第一話 クラスメイト(前編)(脚本)
〇オフィスビル
まだ薄暗い早朝──
〇雑居ビルの入口
〇屋上の入口
〇物置のある屋上
日高沙織「・・・・・・」
〇ビルの屋上
〇屋上の隅
〇お嬢様学校
清廉女子高等学校──
〇教室
1-Cの教室。
朝のホームルーム前──
柏木倫子(かしわぎりんこ)が、教室に入ってくる。
その視線は冷たく陰気で、周囲とは異質の空気をまとっている。
柏木倫子「・・・・・・」
柏木倫子(朝っぱらから鬱陶しい・・・)
クラスのギャルコンビが、倫子の席を占拠しているのだ。
梶浦美月「おまえそれ、ヤバいってマジで!」
安井千景「ほんと、超ヤバいよね~」
柏木倫子(金髪に付けまつげ・・・)
柏木倫子(まるで道化のような外見だな)
柏木倫子(これまでも視界の端にチラチラと入ってたけど、こうしてまともに眺めるのは初めてだ)
柏木倫子(やれやれ)
柏木倫子「・・・ここ、あたしの席なんだけど」
梶浦美月「オッス、柏木。今日もカワイイじゃん」
梶浦美月「ていうか授業以外であんたの声、初めて聞いたわ」
柏木倫子「・・・座りたいんだけど」
梶浦美月「あたしの膝の上に乗っていいよ(笑)」
柏木倫子「早くどいて──」
安井千景「ねえ、柏木ちゃんってどんな曲聞くの?」
安井千景「アニソンとかボカロとか?」
梶浦美月「それ、キモオタだろ」
柏木倫子「いいかげんに──」
安井千景「こんどカラオケいかない? 駅前のカラオケ屋、平日ならアイス食べ放題でさ~」
柏木倫子「・・・・・・」
倫子はあきらめ、無言で立ち去る。
〇女子トイレ
〇個室のトイレ
柏木倫子(不本意だけど・・・)
柏木倫子(ホームルームが始まるまで、ここで時間を潰すか)
倫子は便器に腰かけ、文庫本を読みはじめる。
〇教室
担任「席につけ~」
柏木倫子(まったく・・・)
ようやく自分の席に着くことができた倫子だが──
下品な机の落書きが、目に飛び込んでくる。
柏木倫子(あいつら・・・!)
担任「本校の自殺防止対策の一環として、今週から希望者には生徒相談を──」
〇古いアパート
柏木倫子(重い・・・)
今日も倫子は、スーパーで買い物をしてから帰宅する。
〇アパートのダイニング
柏木倫子「ふう・・・」
柏木倫子「お母さん、ただいま」
柏木朋子「アッハッハッ!」
柏木倫子「お母さん、お昼は──」
柏木朋子「アッハッハッ!」
居間では、朋子(ともこ)がいつものようにテレビ観賞にいそしんでいる。
柏木倫子「お昼はどうしたの?」
柏木朋子「ピザ。シーフードの」
柏木倫子「また? 高いでしょ、あれ」
柏木朋子「たまにだから~。 だっておいしいもん、あれ♪」
柏木倫子「あと、布団は干してくれた?」
柏木朋子「このコンビ嫌い。つまんない。早送り」
柏木倫子「布団は?」
柏木朋子「ん~、明日する。アーハッハッ!」
柏木倫子「お風呂掃除は?」
柏木朋子「あさって~。ところで夕飯はなに?」
柏木倫子「・・・ロールキャベツ。ひき肉が半額だったから」
柏木朋子「え~、ビーフシチューじゃないのぉ?」
柏木倫子「ダメよ、牛肉なんて高いんだから」
〇古いアパート
〇アパートのダイニング
柏木倫子「お母さん、ちゃんと布団を敷いて寝てね」
夕食後、食器洗いを終えた倫子は、自分の部屋に入る。
〇怪しい部屋
柏木倫子「さて、今夜も始めるか」
倫子は画面に表示された手書きの外国語を、ラテン語やギリシア語の辞書を引きながら日本語に翻訳し──
大学ノートに書き込んでいく。
柏木倫子「サンドル、いつのまに・・・」
柏木倫子「猫は気楽でいい・・・」
柏木倫子「さてと・・・」
倫子は翻訳作業を切り上げる。
机の引き出しから、1-Cのクラス集合写真を取り出す。
ハサミを手にすると、例のギャルコンビが写っている部分を切り取っていく。
柏木倫子「あとは──」
柏木倫子「ボトル入りの蜜蝋・・・」
柏木倫子(普通は、ハンドクリームやアロマキャンドルを作ったりするものらしいけど・・・)
〇お嬢様学校
〇明るい廊下
倫子は机の落書きを消すために、今朝は少し早めに登校した。
ギャル生徒「うわっマジ?」
ギャル生徒「この動画、ハードすぎない?」
美月のスマホからは、女性の卑猥な喘ぎ声が漏れ聞こえてくる。
梶浦美月「めっちゃデカイっしょ、こいつ! 黒人並みだよ」
柏木倫子(まるで豚だ)
教室の後ろの扉にむかう途中、廊下側の窓から、教室内の様子が目に入る。
柏木倫子「・・・・・・」
〇教室
倫子の机を、千景が洗剤を含ませたタオルでゴシゴシと拭いている。
安井千景「ふぅ・・・」
柏木倫子「・・・・・・」
柏木倫子(・・・消えてる。むしろ以前よりもキレイになってる)
柏木倫子「・・・・・・」
〇お嬢様学校
放課後──
〇学校脇の道
倫子は校門を出ると、いつもとは反対方向にむかう。
柏木倫子(あのスーパーの金曜の特売は外せない)
〇街中の道路
???「柏木ちゃ~ん!」
安井千景「いや~たまたま姿が見えたから。帰り道、こっちの方向じゃないっしょ」
柏木倫子「・・・寄るところがあるから」
安井千景「あたしも、ちょっと用事があるんだ。はい、これ」
安井千景「おごり。これ、超うまいよ」
柏木倫子「なんで?」
安井千景「落書きのおわび。消しといたからね」
柏木倫子「知ってるわ。あんたが描いたの?」
安井千景「いや、美月だけどさ」
安井千景「あいつ、ほんっとに性格悪くてバカだから。あたしも困ってんのよ」
柏木倫子「だったら縁を切ることね」
安井千景「そうもいかないっしょ。中学からのつきあいだからね~」
柏木倫子「私、ミルクはちょっと・・・」
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