運命の先生

きせき

読切(脚本)

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〇桜並木
  運命の先生

〇保健室
  ガラガラガラ
薬師寺「あれ、石野じゃないか? 今日はどうしたんだ?」
  ここはとある中高一貫校の保健室。
  目の前にいるのは僕の通う学校の養護の先生である薬師寺先生だ。
石野「少し指を切ってしまったみたいで・・・・・・」
  実は、僕が保健室へ来るのは初めてのことではない。
  僕は中学校に上がった初日に階段から落ちてしまい、先生が連れてきてくれたのだ。

〇階段の踊り場
石野「・・・・・・っ!!」
  段数で言えば、2、3段上から落ちた為、頭から落ちたとか。
  足の骨を折ってしまったとか。そんな大したことはなかった。
  ただ、落ちた時に肘を打ちつけてしまったのか、腕に思うように力が入らない。
石野「(どうしよう・・・・・・もうすぐHRの時間なのに)」
  そう、入学式が終わった後で
  クラス分けがあり、それぞれのクラスに入ると、細々とした連絡事項がある。
  それで、それが終わったら、入学式テストだ。
  普通か、普通でないかは分からないが、入学式の日に国語。
  翌日に、算数、社会、理科、英語のテストがあり、部活動の紹介があるらしい。
石野「(ああ、こんなことなら3階上のトイレに行かなきゃ良かった)」
  1階のトイレは新入生でいっぱいで、2階のトイレは使用禁止なっていた。
  そして、3階のトイレは・・・・・・

〇学校のトイレ

〇学校のトイレ
石野「何か、見たような気がする・・・・・・」
  女性らしき人もいたが、男子トイレの筈だ。
  あと、世界観? 骸骨に悪魔にゾンビってバラバラだし、統一感とか迷子なの?
  と思うが・・・・・・
石野「(まぁ、4階のトイレに行けば良いか・・・・・・)」
石野「(彼らが先に来てたんだし、彼らの邪魔をしてもいけない)」
  そう考えると、僕は4階のトイレに向かった。
  4階のトイレは誰もいなくて、僕は用事を済ませると、1階にある自分の教室へ戻る。
  戻る、筈だった。

〇階段の踊り場
「君が石野君かい?」
  何とか、階段の手摺りにつかまり、立ち上がった時、声をかけられる。
  その声の主が薬師寺先生だった。
石野「はい、石野です」
  言われるままに返事をした僕。
  運命の人、と初めて出会うには何だかかっこが悪いシチュエーションだった。
薬師寺「良かった、君がクラスにいないって担任の先生に言われてね。探しに来たんだ」
石野「すみません、お手数をおかけしました。ちょっと階段から落ちてしまって・・・・・・」
薬師寺「えぇっ!!」
  階段から落ちた。と聞いた薬師寺先生は急に慌て始めて、
薬師寺「痛いところは?」
薬師寺「気持ち悪いとかない?」
薬師寺「頭から落ちた?」
  等々、聞いてきてくれる。
石野「大丈夫です。肘を打っただけで・・・・・・」
石野「もう痛みも引いてきたんで、テスト、受けにいきます」
  幸いなことに、僕は左利き寄りの両利きだ。少し勝手は違うが、右手で解答できる。
  だが、次の瞬間、先生の口調は厳しいものになった。
薬師寺「ダメだ。病院で検査した方が良い。保護者の方にも連絡するから」
石野「あ、でも、本当に頭は打ってない・・・・・・」
薬師寺「にしても、だ」
  自分で言うのもなんだが、僕は手のかからない優等生な方で、
  両親からもだし、先生などにだって、そんな声で話しかけられたことはなかった。
  でも、反対に、優しく言葉をかけてくれたのも・・・・・・。
薬師寺「テストなんかまた受けられるし、君の体以上に大事なものなんてないんだから」
石野「・・・・・・」
  恋はするものではなく、落ちるものだ。
  と何かで読んだか聞いた。
  そう、僕は階段から落ちて、恋にも落ちてしまったのだ。

〇教室
中学生A「えー、石野、学級委員、やらないの?」
石野「ああ、僕は保健委員に立候補する」
中学生B「えぇ、石野、生徒会にも入るってあんなに言ってたのに?」
中学生A「そうだ、そうだー! 折角、応援演説とか考えてたのに!!」
  他の学校ではどうなのか、分からないが、
  僕の学校では生徒会員は学級委員を経てから立候補する場合が多い。
  勿論、薬師寺先生に会う前は僕自身も学級委員に立候補するつもりだった。
石野「もう決めたことなんだ。応援演説は他のヤツにしてやってくれ」
中学生A「・・・・・・」
中学生B「・・・・・・」
  ここから僕は中高6年間、前半も後半も保健委員を務めることを決意した。
  勿論、薬師寺先生が6年間、この学校にいるかは分からない。
  だから、極力、保健室へ行っても良いような理由も作って、薬師寺先生に会いに行った。

