闇堕ち-きのこパスタは誰が作ったのか-

きせき

エピソード6(脚本)

闇堕ち-きのこパスタは誰が作ったのか-

きせき

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〇宇宙船の部屋
仕切秀人「♪〜 博士の作るきのこのパスタ〜」
仕切秀人「それには人を狂わせる毒が盛られているものさ〜」
  仕切が自身の助手である月夜野が作ったソースをかけて、パスタを食べた後。
  仮眠室には仕切がパスタを茹でるのに使った片手鍋やザル、パスタ皿を洗う水音と共に、
  奇妙な替え歌が響く。
仕切秀人「♪〜 好意や利益に憎悪。所詮は人の言う毒きのこは〜人にとっての毒であり、」
仕切秀人「きのこに1つの毒も〜罪もない〜」
  真夜中の1人きりの仮眠室で歌っているのは当然、仕切で、シンクでの洗いものをする。
  あとは丸一日放置して伸び切った髭を剃り、新しい白衣に袖を通す。
仕切秀人「♪〜 もしも、毒が! 罪が! そんなものがあるならば〜」
  仕切作詞の歌はそこで突然怪しげなリズムさえなくなり、歌として空中分割したように
  終わる。
  歌っていた仕切の口が急に動かなくなってしまった、なんてことはない。
  そこで難病指定医としての身支度を終えてしまったからだ。

〇黒
  プシュ
  と仮眠室のドアが自動的に閉まると、仕切は実験室ではなく、屋上を目指した。

〇屋上の隅
仕切秀人「マジックマッシュルームよりは弱いけど、毒性があったんだよな、あれ」
仕切秀人「日頃、抑えつけている願望が表面化して、理性が少しとんじゃうヤツ」

〇きのこ料理の店

〇おしゃれな居間
矢口真依「あ、皆さん。お帰りなさい。どうでしたか、きのこ狩り」
  きのこ狩りを終えて、仕切達がきのこ館へと帰ってくると、彼女達が迎えてくれた。
巫「ただいま〜!! きのこはあまり見つからなかったよね、つっきー」
月夜野健「ええ・・・・・・。まぁ、こればかりは運ですからね」
  月夜野は困ったように視線を漂わせると、ちょうど黒河が人数分のグラスを持ってきた。
月夜野健「あ、黒河さん。すみません、重いですよね。僕も手伝います」
黒河「えっ、これくらい手伝ってもらう程では・・・・・・」
月夜野健「いえいえ、僕はきのこ1本も見つけられなかったし、お手伝いさせてください」
  月夜野は巫から逃げるように、黒河を手伝う。
巫「え、つっきー、私も手伝うー」
  巫は月夜野を追いかけるようにいなくなると、矢口が口を開いた。
矢口真依「お料理も冷めないうちに。皆さん、とても上手で、美味しいのが沢山、作れたんですよ」
西北「いえいえ、矢口さんがリードしてくれたからですよ。普段は料理らしい料理はしてないし」
平田「そうそう。矢口さんが先生なら料理、教えて欲しいっていう人、沢山いますよね」
矢口真依「そんな・・・・・・でも、ありがとうございます」
矢口真依「いつか自分の教室も持てたらって思うので、そう言ってもらえると、嬉しいです」
  さぁ、いただきましょう、と矢口は美弥子と仕切に誘い、食事が始まる。
  巫・月夜野・黒河、
  西北・矢口・平田、
  美弥子・仕切の組み合わせで話が弾む。
落合美弥子「仕切さん、それは?」
仕切秀人「あ、これ? これは仕切特製・きのこパウダーだよ」
仕切秀人「これをね、きのこのパスタとかスープに振りかけて食べると美味いと思うよ」
  仕切は美弥子に説明をすると、そのままでも十分に美味しいきのこパスタに
  胡椒に似た黒っぽいパウダーを振りかけた。
  すると、平田が仕切に声をかけてきた。
平田「あの、仕切・・・・・・さんでしたっけ? そういうの、感じ悪くないですか?」
  少し離れたところで、きのこのオムレツを食べていた月夜野達が気づく程ではないが、
  剣呑とした雰囲気の平田。
  ただ、確かに自分達・・・・・・しかも、好意を寄せている矢口が作ったものを
  気に入らないと言わんばかりに料理に手を加えるのは
  あまり気分が良いものではないかも知れない。
「どうしたの? 平田さん」
  平田が仕切に話しかけているのが目に入ったのか、
  矢口と、少し遅れて西北が仕切達の方へやってきた。
矢口真依「仕切、さんと何かあったんですか?」
平田「あ、いえ・・・・・・」
  平田は矢口に言うべきか一瞬、言い淀むが、ことの顛末を話した。
西北「あ・・・・・・それはあんまり良くないかも。あんまり煩いことは言いたくないけど」
  仕切よりは平田に同調する西北。
  ただ、西北と平田には温度差があり、平田でさえも揉めごとを続けたい訳ではなかった。
矢口真依「あの、仕切さんにお願いがあるんですけど・・・・・・」
仕切秀人「お願い・・・・・・ですか?」
矢口真依「えぇ、良かったら、私のパスタにもそのパウダーをかけて欲しいんです」
平田「え?」
西北「真依さんはそれで良いの?」
矢口真依「えぇ、確かにそのパスタは私が作りましたけど、料理は美味しく食べるのが1番です」
矢口真依「仕切さんが1番美味しいと思う食べ方で私も食べてみたいです」
  俺は構いませんよ、と仕切は言うと、きのこパウダーを矢口のパスタ皿にも振りかける。
矢口真依「えぇっ!!!!」
西北「どうしたの? 真依さん」
平田「やっぱり、変な味がしたんじゃあ・・・・・・」
  矢口の驚く声に、西北と平田も狼狽える。すると、矢口は美味しい、と呟いた。
矢口真依「凄く美味しいです!! 何というか、きのこの旨味を1も2も引き上げていくような」
矢口真依「皆さんも良かったら、食べてみてください」
  好意を寄せている矢口に言われると、平田と西北と美弥子は
  仕切特製・きのこパウダー入りのきのこパスタを食べる。
「お、美味しい!!!」
西北「上手く言えないけど、ソースのきのこの良さが増してるって感じ?」
平田「それに、単調さがないというか、複雑で滋味深い仕上がり」
落合美弥子「きのこ・きのこ・きのこって感じ!!」
  それから、月夜野や巫、黒河にも仕切特製・きのこパウダー入りのきのこパスタが
  振る舞われた・・・・・・。
落合美弥子「仕切さんのパウダー、なくなっちゃいましたね」
  パスタのみならず、スープやサラダ、オムレツやきのこの炊き込みご飯等、
  あらゆるものに仕切特製のパウダーが振りかけられて、空っぽの瓶だけが手元に残った。
落合美弥子「しかも、仕切さん、殆ど食べられなかったんじゃ・・・・・・」
仕切秀人「あ、俺、結構、少食な方だから大丈夫だよ。まぁ、仕事で2食くらい抜くのも普通だから」
仕切秀人「月夜野君に怒られている」

