〇村の広場
　　前回の「すべてを破戒し僧！」
タイシ「うおおおお!!」
「タイシ!?」
静蓮「タイシ、待ちなさい!!」
　　室町時代に突如顕現した
　　謎の人工物（アーティファクト）
　　タイシには見慣れたそれらがもたらす
　　歴史への影響は計り知れない
　　タイシは脳内の偉人たちに諭され
　　無我夢中で火の中へ駆けていった

〇大きな公園のステージ
ツクモ「触るな!! マジで何なんだお前!!」
タイシ「良いから!!」
ツクモ「良くねぇよ!!」
「くっ」
ツクモ「いや、火力高すぎだろコレ!!」
タイシ（まずい、火の勢いが強くなってる!!）
タイシ「火事なんです!! 避難してください!!」
ツクモ「え？」
ツクモ「これ演出じゃねーの？」
タイシ「演出じゃないです!! だから逃げましょう!!」
ツクモ「観客はみんな逃げたのか？ スタッフは？」
ツクモ「もしかして・・・ ずっと俺だけ気づいてなかった感じ？」
タイシ「そうです!! とにかくこっちへ!!」
ツクモ「・・・」
ツクモ「・・・置いてってくれ」
タイシ「は!?」
ツクモ「俺、脚怪我してるから たぶん走れねぇ」
ツクモ「知ってるだろ」
タイシ「知らねぇよ!!」
タイシ「走れないなら担ぐ!!」
ツクモ「うわッ!?」
ツクモ「なんで肩車なんだよ!!」
タイシ「アッ つい弟にやるクセで・・・」
ツクモ「ちょっ」
？？？「マジで待ってくれ ギター!!ギターも一緒に!!」
タイシ「悪いがギターまで抱える余裕はない!!」
タイシ「いのちだいじに、だ!! しっかり掴まってろよ!?」
「・・・」
与太郎「・・・え？」
？？？「二人とも!!」
菊のお母さん「ここにいたのね!! 早く逃げなさい!!」
菊「・・・おばあちゃん、あの人なに？」
菊「声がとっても大っきくて ピカピカ光ってて・・・」
菊のお母さん「忘れなさい！今はここから離れるのよ」
与太郎「わ、わかった!!」
菊「うっ・・・」
菊「うん・・・？」
与太郎「菊、早く!!」
「菊!?」
与太郎「菊、どうしたんだ!?」
与太郎「ばあちゃんっ 菊の体がぶるぶる震えてる!!」
菊のお母さん「菊!!」
菊のお母さん「返事をして!!お願い!!」
与太郎「きッ」
与太郎「菊ーッ!!」

〇森の中
タイシ（ここらまでくれば とりあえず大丈夫か？）
「おい!! 降ろせって!!」
タイシ「わかった、わかったから」
タイシ「ハァ・・・ハァ・・・」
タイシ（落ち着け俺──）
タイシ（たぶんこの人は俺と同じく タイムスリップしてきた人）
タイシ（事態の説明は後からどうとでもなる）
タイシ（問題は何故か建物ごと 室町時代に来てるってトコだ）
タイシ「いや、いきなり担いで申し訳ない 俺は──」
タイシ「って」
タイシ「いない!!」
タイシ「もしかしてステージに戻ったのか!?」

〇大きな公園のステージ
ツクモ「うっ」
ツクモ（くそ、どこに・・・ッ）
「待てーッ!!」
ツクモ（さっきの奴、律儀に戻ってきたな）
ツクモ（悪いけど、これだけは命にかえても）
ツクモ（あった!!）
ツクモ（ボディが少し焼けてるっぽいが 見た感じ大丈夫そうだ!!）
ツクモ（うわ）
ツクモ（なんか、ヤバそう）
ツクモ（体が、重く・・・）

〇空
　　その後・・・
　　またすぐに雨が降り出した
　　おかげで火消しには困らず
　　人々は安堵した
　　一方で見事に焼け落ちたステージには
　　皆、恐れをなして近付かなかった

〇屋敷の牢屋
　　──翌朝
「・・・不幸中の幸いでした」
ツクモ「ん・・・」
「燃えていたのはあの奇妙な社のみで・・・」
「雨が降っていたことも 森に火が移らなかったことも・・・」
「まるで神仏の加護 いやそも、このような不可思議・・・」
ツクモ（・・・）
ツクモ（死んだ・・・）
ツクモ（訳じゃなさそうだな）
ツクモ「おーい、誰か──」

