ニュー・アライバル(脚本)
〇カウンター席
オレが初めて響と出会ったのは
待ち合わせに指定した喫茶店だった。
明来(あくる)「初めまして。オレが伊知賢 明来」
明来(あくる)「淡海 響(おうみ きょう)さんだよね。 オレの出した求人に応じてくれた」
明来(あくる)「バグ潰しに協力してくれるっていう アライメント」
依頼の内容は包み隠さず話した。
自分にはアライメントとして『欠陥』が
あること。
危険が伴う非公式のノア潜入の事。
捕まれば厳重処分は避けられない事。
そして、前任者には何人も逃げられた事。
響(きょう)「分かりました。協力します。 私にできる範囲なら、だけど」
明来(あくる)「え、マジで!? やった、助かる」
明来(あくる)「正直、断られるって覚悟してたんだよね。 こんな変な依頼」
明来(あくる)「え、ええと、じゃあ実際の動き方とか 打ち合わせは後で実地でやるとして」
明来(あくる)「後は、バグやノアについてのすり合わせと 少し訊きたい事が」
明来(あくる)「本当に大丈夫? オレが言うのもなんだけど そっちにメリットは殆どない」
明来(あくる)「むしろデメリットしかないかも。最悪 アライメントとして活動できなくなったり」
響(きょう)「ああ、勿論。分かっています」
響(きょう)「けど、大事な仕事なんでしょう? 私が受けなくても、他の誰かを探して」
響(きょう)「あなたはきっと同じ事をする」
響(きょう)「それなら、私が受けておこうかなって」
響(きょう)「それに三級クラスの私の実力じゃ、そもそも」
響(きょう)「国公アライメンツ就職は無理めなんで。 このまま諦めてしまうよりも」
響(きょう)「あなたの依頼にかこつけて、アライメントの 真似をしてみるのもいいかもな、って」
明来(あくる)「ふふ、今のは冗談だと思っておく。 どう見ても優秀だから、あんた」
明来(あくる)「そうだな。どうせだから話しておくか」
今でも我ながら不思議な気分に襲われる
明来(あくる)「オレのこの髪は、願かけなんだ」
誰にも打ち明けてこなかった『秘密』を
どうして響には話そうと思ったのか、って
明来(あくる)「ああ勿論、大前提として」
明来(あくる)「この姿のオレが、最高にイケてて お気に入りってのはある」
明来(あくる)「キレーだろ? 夕陽みたいな色でさ」
明来(あくる)「けど、それとは別に」
明来(あくる)「これは、忘れないためなんだ。 オレのとても大切な人」
明来(あくる)「最高な奴が確かにここにいる、って事を」
明来(あくる)「世界が忘れてしまわないように」
明来(あくる)「栫、って言うんだ。その子。 彼女は今もきっと、ノアをさまよっている」
明来(あくる)「『ホール・バグ』に巻き込まれたんだ。 そのまま行方不明になっちまった」
明来(あくる)「からっぽのカラダひとつ残してさ」
明来(あくる)「きっと栫は中でオレを待っている」
明来(あくる)「だから、探してやらなきゃ。オレが」
明来(あくる)「仲間になってくれとは言わない。 理解もされなくてもいい」
明来(あくる)「ただ契約してくれるだけでいいんだ」
明来(あくる)「オレが栫の代わりでなくなるまでの間」
明来(あくる)「オレの『スキ』を埋めてくれ」
〇公園通り
アナウンサー「それでは次のニュースです」
アナウンサー「昨日、エリア700を走行中の車が 突如コントロールを失い暴走した事件は」
アナウンサー「国公アライメンツの活躍により ひとつの事故も起こさず正常化されました」
アナウンサー「現場から、関係者の声をお届けします」
運転手「急にハンドルが効かなくなった時は本当 肝が冷えましたよ」
運転手「いつもの道を普通に走っていただけで 心当たりが全くなかったんですから」
運転手「気を抜けば大事故、下手すりゃ命だって 危ないかもしれないと覚悟しました」
運転手「だから、車が減速し始めた時には心底 ホッとしましたよ」
運転手「本当、アライメンツ様々って奴です」
アナウンサー「鮮やかなバグ発見と解消、さすがの一言 ですね」
アナウンサー「解説の七百万(なおろず)さん?」
七百万(なおろず)「はい」
七百万(なおろず)「皆さんご存知の通り、この世界は今や 仮想空間『ノア』なしでは立ち行きません」
七百万(なおろず)「物流、公共交通機関、エネルギー管理」
七百万(なおろず)「ありとあらゆるものが、ノアに配備された 最新のプログラムにより管理されています」
七百万(なおろず)「このノアのおかげで、我々の生活は大変 豊かで便利に、そして安全になりました」
七百万(なおろず)「もはやノアなしの生活など考えられない ほどです」
七百万(なおろず)「しかしながら、どんなに優れた万能 プログラムにもバグがついて回る」
七百万(なおろず)「ノアは広大かつ複雑なクジラ。一方で バグは小さく素早いノミのようなもの」
七百万(なおろず)「ノアの外からそんなバグを見つけるのは 至難の業です」
七百万(なおろず)「それを解決してくれるのが、アライメンツ と呼ばれる人々なのですな」
七百万(なおろず)「彼らは生まれもった能力、あるいは 後天的に専門の訓練を受けることで」
七百万(なおろず)「脳波をノアと同調させ、仮想空間中へ 意識を入り込ませることができるのです」
七百万(なおろず)「つまり彼らは、この新世界を護り支える ニュー・ヒーローというわけです」
