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きせき

エピソード3-無色の刻-(脚本)

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〇シックなリビング
黒野すみれ「無理のない修正?」
明石春刻「うん。例えば、AさんとBさんの子・Cさんが自分の生まれる前の過去に行って、」
明石春刻「Aさんを刺して死なさせたとしようか」
明石春刻「すると、Aさんは自身が生きたら存在するけど」
明石春刻「自身が死んだら存在しない人物に刺されてしまったことになる」

〇殺人現場
A「うわあああ」
  バタン!!
C「どうしよう、死んじゃった・・・・・・」
C「でも、これで僕が生まれることはない筈」
C「じゃあ、僕って何?」

〇黒
明石春刻「その場合はAさんが完全に亡くなった時点で、Cさんは消滅」
明石春刻「Aさんは例えばだけど、誰か他の人の刺されて死んだと確定して、」
明石春刻「未来ができていく」

〇シックなリビング
黒野すみれ「・・・・・・」
明石春刻「確かに大きすぎる力だよね。まぁ、でも、当主権限があるし、大丈夫だと思う」
黒野すみれ「当主権限?」

〇黒
明石春刻「当主権限」
明石春刻「昔は仇討ちや戦争があって、歴史は何度か依頼人の都合によって」
明石春刻「塗り替えられたらしいから近代になってできた権限らしいんだけど、」
明石春刻「例えば、殺害や略奪」
明石春刻「その他、当主が秘術を行うに適切ではないと判断した場合は」
明石春刻「秘術を拒否できることになったんだ」

〇シックなリビング
黒野すみれ「でも、拒否できるってだけで、拒否ができない状況に追い込まれたら?」
黒野すみれ「例えば、秘術を行わない場合はアンタを殺すって脅されるとか?」
明石春刻「ははは。それはこわいね。ただ、それも大丈夫」
明石春刻「その時は秘術を一旦、受けて・・・・・・」
  春刻はそう言うと、机の上にあったペンを掴む。
明石春刻「蝋燭を壊す訳にはいかないから、これは蝋燭の代わりだと思ってね?」
  春刻は手からペンを落とす。
  勢いよく落ちていたそれは・・・・・・。

〇血しぶき
  ーーーーーカラカラ。

〇シックなリビング
明石春刻「蝋燭を折るか、叩くか、して壊す」
明石春刻「すると、その蝋燭で過去に行っている人はもう2度と元の時間に戻ってこられない」
明石春刻「勿論、過去から元の時間時点まで戻ろうとしても、それも無理」
明石春刻「SFめいてはいるけど、亜空間に近い、時間の概念がない空間に飛ばされるとされている」

〇魔法陣2
明石春刻「僕はそれは死、と同義だと思っている」
明石春刻「秘術の書に書かれているだけで、本当はどうなのかは分からないけど、」
明石春刻「この世から姿が消えることには変わりない」

〇シックなリビング
明石春刻「・・・・・・」
黒野すみれ「・・・・・・」
  春刻の話が一通り、終わると、
  リビングは重苦しい沈黙に包まれる。
  フィクションで「過去を変える」なんてことができれば、
  割と最初のうちはキャラクターが
  気軽に過去を変えて楽しんでいることもある。
  だが、実際の話になると、予想する以上に大変で
  重かった。
明石春刻「ごめんね。大変なことを頼んでいるな、とは我ながら思ってる」

〇新緑
明石春刻「ただ、考えてみて欲しい」
明石春刻「君がもし、過去に行ったら、何ができるかを」

〇シックな玄関
明石春刻「お父さんの事故を回避できるかも知れない」

〇地下室
明石春刻「もし、君が僕を助けてくれたら」
明石春刻「財産も」
明石春刻「例の蝋燭も君の望むものをあげよう」

〇宇宙空間
明石春刻「それに、これは君には関係ないけど、」
明石春刻「これ以上、秋川さんのような人を出さずに済むかも知れない」

〇シックなリビング
  それは正しいが、卑怯とも言える頼みだった。
明石春刻「ごめんね。お父さんの命や報酬をちらつかせてまで君に過去へ行ってもらいたい」
明石春刻「って、思ってる。でも、僕は死にたくないんだ。まだ・・・・・・」
  最初の、太々しさはどこへ行ってしまったのだろうか。
  と、思う程、春刻は弱々しく言った。
  でも、もしかすると、太々しく振る舞うでもしなければ
  とても助けなど求められなかったのかも知れない。
  私にも、誰にも・・・・・・。
黒野すみれ「2つ聞きたいのだけど、私がもし、失敗したらどうなるの?」
明石春刻「え・・・・・・?」
黒野すみれ「だって、秋川さんって人も・・・・・・だったんでしょう?」
黒野すみれ「私だって途中で死ぬかも知れない。しかも、蝋燭が途中で折れたら・・・・・・」
明石春刻「それも大丈夫だよ。君の死が確定しかけたら、確定する前からやり直す」
明石春刻「明石家当主の矜恃にかけて、蝋燭は折らせない」
明石春刻「君は死なせない」
  本当にこの男は卑怯だな、と私は思った。
黒野すみれ「貴方って卑怯だって言われない?」
明石春刻「うん、生憎、君にしか言われたことないけどね。否定はしないよ」
黒野すみれ「そう。じゃあ、もう1つ」
黒野すみれ「どうして、秋川さんじゃダメだったの? 私より適任だと思うんだけど・・・・・・」
  秋川の生きている時間まで戻って、彼の死を回避する。
  そして、彼と共に生き延びる。
  この質問に、春刻が答えられるなら私は言うだろう。
  過去に行って、貴方を助けても良い・・・・・・と。
明石春刻「それは」
明石春刻「・・・・・・彼の性格かな。彼なら僕を助ける為に尽くしてくれたと思う」
明石春刻「でも、彼を助ける為に僕が尽くしたことを知ったら、彼は絶対喜ばない」
明石春刻「そういう、人だったんだ・・・・・・」
  詰まりながらだけど、丁寧に誠実に答えられた答え。
  私は分かった、と答えると、春刻を助ける為、
  過去へ行くことを承諾した。

