夢幻奏話

きらそね

Ep.1-1 新たなる世界で(脚本)

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〇黒背景
  絶海の孤島
  
  ”カークベル”

〇島
  古の、神の島。
  堕ちた聖地と人は呼ぶ──。

〇荒廃した教会
  廃墟と化した大聖堂。
  塵にまみれたステンドグラス。
  描かれている戦女神は体中がひび割れて、
  まるで朽ちかけの死体に見える。
  ──ばかばかしい
  あんなもの・・・ただの硝子だ。
  くすんでしまった女神の顔。
  目じりから頬にかけて入った亀裂が
  涙のあとに見えるなんて──
  ばかばかしい。
  青年は
  閉じたまぶたをゆっくり開けて
アルヴァ「・・・」
  仰向けに倒れている”ソレ”を見据えた。
???「・・・・・・」
  終わったのだろうか、”災厄”は──
???「アルヴァ!」
  共に旅をしてきた仲間達が
  瓦礫の間を縫うようにして
  駆けこんでくる。
アルヴァ(全員無事──か)
  直後──
???「・・・好い気になるな、 虫けら共」
  ”ソレ”が嗤った。
???「肉体など 我にとっては器に過ぎぬ」
  噴き出した黒いモヤに飲みこまれ、
  仲間たちが膝をついた。
アルヴァ「くッ・・・」
  手にしていた大剣を支えにして
  彼だけは
  どうにか耐えた。
  『忌々しき人間共──』
  モヤとなった”ソレ”の声が
  脳に直接響いてくる。
  『我は必ず此処へ戻る』
  『脆弱なる虫けらよ。
   せいぜい祈り続けるがいい・・・』
  『偽りの安寧を。仮初の平穏を。
   虚構の神に──・・・』
アルヴァ「ベラトルムッ・・・!!」

〇黒背景
  絞りだされた彼の声は、
  むなしく虚空に響いて──
  散った。

〇市街地の交差点
  ところかわって
  都内某所──
???「ハア・・・」
奏太(買出しジャンケン、また負けた・・・)
奏太(まじギネス級に連敗記録更新してんだけど)
奏太(しかも行きも帰りもぜんぶ信号つかまるし)
  池原奏太(いけはら かなた)
  17歳
  ヒトよりちょっとツイてない、
  平々凡々な高校二年生である。
奏太(──なんだかなぁ)
  多少ツイていなくとも、普通に友達がいて、普通に学校生活が送れていて──
  可もなく不可もない、平穏な日常が流れていく。
  退屈だ。
  ──なんて、やはり贅沢な悩みだろうか。
奏太(波乱万丈な毎日とか、ちょっと憧れたりするんだけどなぁ)
奏太(コミックやゲームの主人公みたいなさ)
  『──ならば、我が与えてやろうか』
奏太「へっ?」
  どこからか聞こえた声。
  振り返ってみたが誰もいない。
奏太(・・・空耳?)
奏太(・・・気味わりー)
  前に向き直ろうとした、そのとき。
  『──貰い受けるぞ、その器』
奏太「え、 うわ・・・ッ!」
  なにかにすくい上げられるように
  足が浮いた。
  体が傾ぐ。
  車の行き交う車道へと──

〇オープンカー
  鼓膜に叩き込まれるクラクション。
  目の前に迫る、車体。

〇黒背景
  目を見ひらき、
  息をのんだ次の瞬間──
  奏太の意識はふつりと切れた。

〇白
  ────・・・。
奏太(──・・・あれ?)
奏太(・・・俺──)
  目が覚めると
  水の中にいた。
奏太「ッ! ごぼぼッ──」
  呼吸ができない。
  酸素を求めてもがく。
  けれど手も足も、
  虚しく水を掻くばかりで──
奏太(やばい、死ぬ──・・・!!)
  そのとき──
  がし、となにかに腕を掴まれ、
  引っぱり上げられた。

