シェイド・ストーリーズ 第一話「タイムトラベラー」

GOTA

タイムトラベラー(脚本)

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〇シックなバー
  時間を飛び越えた先か…
  男がポツリと言った。路地裏の小さなバーのカウンター。客は男と連れの女だけだった。
男「人類はあらゆることを実現してきたんだ。」
女「明るい未来を信じて・・・ね。」
  女が軽く微笑えんだ。
男「タイムトラベル・・・ネックはエネルギーだった。」
女「物事には裏道があるのよ。」
男「そう、なんでもまっとうに正面からあたることはない。」
女「私たちみたいにね。」
  女は悪戯っ子のように笑い、カクテルを頼んだ。
  マスターは手際よく鮮やかなピンク色のカクテルを差し出す。
女「マスター、このカクテル美味しい。」
男「いい店ですね。」
マスター「ありがとうございます。 時代遅れの私の趣味でやってる店です。」
男「でも俺たちにはこういう静かなバーはうってつけの隠れ家だな。」
女「隠れても仕方ないわ。 全ては予定どおり。 ただ、私たちの出発が早まっただけ。」
男「こうして旨い酒が呑めるのも今夜が最後ってことだ。」
女「そういうこと。」
  女は淡々と続けた。
女「もう計画は変えられない。」
  男はやるせなさげな微笑みを浮かべ、ため息まじりに言った。
男「世界を終わりにするってのに君はいつもと変わらない・・・。」
女「そう見えるだけよ。」
男「過去の改変を観測することはできない。それは改変される前の世界が消失するからだ。改変は・・・。」
男「俺達の消失であり、今のこの時間が終わるということ。」
  女は男を一瞬見つめだが皮肉っぽく口元を緩めるとすぐに目をそらした。
女「変えることはできない。私たちがここにいること自体、逆転した因果律が全てを支配してるってことだから・・・。」
  女が言い終わった瞬間、壁の時計が止まった。
男「今日はこの時代で言うバレンタインデーだ。この時代の恋人達は皆、幸せそうだ。」
女「確かにね。私達とは違うわ。私達はただ、任務を遂行するだけ。」
  男は顔を曇らせた。
男「なあ・・・本当にこれでいいのか?。」
男「この世界を、今を終わらせることで本当に未来を変えられるのか・・・。」
女「分からない・・・ただ、未来がどう変わるのか、それは誰にも保証できないのよ。時間旅行ができても未来の保証は無理なのよ。」
男「だったら・・・未来は分からないからこそ今に価値があるんだよ。俺達は時を越えてここにいる。」
男「今、ここで何をするかで未来が変わるなら、何も終わらせることはないんじゃないか?時間て何だ?未来って何だ?」
女「面白いと思わない?所詮思うようにはならないのよ。スタートもゴールも表せない。ただ、流れ、元にはもどらないのが時間よ。」
男「俺達はその流れに逆らっているというのに・・・。」
女「もう遅いわ。もう無理なのよ。」
  女が目を伏せた途端、時計を見つめたままマスターも止まっていた。
男「もう後戻りはできないんだな。」
  二人は見つめ合った。男の顔が徐々に緩む。そして堰をきったかのように一気に笑い出した。
女「何よ!もう!あと少しだったのに!」
  と、言ったがつられて女も笑い出した。二人はそれぞれ何か言おうとするが笑いがそれを邪魔した。
  ひとしきり笑いが通りすぎるとようやく言葉が続いた。
田口(男)「悪い、ほんとごめん。明菜の顔がマジ過ぎて・・・。」
明菜(女)「何それ!もうちょっとでしょ!ほんといつもそうやって田口くんテイク重ねるんだから!」
田口(男)「ごめん、ほんとごめん。でも、全然変わらないなぁ。」
明菜(女)「そうよ、変わらないわよ、いつもそうやって吹き出してたし。」
  いつの間にか壁の時計の電池を変えていたマスターが不思議そうに二人を見つめていた。
田口(男)「どうマスター?カメラ回ってたら結構いい感じのSFサスペンス撮れてたと思いませんか?」
明菜(女)「私達、学生の頃、映画研究会にいたの。今日、十年ぶりに偶然、再会したの。」
田口(男)「昔よく映画作りの練習兼ねて即興演技対決やっててさ。久しぶりにやっちゃったんです。」
明菜(女)「ブランクありありだけどそれなりによかったでしょ?」
マスター「すごい演技でしたよ。本当に時間旅行者がきたのか、これはヤバいなって覚悟を決めましたよ。」
田口(男)「覚悟って・・・のってくれてありがとうマスター。」
明菜(女)「これにてSFサスペンス「エンド・オブ・ザワールド」クランクアップ。こんなお遊びにお店使っちゃってごめんなさい。」
明菜(女)「さて、きりのいいとこでそろそろ私は退散かな。ごちそうさま・・・でよいのか?」
田口(男)「いいよ。」
明菜(女)「ごちそうさま。」
  深々と頭を下げ、そして明菜は帰り支度を始める。
田口(男)「俺はも少し酔ってから返るよ」
明菜(女)「あら、そう。じゃあ私はこれで。本当に久しぶりで楽しかったぁ。ありがと田口くん」
  手を振りながら明菜は出ていく。見送った田口が独り言のようにつぶやく。
田口(男)「もしも本当にタイムトラベルできたなら・・・。」
  グラスを拭いているマスターに向かって田口は言った。
田口(男)「あいつはあの頃と変わらない。わずかだけど本当に時間旅行したみたいだ。」
田口(男)「学生の時、付き合ってた俺達は些細なことで別れた。やり直そうが二人して言えなくて・・・離ればなれになって・・・久々の再会。」
  グラスに琥珀色のカクテルを注ぎながらマスターが言う。
マスター「時間に地図があればゴールは違ったかも知れませんね。」
  田口は寂しげな笑みを浮かべグラスに目をやる。
マスター「私から路地裏のタイムトラベラーに。」
  微笑むマスターに笑みを返し、田口はグラスをあおった。
田口(男)「ありがとマスター。しかし、タイムトラベラーなんて突拍子もなかったね。」
マスター「いや、ひそかに時間旅行者はいたりするんじゃないですかね。」
田口(男)「そう思う方が夢があるかな。ありがとう。さあ時間旅行から帰還するよ。ごちそうさま。」
  カードで支払いを済ませ、路地裏のタイムトラベラーは雑踏に紛れた。
マスター「一瞬、焦ったな。まあ、任務はとうに済んでるんだ。俺にはもう関係ないんだタイムリープは・・・。」
マスター「だが、あれは処分するか・・・」
  マスターがふと見つめた棚のボトルの影、客からは見えないように古びた写真立てが置かれていた。
  納められているセピア色の写真には・・・。
  第二次世界大戦の大日本帝国陸軍九七式中戦車と、軍服に身を包み、戦車に手をかけ微笑む、少し若い頃のマスターがいた・・・

コメント

  • タイムトラベラーって、ひょっとしたら周りにもいるのかもって思いました。
    不思議なことって、実は現実でも起きていて、みんながそれに気づかないだけ…だったり。

  • ストーリーの展開がとても上手に構成されていて、また会話の内容もテンポがあり、描写がきれいでイメージしながら話を読ませて頂きました。

  • イラストと文章がぴったりで物語の世界に引き込まれました。タイムトラベラーとは自分になじみのない言葉でしたが、最後マスターからのサプライズを受けて時空を超えたような気分になりました。

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