〇黒
  落下して使えなくなったペンの代わりのペン。
  戻りたい過去の日付を書く用紙。
  大きすぎる力・明石家の秘術が行える秘術の書。
  大きすぎる力その2・物の記憶を呼び起こし、
  対象者をその記憶と同じ時間へ誘う明石家の蝋燭。
  これ自体だと何の変哲もないが、
  対象者を過去へ送るのに絶対必要不可欠な発火剤。
  普通のマッチ。
  そして、過去に思い出を持つもの。
  ただ、可動が不可、ものがあまり大きい、それに人間
  は不向きとされている。
  人間の記憶は曖昧で、不正確ならしいから。

〇魔法陣2
明石春刻「本当にありがとう。君のおかげで僕はまだ生きられる可能性がある」
  君のおかげ・・・・・・。
  そう言えば、私の名前は知らない。
  と、春刻は言っていた。
  いや、家へ入る前、表札くらいは見ただろうから、
  苗字くらいは分かっているかも知れない。
黒野すみれ「名前、黒野すみれ」
  まだ名乗っていなかったから、と言うと、春刻は笑った。
明石春刻「そう、すみれちゃんか」
黒野すみれ「ちゃん・・・・・・って」
明石春刻「あ、すみれさんの方が良い? それか、すみれんとか?」
明石春刻「すーさん、すみすみ、くろのす様・・・・・・もありかな?」
黒野すみれ「はぁ、黒野か、すみれで良いよ」
黒野すみれ「まぁ、何故か、黒野すみれ殿って呼んでくる人もいるけど」
明石春刻「分かった。じゃあ、また会おう」

〇黒
明石春刻「黒野すみれちゃん」

〇女性の部屋
黒野すみれ「・・・・・・」
  見慣れた自分の部屋。
  いつも着ている服。
  爽やかな青い朝の空。
黒野すみれ「(また戻ってきたんだ。過去に。)」

〇一階の廊下
  奇しくも、また5日前の過去に戻ってきた私。
  私は階段を降りると、リビングへ向かう。
  リビングのドアを開け、
  出かけてくるから、と珈琲を飲んでいた父に言った。

〇シックなリビング
黒野草輔「ああ、俺はもう少ししたら出るよ」
黒野すみれ「あ、そうだ。折角なら旅先でゆっくりして来てよ」
黒野草輔「え・・・・・・?」
黒野すみれ「あれ? 言ってなかった? 知り合いの家に泊まるから何日かいないって・・・・・・」
黒野草輔「知り合いの家?」
黒野すみれ「うん、トキの家だよ」

〇シックな玄関
  私が小学生の時からの友人・物部(もののべ)トキ。
  トキが東京の大学へ進学したことから会うことは
  殆どなくなっていたが、父もよく知る友人ということで、
  信頼をおいている。
黒野草輔「やぁ、いらっしゃい!」
物部トキ「またお邪魔します」

〇シックなリビング
  まぁ、実際、本当にトキの家に泊まることもあるし、
  これから行くのだってハルトキの家だ。
  拡大解釈すれば、トキの家だろう。
黒野草輔「じゃあ、これでトキちゃんと良いもの、食べろ。あまり遅くまで出歩かんように」

〇カラフルな宇宙空間

〇シックなリビング
黒野すみれ「えー、良いのに・・・・・・まぁ、でも、もらっとくよ」
黒野すみれ「ありがとう」
黒野草輔「うんうん、社会に出たら期待してるよ。俺、早期リタイアして冒険家になるんだ」

〇密林の中
黒野草輔「密林」

〇草原
黒野草輔「草原」

〇海辺
黒野草輔「海」

〇田園風景
黒野草輔「田園」

〇神殿の広間
黒野草輔「神殿に、」

〇先住民の村
黒野草輔「秘境」

〇ジャズバー
黒野草輔「あ、ジャズバーもやりたいな」

〇カジノ
黒野草輔「カジノで大勝ち」

〇上官の部屋
黒野草輔「自分の城を築く」
  黒野様、お呼びでしょうか?

〇ホストクラブのVIPルーム
黒野草輔「クラブ通い」
黒野草輔「美しい女性達に・・・・・・」
黒野草輔「高くて、旨い酒!!」

〇シックなリビング
黒野すみれ「・・・・・・」
黒野草輔「まぁ、話は少しそれたけど、色々、夢もあるってこと」
  もし、もう僅かの時間しか残っていないと知っても、
  人は夢を見られるのだろうか。

〇黒
  父も。
  彼も。
  私も。

〇シックなリビング
黒野草輔「おっともう着替えるかな? 新幹線に間に合わなかったら、確実に遅刻する」
  自分がどこまでできるか。分からない。

〇黒
  でも、ここで終わらせたくない・・・・・・。
  誰の
  人生も。

〇黒
  私は父を送り出すと、明石家へ向かった。

〇レンガ造りの家

〇大きい研究施設

〇華やかな広場

〇宮殿の門

〇風流な庭園

〇屋敷の門

〇黒

次のエピソード:エピソード4-多色の刻-

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