〇おしゃれな居間
明来(あくる)「・・・・・・・・・・・・」
響(きょう)「おはよう、明来」
響(きょう)「なんだ、やけにごきげんだね」
響(きょう)「ああ、なるほど」
響(きょう)「自分の活躍が報道されて浮かれている、と」
響(きょう)「いや失言。正当な評価を得てご満悦 ってところか」
明来(あくる)「ち、違うし! ニュース見ていただけだし!」
明来(あくる)「大体、これくらい想定の範囲内って言うか むしろ当然って言うか」
明来(あくる)「オレの実力、まだまだこんなもんじゃないし」
響(きょう)「と言いつつ、顔とセリフが一致してない」
明来(あくる)「コホン」
明来(あくる)「ま、実際に褒められるのはオレじゃなくて 枝振手なんだけど」
明来(あくる)「枝振手の奴、今頃カンカンだろうなー」
響(きょう)「なぜ? 評価されるのに? 彼にとっては棚ぼたもいいところじゃ」
明来(あくる)「そうさ。だからだよ」
明来(あくる)「そーいう面倒くさい奴なんだよ 枝振手は」
響(きょう)「ふう、ん?」
明来(あくる)「きっとくしゃみ連発してるな、あいつ」
明来(あくる)「っと、ウワサをすれば」
明来(あくる)「盗聴器が緊急通信を拾ったらしい」
「エリア222より本部! 緊急事態! 繰り返す! 緊急事態!!」
「エリア222-MW51で複数人の児童が ノア管理下から『消失』したとの報告あり!!」
「至急、原因を究明されたし!!」
明来(あくる)「子どもが──消失!」
響(きょう)「・・・・・・似ている?」
明来(あくる)「・・・・・・・・・・・・」
明来(あくる)「いや。正直、わかんない」
明来(あくる)「でも、可能性はあると思う」
明来(あくる)「どちらにせよ、やる事は同じだ」
明来(あくる)「侵入して、解決して、探すだけ」
明来(あくる)「そこに栫がいればオレは絶対に見つけ出す。 だから問題ない」
明来(あくる)「んだからまあ、ちょっと行ってくるわ」
響(きょう)「分かった。サポートする」
明来(あくる)「そうだ。さっきのニュースでさ、響も 褒められてたよ」
明来(あくる)「ノアの外から見たら、個々のデータなんて ノミかゴミみたいなもん」
明来(あくる)「それを見つけ出すなんて、普通は無理 ってさ」
響(きょう)「大げさだよ。そんな大した事じゃない」
響(きょう)「そうだな。バグはともかく、人の存在証明 データはもう少しサイズがある」
響(きょう)「その形式でたとえるならそう、米粒くらい、 かな?」
明来(あくる)「なるほど。米粒ねえ」
明来(あくる)「それならまあ、もう少しマシか」
明来(あくる)「米粒なら、頑張りゃ写経もできるもんな! ふふっ」
明来(あくる)「それじゃあ米粒、行ってきまぁす!! なんちゃって」
響(きょう)「・・・・・・・・・・・・」
響(きょう)(そう。そんな難しい事じゃない)
響(きょう)(明来の『データ』の癖や雰囲気は覚えたし)
響(きょう)(明来の方からも、見つけやすいように アプローチを返してくれる)
響(きょう)(むしろ分かりやすくていい。 『契約』した分の働きをするだけなら)
響(きょう)(私だってアライメントだ。 その能力で事足りるならこんな簡単な事は)
響(きょう)「っと、いけない。集中、集中」
響(きょう)「ちょっと盗み聞きさせてもらうよ、 面倒くさい枝振手さん」
枝振手(えぶりで)「総員、至急配置につけ! フォーメーションはシロナガス!!」
枝振手(えぶりで)「どんな些細な異常も見逃すな! バグは必ずこの付近に巣食っている!!」
響(きょう)「・・・・・・なるほど。確かにこれは 随分と虫の居所が悪そうだ」
響(きょう)「各種パラメータ抽出。 3次元座標計算。位置入力を算出──」
響(きょう)「・・・・・・ん?」
〇電脳空間
明来(あくる)「よっ、と」
明来(あくる)「っし、スムーズスムーズ。さすが天才」
明来(あくる)「ほんと、帰る事さえ考えなければ 楽勝なんだけどな」
明来(あくる)「と、集中、集中。急がないと」
明来(あくる)「枝振手に先を越されないうちに」
明来(あくる)「ええと、バグの位置は・・・・・・」
枝振手(えぶりで)「何をやっているんだお前らッ!!」
明来(あくる)(あの声、枝振手だ。近い)
明来(あくる)(声が上擦ってる。バグにまぐれ当たりでも したか?)
明来(あくる)(でもそれなら、さっさとワクチン打って 終わりのはず)
明来(あくる)(とりあえずオレも合流してみ)
明来(あくる)「あいだッ!!」
明来(あくる)「こんな所に、壁? でもそんな気配は全く」
明来(あくる)「壁ならこっちだろ? 右曲がりの通路 なんだから」
明来(あくる)「何も触れ、な、い・・・・・・?」
明来(あくる)「じゃ、じゃあこの角から回って」
明来(あくる)「あでっ!?」
明来(あくる)「ど、どーなってんだ?」
明来(あくる)「・・・・・・なんか変だぞ、ここ?」
なるほど〜、第二話で背景設定がより一層理解できました!(SFジャンルはいつも内容把握に時間かかっちゃいます笑)
見えない壁、気になります!
2人の出会い、願掛け、熱い展開ですね😆
そして微妙に不穏な感じと見えない壁にこの先どうなってしまうのか気になります!
電脳世界に飛び込んだが良いが、見えない壁が……。
明来君達はどう切り抜けるか。楽しみですね。