彼女の願い(脚本)
〇川に架かる橋の下
詩織「叶えてあげる。たった一つだけ どんな願いでも」
私は──
”誰か”の為に『たった一つの願い』を使いたい。そう思った。
〇アパートのダイニング
昨夜、二白市の民間住宅にて火事があり、焼き跡から一名の遺体が見つかりました
原因は放火とされ、犯人は現在逮捕されたとのことです。また、犯人の動機は不明であり現在調査が進められています。
詩織の母「最近、物騒ね。放火だなんて」
詩織「・・・」
詩織の母「動機なんて嫉妬とか妬みとか人間関係のもつれに決まってるじゃない。悪意がなければ火なんてつけないわよ」
詩織の母「あんたも気をつけなさいよ。変な事件とかに巻き込まれないようにね」
詩織「・・・分かってるよ。それくらい」
詩織の母「そう、ならいいの はあ、ホント、いつの間にこんな街になってしまったんだか」
詩織の母「特にあんたはぼーとしてるんだから母さんは心配なの。分かるでしょ?」
詩織「・・・分かってるって。うるさいなあ」
詩織「あ、もうそろそろ時間 学校行かないと」
詩織の母「ホント気を付けて行ってらっしゃい」
〇住宅地の坂道
詩織「・・・放火」
昨夜、二森市の民間住宅にて火事があり、焼き跡から一名の遺体が見つかりました
詩織「・・・どうして」
原因は放火とされ、犯人は現在逮捕されたとのことです。また、犯人の動機は不明であり現在調査が進められています。
〇アパートのダイニング
詩織の母「動機なんて嫉妬とか妬みとか人間関係のもつれに決まってるじゃない。悪意がなければ火なんてつけないわよ」
〇住宅地の坂道
詩織「ほんとにそうなのかな・・・」
小春「おはよー! 詩織!」
詩織「わ! ああ、小春か びっくりさせないでよ」
小春「だってなんか暗ーいオーラ出てたんだもん だからあえて元気に挨拶してみた!」
詩織「なにそれ」
小春「でもどうしたの? そんな顔してさ」
詩織「・・・ねえ、人ってどうして放火するのかな?」
小春「”ほうか”ってあの放火? 火をつけるやつ?」
詩織「うん」
小春「そりゃ誰かを殺してやりたいとか思ったからじゃないの? だってそうでもしなければ火なんかつけなくない?」
詩織「・・・やっぱそうなのかな」
小春「そうなのかなって・・・ それ以外ある? 詩織は違うと思うの?」
詩織「うん」
小春「なに? 教えてよ」
詩織「誰かを助けるため」
小春「え」
〇ヨーロッパの街並み
ヒトには決して善性などない。誰かを想うこと、他人の幸せを願うことなんてあるはずない。そうでしょ?
老婆「あいつよ! 私、見たの! 森の奥でイノシシを殺している所! きっと魔女よ! そうに違いないわ!」
魔女?「違う! 私はただ、お腹を空かせた弟のために食料を・・・!」
老婆「嘘をつかないで! 誰が女一人で森に狩りに行くですって? 魔法か何かの儀式でしょ!」
魔女?「違う! 私は本当に・・・ 本当に私の願いは・・・弟を、家族を」
老婆「はやくその薄汚い女を連れて行って! はやく!」
複数の足音が老婆から離れていく。
老婆「ほら、魔女を通報したでしょ? これでお礼をよこしなさい。金貨を!」
老婆の右手で金の音が鳴る
老婆「ありがとう。またよろしくね」
こんなの違う。
〇皇后の御殿
声「王よ! はやくその男を処刑して下さい! そやつは国家を乗っ取ろうとした悪党ですぞ!」
声「王の椅子を狙う傲慢な男! そんな男の首など切ってしまいなさい!」
王のしもべ「王よ・・・」
王「・・・」
王のしもべ「どうか分かって頂きたい! 私には決してそんなつもりはないのです! ただ国の民が幸せになれるようにと行動を・・・」
王「・・・」
声「王よ! 騙されてはなりませぬ。私たち数人がそやつの犯行を見ていたのです。そやつはれっきとした悪人です!」
王のしもべ「信じてもらいたいのです。王よ・・・」
王「・・・すまない」
声々「それでこそ我らの王!」
王のしもべ「・・・いいえ。仕方がありません。多くの声を受け取るのが王の役目」
嫉妬の声「殺せ!」
傲慢の声「殺せ!」
卑下の声「殺せ!」
王「・・・」
王のしもべ「ただ一つだけ。私の願いを聞いてもらえませんか?」
王「許す。そなたの願いを聞き入れよう」
王のしもべ「どうか必ずしもわれらの国に最大の幸福を そして王よ。貴方にも最大の幸せがあらんことを」
違う。違う。
〇炎
男の声「俺を殺すんだな・・・」
女「違う! 私は、私の願いはあなたにもうこれ以上苦しんでほしくないの!」
男「苦しむ? 俺が苦しんでいる?」
女「それは・・・」
男の声「わがままな女だ。身勝手に俺を殺すのか。俺がどれほどお前を愛していたかも知らずに」
女「ちが・・・」
違う!!
〇住宅地の坂道
詩織「頭が・・・痛い・・・」
小春「詩織! 大丈夫?」
詩織「・・・」
詩織「ごめん。大丈夫。 よくある頭痛だから 心配かけてごめん」
小春「そうは言っても・・・ 本当に大丈夫?」
詩織「・・・うん。本当に大丈夫だよ」
小春「そっか。なら良かった また具合悪くなったらすぐ言うんだよ?」
詩織「ありがとう」
〇教室
キーンコーンカーンコーン
詩織「ふう」
〇住宅地の坂道
小春「今日も一日疲れた~」
詩織「そうだね。今日は体育もあったし、肉体的にも疲れたよ」
小春「明日、学校休みにならないかな~ 神様! 一生に一度のお願い!」
詩織「そんなのに一生のお願いを使うの?」
小春「え? 休みほしいじゃん!」
詩織「でも一生のお願いでしょ? もっと良い願いがありそうなのに」
小春「今はそれが一番のお願いなの! 叶ったら違う一生のお願いをまた願うから!」
詩織「ルール的にいいのそれ?」
小春「いいの! 詩織だったら何に使う? もしも一生に一度のお願いが叶うとしたら」
詩織「何に使う・・・か なんだろう。ふと考えが出ないや」
小春「えー! なんだっていいのに。お寿司食べたいとか、イケメンとデートしたいとか!」
詩織「でも一生に一度でしょ? 私は・・・なんかもっと違うのに使いたいな。今はまだ分からないけど」
小春「ふーん。本当なんだっていいのに 詩織は真面目なんだから」
詩織「ごめん~」
小春「なんで謝るの 私、詩織のそういうところ好きだよ」
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ヒトは”善”なる存在なのか、と問われているような感じを受けますね。感受性が豊かで善性を信じる詩織さん、彼女とこの物語を通じて考えていきたくなりますね。
詩織は人間の善性を信じて止まないのだろうと、その純粋さが羨ましくもあります。嫉妬や妬み・・・少しもない人間なんていないと思うけど、他へ与えることを惜しまない人間はそう多くはないのでしょうね。
人は嫉妬やそういう醜い感情に、理屈をつけて正当化しようとします。
「自分は間違ってない」と。
感性の豊かな彼女の願いは、友達のためにつかったようですが、内容が気になります。