〇桜並木
  ある時は

〇保健室
石野「突き指してしまったようで、指に違和感があって・・・・・・」

〇学校脇の道
  またある時は・・・・・・

〇保健室
石野「すみません。虫に噛まれてしまったみたいで凄い腫れ出してきて・・・・・・」

〇農村
  またある時は・・・・・・

〇保健室
石野「すみません、授業を受けてたら、顔色がよくないって先生に言われて・・・・・・」

〇桜並木
  春。

〇学校脇の道
  夏。

〇農村
  秋。

〇雪に覆われた田舎駅(看板の文字無し)
  冬。

〇時計
  6年間は短い訳ではないけど、あっという間だ。

〇保健室
薬師寺「そろそろ、石野も卒業か」
  僕の卒業に感慨深いそうな、薬師寺先生の声。
  もう先生と会える時間は少ない。
  いや、最初から分かっていた。
  1回でも多く、先生に会いたい・・・・・・と思うけど、
  1回会えば、その分、先生と会う1回は減っていってしまう。
  先生と生徒ではなくなり、離れ離れになる日が、来るのだ。と・・・・・・。
薬師寺「確か、石野の進学先は○×大だったなぁ。石野、中学の時から成績、良かったもんなぁ」
石野「先生・・・・・・」
  実は、進路相談も先生に会う口実に使った。
  本当は僕が選べる進路なんてあまりなかったのだけど、
  先生みたいな養護教諭になりたい。と言い、
  先生が養護教諭になった理由を聞いたり、どこの大学に行ったのかを話してもらった。

〇保健室
薬師寺「養護教諭になった理由か・・・・・・そんな大それた理由はないんだ」
薬師寺「家が教師一家だったし、インターンで保健室登校の子の支援もやってたし・・・・・・」
薬師寺「ただ、いざ、養護教諭になったら、割とこの仕事は当たりだったんじゃあと思ったな」
薬師寺「石野みたいな、熱心な保健委員もいるし、教員冥利に尽きるよ」
石野「そんなこと・・・・・・」
薬師寺「ははは、照れるな。照れるな。で、出身はどこだったか?」
薬師寺「出身は××大だけど、石野の成績だったら、○○大か○△大も狙えるんじゃないか?」

〇保健室
薬師寺「色々あったが、ありがとう。6年間、石野がいたから本当に助かった」
薬師寺「ただ、大学に行っても、社会に出ても、体に気をつけて」
薬師寺「頑張るのは石野の良いところだけど、体調を崩すまで頑張るな」
薬師寺「石野の人生が良いものであるように」

〇黒
薬師寺「石野の人生が良いものであるように」
  そんな風に言ったのはついこの間のことにように思える。
  少し怪我や体調不良が多くて、頑張り屋だった男子生徒・石野に向けて、
  そんな言葉を贈ったのは・・・・・・

〇病室のベッド
薬師寺「そんなの・・・・・・困ります!!」
  あれから、あっという間に20年が経ったある日、俺はとある病院の病室にいた。
女医「良いですか? 薬師寺さん。困るも何もないです」
女医「薬師寺さんは極めて危ない状態なんです」
  ある日、俺は健康診断を受けたのだが、後日、検査入院をするように言われた。
  養護教諭・・・・・・ということで、健康にも十分気をつけていたつもりだったが、
  病気は自分でも知らぬ間に進行していたらしい。
  病名・・・・・・は伏せるが、かなり難しい手術をしなければいけないらしく、
  助かる見込みも低いらしい。
女医「安静が必要なんですよ、今の薬師寺さんには」
  49歳。この国で、この世を去るには若いのかも知れないが、
  学校には自分より若くても、死にたいと思い悩んでいる生徒がいる。
薬師寺「安静にしても治らないなら、安静は必要ないでしょう。私は学校へ帰ります」
女医「ちょっと、薬師寺さん!!」
  女医さんの制止を無視し、俺は入院の為に持ってきた荷物をまとめる。
  そんな中、ガラガラと病室のドアを開ける音がする。
  ガラガラガラ
???「待ってください。薬師寺さん」
薬師寺「(誰だ・・・・・・この人?)」
  正確な年齢は分からないが、おそらく40手間くらいだろうか。
  さらりとした髪に、眼鏡をかけて、いかにも理知的な人物だった。
???「すみませんが、△△先生。薬師寺さんと2人でお話させていただけないでしょうか?」
女医「先生っ? ・・・・・・分かりました。薬師寺さんのこと、お願いいたします」
  △△先生と呼ばれた女医さんは部屋を出ていく。病室には俺と謎の先生が残った。
  すると、先生は自分のかけていた眼鏡をゆっくりととった。
???「お久し振りですね。薬師寺さん・・・・・・いえ、薬師寺先生」

