新学期(脚本)
〇警察署の食堂
食堂。
がやがやと騒がしいけれど、
何となく空席が目立つ。俺はカツカレーを頼んで、誰も座っていない2席テーブルに座った。
なずな「前、良いですか」
びくり、と体を揺らす。
後輩と思しき女の子に声をかけられた。
知り合いでもないのに、なんなんだと思いつつ「ど、どうぞ」と許可をしてしまった。
彼女は礼を言ってカツカレーを机に置く。
彼女は、「いただきます」と言い、ふうふうしながらカツカレーを食べ始めた。
しかし、暑いものが苦手なのか食べる度に顔をしかめ、時々「からぃ」と小さく呟いている。
一通り食べ終わったのか、俺が見ていることに気付き、こちらに目を向けた。
なずな「初めまして。僕、なずなっていいます」
???「え、えぇと、はじめまして・・・俺は、」
なずな「2年の木田先輩ですよね。知ってますよ」
彼女、なずなちゃんは俺の言葉を遮って微笑む。
なずな「2年3組出席番号は10番ですね。部員2名の演劇部で部長をしていて、前回の中間試験の成績は学年45位でした」
なずな「好きな食べ物はカツ系で趣味は市民プールで泳ぐこと。長距離が苦手で短距離が得意なタイプです」
なずな「そして家からは地下鉄で登校していて定期は来月の2日に買い直さなければなりません。 そして今日の朝ごはんはパンでした」
「・・・・・・なんでそんなに俺の事に詳しいの?」
なずな「それは勿論あなたが好きだからです」
急展開すぎる。もはや罰ゲームを連想するレベルだ。変な子と関わっちゃったなと、食べ終わった皿を下げるため席を立った
なずな「ま、待ってください。僕、ずっと先輩に話しかけたかったんです。でも、先輩いつもお弁当だし、ここの学校下駄箱ないし、」
なずな「話しかけようにも先輩いつもお友達といるし・・・今しかなかったんです。──先輩!僕とお友達になってください!」
「・・・そこは付き合ってとかじゃないんだ」
なずな「え・・・初対面からそんなこと言ったって先輩断りそうだし・・・」
「えぇ、いやぁ、ストーカー紛いなことしてるし、友達もちょっと・・・」
なずな「そ、そんな・・・僕我慢したんですよ。先輩のこともっと知りたかったし先輩に早く近づきたかった」
なずな「連絡先だけでも交換してくれませんか・・・・・・?」
ぽろぽろと涙が零れていく。周りの雑音が静かになって、こちらに視線が集まっていた。
「先輩、僕のこと、嫌いなんですか、?前の好きな人にも、ストーカー気質な奴は嫌いだって言われたから、治したのに・・・・・・」
「・・・泣き落としは通用しないタイプなんで」
なずな「・・・」
「・・・」
俺の言葉を聞いた瞬間、なずなの表情が無機質なものになった。
なずな「・・・終わりです」
「なずなちゃん・・・!!泣けるようになったのか!すごいなぁ。 ボクっ娘も良かったぞ!」
なずな「・・・」
なずな「じゃあ、なんかキュンとし所ありましたか?」
「いやぁ、とくには・・・」
なずな「・・・」
「あの、俺のことについて羅列していくあの場面はなんだったの」
「俺が部活のオリエンテーションで言ったことを少し改良した程度じゃないか」
なずな「それは、色々聞いてたら次演じる性格がバレちゃうじゃないですか。そもそも、そんなに先輩について興味無いですし」
「え、えぇ・・・そう」
なぜだか少し悲しくなった
なずな「ヤンデレは事前準備がいりますね。次からは辞めておきます」
「でも、すごく良かったよ。次も楽しみにしてる」
──俺たちは演劇部所属の高校生だ。さっき演っていた青春?シーンは全て演技で俺達の最初の出会いは2ヶ月前に遡る。
〇学校の部室
先月、俺をめちゃくちゃ可愛がってくれていた先輩達が卒業した。
1年が俺1人。そして3年が4人いた。1年間5人で頑張ってきたのに、俺を置いていったのだ。
そして、今月末までに新入部員が入ってこなければこの部活は廃部になる。俺達の思い出は全てなくなってしまうのだ。
「無くなってしまうのは嫌だけど、それも運命かなぁ」
仮入部期間の終了日が2日後に迫る今、俺は諦めムードに入っていた。
すると、がらら、と部室の扉が開く。
なずな「あの、失礼します。ここって、演劇部ですか?」
「え!1年生!?そうです!!いらっしゃい!」
なずな「え、先輩1人だけなんですか・・・?」
「あぁ、うん・・・そうなの。ごめん・・・」
なずな「いや、別に、大丈夫ですけど」
「まぁ、なんにも無いけどとりあえず座りなよ」
なずな「あ、はい。失礼します」
微妙な沈黙が部室に広がる。
「あー、えっと、初めまして。俺は木田裕二です。2年3組で、あー出席番号は10番です。朝はパン派。君は?」
なずな「・・・私はなずなです。1年2組で、朝は基本食べません」
「・・・上の名前は?」
なずな「先輩めちゃくちゃ顔カッコ良いですね」
「えぇ、ありがとう?」
なずな「先輩には私のこと下の名前で呼んで欲しいです」
「?あぁそう・・・なずな、ちゃん?で良いの?」
なずな「はい、それで良いです」
なずなちゃんは、照れくさそうに頬をかいている。そのとき、セーターがズレて無数の線が引かれた手首が見えた。
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ぼくっ子かわいいですよね!
出だしから熱烈だなぁと思っていたら演技の練習だったんですね。笑
でも、なんとなくお互い満更でもない気がするんですよ。
ドキっとする冒頭のツカミから楽しく読ませてもらいました。何だか正体が謎だらけのなずなちゃん、これから少しずつ明らかになっていくのか楽しみです。
演技の上達の為に別人格を取り入れるとは面白い発想に共感しました。たしかに、十人十色で人の気持ちに成り代わる事って、色々なタイプの人物を演じる上で大切な練習かもしれませんね。先輩をドキッとさせるなずなちゃんは、演技の才能があるのでしょうね。