第1話「箱入り娘の悲劇」(脚本)
〇立派な洋館
第1話
「箱入り娘の悲劇」
イルヴィス王国の名門貴族
メイウェザー家の庭園。
お母様「ローズ! またそんなところに登って!」
〇木の上
ローズ「あはは! 見つかっちゃった」
お父様「ドレスで登ったのか? 器用だな」
お父様「でも危ないだろう すぐに降りてきなさい」
ローズ「ええ? せっかく登ったのに・・・」
ローズ「わかったわ」
ローズ「じゃ、飛び降りるから受け止めてね お父様!」
〇立派な洋館
お父様「え!?」
「わあっ!?」
ローズ「いたたたた・・・」
ローズ(お父様の上に落ちちゃった・・・)
ローズ「もう! お父様ったらちゃんと受け止めてくれなきゃダメじゃない!」
お父様「あのな・・・」
お父様「いくら俺でも14歳の娘の大ジャンプを急には受け止められないぞ」
お母様「二人とも大丈夫?」
お父様「ああ・・・」
お母様「もう、ローズ! 危ないじゃないの! お父様に謝りなさい!」
ローズ「ご、ごめんなさいお父様」
お父様「まあ・・・ 元気なのはいいんだけどな」
お母様「元気すぎるのも困りものよ」
お母様「もう少しおしとやかにしてくれないと 嫁のもらい手がつかないわ」
ローズ「そ、そんなことないもん!」
ローズ「・・・私、裏庭にいってくる!」
お母様「あ、ローズ!」
〇養護施設の庭
裏庭 花壇の奥
ローズ「・・・ねえ 今日もきてる?」
???「きてるよ」
生垣の後ろの壁の向こうから、少年の声がする。
ローズ「聞いてよ! またお母様に小言を言われちゃったの」
ローズ「最近、お母様ってば何かあるとすぐに「そんなんじゃお嫁にいけない」って言うのよ」
ローズ「ひどいと思わない?」
少年「ということは君 また何かやらかしたんだね?」
ローズ「大したことじゃないわ 木から飛び降りただけよ!」
少年「貴族のご令嬢にしては十分だと思うけど・・・」
声はくすくすと笑う。
少年「お母様はきっと君を心配してるんだよ」
少年「君が怪我したらかわいそうだと思ってるし、君の将来のことも考えてる」
少年「愛されてるってことじゃないか」
ローズ「それはわかってるわ」
ローズ「でも私、誰かに決められた相手なんかと結婚したくないの」
少年「どうして?」
ローズ「・・・決まってるじゃない」
ローズ「──あなたが好きだからよ」
裏庭の壁の向こうに数日に一度現れる、声の主。
彼とのおしゃべりの時間と
私の胸に宿った恋心は、
誰も知らない二人だけの秘密だった。
少年「名前も顔も知らない相手なのに?」
ローズ「それはあなたが教えてくれないんじゃない」
少年「僕にもいろいろと事情があってね」
ローズ「どんな?」
少年「・・・」
ローズ「ほら、教えてくれない まあいいわ」
ローズ「ねえ、大人になったら私と結婚してくれる?」
少年「・・・いいよ」
ローズ「やったあ!」
少し前までの不機嫌はどこへやら。
私は少年の答えに満足して、すっかり機嫌を直してしまった。
〇貴族の部屋
数日後 深夜
ローズの部屋
ローズ(・・・何?)
物音がうるさくて、目を覚ましてしまった。
ローズ(こんな時間に何の音?)
不審に思っていると、すぐにメイドが飛び込んでくる。
メイド「ローズ様! ご無事ですか!?」
ローズ「どうしたの? 何かあったの?」
メイド「屋敷が何者かに襲われています! 今すぐ逃げましょう!」
ローズ「え?」
〇養護施設の庭
裏庭
ローズ(なんとか襲撃者に会わずに外に出られたけど・・・)
今夜、お父様は領地の視察に出かけている。
ローズ(お父様の不在を狙って屋敷を襲ったんだわ)
ローズ(一体誰がこんなこと・・・)
メイド「ローズ様、裏門から逃げしょう!」
ローズ「待って! お母様は?」
ローズ「無事なの? 私だけ逃げられないわ」
メイド「今はご自身の安全だけを考えてください!」
ローズ「でも・・・」
お父様「ローズ!」
ローズ「お父様!?」
ローズ「どうしてここに? 出かけてたんじゃ・・・」
お父様「昼間、部下からこっちで不穏な動きがあったと聞いてな」
お父様「胸騒ぎがしたんで、あとは任せて戻ってきたんだ」
お父様「何があった?」
ローズ「屋敷が何者かに襲われてるの」
お父様「敵の数は?」
メイド「わかりませんが、複数人いるかと・・・」
お父様「夫人はどうしてる?」
メイド「奥様は・・・敵に襲われて・・・」
メイド「もう・・・手遅れかと・・・」
お父様「そうか・・・」
ローズ「え?」
ローズ「手遅れって・・・どういうこと?」
ローズ「まさか・・・殺されたってこと?」
ローズ「お母様が? 嘘でしょ?」
メイド「・・・」
ローズ「ねえ、何か言ってよ!」
ローズ「嘘よね? お母様は無事なのよね!?」
お父様「ローズ、落ち着け 今はおまえの安全が先だ」
ローズ「そんな・・・嘘よ! お母様が死んだなんて・・・!」
ローズ「嘘に決まってるわ!!」
そのとき、視界の隅で何かがキラリと光った。
お父様「危ない!」
ローズ「きゃ!?」
お父様が私とメイドを突き飛ばす。
ローズ「お父様!?」
お父様「うっ・・・」
お父様が地面に倒れる。
その胸からは、血のついた矢じりが飛び出していた。
ローズ「うそ・・・ お父様?」
お父様「・・・」
ローズ「うそ・・・ 嘘でしょ?」
お父様「・・・」
ローズ「お父様 お願い返事して・・・」
お父様「・・・」
ローズ「どうして何も言ってくれないの?」
ローズ「うそ・・・嫌よ・・・ 死んじゃ嫌・・・」
ローズ「お父様まで私を追いていかないで!」
ローズ「いやぁぁぁああああ!!」
そのとき、屋敷の影からひとりの男が歩み出てきた。
???「メイウェザーの娘か・・・」
ローズ「誰!?」
ローズ(この人・・・)
ローズ(弓矢を持ってる!)
