アライメンツ・ダブル

奈尚

ツイン・アライメンツ(脚本)

アライメンツ・ダブル

奈尚

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アライメンツ・ダブル
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〇学生の一人部屋
  夜。
  いつも、決まって同じ夢を見る
  幼い頃の夢
  まぶしくて、こそばゆくて
  胸の奥でくすぶるような、そんな夢を
明来(あくる)「いよっしゃー! オレ達の優勝ー!! 見たかネトゲ廃人どもー!!」
明来(あくる)「やったな栫(かこい)! オレ達最強ー!」
栫(かこい)「うんっ! 明来(あくる)最強ー!!」
明来(あくる)「ちげーって。オレが、じゃないの。 オレ達が最強なの」
明来(あくる)「だってオレと栫は最高のバディだから! だろ?」
栫(かこい)「うん! 私達、最強ー!!」
明来(あくる)「いえーい! 最強ー!!」

「エリア700より本部! 緊急事態! 繰り返す! 緊急事態!!」
「エリア700-QA25にて、暴走車による 多重事故が発生する『可能性』を検知!!」
「至急『ホール・バグ』を探索せよ!!」
  ああ。まだもう少し、眠っていたいのに
「──接続(コネクト)」
「仮想現実『ノア』にアクセス。 脳波と電脳空間の同調まで240秒」
「どうかよき、電子の旅を」

〇電脳空間
枝振手(えぶりで)「総員配置!! 予想時刻までもう間がない」
枝振手(えぶりで)「一刻も早く『ホール・バグ』を見つけるんだ」
枝振手(えぶりで)「今度こそ事故を未然に防げ!!」
駆け出しの隊員「チーム・クジラ、ただいま到着しました」
枝振手(えぶりで)「遅いぞ! とっくに報告期限は過ぎている!」
駆け出しの隊員「す、すいません。アクセスに時間が かかっちゃって」
駆け出しの隊員「コードが断線でもしているのかなぁ。 パソコンに接続してもなかなか応答しなくて」
枝振手(えぶりで)「たるんどるな・・・・・・」
枝振手(えぶりで)「まあいい。では座標x-514へ移動だ」
枝振手(えぶりで)「バグはまず間違いなくx座標付近にある。 俺の勘がそう言っている」
駆け出しの隊員「えー? そうっスかねぇ」
駆け出しの隊員「あっちには何もないんじゃないかなぁ」
枝振手(えぶりで)「なぬ?」
駆け出しの隊員「もー相変わらず勘が鈍いなぁ、枝振手サン」
駆け出しの隊員「そんなんだから、いつも見す見すタイム オーバーしちゃうんだって」
明来(あくる)「けどオレが来たからには大丈夫。 バグなんて秒で解消してやるから安心しな」
枝振手(えぶりで)「お前、伊知賢(いちさか)!!」
明来(あくる)「あれれー、もしかして驚いてる? 全く気づかなかった?」
明来(あくる)「ここは電脳空間。 ちょっとテクスチャを上書きしてやれば」
明来(あくる)「変装なんてお手のもの。だろ?」
枝振手(えぶりで)「お前、またハッキングを! 不法侵入だぞ! 不法! 侵入!!」
明来(あくる)「んな硬いこと言うなって」
明来(あくる)「その分きっちり仕事するからさ」
枝振手(えぶりで)「あっ、待てこらっ!」
駆け出しの隊員「チーム・クジラ、ただいま到着しました。 遅くなって申し訳ありません!」
枝振手(えぶりで)「えー」
駆け出しの隊員「いやー、コードが断線でもしたんですかね。 なかなか接続が」
枝振手(えぶりで)「いや、もういい。それはさっき聞いた」
駆け出しの隊員「は?」
駆け出しの隊員「それより、さっき駆けていった女の子は 誰です? チームにあんな子いましたっけ」
枝振手(えぶりで)「いないよ。あれはただの侵入者だ」
枝振手(えぶりで)「それより急げ! あいつを追いかける」
駆け出しの隊員「えっ、あの子をですか。なんで」
駆け出しの隊員「ホール・バグを見つけるのが最優先任務 では?」
枝振手(えぶりで)「違う。いや、そうなんだが結局のところ」
枝振手(えぶりで)「その2つは恐らく『同じ結果』になるんだ。 忌々しいことにな」
枝振手(えぶりで)「あと念のために言っておくが あいつの名前は伊知賢 明来」
枝振手(えぶりで)「元・特級アライメント。男だ」
枝振手(えぶりで)「行くぞ」
駆け出しの隊員「へえー、明来ちゃんっていうのかぁ」
駆け出しの隊員「えっ?」
駆け出しの隊員「男!? あれで!?」
駆け出しの隊員「嘘ォ!?」

