デスゲームで皆を帰した俺は、ただ一人ダンジョンを探索する

娑婆聖堂

log.3 破壊者(脚本)

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〇牢獄
  牢屋だった。
  新領域の開放感などとっくに失せてしまっている。
吉里寂野「悪くない」
  しかし入っている当人は、さして苦にしていない。固いベッドで横になり、静かに身体を休めていた。
  かつ、こつと足音が響いた。寂野は寝たまま動かない。
「起きてる、だろうな。危機感とか無いのか?」
  姿を現したのは、軍服を着た若い女だった。寂野を捕縛した1団のリーダーである。
  部下からはアルミラ様と呼ばれていた。
吉里寂野「誤解は解けたか?」
アルミラ「面の皮どうなってるんだお前・・・ さっき捕まえたばっかりで誤解も何もあるか。というかいつまで寝てるんだ?」
吉里寂野「この身体(ボディ)は頑丈だが、初期化するまでに150時間程度かかる。 こういった無為な時間を積極的に活用すべきだ」
アルミラ「あと一週間寝る気だったのか!? どうなってるんだ破壊者という奴は・・・」
吉里寂野「破壊者?」
アルミラ「む、なんだ。異界から侵入してきた不埒者をそう呼んで悪いのか?」
吉里寂野「いや、三つほど前の先住者の町でもそういう表現があった かなり遠いが、文化が同じなのか、偶然の一致か・・・興味深い」
アルミラ「いちおう聞くが、自分が捕まっていることは理解しているよな?」
吉里寂野「最低限の家具はある。不潔でもない。文明レベルからしてすぐに危害を加えられることは無いと判断している」
アルミラ「ま、まあ我が国は法治国家だからな! いくら破壊者といえど、何もしないうちに死刑になどしたりはせん!安心するがいい」
  分かりやすく、少女の機嫌が良くなる。
  素直な人間は寂野も嫌いではない。
アルミラ「私の名はアルミラ・アルジェスタ。お前の処遇について、まだ決めかねている所があるが、無体なことをされたら私の名前を出せ」
アルミラ「一週間も寝ていたら結論も出るだろう。気長に待つことだな」
???「姫さまー!またこんな場所に入り込んで、危ないですよー!」
アルミラ「んむ、まずい。見つかったか。破壊者、私のことを聞かれても余計なことは言うなよ!」
  そう言い残して、アルミラは身を低くしながら出口へと去っていった。
  寂野は目を閉じ、本来の作業に戻る。

〇神殿の門
  一週間がたった。寂野は牢屋から出され、なぜかアルミラと一緒に、物々しい扉の前にいる。
アルミラ「まさか本当に一週間丸々寝ているとはな・・・。衛兵も呆れて、おかげで話が早く進んだぞ」
吉里寂野「いいことだ。現在にの俺に危険は無い」
吉里寂野「無益な疑いも時には必要だが、建設的な信頼はより大事だ」
アルミラ「ほんとにどういう神経してるんだお前・・・」
アルミラ「いや、いい。お前にはやってもらいたいことがある。この扉の先でな」
  アルミラは表情を引き締めると、持ち手のない扉に手を当てた。
  周囲から光が立ち昇り、扉は音もなく開く。
  大仰な門に比べて、部屋は狭かった。
  目立つものは一つだけ。王宮には不釣り合いな、簡素で未来的な機械。
吉里寂野「造成機か」
アルミラ「ああ。破壊者なら動かせるな?」
吉里寂野「可能だが・・・何が必要だ?」
アルミラ「武装だ。できるだけ強力なものを」
  寂野は少し考え込む。
アルミラ「あ、争いのために使うんじゃないぞ!防衛だ防衛。国を守るために必要なんだ」
吉里寂野「破壊者か」
  寂野への警戒ぶりも、戦時だったのなら無理もない。むしろ理性的な方だろう。
アルミラ「ああ・・・と言いたいが、実際のところよくわからないんだ」
アルミラ「破壊者は人型と伝わっているし、お前も人間っぽいが、どうも海向こうから攻めてきた連中は違う」
吉里寂野「モンスターじゃないのか?」
アルミラ「それはない。奴らは造成機を使っていた」
  造成機──その機能はシンプルだ。何でも作れる。そして、登録されたものを出す以外の機能は、プレイヤーにしか使えない。
アルミラ「奴らの作り出したものは、正直形容し難いが、銃や剣がまるで効かなかった。この造成機に登録された武器だけではどうにもできない」
吉里寂野「四元以上か・・・確かに通常の武器では無理だな」
アルミラ「やってくれるか?」
「姫様!」
アルミラ「うえっ メイラ、これはだな・・・」
  突然部屋に入ってきたメイドを見て、アルミラはとたんに慌てる。
  いたずらが見つかった子供のようだ。
メイラ「また破壊者の人に近づいて・・・ この前怒られたばかりでしょう。 そういったことは騎士の方々がやりますから・・・」
アルミラ「い、いや。ことは急を要するし、それにこいつはそれほど危なくも・・・」
メイラ「そういう問題ではありません! 第一王族とあろうものが見ず知らずの者とふたりきりで・・・」
吉里寂野「誰だ?」
  長くなりそうな話をさえぎる。
  寂野の目はどこか鋭い。
アルミラ「おお!いやこいつは私の従者のメイラといってな、ちょっと融通がきかないやつだが──」
吉里寂野「違うな」
アルミラ「は?」
吉里寂野「離れろ!!」
  目の前の女の形が崩れた。

〇神殿の門
  どういった攻撃だったのか、アルミラには理解できなかった。
  しかし、ともかく大爆発によって周辺は火の海になっている。
アルミラ「なに、が・・・メイラ!どうしたんだ!」
吉里寂野「もう違う。見ろ」
  すでに人型どころか、まともな形さえ失っている。
  流動する肉から、途方も無いエネルギーが放射された。
  同時に、寂野は虚空を握り込むような動作をする。
  そこを中心に光の渦が形成され、波動を屋根ごと撃ち抜いた。
アルミラ「うああああああ!!」
  またも爆発。
  幸い、扉の付近はシステムオブジェクトで構成されていたため、アルミラを守る盾として機能した。
  敵はしばし考え込む様子を見せた。
  目が開く。
  敵意より警戒が上回ったか、身体を不自然に鳴動させると、天井の大穴から飛び出して行った。
アルミラ「メイラは・・・どうなった?」
吉里寂野「あれと混ざっている。組成が同じだったので気付くのが遅れた。 ・・・もう戻らない」
アルミラ「そうか・・・」
  あのメイドとアルミラがどのような関係だったのか、寂野には分からない。
  死を悼む沈黙は長く続いた。
アルミラ「破壊者、お前はあれを殺せるのか?」
吉里寂野「近いものなら、破壊したことがある」
アルミラ「そうか・・・ お前、名前は?」
吉里寂野「吉里寂野」
  アルミラは顔を上げ、寂野を見る。
  その目は怒りに燃えていた。
アルミラ「キリ。あれを倒したい。協力してくれ・・・」
吉里寂野「分かった」
  寂野は迷わず頷いた。
  また旅が始まる。

次のエピソード:log.4 道中

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