恩暮呂堂の 貧乏絵師

福山 詩(フクヤマ ウタ)

エピソード1(脚本)

恩暮呂堂の 貧乏絵師

福山 詩(フクヤマ ウタ)

今すぐ読む

恩暮呂堂の 貧乏絵師
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇温泉街
重兵衛「こいつァ歌川国芳の骸骨、 お次は葛飾北斎の百物語に瓜二つ・・・」
重兵衛「どれも見たことがあるような絵だな、こりゃ」
惣七「重兵衛さん! んなこたねぇよ! 正真正銘俺が描いた絵だ!」
惣七「国芳のこの迫力!構図の力! 猫や金魚なんかを人みたいに面白おかしく描いて大衆の心を掴んで離さねぇ! 北斎は忠実で繊細な」
重兵衛「惣七?」
惣七「線!色彩!描写力!異国の人も北斎の絵に夢中だ!まさに日本の宝!実はこっちの鈴木晴信に影響されて描いた絵もあるんだが」
重兵衛「惣七!惣七! もう十分だ! お前が絵が好きなのはよ~く分かった」
惣七「俺は尊敬する絵師が山程いる! だから良いところを盗もうと思って」
重兵衛「惣七、あのな、 盗むとかの話じゃねぇよ」
重兵衛「前々から思ってたが この際、言わせてもらうぞ お前ェの絵はな、」
重兵衛「みィんな、他所様の真似事よ」
惣七「いや、俺はただ影響を強く受けて」
重兵衛「人の真似ならだれでも出来ら」
重兵衛「そもそも おめぇにゃ、自分ってもんがねぇ」
惣七「自分?」
重兵衛「おうとも!こん中によ、えぇ? お前ェ自身が感じて描いた絵が、 ただの一枚だってあんのかって聞いてんだ」
重兵衛「少なくともよ、 お前ェが今まで持ってきた 山のような絵の中にゃ」
重兵衛「なかったな、一枚ェも」
惣七「う」
重兵衛「お前ェんとこの親父さんも 爺さんも 代々ずっとそりゃぁ立派な絵師だったよ?」
重兵衛「だがな惣七 お前ェは絵師には向いてねェ」
惣七「・・・それでも俺は」
惣七「俺は誰かを見返して・・・親父や爺さんのような・・・ それでも絵が。 ・・・畜生!!!」
惣七「俺は好きな絵で食っていくんだ! それは俺の夢だ!」
お菊「ちょいと 言い過ぎたんじゃないのかい」
お菊「惣ちゃん、いつもこの問屋を手伝ってくれるのにあんな突き放し方して アンタは絵のことになるとキツくなるんだから」
重兵衛「自分に絵師の才能がないのは 惣七自身が一番よくわかってら 早めに言ってやったほうが華なのさ」

〇古びた神社
「くそ!」
惣七「自分らしさが無い? そんなこと、分かってる!」
惣七「独自の絵が描けりゃあ 今こんなに苦労してない! お前も絵を描いてみろってんだ」
惣七「どうせ 俺には親父のような絵は描けん」
惣七「親父のようには・・・」

〇古びた神社

〇古びた神社
惣七「降ってきた! この神社で雨を凌ごう」

〇祈祷場
惣七「これはひどい雨だ」
惣七「ん?なんだこりゃ」
惣七「冷て!? いや 絵・・・?」
惣七「なんて迫力の絵だ いったい誰が描いたんだ?」
惣七(随分と埃を被っている まさか! 捨てられているのか!?)
惣七(勿体ない この絵は誰にも見られず朽ちていくのか それなら、いっそ・・・)
惣七「ゴクッ」

〇温泉街
惣七「重兵衛さん! この絵を見てくれ!」
重兵衛「あぁ惣七かい また来たのかい どうせまた誰かの真似事だろ」
重兵衛「!? うひゃぁあ! つめた? いや、濡れてない!?」
重兵衛「いや、驚いたね この絵はなんでぃ すげぇ迫力だな」
お菊「見事なもんだね 飛び出してきそうだよ」
重兵衛「まさかお前ぇが描いたのか? この絵を!?」
惣七「う・・・ えーと・・・」
水龍の絵「ウゥ グルゥ!」
惣七(ん・・・!? (なんだ?この絵動いてないか?))
重兵衛「すごいよ惣七! 俺ァはここで版元を30年やってるけど こんなに動き出しそうな絵は初めてだよ!」
惣七「あぁ・・・ははは」
惣七(やはり表情が・・・!何かまずいものを拾ってきちまったかも・・・!!!!!)
「ぶえぇっっ!!」
重兵衛「いや~こりゃ参った! 雨が降ってるからだな! 今本当に濡れたかと思ったぞ!」
惣七(今本当に 絵の水飛沫がかかったよな!? 重兵衛さん、鈍感すぎ!)
重兵衛「うちには優秀な彫師と刷師がいるしな 惣七はきっと売れっ子になる! 間違いないぞ!!」
惣七(呪いだ・・・ 呪われてんだこの絵は 俺が罰当たりなことしたから・・・)
重兵衛「おい!惣七! どうした?顔が真っ青だぞ?」
惣七「いや、ははは なんでもないよ 重兵衛さん」
惣七「だが悪いがこの絵は売れない!」
重兵衛「おいおいどこ行くってんだよ!」