〇宇宙船の部屋
月夜野健「ダメですよ。ちゃんと食べないと!」

〇おしゃれな居間
仕切秀人「って・・・・・・」
  仕切が月夜野の真似をすると、美弥子が笑う。
  こうして、きのこ同好会のメンバーはお互いに連絡先を交換すると、
  日常に戻っていった。
  いや、日常に戻る筈だった。

〇綺麗な一人部屋
黒河「うっ・・・・・・」

〇シックなバー
月夜野健「(何だか・・・・・・気分が・・・・・・)」

〇高級マンションの一室
平田「あぁ・・・・・・」

〇綺麗なダイニング
矢口真依「えっ!!」

〇古いアパートの部屋
西北「なんだ、これ・・・・・・」

〇怪しげな部屋
仕切美弥子「なんか、疲れ・・・・・・た・・・・・・な・・・・・・」

〇女の子の部屋
巫「く、苦し・・・・・・い・・・・・・」

〇屋上の隅
仕切秀人「個人差はあるけど、あのパウダーには幻覚に近い作用を引き起こすきのこが入っていた」
  勿論、仕切とて毒性を調べ、問題のある成分があるきのこは使わなかった。
  ただ、仕切は魔が差したのだろう。
仕切秀人「人間よりもきのこの方が美しい。でも、本当に?」
仕切秀人「きのこよりも人間の方が美しい場合はありえないのか?」
仕切秀人「でも・・・・・・やはり人間よりもきのこの方が美しかった」
仕切秀人「きのこには毒も罪もない、のだから」

〇綺麗な一人部屋
  彼女はクロカワ。

〇女の子の部屋
  彼女はエリンギ・・・・・・かな?

〇高級マンションの一室
  彼はヒラタケ。

〇古いアパートの部屋
  彼はニシキタケ。

〇綺麗なダイニング
  彼女はヤマイグチ。

〇シックなバー
  彼はツキヨタケ。

〇怪しげな部屋
  彼女はMiss. 闇堕ち。

〇屋上の隅
仕切秀人「俺はさしづめ、きのこ狂のジキルとハイド」
仕切秀人「まぁ、それでも、治療薬は作らないといけないよな」
仕切秀人「若干、もう治療できない人もいるけれど・・・・・・」

〇怪しげな部屋

〇屋上の隅
仕切秀人「(彼女は・・・・・・ある意味、俺と似ている。同胞のような存在)」
仕切秀人「(でも、所詮は他人なんだろう・・・・・・)」
仕切秀人「(彼女のことを俺は分かってはあげられないし、俺のことは誰も分からない)」
仕切秀人「はぁ、さて、今日も研究研究」
仕切秀人「♪〜 きのこには毒も罪もない〜」

〇屋上の隅

〇屋上の隅

〇水たまり
  きのこパスタは誰が作ったのか?

〇水たまり

コメント

  • 完結おつかれさまでした!
    設定も切り口も面白くて、どんどん興味を惹かれました。そして、登場人物の名前の仕掛けにはやられました~

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