怪人☆十二面相(脚本)
〇地球
こ れ は
とある秘密結社に属する
一人の怪人の物語である──
〇怪しげな祭祀場
ツヴェルフ「怪人『十二面相』」
ツヴェルフ「仰せによりまかりこしました」
ボス「うわっ!?」
ボス「お前か、ツヴェルフ」
ボス「初めて見る姿で驚いたぞ」
ボス「クワガタみたいだな」
ツヴェルフ「聞こえてます」
ツヴェルフ「変化できる十二の姿は全て、 面接の時に見せてますよ」
ボス「そうだっけ?」
ツヴェルフ「どれが本体とかありませんけど、 基本形は固定しましょうか?」
ボス「面白いからそのままでいいよ」
ボス「日替わり定食ならぬ、日替わり怪人!」
ツヴェルフ「・・・ご用件は?」
ボス「新しい仕事だ」
ツヴェルフ「その前に、暗いんで電気付けますね」
ボス「あっ、ちょ──」
〇怪しげな祭祀場
ボス「もぉー」
ボス「明るくしたら雰囲気台無しじゃないか」
ツヴェルフ「神式祭壇の時点でおかしいでしょ」
ボス「業者さんに「儀式の間っぽくして」って 発注したらこうなったんだよ」
ツヴェルフ「施工前に気付いてください」
ボス「うるさいな」
ボス「いいから話の続きだ」
ボス「今週末、『ミリタリーファイブ』が 駅前広場で広報活動を行うらしい」
ツヴェルフ「またミリファイですか」
ボス「週末になると現れる 厄介なヒーローチームだ」
ツヴェルフ「休日出勤せざるを得なくなりますからね」
ボス「ツヴェルフよ!」
ボス「貴様にミリタリーファイブ 撃退の任務を与える!!」
ツヴェルフ「ハッ」
ボス「・・・で、今回はどの姿で行く?」
ツヴェルフ「そうですね」
ツヴェルフ「この五面相はすでに使用済みです」
ボス「使えない一面相を除くと、残り六面相か」
ボス「人員不足がバレる前に── 六回以内にミリファイを倒すのだ!」
ツヴェルフ「簡単に言いますけどね」
ツヴェルフ「いつも『マネージャー』と『スタッフ』という手下が周りにいて、簡単には近付けないんですよ」
ツヴェルフ「それに」
ツヴェルフ「どうもミリタリーレッドに 同一怪人だってバレてるような」
ボス「体格も声も違うのに?」
ボス「気のせいじゃない?」
ツヴェルフ「だったらいいんですけど」
ツヴェルフ「ていうか、そもそも戦闘員の数で負けてるとかありえませんよ」
ツヴェルフ「早く人雇ってください」
ボス「俺だって雇いたいよ!」
ボス「キャワイイ女幹部欲しいもの! えっちぃ格好のお姉さん侍らせたいもの!」
ツヴェルフ「そういう発言はセクハラになるんで 気を付けた方がいいですよ」
ボス「スレてんなぁ」
ボス「お前、本当に地球初めて?」
ツヴェルフ「学生時代に観光で一度来たきりです」
ツヴェルフ「まさか仕事で渡航することになるなんて」
ボス「宇宙征服がこの組織の仕事なんだから 当たり前でしょ」
ツヴェルフ「現場に出るのは嫌だって言ったのに」
ボス「人がいないんだから仕方ないだろ」
ボス「それに、お前のその変化能力を戦闘に活かさなくてどうするよ」
ツヴェルフ「戦闘以外に事務もやらされてるんですけど」
ツヴェルフ「先月の残業、余裕で45時間超えてるんですけど」
ツヴェルフ「これって労基案件ですよね?」
ボス「ホント可愛くないな〜」
ボス「もういいから営業行ってこい!」
ツヴェルフ「過大な要求はパワハラにあたりますよ」
ボス「うるせえ!!」
〇仮設テント
【週末】
レッド「はぁ・・・」
ブラック「ため息ついてどうした?」
レッド「ブラック」
ブラック「何悩んでるんだ?」
レッド「今日のライブ 寸劇があるから緊張しちゃって」
レッド「殺陣で失敗したらどうしよう」
ブラック「その時は敵役のスーツアクターさんが フォローしてくれるさ」
ブラック「俺らは、あくまで『ヒーローがコンセプトのアイドル』だろ」
