第6話 咀嚼(脚本)
〇川沿いの公園
怠惰ちゃん「なんなの・・・? どうしちゃったの?」
暴食くん「どうもしてないよ。ただ、どんな顔するのかな〜って」
怠惰ちゃん「やめてよ。怖いよ」
暴食くん「怖がってる顔も可愛いね」
怠惰ちゃん「・・・」
暴食くん「・・・ホログラムには触れられないけど、人間には触れられる」
怠惰ちゃん「何・・・?」
暴食くん「みさたんは今、僕の目の前に確かに存在していて、そこには匂いや体温がある」
暴食くん「僕はそれを確かめたかった」
怠惰ちゃん「・・・」
怠惰ちゃん「だとしても・・・どうして痛いことするの?」
暴食くん「そうしないと“実感”が湧かないから」
暴食くん「色々な味、色々な表情を味わうことでしか“実感”は得られない」
暴食くん「僕がここに存在して、君がそこに存在するという確かな“実感”が──」
怠惰ちゃん「何を言ってるの?」
怠惰ちゃん「ラノベの読みすぎで現実と空想の区別が付かなくなったの?」
怠惰ちゃん「だめだよそういうの。痛いよ」
怠惰ちゃん「痛いこと言わないでよ」
暴食くん「痛いのは君も同じじゃない?」
暴食くん「良い年して小学生みたいな格好して」
怠惰ちゃん「っ」
暴食くん「髪の毛もぼさぼさで、眉毛に至っては整えてすらいない」
暴食くん「大抵の女性からは良い匂いがするんだけど、君からはおばあちゃん家のタンスの匂いしかしないんだよね」
怠惰ちゃん「・・・」
暴食くん「もうちょっと身なりに気を遣った方がいいんじゃない?」
怠惰ちゃん「うるさい!」
怠惰ちゃん「うるさいうるさいうるさい!」
怠惰ちゃん「分かったような口を聞いて! お前も他のバカと同じで私の価値が分からないんだ!」
怠惰ちゃん「身なりがどうこうでしか人を判断できないうんこなんだ!」
怠惰ちゃん「死んじゃえ! 死んじゃえよ! 生きてる意味ないよ! もう死んで! お願いだから死んで!」
暴食くん「おや、何か地雷を踏んじゃったかな?」
怠惰ちゃん「うるさい!」
暴食くん「君って言動まで小学生だね。まあ、そういうところが可愛いんだけど」
怠惰ちゃん「バカにしてる・・・」
怠惰ちゃん「お前の「可愛い」は人をバカにしてる!」
暴食くん「君だって人をバカにしてるんじゃないの?」
怠惰ちゃん「バカはバカだろ!」
暴食くん「人を見下すことで自分が上にいると勘違いしてるんでしょ?」
怠惰ちゃん「・・・」
怠惰ちゃん「あなたが最低なことはよーーーく分かりました。なので消えてください。さようなら。もっと相手の気持ちを考えて発言しようね」
怠惰ちゃん「じゃないとモテないよオタクくん。私みたいな可愛い子に本気で相手されてると勘違いしてるオタクくん。キモいんだよ消えろばーか」
怠惰ちゃん「死ね」
暴食くん「やっぱり可愛い」
彼は私を抱きしめる
怠惰ちゃん「ちょっ! キモい・・・」
怠惰ちゃん「離してよ・・・」
暴食くん「君みたいなクズは他にいないよ」
怠惰ちゃん「クズはお前だろ!」
暴食くん「分かるんだ、僕には。君がどうしようもない子だって・・・」
怠惰ちゃん「離せ!」
暴食くん「・・・」
怠惰ちゃん「・・・」
怠惰ちゃん「なんなの? 何がしたいの・・・?」
怠惰ちゃん「怖いよ・・・」
暴食くん「怖がらせてごめん。しばらくこうさせて」
怠惰ちゃん「・・・」
〇川沿いの公園
怠惰ちゃん「・・・」
こんなに長い間、人に抱きしめられるのは初めてだった
最初は昂っていた私の感情も、やがて彼のゆったりとした鼓動に引き込まれるようにして、落ち着きを取り戻していく
怠惰ちゃん「いつまで、こうしてるの?」
暴食くん「ずっと」
怠惰ちゃん「ずっとって・・・。日が暮れちゃうよ」
何故だか、すごく落ち着く
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