〇保健室
石野「お久し振りですね、薬師寺先生」

〇病室のベッド
薬師寺「石野・・・・・・なのか?」
石野「はい、石野です」
  何だか、随分前になるが、同じような場面があったように思う。
  だが、その時とは状況があまりに違っていた。
薬師寺「(まさか死ぬ前にまた石野と会えるなんて・・・・・・)」
  彼は自分に特に懐いてくれた生徒だということもあり、よく覚えている。
  懐かれた=自分が良い先生だったという証明にはならないが、
  自分の教諭人生を象徴する生徒なのは間違いなかった。
石野「テストなんかまた受けられるし、君の体以上に大事なものなんてないんだからって」
石野「言ってくれたのに、先生が自分を大事にしないなんて、ダメじゃないですか・・・・・・」
薬師寺「いし、の・・・・・・」
  何か、言いたいのに・・・・・・出てくるのは言葉ではなく、涙だけだった。
石野「泣かないで、先生。僕はね、先生のような養護の先生にはなれなかったけど、」
石野「今はこれで良かったと思っているんです」

〇病院の廊下
患者A「先生、ありがとう」
患者B「先生のおかげで生き返ったよ」
石野「(もし、僕が先生と同じ道を歩けていたら先生と同じ目標を持って生きれたかも)」
石野「(知れない。でも、あの人達は今も生きることはできたんだろうか・・・・・・)」

〇病室のベッド
石野「先生と同じ養護の先生になって、研修とかで会ったり、同じ目標に向かって頑張ったり」
石野「そんな未来に夢を見ていたこともあったけど、その夢を諦めたから」
石野「先生の病気を治せる。先生を死なせないで良かったんだから」
薬師寺「助かる・・・・・・のか」
薬師寺「俺は・・・・・・」
  難しい手術をしなければ死ぬだろう、と聞かされても、泣かなかったのに、
  石野の顔を見て、声を聞くだけで涙が溢れてくる。
  その度に石野は俺が落ち着くのを待ってくれたり、手を握ってくれたりした。
薬師寺「ありがとう。・・・・・・もう大丈夫だ」
石野「良かった。じゃあ、説明を続けますね」
石野「実は先生と同じようなケースの患者さんを何人か診て、手術もしてきたんです」
石野「術後経過も皆さん、良好でしたが、まぁ、それでも、簡単な手術とはいかなかったですね」
石野「僕以外で手術を成功した医師は世界でも何人もいませんし、それだけ難度は高いです」
石野「でも・・・・・・」
薬師寺「でも?」
石野「僕は大好きな先生を死なせない」
薬師寺「大好きな?」
石野「ええ、ずっと好きだったんです」
石野「本当は理由なんかなくても、毎日でも保健室に行きたかったくらい」
石野「僕の運命の先生だったんです。薬師寺先生は」
  ああ、俺が石野の運命の先生だと言うのなら、石野こそ俺の運命の先生だろう。
  自分の命を助けてくれるから・・・・・・だけじゃない。
  20年以上も前から自分を思い続けてくれたから・・・・・・だけでもない。

〇病室のベッド
  多分、石野の全てが愛おしくて・・・・・・。
  俺はたまらなかった。

〇桜並木
薬師寺「石野の人生が良いものであるように」
石野「先生の人生も・・・・・・」
石野「僕の人生には先生が必要です」
薬師寺「俺の人生にも先生が必要だよ」
  運命の先生 完。

コメント

  • 中高6年間、想い続けただけでもすごいのに、その後20年間もお互いに心の中にいたなんて、本当に素敵だと思います。
    先生が手遅れになる前に再会できて本当によかったです。

  • 長い長い年月をかけて結ばれる恋愛、美しいですね。それはもう恋心をこえて、深い愛ではないでしょうか。誰かを愛するということは前向きに日々を生きる原動力になりますね。

  • 運命の人っているんですね。私も学生時代に養護先生に毎日でも会いたい気持ちが有りました。主人公と気持ちが重なって昔を思い出しました。

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