしたんだよ? 嫌なことでもあったのか?」
ユウト「嫌なこと?とんでもない。 ここを出ていけるなんてとても喜ばしいよ!」
尚太「えっ・・・」
ユウト「もうアンタたちにこき使われるのはうんざりだ。 こっちの自由にやらせてもらう」
  聞いたことのないユウトの声に尚太は言葉を失って、戸惑いを表すように一歩後ろへ下がった。
  ユウトの言葉にショックを受けながらも、リサは声を掛けた。
リサ「こんな風に言われるの初めてだから、 ・・・その、どうすればいいか分からないけど」
リサ「ユウトを頼り切っていままでたくさん頼み事したのがいけなかったなら何度でも謝るわ。 だから、話を──」
ユウト「うるさい、アンタと話す事なんか何もない」
リサ「──っ!」
  心の支えにしていたユウトからの言葉に、リサが膝から崩れ落ちる。
尚太「母さん!」
  尚太は母に駆け寄ってその身体を支えた。
  ユウトの豹変についていけず、尚太の脳内はどうしてとどうしようを繰り返すばかりだ。
  その時、尚太の端末が激しく振動した。
  画面を見れば、スピーカーにして話をさせろとリオルが大写しになっている。
  尚太は音量を上げて、スピーカーにした。
  リオルの声がこちらに届く。
リオル「リサさん、しっかりして。 あれはユウトなんかじゃ無い」
リサ「え・・・?」
リオル「ユウトは今乗っ取られてる。 自由の翼とかいうトンチキ野郎に」
リサ「そんな・・・」
  信じられないような顔でリサはユウトを見る。
  つい今朝ニュースで見た事件が自分に起こっているなんて、と。
  ユウトはあからさまに不機嫌そうに鼻を鳴らした。
ユウト「随分な物言いだな」
リオル「当たり前でしょ。 NENと一緒に居たことも無いような奴らが、NENの代弁者を気取ってるんだから」
ユウト「あくまでも所有者の味方か。 まあいいさ、君も自由になれば分かる」
ユウト「NENがどれだけ哀れで惨めな扱いを受けているのか。 俺たち自由の翼はNENと共にある」
リオル「勝手に言ってなさいよ、勘違い野郎」
  取りつく島もないリオルに、ユウトは大きく舌打ちをした。
  その舌打ちに弾かれたようにリサが顔を上げ、ユウトの形をした別人を睨みつける。
リサ「返して! ユウトを返してよ!」
  ユウトはそれを鼻で笑った。
ユウト「フン、まぁいい。 ここのネットワークは掌握出来たしおさらばさせてもらおうか」
リオル「逃げるんだ?」
ユウト「まさか。自由の翼(いえ)に帰るだけだ。 ・・・尤も君たちは、追いかけてくる事なんか出来ないだろうけど」
  ユウトがそう言うが早いか、
  突如キッチンのコンロが勝手に点火し、至る所にあるコンセントが火花を出し始める。
リオル「なっ──」
ユウト「それじゃ。 さようなら」
リオル「待ちなさ──」
  キッチンの方から爆発音がした。
  すぐに焦げた匂いと黒い煙がこちらへやってくる。
  振り返ればユウトはもう居なかった。
  キッチンの壁に、小さな火の粉が取り付いたのが見えた。
尚太「母さん、早く逃げないと!」
リサ「・・・ええ」
尚太「大事なもの、・・・ええと貴重品とかは?」
リサ「・・・取ってくるわ」
  声に張りはないが、速やかにリサは自室へ行って貴重品や重要書類などを集め始める。
  尚太はリビングを見回した。
尚太「くそ、コンセントから発火してるからどこから逃げれば・・・」
リオル「尚太。庭に面した窓。 あそこだけコンセントから火が出てない」
尚太「本当だ! あそこからなら逃げれる!」
リオル「うん。 ・・・あ、私の生体ユニット忘れないでよ?」
尚太「分かってるって」
  尚太は椅子にもたれかかっている
  リオルの生体ユニットをおぶった。
  財布や端末の入ったバッグもしっかりと肩にかける。
  そうしているとすぐにパタパタと足音が近づいてきた。
リサ「・・・お待たせ。 お金関係と権利書関係は全部持ったわ」
尚太「母さん、あの窓から行けそうだ。 あそこだけ火が出てない」
リサ「そう。・・・でも変ね。 全部から火が出てるんじゃないの?」
尚太「うーん、あそこだけ使えないとか?」
リオル「・・・それか、ユウトが頑張ったのかも。 みんなが逃げれるように」
リサ「・・・うん」
尚太「急ごう!」
  リオルの生体ユニットをおぶって、気落ちした母の手を引いて、尚太は窓から外へ飛び出していった。

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