Riverside Baron ~蓬莱番外地~

山本律磨

エネミー・オブ・エンパイア(3)(脚本)

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〇暖炉のある小屋
デンキ「うりゃ!」
ヒナ「おー。新しいお面だね」
デンキ「で、バロンはどこ?」
ヒナ「まだ川っぺりで自主練してる」
トラ「へえ。感心なこった」
デンキ「仮面のバロン復活も近そうだね」
ヒナ「・・・」
トラ「どうした?」
ヒナ「あんなマジメな奴だったかなと思ってさ」
トラ「・・・」
デンキ「バロンは真面目だよ」
デンキ「人知れず練習してるの何回も見たよ、俺」
トラ「確かに。そうだったな」
ヒナ「オイラ、見たことねえぞ」
トラ「見られたくなかったんだろ、芸事の師匠としては」
ヒナ「器、ちっちゃ」
ヒナ「な、なに?」
「すまない。誰かいるかい?」
ヒナ「ど、どちらさんですか?」
「怪しいものではない。少々かくまってもらえないだろうか」
ヒナ「かくまうって・・・充分怪しいんですけど」
ヒナ「他所行って下さい」
「分かった。じゃあせめて官憲が来ても内密にしておいてくれ」
トラ「官憲?」
トラ「あんた、活動家か何かか?」
「ああ。格差階級を根絶すべく、日々戦っている」
トラ「・・・」
トラ「なあヒナ。助けてやんねえか?」
ヒナ「え?」
トラ「妙な真似したら俺が守ってやる」
ヒナ「でも・・・」
トラ「俺達だって、この街に助けられた。そうだろう・・・」
ヒナ「・・・」
根室「すまないね。恩に着るよ」
根室「僕の名は根室清濁。世を忍ぶ仮の姿としてはアーチストだが」
根室「革命もまあ、アートのようなものだ。なんてね」
  革命家、根室清濁
トラ「根室・・・」
トラ「あんた、根室清濁か!」
デンキ「マジで?すっげえ」
ヒナ「え?誰?」
トラ「オオスギアマネの無二の戦友だよ!」
ヒナ「誰?オオスギって?」
デンキ「美しきけものの一人だよ!」
ヒナ「何?美しきけものって?」
根室「ははは。お嬢ちゃんにはまだ少し早い大人の世界の住人さ」
ヒナ「馬鹿にすんねい!」
根室「あれ?」
根室「君、どこかで会ったことある?」
ヒナ「知るか手前みたいな青瓢箪」
ヒナ「新手のナンパか?ああん?」
デンキ「いや~光栄ですよ。美しきけものたちと言えば、俺ら労働者の希望の光」
トラ「日本の労働運動は米騒動によって生まれ、露革命によって刺激された!」
トラ「オーバーコートから白い襟巻をたなびかせ叫ぶ演壇のオオスギ氏の雄姿、今も忘れられません」
根室「オオスギか・・・僕に言わせれば過去の遺物だよ」
根室「革命運動は最早演説ではなく行動の時代に入った。地下で議論を戦わせるまどろっこしい真似はデモクラシイの衰微を招くものである」
トラ「根室さん・・・」
トラ「よかったら俺んちに来てくれませんか?」
トラ「もっと色々、話を聞かせて下さい」
デンキ「お、俺も聞きたいっす」
根室「構わないよ。なにかの縁だ」
トラ「じゃあな、ヒナ」
ヒナ「お、おう」
根室「お嬢ちゃんも来るかい?」
ヒナ「いいっす」
根室「原始、女は太陽だった。今は月である」
根室「覚えておきたまえ」
ヒナ「意味わかんねえ・・・」