ブラック「歌でお客さんを惹きつければいいんだよ」
レッド「そうだね」
ブラック「ほら、そろそろウィッグ被っとけ」
レッド「うん」
レッド「レディポジション!」
レッド「ミリタリーレッド!」
ブラック「キャー、素敵ー」
グリーン「大変だよ!」
レッド「どうしたの?」
ブルー「スーツアクターさんの乗っていたタクシーが事故に巻き込まれたそうなの」
レッド「怪我は!?」
グリーン「それは大丈夫みたい」
グリーン「でも、現場検証に付き合わなきゃならなくて、ライブには間に合わないって」
ブルー「怪人の被り物もその人が持っているから、 代役を立てられないの」
ホワイト「マネージャーがパンツ一枚で 怪人『露出狂』になったら?」
マネージャー「それではただの変態です」
レッド(どうしよう・・・)
レッド(こんな時、あの人がいてくれたら──)
ツヴェルフ「お集まりだなァ ミリタリーファイブ!!」
ツヴェルフ(──って)
ツヴェルフ「想像以上にお集まりだな!?」
レッド「怪人さん!」
グリーン「出たっ、レッドのイキリオタ!」
ブルー「いいところに!」
ツヴェルフ(この姿は初めて見せるはずなのに、 レッド以外にも認知されている!?)
ツヴェルフ(しかも何故か歓迎されている!?)
ツヴェルフ「あの・・・?」
レッド「助けて!!」
ツヴェルフ「はい!?」
レッド「敵役で寸劇に出演して欲しいの!!」
ブラック「ヤベェファンだと思ってたが、こういう時のために日頃から着ぐるみだったんだな!」
ツヴェルフ「何のこと!?」
マネージャー「動きだけ覚えてください!!」
ツヴェルフ「え、ちょ待っ──」
〇怪しげな祭祀場
【週明け】
ツヴェルフ「──と、いうわけで」
ツヴェルフ「ライブは大成功でした」
ボス「お前何しに行ったの!?」
ツヴェルフ「ちゃんと情報も仕入れてきましたよ」
ツヴェルフ「来月、ミリファイはキャパ千人の 中規模ライブを行うそうです」
ボス「それで?」
ツヴェルフ「スーツアクターとして バイトに来ないかと誘われました」
ボス「うちは副業禁止だ」
ツヴェルフ「そのライブにバイトとして潜り込み、 奴らを一網打尽にするんですよ!」
ボス「ほう、面白い」
ボス「──いいだろう」
ボス「大勢の目に触れるんだ。 いつもよりカッコいい姿に変化しろよ?」
ツヴェルフ「これは?」
ボス「いいね、四天王って感じするね!」
ツヴェルフ「まぁ、ミリファイには今までの全部、 俺だってバレてたんですけどね?」
ボス「えっ!?」
ツヴェルフ「毎回、着ぐるみで現れる 変なファンだと思われてました」
ボス「そもそも怪人だと思われてないの!? お前ちゃんと仕事してる!?」
ツヴェルフ「戦おうとするとスタッフに引き剥がされて・・・」
ボス「わぁ~、スタッフ有能〜」
ボス「──ったく。 当日はしっかりやれよ」
ツヴェルフ「ハイ!」
〇コンサート会場
【ライブ当日】
〇ホールの舞台袖
ツヴェルフ「満席だ・・・」
レッド「ツーさん!」
ツヴェルフ「おはようございます」
レッド「今日の姿もカッコいいね!」
ツヴェルフ「どうも?」
ブラック「君、いくつ着ぐるみ持ってるの?」
ツヴェルフ(着ぐるみじゃないけど──)
ツヴェルフ「十二個くらいですかね」
ブラック「すげー」
レッド「・・・・・・」
ツヴェルフ「レッドさん?」
ツヴェルフ「痛い痛い! 何でいきなり頬をつねるんです!?」
レッド「何でもなーい!」
〇コンサート会場
レッド「レディポジション!」
レッド「規則違反に下せ鉄槌! 弱きを助け、響け吉報!」
レッド「ミリタリーレッド!!」
ブルー「受け継がれし知識は未来への架け橋」
ブルー「ミリタリーブルー!!」
グリーン「報連相は最大の防御!」
グリーン「ミリタリーグリーン!!」