〇睡蓮の花園
奏太「・・・ぶはぁッ!」
奏太「──・・・」
奏太「・・・」
奏太「・・・え?」
  交差点で車に轢かれかけた──はず。
  なのに。
奏太(・・・森? 泉?)
奏太(どこ? ココ・・・)
???「おい」
アルヴァ「・・・」
奏太(──・・・なにこの人、誰?)
アルヴァ「なんなんだテメェは。どっからわいた?」
奏太「いや、こっちのセリフなんですけど・・・」
アルヴァ「コッチのセリフだバカ。 急に現れてバシャバシャと・・・」
アルヴァ「テメェわかってんのか? ここ、一応聖域だぞ」
奏太「は・・・? せー・・・え、なに?」
アルヴァ「聖域。女神サマ祀ってんだよ」
アルヴァ「知ってんだろ、セクトールっつー戦の神サマ」
奏太(いや、そんな当然のごとく言われても・・・カミサマの名前とか知らねーし)
アルヴァ「ちなみに祠はお前の足の下」
奏太「えッ!?」
  とっさに飛びのこうとして、
  ふと気づく。
奏太(・・・あれ?)
奏太(意外と浅い・・・?)
  さっきは
  底なしのように感じたけれど──
  水位は腰に届くくらいだ。
アルヴァ「ともかく悪フザケならヨソでやれ じゃァな」
奏太「あっ、ちょ、おい!」
奏太「待てよ! 悪フザケとかじゃなくてっ・・・」
アルヴァ「ああ?」
奏太「気づいたら溺れてたんだよ! なんでこうなったのか俺にもさっぱりで──」
アルヴァ「今度は記憶喪失のマネごとか いそがしいな、おまえ」
奏太「そうじゃなくてッ──」
奏太「ちょっ、待ってってば!」
アルヴァ「・・・」
奏太「なあ!ここどこだよ!? せーいきとかカミサマとかワケわかんねーよ!」
アルヴァ「俺はテメェがわかんねェよ」
奏太(止まる気ゼロかよ・・・!)
奏太(くそっ、こんな状況で一人取り残されるとかありえねーから!!)
  ざばざばと
  必死に水を掻いてあとを追い──
奏太(もう・・・すこし!)
奏太「おりゃあッ!!」
  力のかぎりダイブして
  男の服を掴む。
アルヴァ「うぉッ!? なんだテメェ、離せ!」
奏太「どこだよ、ここ!? なんで俺こんなとこにいんの!?」
アルヴァ「知るかよ、ひっぱんなッ!」
奏太「教えてくれるまで離さない!」
アルヴァ「知らねェっつってんだろ! なんなんだテメェはッ」
アルヴァ「クソ、いい加減にっ──」
アルヴァ「・・・!」
  振り向いた男の声が、
  ふと途切れた。
  男は目を見ひらき、
  奏太の後方を凝視している。
奏太「・・・?」
  つられて奏太も振り返り──
奏太「!」
  息をのんだ。
  得体の知れない黒いイキモノが
  泉を突っ切るようにして
  こちらに向かってくる。
  それも、猛烈なスピードで。
アルヴァ「なッ・・・鬼獣(きじゅう)か──!?」
奏太「へ? きじゅ──」
奏太「うわぁああああッ!!!!!!!!!!」
  鬼獣と呼ばれた”ソレ”が
  奏太目掛けて飛んでくる。
アルヴァ「チッ! 宿れ焔(ほむら)ッ!」
  男の腕に立ちのぼる
  ──紅蓮の炎。
奏太「なっ・・・!?」
  炎を纏った男の拳が、
  グロテスクな口に叩き込まれ──
  鬼獣が弾き飛ばされた。
奏太(な、なにいまの!?)
アルヴァ「呆けてんじゃねぇ、岸に上がれ!」
奏太「へッ!? でも今──」
アルヴァ「アレに打撃は効かねェんだよ また来るぞ!」
奏太「ぎゃぁああッ、 また来たぁあああああ!!」
アルヴァ「だから言ってんだろーが! ・・・チッ!」
  青年が奏太の首根っこを掴む。
  ──炎の宿った手で。
奏太「うわぁッさわんな焦げる!」
アルヴァ「焦げるかバカ、付呪(ふじゅ)だ!」
奏太「ふじゅ!?」
奏太(ってなに!?)
  聞くひまもなく、