〇祈祷場
惣七(やっぱり盗むんじゃなかった いくら良い絵でも 呪われているのはごめんだ)
縁(えにし)「あんれぇ おかしいねぇ」
惣七(誰かいるぞ 子供?)
縁(えにし)「確かにここへ置いて・・・ン~? どこへ行ったかね、」
縁(えにし)「アタシん描いた水龍の絵は」
惣七「なあ!」
惣七「今自分の描いた水龍だと言ったのか? (この子が描いたのか?この子供が?)」
縁(えにし)「おにぃさん アタシが見えんのかい」
惣七「大人をからかうな! 見えるに決まっているだろ! それより あの水龍の絵はアンタが描いたのか?」
縁(えにし)「そうさ」
縁(えにし)「描いたはいいが貰い手がなくてね ここへ置いて帰っちまって 戻ってみたが どうゆうこった」
縁(えにし)「影も形もありゃせんねぇ おや」
惣七「ぶえぇ!」
縁(えにし)「おにぃさんが 持ってたのかい」
惣七「また濡れた!なんだよこりゃ どうして絵の中の水龍が動くんだ!?」
縁(えにし)「心を込めて描くと 宿るのさ、命が」
水龍の絵「エニシ イツ迄 我ヲマタセル気ダ」
縁(えにし)「そう慌てなさんな たかだか百年の話だろう?」
水龍の絵「百年ではない! 百年と三月だ! お前は我を完璧に描いておきながら」
水龍の絵「完璧に!放置しよった! 百年も! 違う、百年と三月も!」
水龍の絵「お前がなっかなか この絵を売ってくれないから 人間に持ち出されてしまったではないか!」
水龍の絵「焦ったぞ!!!!!(強調)」
縁(えにし)「あっはっはっは! ずぅっとほって置いて悪かったよ アンタはアタシの大事な作品さね」
縁(えにし)「ただ、アタシの周りに水龍の絵を欲しがっている奴がいないからさ」
縁(えにし)「悪いがもう少し眠っていてくれないかい」
惣七「え!? この素晴らしい作品を眠らせるなんて勿体ない! 重兵衛さんの問屋で売ればいいのに!」
縁(えにし)「・・・」
惣七「あ、いや・・・すまない! 無断で持ち出したのはこの俺なのだ」
惣七「本当にすまないと思っている この通り」
縁(えにし)「その絵、盗んだのかい」
惣七「あまりに・・・ あまりに羨ましくなった こんな才能がこの世にあったのかと」
惣七「埃を被っていた ここへ捨てられているのかと思った」
惣七「捨てられる絵ならいっそ・・・」
惣七「いっそ、 俺が描いたことにしてやろうと思った」
縁(えにし)「照れるねぇ」
惣七「えっ?」
縁(えにし)「いやね、絵を描くことが何よりも好きだからさ 盗んだことは悪いことだが、 嬉しいじゃないか」
惣七「俺をしょっぴかないのか?」
縁(えにし)「ン~ 人間の決まり事には興味がないもんでねぇ」
惣七(確かに・・・ さっきから珍妙なことばかり こんな芸当神様しか出来ないだろう)
惣七(子供の神様、ということは 座敷童か!?)
縁(えにし)「あ~ 良いことを思いついた」
縁(えにし)「アンタがアタシの絵を売ればいい」
惣七「俺が? アンタの絵を?」
縁(えにし)「そうさ」
惣七「い、いやいや 確かに俺は問屋に勤めてはいるが 本業は絵師でやっていきたいと」
縁(えにし)「ン~? ァ口答え? ァアタシの? ァ水龍を? ァ盗んで? ァおきながら?」
縁(えにし)「別に約束しなくてもいいよ? アンタを呪い殺すだけさ (そんなこと出来ないけどね)」
惣七「ひぁいっ!?」
惣七「わ、わかったよ・・・ 約束する 俺は惣七だ」
縁(えにし)「・・・ンフッ いい子だ惣七 アタシは縁」
お菊「惣ちゃんこんなとこにいたのかい!? 大変だよ! アンタんち泥棒が入って部屋の中がもぬけの殻だってさ!」
惣七「えぇ!? 泥・・・? 待ってお菊さ・・・」
重兵衛「あーといたいた!! 惣七!俺んとこの問屋だが引っ越しすることになってよ!暫く休業するからお前ェ明日っから来なくていいぞ!」
惣七「え?あっちょ」
「・・・」
惣七「・・・え?」
惣七「はぁ!? えぇ!? おい秒で文無し職無しになったぞ!?」
縁(えにし)「あっはっはっはっはっは! あ~やっぱりねぇ」
惣七「やっぱりってアンタ座敷童じゃないのか?」
縁(えにし)「ん~? アタシのことは皆「貧乏神」 というがねぇ?」
惣七「え!? 貧乏神!? (取り憑かれたら貧乏になるっていうあの)」
惣七「えーと、 なぁ縁、さっきの約束なんだけどさ」
惣七(貧乏神と商売とか無理だろ!? そもそも縁の絵が売れるかどうかも分からないんだぞ!?)
縁(えにし)「惣七ぃ・・・」
縁(えにし)「逃がさないよ♡」
惣七「うわー-------! 嫌だー------!」
  かくして
  貧乏神の縁と商売を始めた(強引に)惣七
  はてさてどうなることやら
  
  
  続きはまたのお楽しみ

次のエピソード:2秀仙堂の、兼巻さん

コメント

  • びしりといい感じ
    主人公の立ち位置にぐっと引き寄せられてからの怒涛の展開。
    脇の重兵衛さんお菊さんも渋く固めてブレが無い。
    続きが気になりますね。

    楽しませていただきました。
    ありがとうございます。

  • ファンポチしました🎵
    テンポ良くて楽しい✨水龍可愛い😂🐲

  • ボイス機能搭載されたかと思って見に参りましたが、まだだったでしょうか⁇😅

    また、搭載された頃にもう一度読みに?聴きに?伺います👍

コメントをもっと見る(16件)

成分キーワード

ページTOPへ