ブラック「君の心の防護装備!」
ブラック「ミリタリーブラック!!」
ホワイト「皆を導く誘導弾!」
ホワイト「ミリタリーホワイト!!」
レッド「ミリタリーファイブ! ゴー! コンバット!!」
〇ホールの舞台袖
ツヴェルフ「おお~!」
ツヴェルフ(何見惚れてるんだ、俺は。 これから彼らの邪魔をするのに)
レッド「──何だと!? この会場に怪人が!?」
ツヴェルフ「出番か・・・」
ツヴェルフ「作戦開始だ」
〇コンサート会場
ツヴェルフ「ライブは終わりだ、ミリタリーファイブ!」
レッド「お前は!」
ツヴェルフ「──俺は、怪人『十二面相』」
ツヴェルフ「変幻自在のツヴェルフ!」
レッド(台本と違う)
レッド「ツーさん?」
ツヴェルフ「・・・これでも、 ただのイキリオタだと思いますか?」
グリーン「早着替え!?」
ブルー「アドリブ?」
ブラック「何か様子がおかしくないか?」
レッド「やっぱり着ぐるみじゃなかったね」
ツヴェルフ「どうして──」
ホワイト「ハァ」
ホワイト「もう少し様子を見ようと思ってたけど、 こんな茶番は耐えられないな」
レッド「ホワイト?」
アミー「僕はアミー」
アミー「秘密結社ノワールの堕天使さ」
観客「ホワイト様、闇堕ち!?」
観客「キャー! カッコいい!!」
ブラック「ホワイトだけずるい!!」
グリーン「どうなってるの!?」
ブルー「アドリブではなさそうね」
アミー「全員墜ちろ!」
観客「何だこれ!?」
観客「苦しいっ」
アミー「アハハッ」
ボス「厄介なことになったな」
ツヴェルフ「ボス!?」
ボス「奴は新規参入の宇宙征服組織の怪人だ」
ツヴェルフ「ライバル結社ですか」
ボス「獲物を横取りされては癪だ」
ボス「先に堕天使アミーを撃破せよ!」
ツヴェルフ「ハッ!」
レッド「私も一緒に戦う!」
ツヴェルフ「レッドさん!?」
レッド「会場のみんなを守らなきゃ!」
レッド「私に何ができるか分かんないけど──」
ボス「ヒーローなんだから ドカンと敵をやっつけちゃってよ」
ボス「あ、僕らは除外ね?」
レッド「もしかして、本物だと思ってます?」
「えっ?」
レッド「私達は──」
レッド「『アイドル』です!」
「何だってぇえー!?」
ボス「じゃあ本物は!?」
レッド「練馬に行けば会えるんじゃないですかね?」
ボス「なんてことだ・・・ッ」
ツヴェルフ「ボス、気を確かに!」
ボス「ならばお前を本物のヒーローにしてやる!!」
レッド「きゃあああっ」
レッド「・・・っ」
レッド「何これダッサ!!」
ボス「フフフ・・・」
ボス「これでお前は尋常ならざるパワーを 発揮できるようになった」
レッド「私の担当カラー、レッドなんだけど」
ボス「女の子はピンクでしょ?」
「考えが古い!!」
アミー「アホ共は放っておいて 先に観客を片付けるか」
観客「ううっ」
観客「頭が割れそう」
ブラック「やめろ、ホワイト! どうしたんだよ!?」
アミー「邪魔をするな」
ブラック「うっ」
レッド「ブラック!」
ブラック「・・・ピンク?」
レッド「私は──」
レッド「レッドだーっ!!」
アミー「ぐっ」
レッド「すごい力・・・」
アミー「どいつもこいつも── 目障りなんだよぉおおッ!!」
観客「きゃあああっ」
観客「外に逃げろ!!」
レッド「あっ・・・」
ブルー「私達に任せて!」
レッド「ブルー! グリーン!」
グリーン「A〜G列の人は私についてきて! 前の扉から外に出るよ!」
グリーン「推しじゃなくても我慢してよね!」
ブルー「それ以外の方はこちらへ!」
ブルー「後方の扉より離脱します!」
グリーン「あとは頼んだよ──」
「レッド!!」
レッド「うんっ!!」
ボス「え、やばい尊い」
ボス「ミリファイ推せる」
ツヴェルフ「いいからボスも外に! 気絶してるブラックさんも連れてって!」
