変異種(脚本)
〇物置のある屋上
予想通り、ホームセンターも樽美山も拠点に残って救助を待つことになった。
未来の食料が自らの意思で残ってくれるのはありがたいのだが、どこかで残念な気持ちもあった。
ともあれ、日常が帰ってきた。
知り合いの拠点を巡回し、不足した物資を送り届け、定点狩りを行いつつ新しい拠点を探す、そんな日々だ。
そう、魅惑のゾンビスローライフである。
ゲームに例えるならジャンルは牧場ゲーだろう。
家畜を生かすためにアイテムを手に入れ、牧場を荒らす害獣を駆除、歩き回って新しい牧場を探す。
そして、最後に美味しく頂くのだ。
サツキ「だからな、あたしは──」
リヒト(こんな日が、ずっと続けばいいな・・・)
サツキ「ん、どうした?」
リヒト「何でもないよ。それで?」
この時の俺は、そんな暢気なことを思っていた。
ゾンビの願いなんて、神様が聞いてくれるはずもないのに──
〇血しぶき
メンバー「か──ハッ──」
〇物置のある屋上
変異種 硬質「グギャギャギャ」
メンバー「やめ――アガアアァァァ──!!」
一匹のゾンビが見張り役の青年を押し倒し、馬乗りになって──貪っていた。
サツキ「──ゾンビ!? なぜ、こんなところに!?」
リヒト「・・・壁をよじ登って来たんでしょ?」
俺に出来ることが、他のゾンビに出来ない訳がない。
サトル「これまでなかった行動だ・・・変異種だ!!」
サトル「全員、店に入れ! すぐに脱出する!!」
危険と判断するやいなや、サトルが指示を出す。
瞬間、弾かれたように全員が動き出し、階下へと走っていく。
ホームセンターの店内には改造した車両が用意してある。
車にさえ乗り込めれば後はどうにでもなる。ゾンビの足では車にはまず追いつけない。
サツキ「──リヒト! 何やってんだ、早く来い!」
リヒト「ここは俺に任せて先に行け!」
死ぬまでに一度は行ってみたかった台詞を口にする。いや、多分、もう死んでいるんだけど。
サツキ「ふざけてる場合か!」
サトル「いくらお前でも無理だ、相手は変異種なんだぞ!」
リヒト「あはは、大丈夫だよ。適当にあしらったら逃げるからさ」
リヒト「それに、あいつ。放っておいたらすぐにでも食べ終わっちゃうよ」
リヒト「ここは誰か時間を稼がなくちゃ──」
リヒト「じゃなきゃ、全員死ぬよ?」
サトル「ならば、俺も──」
リヒト「邪魔。足手まとい」
なにせ、俺以外はみんな人間だからね。
リヒト「俺を助けたいなら、さっさと避難を終えて欲しいかな」
サトル「・・・すまない、リヒト」
サツキ「リヒト、信じてるからな、絶対に死ぬなよ!」
リヒト「オッケー、任しといて──あ、そうだ、」
リヒト「――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
サツキ「死亡フラグじゃねえか! この馬鹿リヒト!」
サトル「それで本当に死んだら、承知しないからな!」
リヒト「あはは、いいから早く行ってよ。遊んでる分だけ、時間稼ぎが大変になるんだから」
二人は踵を返し、店の中へ入っていった。
リヒト「・・・さてと、やりますか」
〇物置のある屋上
リヒト「──死ねッ!」
背中を向けている変異種に、貫手を放つ。
リヒト「なんだ、この硬さ・・・」
立ち上がる変異種を睨みつつ、砕けた指の位置を戻す。
リヒト「硬い鱗のような表皮・・・確か、ツトムさんのメモにあったな・・・」
貰った地図には似たような性質を持つ変異種の情報があった。
鉄のように強固な表皮で守られた──
リヒト「変異種、<硬質>──」
変異種 硬質「グギャア!」
ゾンビだけあって何を言っているかは分からないが、こちらに敵愾心を持ったことは分かった。
基本的に俺はゾンビには襲われないが、こちらから攻撃すればいくらなんでも反撃してくる。
リヒト「流石は変異種・・・一筋縄じゃいかないか・・・」
久しぶりの戦いだ。最近はゾンビレベル的なものが上がったせいか、ノーマルゾンビなら一撃だった。
ここは集中して、相手の出方を窺う。
変異種 硬質「グギャ!」
<硬質>が鋭く伸びた爪を振るってくる。
ギリギリで躱せたが、爪に軽く触れたのかパーカーの襟が千切れた。
いや、切り裂かれた。ナイフで切り付けられたようなきれいな断面だった。
リヒト「なるほど・・・爪も表皮が固まってできたものだから」
背中の皮膚さえ鉄のように硬いのだ。元々、硬い爪なら更に強度が上がるのは自明の理である。
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)