喪失(脚本)
〇未来の都会
昔どこかのある国が、世界の秩序を変えようとした。
他の大国に対する牽制か、宗教的な目的か、はたまた科学者たちの好奇心か。
動機はついぞ記録には残らなかったが、結果として一つの新型破壊兵器が生み出された。
その新型破壊兵器は、とある国を半分吹き飛ばし、さらには『空間』にまで裂け目を生じさせた。
裂け目から溢れ出したのは、当時の人類が知らない道の物質──人々はそれを『テラ』と呼んだ。
破壊され空間に裂け目ができたその国の人々は、テラをエネルギー源として自然を操る術を、積み重ねた研究の末に発見した。
テラがエネルギー源として使えることがわかってからの動きは早かった。
その国は新たなエネルギーと技術を手にしたことで急速に発展し、あっという間に他国を圧倒するようになった。
そこからは第四次産業革命とでもいうべき時代の流れが巻き起こった。
それから一世紀が経とうとしていた。
人類は体内にテラを取り込み、それを練出することで自然現象に干渉する能力を手にし、文明はまた新しい段階へと進んでいた。
〇住宅街の道
空間の裂け目に隣接する破壊されたまま打ち捨てられた都市『瓦礫街』と、テラの技術によって大発展を遂げた都市『新大特区』
そのちょうど真ん中に広がっている、旧世界の遺物とテラによる新世界の技術が入り乱れた都市こそが、ここ、『追憶街』である。
一部の特権階級やいわゆる上級国民が住む新大特区とは異なり、ここ追憶街では様々な人間が身を寄せ合って暮らしていた。
浅葱明日香「ふふっ、奮発してホールケーキなんて買っちゃった。 みんな、喜ぶかな?」
明日香も、その1人であった。
浅葱明日香(孤児院から卒業しなきゃいけないのは少し寂しいけど・・・)
浅葱明日香(でもでも!! ついに決まった就職先!!)
浅葱明日香(やっと先生のことも安心させられるし、 弟妹たちにも良いところ見せられる!!)
浅葱明日香は、テラを練出する能力を持たない、非常に稀な性質を持っていた。
それゆえに幼い頃に親に捨てられ、以来ずっと孤児院で過ごしてきた。
テラの練出ができないことで就職先が見つからず、専門学校を卒業してからもしばらくは手伝いをしながら孤児院に身を寄せていた。
そんな日々も、ようやく終わりを告げる。
浅葱明日香「長かったな・・・ここまで」
浅葱明日香「孤児院は出るけど職場も近いし、これからどんどん恩返ししなきゃ、ね」
浅葱明日香「・・・頑張らなくちゃ!!」
孤児院へ向かう道の角を曲がった時だった。
ドンッ!!
浅葱明日香「わっ!!」
フードを目深に被っていたため顔は見えなかったが、ぶつかったのはどうやら少女のようだった。
盛大によろけた明日香とは対照的に、ぶつかってきた少女はほとんどスピードを落とすことはなかった。
何か細長いものを背負ったまま走り去っていく後ろ姿。
浅葱明日香「えー・・・ なに今の・・・」
浅葱明日香「ケーキが無事で良かったよ・・・」
浅葱明日香「・・・・・・」
浅葱明日香「はぁ、気にしても仕方ない。 かえろ、みんなに早く報告しなきゃ」
〇黒背景
孤児院 玄関
浅葱明日香(・・・? すごく、静か・・・ 部屋の明かりも落ちてる。 みんなで買い出し・・・?)
言い知れぬ違和感を抱えながら、リビングルームの扉を押し開けた。
浅葱明日香「ただいま。 誰か居ないの?」
陽が落ちて暗い部屋。
生暖かい空気。
その中に混ざる,
鉄さびのような,におい。
〇血まみれの部屋
浅葱明日香「へ・・・・・・?」
くすんだ赤が四方に飛び散った室内。
音の死んだ夕暮れ時。
そこには
『家族』だったものの肉体たちが、部屋の至る所に転がっていた。
浅葱明日香「せん、せい・・・?」
浅葱明日香「まりちゃん、よーすけ、こうた、みかちゃん、まこ、げんや・・・!! みんなっ・・・・・・!! なんで・・・!?」
浅葱明日香「なに・・・!? なんなの、これっ・・・!!」
恐怖と衝撃で足が動かない足。
肺は生臭い空気を取り込むことを拒むように縮こまった。
保護士の先生も、ませてきた中学生の子も、まだ遊びたい盛りの小学生の子も、まだまだ幼い小児園の子も、全員。
孤児院の『家族』全員が、既に鬼籍に入ったあとだった。
浅葱明日香「・・・っ、 誰が・・・誰がこんなっ・・・!! どうしてっ・・・!!」
止まらぬ吐き気と動悸とは裏腹に、明日香は自分の頭の一部がゆっくりと冷えていくような感覚を覚えた。
視線は自然と残りひとつの骸へと向いた。
身長は約160cm、明日香と丁度同じくらいの、多分、女。
そんな人間は、孤児院の中にいなかったはずだ。
浅葱明日香(こいつだ・・・!! きっとこいつが・・・!!)
怒りと悲しみの入り混じった混沌とした感情に突き動かされながら、明日香はゆっくりと最後のひとつの骸へと近づく。
震える手でうつ伏せに倒れるその骸の肩を乱暴に掴むと、勢いに任せてその身体をひっくり返した。
浅葱明日香「ひっ・・・・・・!?」
目に映った光景は、ピアノ線のように鋭く明日香の喉元を締め付けた。
浅葱明日香「なっ・・・ っ、なに、これ・・・ なんで・・・!?」
そこにあったのは。
浅葱明日香「『私』・・・!?」
明日香と全く同じ顔だった。
浅葱明日香「なんで、『私』、が・・・ 死んでて、え、 殺した・・・!? どういう・・・こと・・・?」
追いつかぬ理解に思わず拳を強く握り込んだ時、ようやく明日香は気が付いた。
いつのまにか自分が何かを握りしめていたことに。
それは、べっとりと赤黒く血塗られた、一本の包丁だった。
色々びびった
衝撃的展開でびっくり…!