〇サイバー空間
明来(あくる)「ふむ。ここら辺、かな」
明来(あくる)「どれ・・・・・・くんくん」
  ここは電子の海底。言うまでもなく
  周囲も、自分自身さえも
  無機質な文字の羅列でできているわけで
明来(あくる)(匂いがするのかって訊かれると そうじゃない、わけなんだけれど)
明来(あくる)(こればっかりは感覚というか 五感になぞらえると嗅覚っぽいというか)
  要するに勘だ
  説明はできないが、これだと感じる
  第六感。明来はこれが異様に優れていた。
明来(あくる)(勿論、調査も経験も積んではいるけど)
明来(あくる)(最後に頼りになるのは自分自身、ってね)
明来(あくる)「・・・・・・・・・・・・」
  ────レ────ゲロ────
  ────ト────ヤク────
明来(あくる)「そこだッ!!」
明来(あくる)「接続(コネクト)!」
明来(あくる)「うえぇっ」
  コードを介して、おびただしい情報が
  頭の中に流れ込んでくる
明来(あくる)「キモいぃ! けど、とらえた!!」
明来(あくる)「こンの、くらえっ!!」
  ホール・バグ用に開発されたワクチンを
  データ波の発信元へ送り込む。
明来(あくる)(よし。データの流れが穏やかになってきた)
明来(あくる)(残念・・・・・・ここにも『いなかった』か)
明来(あくる)(おつかれさん。ゆっくり休みな)
  その様子をふたりはしっかり目撃していた
駆け出しの隊員「すげぇ。本当にバグを見つけちまった」
駆け出しの隊員「さすがは特級アライメント。 元、だけど」
駆け出しの隊員「む。もしもし」
駆け出しの隊員「は。了解です」
駆け出しの隊員「暴走車、無事にコントロールを取り戻した そうです」
駆け出しの隊員「やりましたね。本当にあの子、大手柄だ」
枝振手(えぶりで)「よし今だ。あいつを捕縛するぞ」
駆け出しの隊員「へ? なんで?」
枝振手(えぶりで)「言っただろう。あいつは不法侵入者。 これはその現場だ。現行犯逮捕だ」
枝振手(えぶりで)「今日こそはこってり絞ってやる」
駆け出しの隊員「えー」
駆け出しの隊員「せっかく、俺達にできないバグ修理を やってくれたのに」
枝振手(えぶりで)「む。そこを突かれると痛・・・・・・ いやいやいや」
駆け出しの隊員「それに捕まえるなんてことできるんスか? ここ電脳空間ですよ?」
駆け出しの隊員「ログアウトされたら簡単に逃げられちゃう じゃないスか」
枝振手(えぶりで)「その件に関しては問題ない」
枝振手(えぶりで)「実はあいつには、アライメントとしては 致命的な欠点があるんだ」
駆け出しの隊員「欠点?」
枝振手(えぶりで)「そう。アライメントは本来、現実世界と 電脳の世界を自由に行き来できる」
枝振手(えぶりで)「コード一本で入るも出るも思いのままだ」
枝振手(えぶりで)「だが伊知賢にはそれができない」
枝振手(えぶりで)「つまり奴は電子の海に飛び込んだが最後 自力じゃここから出られないんだ」
枝振手(えぶりで)「アライメント資格を剥奪されたのも その欠点があったからだ」
枝振手(えぶりで)「何かのはずみで、二度とここから出られなくなってしまっては危険だからね」
枝振手(えぶりで)「以前、ここに侵入した時は あいつを手助けする仲間がいたが」
枝振手(えぶりで)「そいつは我々の組織が身元を割り出し 協力を断念させた」
枝振手(えぶりで)「見たところ、今日のあいつはひとりだ。 サポートする人間はもういない」
枝振手(えぶりで)「観念するんだな伊知賢。今度こそお前の 好き勝手に終止符を打ってやる!」
明来(あくる)「と、思うだろ?」
枝振手(えぶりで)「ッ!?」
明来(あくる)「へへっ、残念でした」
枝振手(えぶりで)「ろ、ログアウトした!? そんな馬鹿な」
枝振手(えぶりで)(自力のログアウトはできない。 近くに協力者がいる気配もない。とすると)
枝振手(えぶりで)「外か! 何者かが現実世界から 遠隔操作で奴を脱出させた!!」
枝振手(えぶりで)「そんな離れ業、普通の人間には不可能だ。 それこそ、特級のアライメントしか」
枝振手(えぶりで)「・・・・・・・・・・・・?」