ローズ(この人がお父様を撃ったの!?)
男は私に近づくと、乱暴に腕を掴んだ。
???「こい」
ローズ「!?」
???「メイウェザーよ── 娘は生かしておいてやろう」
???「今夜の勝利の証に、な」
男はお父様の亡骸に向かってそう言うと、
私の抵抗を無視して引きずるように歩き出し──
〇城の回廊
数十分後
拘束されたまま馬車に乗せられた私は、ある屋敷の前で馬車を降ろされる。
ローズ(ここは・・・?)
ローズ(この屋敷・・・ 見覚えがあるわ)
ローズ(たしかお父様と同じく王家に仕える貴族の・・・)
ローズ「ハロウズ一族の家?」
ローズ(でも、どうしてこんなところに・・・? 彼らが今夜の首謀者なの?)
兵士「ぼうっとするな! さっさと歩け」
ローズ「っ・・・!」
私は兵士に腕を掴まれ、無理やり屋敷の中に連れていかれる。
〇英国風の部屋
兵士「ここで大人しくしてろ」
ガチャッ
鍵をかけられる。
ローズ(何なのよこれ・・・ どうしてこんなことに・・・?)
静かな部屋でじっとしていると、嫌でもお父様たちのことを思い出してしまう。
ローズ(ああ・・・)
ローズ(お父様もお母様も死んでしまった・・・!)
ローズ(あの男に殺されて・・・)
ローズ(許せない・・・)
胸にどす黒い感情が湧き上がる。
ローズ(あの男さえいなければ・・・!)
ローズ「・・・出して!」
部屋の扉を叩く。
ドンドン!
ドンドン!!
ローズ「出してよ! 出しなさいったら!!」
ドンドンドンドン!!
ローズ「殺してやるからっ!!」
ローズ「うぅっ・・・」
ローズ「出してよぉ・・・!」
しかし扉が開くことはなく、私は痺れた腕を打ちすえたまましゃがみ込み、
ローズ「うううう・・・」
いつの間にか、泣きつかれて眠ってしまっていた。
〇英国風の部屋
翌日
それから、私の囚われの日々がはじまった。
ローズ「──この部屋から出られないってどういうこと?」
ローズ「私にこの狭い部屋の中だけで暮らせというの?」
メイド「はい」
ローズ「ふざけないでよ! どういうつもり?」
メイド「私たちは命令されているだけですので・・・」
メイド「お屋敷の方たちの考えることは存じ上げません」
メイド「しかし、日に何度か私たちがローズ様のお世話をしにきますから」
メイド「生活に不便はありませんよ」
メイド「ほら、ただいまもご朝食をお持ちしにきたんです」
ローズ「・・・いらないわ」
ローズ「あなたたちの施しなんて吐き気がする!」
ローズ「こんなふうに惨めに生かされるくらいなら、飢え死にした方がマシよ!」
ローズ「出ていって!!」
朝食を下げさせて、メイドたちも部屋から追い出す。
ローズ「はぁ・・・」
怒りと悲しみのせいか、空腹も感じない。
ローズ(いつまで続くのかしら、こんな生活・・・)
〇英国風の部屋
数日後 深夜
私はそれからも与えられるものをすべて拒否した。
そのせいで体も痩せてきてしまったけど──
ローズ(もういいわ・・・ どうにでもなれって気分よ)
ローズ(部屋からは出られないし 窓も固定されてる)
ローズ(これじゃ逃げることもできない・・・)
ローズ(・・・ん? ノックの音?)
ローズ「・・・誰? こんな時間に」
???「僕だよ」
ローズ「・・・うそ?」
扉の向こうから聞こえてきたのは──
〇養護施設の庭
ローズ「ねえ、大人になったら私と結婚してくれる?」
少年「・・・いいよ」
あの、裏庭の少年の声だった。
〇英国風の部屋
少年「ローズ」
少年「僕が、君をここから連れ出すよ」
ローズ「──え?」
第1話「箱入り娘の悲劇」終
第2話に続く
丁寧に描かれていて世界観に浸れました。
顔の見えない少年と襲撃の謎も気になります。
一夜にして最愛の両親を失い、苦境におかれたローズがどのように這い上がっていくのか楽しみです。きっと、心の通い合う声の少年が重要な役割を負うのでしょうね。とてもワクワクします。
一体誰なんだ…。
どこにでも現れる?わけではないのですかね。
これぞまさしく白馬の王子様!と言いたいところですが、早く正体をしりたいものです!