エピソード1(脚本)
〇店の入口
喫茶店のマスター・増田朔(ますだ はじめ)【33】は店の経営に行き詰まっていた。
〇レトロ喫茶
レトロな雰囲気が売りの小さな喫茶店「隠れ家」
前のマスターだった父が病気で倒れたのを機に、彼はそれまで勤めていた警察を辞めて二代目のマスターになった。
それから約半年ほど経つのだが・・・
まあ、経営は上手く行っていなかった。
当然と言えば当然のことだ。
それまで刑事をやっていた人間が見よう見まねで喫茶店のマスターになったところで、いきなり成功などするはずもない。
それでも、先代の頃からの常連客や刑事時代の同僚などに支えられながら、
増田は細々と喫茶「隠れ家」の運営を続けていた。
無音の昼下がり。
静か過ぎた店にようやくの来客を知らせる金の音が響いた。
増田朔(ますだ はじめ)「いらっしゃいま・・・」
言いかけて、増田はすぐにその言葉を飲み込んだ。
〇レトロ喫茶
羽留賢以(はる けんじ)「よお、元気にやってるか?オ●ニー野郎」
増田朔(ますだ はじめ)「何の用だ、チ●カス」
羽留賢以(はる けんじ)「ははは、酷い言われようだな。 経営難に喘ぐマスターさんの為に仕事を持ってきてやったってのに」
増田朔(ますだ はじめ)「ちっ・・・」
羽留賢以(はる けんじ)
調査会社「ハル総合調査」の経営者。
浮気調査や失踪人の捜索等の探偵仕事を持ちかけてくる。
増田が刑事だった頃は、情報屋として関わっていた。
羽留賢以(はる けんじ)「人捜しの依頼があるんだが、どうだ? 今回のは緩くて美味しいぞ」
増田朔(ますだ はじめ)「内容は?」
羽留賢以(はる けんじ)「7年前に失踪した女の捜索依頼だ。 男と駆け落ちしたっぽいから、 家族としてもずっと放っておいたみたいだが」
増田朔(ますだ はじめ)「7年も前に消えた人間の捜索か。 面倒くさそうだな」
羽留賢以(はる けんじ)「そうでもない。今回のは別に細かいことは調べなくて良いんだ」
増田朔(ますだ はじめ)「どういうことだ?」
羽留賢以(はる けんじ)「失踪宣告を出す前に、 家族としてやるべきことをやりました、 という建前が欲しいだけなんだ」
羽留賢以(はる けんじ)「だからアンタもまともな捜索をする必要はない。適当に探したフリして、見つかりませんでしたってやっときゃ良い」
増田朔(ますだ はじめ)「ふーん。なるほどね」
羽留賢以(はる けんじ)「で、どうなんだ?この依頼、 引き受けるのか?マスターさんよ」
増田朔(ますだ はじめ)「・・・・・・はあ」
増田朔(ますだ はじめ)「その仕事、引き受けさせて頂きます」
増田は刑事を辞めた後、「ハル総合調査」の調査員として登録している。
そうやって探偵仕事で得た金を、喫茶店経営の赤字補填に充てているのだ。
だから、金の為に気に食わないこの男にも媚びなければならない。
それが、大人の世界の現実なのだ。
そういうわけで、今日も羽留から紹介された仕事をありがたく頂くハメになった。
羽留賢以(はる けんじ)「ははは、良い返事だな。マスター」
増田朔
(はあ・・・。早く、喫茶店の運営だけでやっていけるようになりてえな)
〇レトロ喫茶
女刑事・青井聖樹(あおい せいじゅ【26】は捜査に行き詰まっていた。
この2ヶ月の間に、若い女性が刃物で滅多刺しにされて殺害される事件が2件発生している。
いずれも雨の日の夜で、人目に付きにくい裏路地、という共通点がある。
手口などから同一犯による犯行とみて捜査しているが、状況は芳しくない。
雨のせいで犯人特定の手掛かりになりそうな物証が流されてしまっているのが、主な原因だった。
そんなわけで、青井は後輩の刑事・原玄(はら ひかる)【24】を連れて喫茶「隠れ家」を訪れた。
少し前まで同僚であり先輩だった増田朔に意見を聞く為だった。
増田朔(ますだ はじめ)「おう、お前らか。何にせよ、客なら歓迎だ。いらっしゃい」
原 玄(はら ひかる)「増田さーん、連続してる滅多刺し殺人事件のことなんスけど・・・」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「こら、原!他のお客さんもいるんだから、控えなさい」
原 玄(はら ひかる)「え?あ、ホントだ。珍しいっスね。この店にまともな客がいるなんて」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あんたねえっ!」
増田朔(ますだ はじめ)「まあ、そういうわけだ。お前らも暫くの間、 コーヒーでも飲んでくだらない雑談でもしといてくれや」
増田朔(ますだ はじめ)「事件の相談なら、その後で聞いてやる」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あ・・・はい」
原 玄(はら ひかる)「それにしてもあそこの席にいる女の子、死にそうな顔してますね。大丈夫かな」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「リクルートスーツ着てるし、就活中なんでしょ。気の弱い子が圧迫面接とか受けるとあんな感じになるわよ」