  そのままぐいぐい引っぱられる。
  後ろ向きを強いられた奏太は、
  グロテスクな鬼獣と
  真正面からのご対面──
奏太「ぎゃあああッ!!!!!」
奏太「うわっ、うわぁあああッ 追いつかれる、追いつかれるってぇ!!」
アルヴァ「うるッせェ! クソ、暴れんな!!」
  奏太がじたばたと暴れるせいで
  思うように進めない。
アルヴァ(クソッ、”アレ”じゃねェと──)
  男の視線の先には──
  草むらに無造作に投げ出されている
  ”神剣”と呼ばれる
  大きな剣が──
アルヴァ(岸まであと少し──!!)
  ──けれど。
奏太「うわぁあああああッ! 来たぁあああああッ!」
アルヴァ「チィッ!」
  男が奏太を護ろうと
  身を翻した──そのときだった。
奏太?「・・・」
奏太「・・・」
奏太「──・・・え?」
  一瞬の出来事だった。
  奏太の手に顕れた
  黒いモヤのような剣(つるぎ)が
  鬼獣をまっぷたつに
  切り裂いていた。
奏太(なんだ、今の・・・)
アルヴァ「・・・おまえ いま、なにした──?」
奏太「わ、わかんねー・・・ 体が、勝手に動いて──」
アルヴァ「・・・」
アルヴァ「──おまえ、名前は?」
奏太「・・・池原、奏太」
アルヴァ「イケハ・ラ・カナタ? 妙な名前だな。 イケハって女みてェだ」
奏太「ちげーよ、いけはら かなた! 奏太が名前で、池原は苗字」
アルヴァ「ああ、カナタが名前なのか ──へえ」
奏太(なんだよ、急に・・・)
奏太(さっきまでフルシカトだったのに・・・)
アルヴァ「お前、さっき言ってたな 気づいたら溺れてたって」
奏太「・・・うん」
アルヴァ「なら、その前は? おまえ、どっから来た?」
奏太「どっから、って・・・」
  どう、伝えればいいのか──迷っていると
アルヴァ「──なら、おまえの聞きてェことから教えてやる」
アルヴァ「ここはティノワール王国の西、ヴェスリエ地方だ。近くにボワって村がある」
奏太(なにその舌噛みまくりそうな名前・・・)
奏太(──やっぱり、ここって)
  今まで自分がいた”ところ”とはまるで違う
  奇妙な生き物や不思議な力があたりまえのように存在する──世界。
アルヴァ「・・・で? おまえは?」
奏太「たぶん、言ってもわかんねーと思うけど・・・」
奏太「日本の、東京」
アルヴァ「ニホンの──トウキョウ」
奏太「やっぱ知らねーよな・・・」
アルヴァ「知らねェ。けど──」
アルヴァ「おまえのことはよく知ってるぜ たぶん、おまえ以上にな」
奏太「へ? どういう──」
アルヴァ「ついてこい。 村に連れてってやるからよ」
  青年はさっさと岸辺に上がってしまう。
奏太「──なあ、えっと・・・」
奏太「あんたは・・・?」
アルヴァ「・・・」
  濡れた前髪を払いながら、
  男は奏太を見下ろして──
アルヴァ「アルヴァだ」
  にやりと笑った。

次のエピソード:Ep.1-2 刻まれる呪印 

コメント

  • 平凡な毎日を退屈に感じていた彼が突如、時空のワープした所から、とても動くのある描写で楽しめました。隣の芝が青いように、非日常な状況を繰り返しながら、また退屈な毎日に戻りたくなるのではないでしょうか!?

  • 突如として異世界に転生して、いきなり色々な事が起きて状況を飲み込むので精一杯そう…。
    自分も異世界に転生したら強い特殊能力とか、ほしいなぁ!

  • とっても好きな設定でずっとワクワクです。急展開なうえ、テンポよくストーリーが進んでいて、楽しみっぱなしでした。次話も読みたくなります。

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