ボス「はいはい」
ツヴェルフ「これで邪魔者はいなくなった」
ツヴェルフ「どちらが宇宙を征服するか、じっくりコンペティションしようじゃないか!!」
アミー「小癪なッ」
ツヴェルフ「・・・ッ」
ツヴェルフ「水でもかぶって反省しろ!!」
レッド「それコピーライトは大丈夫!?」
アミー「くっ、次から次へと・・・」
アミー「ぐうぅっ・・・」
アミー「こうなったら── 真の姿を見せてやろう!!」
アミー「ハッ」
ツヴェルフ(くっ、前が見えない)
アミー「覚悟!!」
レッド「ツーさん危ない!!」
レッド「きゃぁあっ」
ツヴェルフ「レッドさん!!」
レッド「うっ・・・」
ツヴェルフ「お前──」
ツヴェルフ「共に活動していた人を、 よく平気で傷付けられるな」
アミー「情報収集のために 仕方なく一緒にいただけさ」
アミー「それに、君だって同じ事をやろうとしていただろう」
ツヴェルフ「俺は・・・っ」
アミー「──なあ、うちで働かないか?」
ツヴェルフ「は?」
アミー「今よりもっといい条件で雇ってやるよ」
アミー「その甘い考えも、研修で矯正してやろう」
アミー「転職したまえ」
アミー「宇宙征服という目的は同じなんだから、 どこで働いても一緒だろう?」
ツヴェルフ「・・・違う」
ツヴェルフ「情がない怪人、情がない秘密結社に──」
ツヴェルフ「未来はなぁああいッ!!」
アミー「ぐぁぁあああーっ!!」
ツヴェルフ「レッドさん、大丈夫ですか!?」
レッド「ツーさん・・・」
レッド「このスーツのおかげか、怪我はないみたい」
ツヴェルフ「よかった・・・」
レッド「ぷっ」
レッド「怪人のくせに、まるでヒーローだね!」
〇怪しげな祭祀場
【数日後】
ボス「ホントにその姿で行くの?」
ツヴェルフ「変ですか?」
ボス「変っていうか地味」
ボス「何で十二面相の中で それだけそんなに平凡なんだろうな」
ツヴェルフ「ほっといてください!」
ボス「しかし、まさかホワイトの穴埋めとして ミリタリーパープルに勧誘されるとはねぇ」
ボス「ていうか、怪人とアイドルの 掛け持ちってどうなの?」
ツヴェルフ「じゃ、いってきまーす!」
ボス「副業、許可してないし・・・」
〇稽古場
グリーン「今日からツヴェルフ君も 稽古に参加するんだよね?」
ブルー「素顔と本名は教えてくれるのかしら」
ブラック「お、噂をすれば」
???「おはようございます」
???「皆さん普段はそんな感じなんですね」
「どちらさま・・・?」
???「あれっ、分かりません?」
レッド「おはよーっ!」
レッド「はぁ、遅刻するかと思った~!」
???「あ、レッドさん──」
???「って女子高生!?」
レッド「あ、ツーさん!」
「ツーさん!?」
グリーン「ビックリするほど普通!!」
ブルー「イキリオタには見えない」
ブラック「ははっ、着ぐるみの方がイケメンだったな」
ツヴェルフ(ブラックさんの定義で言うなら この変化も着ぐるみみたいなものだけど)
レッド「ううん!」
レッド「その姿が今までの中で一番カッコいい!」
ツヴェルフ「ありがとうございます」
ツヴェルフ(・・・なんだろう、この気持ち)
〇地球
怪人『十二面相』
彼の戦いは続く・・・!?
才能の塊ですね!! すごい方、見つけちゃいました🤩
込み入った設定を、すんなり見せる力もすごいんですけど…
二転三転、最後の姿も実は12 体の一つで誤解したまま終わってるのがひねりが効いて面白い。
アイドルを本物と誤解するの、映画『 ギャラクシー・クエスト』思い出しました😄
怪人の登場のさせ方が革新的で面白かったです🤗
盛り盛りで贅沢な作品でした🌟
すべての怪人を出すための設定が秀逸だと思いました。
ツーさんとボスのやりとりが軽妙で面白かったです!