〇屋敷の牢屋
ツクモ「・・・アンタか」
タイシ「元気そうで何よりです」
ツクモ「全然元気じゃねぇよ？ ・・・頭がガンガンする」
タイシ「頭痛で済んだなら奇跡です 煙吸ってたらどうしようもなかった」
ツクモ「・・・ありがとな ギターも一緒に救出してくれて」
ツクモ「命より大事なモンなんだ」
タイシ「勝手にいなくなられて こっちはびっくりしましたよ」
ツクモ「悪かったよ」
タイシ「もういいですよ ・・・で、本題に入るんですが」
タイシ「貴方はどこの誰ですか？」
ツクモ「俺は『BONDs』のギターボーカル 九十九龍樹（つくもたつき）だ」
ツクモ「知ってるだろ？」
タイシ「いや、知らな──」
タイシ「・・・え」
ツクモ「安心してくれよ、意識はハッキリしてるし 身元もググれば一発だ」
タイシ「ス、スマホ!?」
ツクモ「そんな驚くことか？」
タイシ「あ、いや」
ツクモ「あれ、ネットが繋がらねぇ」
ツクモ「悪いけどさ、マネと連絡とりたいから スマホ貸してく──」
タイシ「あ・・・ いや、実は・・・」
ツクモ「え？」
タイシ（聞いたことあるぞ・・・『BONDs』って）
タイシ「アニメのオープニングテーマとかやってた あの『BONDs』ですよね・・・？」
ツクモ「そうそう、その『ボンズ』」
ツクモ「フェス来てたなら バンド名くらいはわかるだろ？」
タイシ「あの・・・ すごく言いにくいんですけど・・・」
タイシ「貴方はタイムスリップしたんです」
ツクモ「・・・は？」
タイシ「ここは室町時代で スマホは勿論ネット回線も存在しません」
ツクモ「おいおい 冗談言ってる場合じゃないだろ？」
ツクモ「アンタもネット繋がらないなら そう言って・・・」
タイシ「冗談じゃないんです」
タイシ「・・・ライブ中に雷が落ちませんでしたか？」
ツクモ「落ちたけど」
タイシ「それがきっかけで貴方は 室町時代にタイムスリップしたんです」
ツクモ「いや、理屈も意味もわかんねぇよ」
タイシ（うーん、ごもっとも!!）
タイシ「・・・もう動けますよね」
タイシ「証明するためには 現場を見てもらうのが早い」
タイシ「ついてきて下さい」

〇村の広場
ツクモ「・・・」
村長「・・・その男は牢から出すな」
村長「何を仕出かすかわからん」
タイシ「この者は大丈夫です 村のみんなに危害を加えたりしない」
村長「そんな保証がどこにある!! 放火の犯人の可能性もあるのにだぞ!?」
タイシ「彼も怪我をしています ただ巻き込まれただけの被害者なんです」
タイシ「それにあの火事は雷によるものだと・・・」
静蓮「タイシ」
静蓮「菊がまだ目覚めず 村の皆が不安の渦中にいるのだ」
静蓮「どうか今一度、牢に戻ってもらえないか」
静蓮「それにだ 彼を牢に入れることは村の皆が決めた」
静蓮「それに私達が反対できる道理はないだろう」
タイシ「・・・そうですね わかりました」
タイシ「ではもう少しだけ・・・ 彼と中で話をさせて貰えませんか」
静蓮「私は構わないが・・・」
村長「静蓮さまへの多大なる信頼の下に 許されていることを忘れるな」
村長「半刻待つ それからの処遇は村の会合で決める」
村長「これ以上その男を庇えば お前自身への疑いに繋がると思え」

〇屋敷の牢屋
「・・・」
タイシ「すいません 余計混乱させました」
ツクモ「俺がいたフェスの会場じゃなくて 映画村にいるってのはわかったわ」
ツクモ「・・・何となく歓迎されてないこともな」
ツクモ「は〜」
ツクモ「こういう時は大人しくしてるに限る」
タイシ（意外と冷静だな ありがたいが・・・）
タイシ（だいぶマズイことになってきた）
ツクモ「・・・アンタも訳アリって感じか」
タイシ「なんでそう思うんですか？」
ツクモ「さっき外にいた奴らの俺を見る目は お前を見る目と同じ」
ツクモ「『嫌疑』の目だ」
ツクモ「仕事柄そういうのには敏感でね」
タイシ「その通りです」
タイシ「俺は一週間前 ここにタイムスリップしてきました」
タイシ「貴方と同じ様に大雨の夜 雷に撃たれて──」
タイシ「要するに、俺もまだ 村の人達に受け入れてもらえてないんです」
ツクモ「なるほどな」
ツクモ「・・・とはならないけど とりあえず大人しくしとく」
タイシ「助かります」
タイシ（盗賊がいるくらいだから 村の人達が外の人間に慎重になるのは仕方がない）
タイシ（しかし・・・ あれは牽制だ）
　　──その男を庇えば、お前自身への疑いに繋がる
タイシ（俺への疑いは、そのまま俺を庇ってくれた 静蓮さんへの疑いになるってことか）
タイシ（下手なことはできないな）
タイシ「とにかく俺がわかる限りの 今の貴方の状況をお話します」
タイシ「今は信じなくても構いません」

〇畳敷きの大広間
　　──同時刻、菊の家
与太郎「菊・・・」
菊のお母さん「震えが止まったのに 何故目覚めないの・・・？」
村長「与太郎、寝ていないだろう 看病を代わろう」
与太郎「・・・うん」
村長「表情は穏やかだが・・・ まるで目覚めそうにない」
村長「何故こんなことになったのか・・・」
？？？「お話、聞かせていただきました」
「だっ、誰だ!?」
？？？「私なら・・・ その子を目覚めさせられます」
村長「ど、何処から入った!?」
？？？「怪しいものではありません」
？？？「先程すれ違った与太郎という子に 入れていただきました」
菊のお母さん「あ、あの」
菊のお母さん「菊を目覚めさせられる というのはどういうことですか？」
？？？「言葉通りの意味です」
？？？「その代わり・・・といってはなんですが」
？？？「昨夜雷と同時に現れた男の身柄・・・ 此方に引き渡していただきたい」