〇怪しい実験室
美島「しかしあれよね」
美島「陸軍病院ではしらばっくれ」
美島「ミルクホールではヒステリー」
美島「今度は謎の地下室に呼び出しときた」
美島「並の女なら縁切ってるところよ」
最上「色々すまない」
最上「その変わり、今回手に入れた情報は好きにしていい」
美島「当り前じゃないの。司令部から飛ばされた人間に情報統制の権利なんてないわ」
最上「新しい司令に比べたら、まだ君の方が信用できるからな」
美島「『使い道がある』くらいは言いなさいな。そんな弱腰じゃ出世できないわよ」
興行主「いやいやすみませんねえ。年を取ると小便が近くなって」
興行主「で、どこまでお話ししましたっけ?」
最上「ええと・・・被害者は本当に、来栖川司令一人だったんですか?」
興行主「はい。まあ火災の規模のわりに爆発自体は小規模なものでしたから」
美島「この奈落からガスを送り上の舞台に火柱を出す仕掛けになっていた」
美島「爆発はあくまでも事故、という事ですか?」
興行主「はい。警察の検分も済んでいます」
最上「仕掛けを操作していた人間は?」
興行主「死にましたよ。まあこの奈落の爆発事故が影響して上も爆発したんですからね」
最上「物騒な仕掛けを作るからだ」
興行主「警告なら考えた人に言って下さい」
最上「生きているのか?」
興行主「当然でしょう?考えただけなんですから」
興行主「もっとも仕掛けを作った業者も考えた人間も今は行方をくらまして。全くいい迷惑ですよ」
美島「その業者と仕掛けの発案者とは?」
興行主「それが捜査の関係でお教えできないのです」
美島「警察から口止めされているのですか?」
興行主「時世がら、どこに『仲間』がいるか分からないからと」
美島「仲間?」
最上「仕掛けを考えたのは活動家なのか!貴様、革命の輩とつるんで興行をしていたのか!」
興行主「め、滅相もない!」
興行主「ただ芸能関係と裏の世界は表裏一体です。どこで誰が繋がっているか分かったもんではない。そういう意味です」
興行主「私自身も鬼刑事やら憲兵やらにこってり絞られたんです。もう勘弁して下さいよ」
興行主「被害者はこっちだと言うのに、全く・・・」
美島「これ以上の話は聞けそうもないわね」
最上「あ、そうだ」
最上「司令の傍にバイオリンが落ちていたらしいのだが、心当たりはないか?」
興行主「ああ、それは仮面のバロンのものでしょう」
美島「仮面のバロンが出ていたのですか?」
最上「誰だ?」
美島「バロン吉宗。蓬莱街の道化師よ」
美島「赤面症で、舞台の上では仮面をつけているから、通称仮面のバロン」
興行主「ちょうど爆発の時に演奏していたらしいですが、上手く逃げのびたそうで何よりです」
最上「男爵は亡くなりバロンは助かったか・・・」
美島「皮肉ね・・・」

〇結婚式場の前
美島「結局、大した話は聞けなかったわね」
最上「ああ。家で新聞読んでた方がマシだったよ」
美島「購買は我が帝都日報を宜しく」
最上「軍服に怯んで何か有益な情報を引き出せると思っていたが」
美島「は?情報引き出すつもりだったの?」
美島「世間話をしに来たとばっかり」
最上「い、一応凄んではいたじゃないか」
美島「どこが?」
最上「眉間の皺とか、声の調子とか」
美島「本当、向いてないわね。軍人に」
最上「そうかな?」
美島「来栖川少将とまではいかなくても、もっとこう目つきや口元に冷酷さを帯びて」
美島「そうそうこんな感じ」
美島「うわっ!誰?」
最上「天粕中尉」
天粕「今は大尉だ」
天粕「新聞屋とつるんで何を嗅ぎ回っている」
美島「なんで知ってるのよ私のこと」
美島「超チクり」
最上「ご、誤解だ!」
天粕「最上からは何も聞いてはおらん。ただ我らは憲兵、である。調査が勤めだ」
美島「だとしたら最上君とは比べものにならないほど優秀ね」
天粕「比べてやらんでくれ。気の毒だ」
最上「・・・」
美島「泣くな」
美島「で、その天粕大尉が何のご用ですか?」
美島「用がないならデートの邪魔なんで遠慮してもらえます?」
最上「え?」
天粕「冗談はやめろ。女は下がっておれ」
美島「冗談だけど下がらないわよ」
最上「冗談・・・」
美島「泣くな」
美島「ちょっと、何すんのよ!」
天粕「来栖川司令の死、に疑念を持っているのだろう」
最上「・・・」
最上「大芸能博覧会の情報を閣下に教えたのは、大泉新司令だ」
美島「え?」
最上「閣下は仰っていた。祭りに乗じて『美しきけもの』達が蠢動するやも知れぬと」
最上「といって、大っぴらに兵隊を動かし小心を曝け出すわけにはいかんと」
最上「俺には閣下が大泉新司令にそそのかされてこの場所に誘導されたように思えてならないんだ」
天粕「その疑念に司令が気づいてないと思っているのか?」
最上「え?」
天粕「司令がお前を地方に飛ばさず帝都に留めているのは監視するためだ。お前の動き、は大泉司令の手の中にある」
最上「・・・」
天粕「最上。これ以上司令部の権力闘争、に首を突っ込むな」
天粕「遠からず俺がすくい上げてやる。それまで大人しくしていろ」
天粕「それとその女狐、とは別れろ」
天粕「必要なら嫁の方も紹介してやる」
美島「・・・さ」
最上「さ?」
美島「最ッッッッッッッッッッッッッッッッ低!」
最上「一緒にしないでくれ」
最上「俺は無能なんだから」
美島「グチグチ言わないの」
美島「あーイライラする!何か食べに行こう!」
最上「・・・え?」
美島「もう、早く着替えて来て!憲兵隊に睨まれてるんでしょ!」
最上「・・・」
最上「閣下。天上では如何お過ごしですか?」
最上「俺は・・・ちょっと幸せです」

〇廃倉庫
「うるせえ!とっとと寝ろバカ親父!」
義孝「・・・」
義孝「・・・寒い」

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