わりと救世主みたいな一家(脚本)
〇繁華な通り
リヒト「よっ、と!」
貫手で胸を突き、心臓を抜き取る。
まるっきりマンガやゲームの世界だが、ゾンビパワーがあれば腐肉くらい簡単に抜き取れてしまうのだからしょうがない。
リヒト「・・・レベル、あるのかな・・・」
こうして雑魚ゾンビと戦っていると日に日に強くなってくのが分かる。
現にゾンビ化したばかりの時より、体の動きはスムーズだし、最大出力も上がった気がする。
やはりゾンビレベル的なものがあるのかも知れない。
ただでさえ、ゾンビ映画みたいなところにいるのだ。今更、ゲーム的な要素が入ってきたところで驚くこともない。
リヒト「ちょっとやる気出てきたな・・・よし、久しぶりに定点狩りでもするか」
地面に血の付いた布を置く。昨日の狩りの後で、掃除で使った雑巾である。
「あああぁ──」
すると、匂いに吸い寄せられるようにゾンビ共が集まってくる。
心臓抜きを行い、核を取り出す。
ここまできたら単純作業だ。
近寄ってくるゾンビから核を抜き取るだけである。
雑魚ゾンビなら心臓抜き一撃で倒せるので反撃を気にする必要もない。
周囲のゾンビが消え失せたら、場所を変えて狩りをする。
目標は千個だ。
それくらい倒せばレベルアップするだろう。
いや、レベルなんてあるか知らないけど。
リヒト「まあ、上手く行けば生き残った人たちも外に出てきてくれるかも知れないしね」
〇繁華な通り
ゾンビに疲労はない。しかし、動いた分だけ腹が減る。
寄ってきたゾンビを倒すだけの定点狩りは、そういった意味でも効率がいい。
動かなくていいからだ。
リヒト(また指が折れたか・・・)
問題は数が多すぎて、武器が壊れてしまう事だ。
ただし、怪我を治した分だけ腹が減る。
ゾンビはタフだ。痛みはなく、骨が折れようが、場合によっては欠損した四肢さえまた生えてくる。
ただし回復すると腹が減る。どうも体内のゾンビエネルギーを使って体を修復しているようなのだ。
そう言った意味でもゾンビは雑だ。
ゲーム的に言うなら、HPとMPとスタミナを空腹ゲージひとつで管理しているような適当さである。
怪我の治った直後は壊れやすいので、効率は悪いが武器を使ってゾンビを倒す。
リヒト(・・・ゾンビも減って来たし、今日はそろそろおしまいにするかな)
腕を降ろす。
???「諦めるな! 今、助けるぞ!」
リヒト「は・・・?」
剣呑な改造を施されたジープがゾンビ共を轢き潰しながら横付けしてきた。
ツトム「乗りなさい!」
リヒト「あ、でも・・・」
ハナエ「いいから早く!」
リヒト「あ、はい」
迫力に負け、荷台に乗り込む。
ツトム「出すぞ、捕まっていなさい!」
甲高い擦過音を立てながら車が急発進した。
〇停車した車内
ツトム「何とか撒いたようだ」
車内の空気が僅かに緩む。
ツトム「ハナエ、彼の治療を」
ハナエ「・・・ええ、あのね、悪いけど怪我を見せてくれる?」
リヒト「ああ、大丈夫です。この通り、怪我ひとつありません」
ハナエ「うそ・・・本当だわ・・・」
ハナエ「それにしてもよかったわ・・・あ、念のため、手を出してくれる?」
ハナエさん(?)は、荷台からアルコールスプレーみたいなものを取り出し、手に吹きかけてくる。
リヒト(──ッ!? まずい、腕が、溶けてる!!)
