怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード18(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇高層マンションの一室
茶村和成「ん・・・あれ?」
  目を覚ますと、いつもは隣で眠りこけている薬師寺の姿がなかった。
  あいつが先に起きてるなんて珍しいな。
  水を飲もうとリビングに向かうと、なにやら準備をしている薬師寺がいた。
茶村和成「おはよ・・・なにかあるのか?」
薬師寺廉太郎「あ、茶村。おはよう。 出るときに起こそうと思ったんだけど」
  薬師寺は俺の方を振り返り、鞄に荷物を詰めながら微笑む。
薬師寺廉太郎「ちょっと呼ばれちゃったから、これから実家に帰るね」
茶村和成「そりゃまた、えらく急な話だな・・・」
茶村和成「いつ帰ってくるんだ?」
薬師寺廉太郎「う〜ん、わかんない」
茶村和成「・・・・・・」
薬師寺廉太郎「まあ数日したら戻るよ。 じゃ、行ってくるね〜」

〇黒
  そう言って薬師寺が出ていったのは日曜日のことだった。
  水曜日の今日、薬師寺はまだ帰ってこない。

〇教室
  昼休み。俺と由比(ゆい)とスワは、いつも通り3人でご飯を食べていた。
由比隼人「茶村くん、諏訪原(すわはら)くん。 お話があります」
茶村和成「・・・なんだよ改まって」
  由比がこんな風に話を切り出すときは、大抵ろくなことを言わない。
  俺とスワが微妙な顔をしたことに気づかず、由比は得意げに話し出した。
由比隼人「戒名(かいみょう)神社の裏山ってさ、数十年前に再開発計画があったじゃん?」
由比隼人「レジャーランド建てる予定だったけど、結局お金なくて計画中止になったやつ」
諏訪原亨輔「ああ・・・ずいぶん昔の話だろ?」
茶村和成「へえ。そんなんあったんだ」
  地元がこの辺のふたりと違い、俺がここらに住み始めたのは比較的最近だからか、再開発なんて話は聞いたこともなかった。
由比隼人「そのときにさぁ、ホテルになる予定で建てられたんだけど、計画が潰れてそのまま放置されてる廃ビルがあるんだよね」
  ホテル、ね・・・。
  この前の怪異のことを思い出し、苦々しい気持ちになってしまう。
由比隼人「でさ、そこ。・・・出るらしいんだよ」
「・・・・・・」
  ・・・なんとなくそんな気はしてた。
  由比は目を爛々とさせて、俺とスワに向かって身を乗り出した。
由比隼人「ということで! 今日の放課後、一緒にそのビルまで行ってみようぜ!」
茶村和成「断る」
諏訪原亨輔「同じく」
  俺とスワの言葉に、由比は心底驚いた顔をする。
由比隼人「なんでだよ! 探検は俺たち男の子の永遠のロマンじゃん!」
茶村和成「お前なあ・・・遊び半分でそういうとこ行くなよ」
  俺の言葉にスワも頷いた。
諏訪原亨輔「第一、あそこは立ち入り禁止だろう。 私有地に勝手に入るのは犯罪だぞ」
由比隼人「ぐぬぬ・・・」
由比隼人「チェ・・・次号の校内新聞のネタにしたかったのに・・・」
  俯いてブツブツと文句を言う由比をよそに、俺は食べ終わった弁当をたたむ。
  由比は長いため息をついたあと、思い出したように顔を上げた。
由比隼人「あ、そういえば茶村」
茶村和成「なんだ?」
由比隼人「ちょっと前、茶村によく会いに来てた人って誰? 先輩だよな?」
茶村和成「あー・・・」
  たぶん、薬師寺のことだよな・・・。
  なんて答えたもんか・・・。
  もし怪異探偵だなんてこと話したら、由比が興味持つのは間違いないんだよな・・・。
由比隼人「あの人さー、めっちゃ変な人じゃね? 派手なスカーフとか狐の面とかつけてさ」
茶村和成「・・・まあ、ただの変な人だよ。な、スワ」
諏訪原亨輔「・・・そうだな」
由比隼人「なんだよ、スワも知ってんのかよ!」
  ・・・って、あれ?
茶村和成「由比、今なんて言った?」
由比隼人「え、スワも知ってんのかよ、って」
茶村和成「じゃなくて、その前」
由比隼人「えーっと、ああ、いっつもスカーフとか狐の面とかつけてて変な人だなって」
  俺とスワは顔を見合わせる。スワの表情にも、驚きの色が滲んでいた。
  『このお面ってね、怪異に関わった者にしか、見えないんだ』
  スワに対して、薬師寺はたしかにそう言っていた。
茶村和成「・・・由比、最近なにかおかしなことはないか?」
由比隼人「え? なーんにもないよ」
  もっと詳しく話を聞こうとするが、タイミング悪く昼休みが終わるチャイムが鳴った。
由比隼人「げ、鳴った。数学だり〜」
  由比は肩をすくめて席を立つ。
  その姿を見送って、俺とスワは再び顔を見合わせた。

〇高層マンションの一室
茶村和成「ただいま・・・」
  稽古が終わって、すっかり見慣れた薬師寺の家に帰り着く。
  誰もいない部屋から返事はない。
  俺は由比のことを相談しようと、薬師寺に電話をすることにした。
  浮世離れしている薬師寺のために、「連絡が取れないと不便だから」と八木さんが携帯を持たせているのだ。
  登録してから一度もかけたことのない電話番号をタップする。
  すると、耳にあてた呼び出し音以外に寝室の方から着信音が聞こえた。
  まさか・・・と思い寝室を覗くと、ベッドの隙間に放置された携帯電話が見つかった。
茶村和成(・・・携帯電話は携帯しろ)
  俺はため意を吐いてから、とりあえず空腹を満たそうとリビングに戻った。

〇高層マンションの一室
  深夜0時前。風呂から上がると、携帯に電話がかかってきた。
  もうそろそろ日付が変わるっていうのに、いったい誰だ?
  画面に表示された見覚えのない番号に、首を傾げながら電話に出る。
「もしもし、茶村くん? 隼人の母です」
茶村和成「! ・・・こんばんは。 こんな時間に、どうしたんですか?」
「ごめんなさいね、夜遅くに・・・」
「隼人がまだ帰って来なくって連絡もつかないんだけど、茶村くんと一緒にいたりしないかしら?」
茶村和成「いえ・・・俺のところにはいないです」
「そう・・・ごめんね急に。 ありがとう、それじゃあ」
  由比の母は焦ったように電話を切った。
  俺はすぐに電話帳を開く。すると、今まさに電話をかけようとしていた人物から着信が入った。相手はスワだ。
茶村和成「・・・もしもし。由比のこと、聞いたか?」

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