〇おしゃれな居間
???「ご明察」
  せわしなくキーボードを叩きながら
  淡海 響(おうみ きょう)はひとりごちた
響(きょう)「明来は警戒の必要なしと言っていたが さすがに切れ者だな、枝振手デバッガー」
響(きょう)「だが、今回『も』そっちの負けだ」
響(きょう)「悪いが、こちらには私がいるのでね」
響(きょう)「──接続(コネクト)」
響(きょう)「対象・伊知賢 明来。抽出開始」
  指がキーボードの上を滑る。
  莫大なデータが流れていく。
響(きょう)(プリンの型抜きみたいなものだ。 データ化した人格のサルベージは)
響(きょう)(強すぎてもいけない。弱すぎてもいけない)
響(きょう)(早すぎても遅すぎても、 近すぎても遠すぎてもいけない)
響(きょう)(ここぞという会心の一点。 そこだけが──)
響(きょう)「見つけた──そこだッ!!」
  間髪入れず中指がエンターキーを叩く
  確かな手応えがあった
明来(あくる)「ん・・・・・・」
響(きょう)「ふう」
明来(あくる)「おっ」
明来(あくる)「なんだよ、顔色悪いぞ響。 もしかして緊張した?」
明来(あくる)「ま、この天才の命を預かったってなりゃ 仕方ないかぁ」
響(きょう)「馬鹿言わない。これくらい成功して当然」
響(きょう)「緊張なんてこれっぽっちも」
明来(あくる)「そっか。さすがは響」
明来(あくる)「オレの見込んだバデ──」
明来(あくる)「・・・・・・なんでもない」
明来(あくる)「なんか疲れたから、今日はもう休むわ」
明来(あくる)「おつかれ。おかげで助かった」
響(きょう)「おつかれ」

〇女の子の二人部屋
明来(あくる)「たっだいまー」
  わざと明るく、白々しいほど元気に
  声をあげる
明来(あくる)「なぁ聞いてくれよ。また枝振手の野郎に 出くわしてさー」
  ベッドの上の『彼女』は微動だにしない
明来(あくる)「君の事は、また見つけられなかった」
明来(あくる)「けど安心して! きっと必ず見つけ出す」
明来(あくる)「電子の海に呑まれた君の人格は このオレが! 必ず!!」
明来(あくる)「その為の特級アライメントだ!! その為のバグ探しだ!!」
  夜。決まって幼い頃の夢を見る
  その理由を、オレはよく知っている
明来(あくる)「その為にも、もっともっとバグを 解消していかないとな」
明来(あくる)「だから安心して、もう少しだけ待っていてよ」
明来(あくる)「ね、栫」
明来(あくる)「オレの唯一の、最高のバディ」

次のエピソード:ニュー・アライバル

コメント

  • コードのバグをコードとワクチンで修整する...ビジュアルでの表現が斬新でした。続きが楽しみです!

  • 電脳世界と現実世界、それをうまく切り分けることで逃げたりもできるわけですね!
    現代ならではというか、近未来感がありとても面白かったです!

  • 奈尚さんの描くサイエンス・フィクション堪りませんね!
    明来君は電子の海から彼女を取り戻せるのか。
    目が離せません!

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