咄嗟に手をポケットに突っ込む。
ハナエ「そうそう、これも飲んどいたほうがいいわね」
リヒト「はぁ・・・これは?」
ハナエ「虫くだしよ。さっき掛けた薬剤も同じ」
ツトム「どうも感染初期なら回虫駆除薬で、感染が抑えられるようなんだ。」
リヒト「──ッ!! それ、大発見じゃないですか!?」
ツトム「ああ、知り合いがゾンビに噛まれたんだが何故だか感染しなくてね」
ツトム「調べた結果、たまたまこの薬を飲んでいたことが分かったんだ」
ハナエ「それから周辺のコミュニティを回って、お薬を配ってまわっているんです」
リヒト「すごい・・・これが周知されたらゾンビは二度と発生しなくなる」
ツトム「ああ、そればかりか感染済の人の治療にも役立つかも知れない」
リヒト「────ッ!?」
リヒト「それ、詳しく教えてくれませんか・・・出来ることなら何でも手伝いますんで!!」
ツトム「ああ、もちろんだとも」
ハナエ「ふふ、心強いわね、アナタ」
ツトム「とりあえず、今日はもう遅い。 私たちの家に行こう。」
〇中規模マンション
〇おしゃれなリビングダイニング
ツトム「ただいま」
マイカ「おかえりなさい、お父さんお母さん」
リヒト「おじゃまします」
ツトム「紹介するよ、娘のマイカだ。 こちらはリヒト君だ。」
リヒト「ごめんね、突然押しかけて・・・新城リヒトです」
マイカ「あ、は、はじめまして・・・里中マイカです」
ツトム「リヒト君は、街中でゾンビ無双する感じの凄い人なんだ」
マイカ「ゾンビ無双・・・? どういうこと?」
ツトム「ああ、たった一人で何十というゾンビを倒してみせた生粋のゾンビキラーさ」
リヒト「いや本当は囲まれて、危ないところをお父さんに助けて貰ったんだよ」
ツトム「いやいや、あの数相手に大立ち回りして、怪我ひとつ負わないなんて信じられないよ。武術でも嗜んでいたのかな?」
リヒト「いや、大したものじゃないので」
ツトム「ともあれ、リヒト君に例の予防薬や、治療法ついて話したところ、協力したいと申し出てくれてね」
ツトム「力はあるし、いつかのコミュニティに顔を出していて顔も広い」
ツトム「せっかくだから、詳しく説明をしたいと思って、連れて来たんだ」
リヒト「話を聞いたらすぐに出るから安心して」
マイカ「いえ、そういうことなら・・・いま、お茶淹れますから」
ハナエ「ごめんなさいね、リヒト君。マイカは恥ずかしがり屋で」
リヒト「いえ、可愛らしいお嬢さんですね」
ツトム「あはは、そうだろう、そうだろう!」
ツトム「リヒト君、今日は泊まっていきなさい。このマンションには私たちしかいなくてね、部屋どころか家まで余っているんだ」
リヒト「はぁ、分かりました・・・」
ハナエ「じゃあ、お夕飯もご一緒にどうかしら」
リヒト「そこまでお世話に──」
ツトム「それはいいな。予防薬についても詳しく伝えたいし、一緒に食べようじゃないか」
テーブルに腰かけ、しばらく待っているとマイカちゃんがトレイを持ってきてくれた。
ハナエ「こんなものしかないけど、よかったら食べていってね」
ツトム「いや、謙遜することはない。母さんの作る料理は絶品だよ」
和気藹々とした雰囲気で食事が進む。
美味しい食事には人の心を解す作用があるのかもしれない。
恥ずかしがり屋のマイカちゃんとも、どうにか打ち解けることが出来た。
いや、ゾンビにとって食事は嗜好品でしかないけれど、ハナエさんの作った料理は確かにおいしかった。
何と言うか、温かい。
初めての感覚だ。
マイカ「リヒトさん、おかわりもありますから・・・」
〇一人部屋
空き部屋に入り、ベッドに横たわる。
ゾンビは眠らない。
だから、何も出来ないこの時間が実は結構、憂鬱だった。
ツトム「リヒト君、少しいいかね」
リヒト「ええ、もちろんです」
ツトム「君が疑問に思っていることを先に答えておこうと思ってね」
リヒト「聞きたいこと・・・?」
ツトム「例えば・・・そう、マイカのスリーサイズなどだ」
リヒト「はぁ!?」
ツトム「あはは、冗談だ。私も知らない。いや、知っていたら気持ち悪いね」
リヒト「い、意外とツトムさんってお茶目なんですね・・・」
ツトム「ははは、似合わないかな?」
ツトム「冗談はさておき、なぜこのマンションに他の住人がいないか、なんて聞きたくはないかい?」
リヒト「ええ、是非・・・けど、なんで俺の疑問が分かったんです?」
ツトム「いつも誰かがココに来るたびに聞かれるんだ。スーパーは近いし、場所も開けている。なぜ誰もいないんだ、とね。」
ツトム「協力してもらうのだから、想定される懸念点は先に答えておこうと思ったんだ」
なるほど、読心術というより仕事術というわけだ。彼の部下はさぞかし仕事が進めやすいだろう。
ツトム「まず、このマンションの住人がいないのは全員が自衛隊に保護されたからだ」
リヒト「・・・政府、機能していたんですね」
ツトム「そりゃそうだ、電気や水道などのライフラインは止まっていないだろう?」
リヒト「通信網がダメなのでてっきり・・・」
ツトム「それは政府の指示でインターネットや電話などを全て遮断しているからだそうだよ」
ツトム「名目は市民の無用な混乱を防ぐため・・・単純に言うと、マスコミ対策だね」
リヒト「では──」
ツトム「なぜ、私たち家族だけが残っているか、だね?」
ツトムさんはそう言って、一度、小さく息を吐いた。
ツトム「・・・娘を探しているんだ」
リヒト「マイカさんとは別のお嬢さんってことですよね」
ツトム「ああ、マイカの双子の姉でね、ライカという。」
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