原 玄(はら ひかる)「はあ・・・可哀想に」
増田朔(ますだ はじめ)「お前らなあ、想像だけで勝手なことを言ってやるなよ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「あ、はい」
原 玄(はら ひかる)「サーセン」
〇レトロ喫茶
フリーター・藤本真(ふじもと まこと)【19】は人生に行き詰まっていた。
高校卒業後、とある金融機関に就職するもなんやかんやで退職。
今はコンビニ等でアルバイトをしつつ、漫画家を目指している。
因みに、できるだけ家から出なくて済むから、という理由で漫画家を目指している。
藤本真(ふじもと まこと)(はあ・・・今日の持ち込みも玉砕だったなあ)
藤本真(ふじもと まこと)(少年誌には合わないのかな。 でも、内容がグロめだから 少女漫画誌なんてもっての外だし)
藤本真(ふじもと まこと)(青年誌を目指してみようか。 でも情熱に欠けてることを指摘されたから、 根本的に作品そのものを見直さないと)
藤本真(ふじもと まこと)(はあ・・・)
もう何度目か分からないため息をついて、コーヒーを飲む。
砂糖をしこたま入れたので、シャリシャリと謎の音が響いていた。
藤本真(ふじもと まこと)「・・・・・・・・・・・・」
そうやって暫く落ち込んでいたが、ふと腕の時計を見て藤本は椅子から飛び上がった。
藤本真(ふじもと まこと)(もうこんな時間!バイトに行かないと・・・!)
藤本真(ふじもと まこと)「すいません、お会計お願いします!」
増田朔(ますだ はじめ)「ああ、はい。ありがとうございました。またどうぞ」
慌てた様子で立ち上がり会計を済ませて、
リクルートスーツの女は店から立ち去っていった。
〇レトロ喫茶
見知った間柄の3人になったところで、青井が改めて話を切り出す。
青井聖樹(あおい せいじゅ)「じゃあ、増田さん。事件についての相談、良いですか?」
増田朔(ますだ はじめ)「あ、ちょっと待て。さっきのお客さんの忘れ物だ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「え?」
見れば、テーブルの上に大きめの茶封筒が置き去りにされていた。
原 玄(はら ひかる)「さっきの就活生の忘れ物っすね。履歴書かな。中、見せてもらって良いっすか?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「バカ!そんなのダメに決まってるでしょ!」
増田朔(ますだ はじめ)「原、お前は相変わらずとんでもねえガキだな。おい青井、しっかり躾けしとけよ」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「は、はい・・・・・・」
増田朔(ますだ はじめ)「とりあえず、この封筒は店で保管しておこう。後で気付いて取りに来るかも知れないしな」
増田が封筒を取り上げる。
〇レトロ喫茶
その封筒が履歴書にしては少し厚みがあるようだと思った時、増田はうっかり手を滑らせてしまった。
増田朔(ますだ はじめ)「あ、しまった!」
封筒の中身がバサバサと床に散らばる。
それは、履歴書なんかではなかった。
原 玄(はら ひかる)「あれ、これ漫画の原稿ですかね。 あの子、就活生かと思ったら漫画家志望者だったのか」
増田朔(ますだ はじめ)「おーい、原、青井、読んでないで拾って渡してくれ」
原 玄(はら ひかる)「はいはーい」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「え?ちょっと待って」
増田朔(ますだ はじめ)「どうした?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「この漫画に描かれてる絵・・・この間の事件の殺人現場の有り様にそっくりじゃない。こんなの、関係者しか知らないはずなのに」
増田朔(ますだ はじめ)「ん?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「なんで細部まで絵にできてるの?」
原 玄(はら ひかる)「え!?」
青井聖樹(あおい せいじゅ)「さっきのあの女の子、一体何者なの?」
青井が原稿用紙を凝視しながら訝しげに呟いた。
冒頭のやりとりからグッと引き込まれてしまいました...登場キャラそれぞれのストーリーが交錯する物語、いいですよね🤗
主人公の状況設定から、彼に関わってくる人物までとても惹かれるものがあります。この殺人事件、探偵事務所から引き受けた仕事、漫画家志望の女性、どのように結びついてくるのかとてもワクワクします。
登場人物のキャラが立っていて、会話もテンポがよくて楽しいですね。第一話で示された依頼と事件、これが今後結びついていくのか、楽しみになってきますね。