うちの家政婦の怪人さん(脚本)
〇高層マンションの一室
ボクの家には家政婦さんがいる
家政婦さんは共働きで忙しい両親に代わって家事をやってくれている
両親とも家政婦さんを信頼しきっている
日野蒼(でも、僕は違う)
日野蒼(あんなやつを信じるもんか!!)
日野蒼(きっと油断した時に人間を襲うつもりなんだ)
日野蒼(いつかあいつの本性を暴いてやる!!)
お母さん「ほむちゃん、おはよう! 今日も朝御飯おいしそうね」
お父さん「火夢羅くん、シャツにアイロンかけておいてくれたんだね。ありがとう」
火夢羅(ほむら)「これくらい朝飯前っすよ!」
火夢羅(ほむら)「ガチで朝飯前だった!ハハハハッ」
自分の冗談に自分でうけている、
これが僕のうちの家政婦さんだ
お母さん「さあ、冷めないうちに早く頂きましょう!」
日野蒼「はーい・・・」
お母さん「蒼、ちゃんとほむちゃんに頂きます言うのよ」
日野蒼「い、いただきます・・・」
悔しいことに怪人が作ったご飯はおいしい
テレビから流れるニュース番組
コメンテーターの声
『やつら怪人を日本で受け入れるなんて、
政府はいったい何を考えてるんでしょうね』
『やつらの支援に莫大なコストがかかるんですよ』
『それに、犯罪の増加やテロの危険性だってあり得るんですよ』
母は無言でチャンネルを変えた
お母さん「ほむちゃん、テレビで言ってることなんて、気にする必要ないわよ!」
お父さん「そうそう。君たちが来たおかげで、医療や福祉の現場は助けられているんだから」
火夢羅(ほむら)「大丈夫っすよ! 俺はそんなことで、へこんだりなんかしないっす!」
日野蒼(お父さんとお母さんはこの怪人に甘いけど、世間はそうじゃない)
〇渋谷の雑踏
事の発端は二年前だった
謎の怪人たちが渋谷の街中に突如現れた
渋谷はパニックなり、怪人の情報はネットに上に溢れその日のうちに、日本中が怪人の存在を知ることになった
彼らがやってきたのは侵略するため、人間を改造するため、など様々な憶測が人々の間に飛び交った
しかし、彼らが渋谷に現れたのは意外な事情だった
紛争が続く惑星からこの星に逃げてきた。住まいも食べ物もない我々を助けてほしい
彼らはすぐに日本語を習得するほど優秀であったし、ずば抜けた体力があった
少子高齢化により日本の労働者は年々減っている。そんな労働者の確保のため政府は怪人を受け入れることを決めた
怪人のおかけで人手不足を嘆かれていた介護や建築業界は助けられた
しかし、一方で、怪人たちがテロを起こしたり、犯罪を犯したりするのではないかと懸念する声も上がっている
〇教室
4年生のクラス──
担任「明日から君たちが楽しみにしていた夏休みだ!」
担任「夏休み中に安全に過ごすために、先生からみんなに守ってほしいことを話します。まず、規則的な生活を送ること!」
担任「次に水遊びや、釣りは十分に注意すること!危険な場所にはけして近づかない!」
担任「そして、知らない人に声をかけられても、一緒に遊んだりついていかないこと!」
担任「元気な姿で夏休み明けに会えるようちゃんと守ってくださいね」
生徒たちは元気良く返事をした
日野蒼(明日から夏休み!)
日野蒼(なにして過ごそう?)
隣の席の柊さんが声をかけてきた
柊 日向「日野くんはどこか夏休みはでかけるの?」
日野蒼「ううん。うちは両親が仕事で忙しいから・・・ 柊さんはどこか行くの?」
柊 日向「わたしは熊本にあるおじいちゃん家行くの」
日野蒼「熊本まで行くの!?楽しそうだね!」
日野蒼(最後に夏休みに家族で旅行に行ったのいつだっけ?)
日野蒼(せっかくの夏休みだから夏休みらしいことしたいのになぁ・・・)
いじめっこ「なんだよ。カイジンは星に帰るんじゃないのかよ?」
日野蒼「僕のこと怪人って呼ぶなよ!」
いじめっこ「目が青いなんておかしいだろ。お前も怪人なんだろ。おうちに帰れないよ~助けて~って」
日野蒼「僕を怪人なんかと一緒にするな!」
柊 日向「やめなよ、男子!」
柊 日向「日野くん気にすることないよ。 こんなバカなやつ!」
いじめっこ「こんなやつってなんだ!」
担任の先生に注意され喧嘩は中断された
しかし、僕の気持ちは晴れなかった
〇シックな玄関
夏休み初日──
お母さん「それじゃあ、仕事にいってくるわね!」
お母さん「ちゃんと留守番してるのよ!」
お母さん「ほむちゃんがいるから大丈夫だと思うけど」
日野蒼「子供じゃないんだから、 留守番くらい僕一人で大丈夫だよ」
お母さん「一人にしたらずっとゲームしてるでしょ!」
日野蒼「うっ・・・」
日野蒼(両親がいない間ゲームし放題だと思ったのに・・・)
お母さん「あ、こんな時間!行ってくるわね!」
お母さんは慌てて出掛けていった
日野蒼(やだなぁ・・・あいつと二人っきりか)
日野蒼(そうだ!)
日野蒼(あいつを怒らせてやろう!)
日野蒼(あいつを怒らせれば本当の姿を見せるはずだ!)
日野蒼(そうしたら両親はあいつを追い出してくれるはずだぞ・・・!)
〇高層マンションの一室
火夢羅を怒らせる作戦!開始!
日野蒼「この、宿題わからないなぁ・・・」
日野蒼「まあ、火夢羅に聞いたところできっとわからないだろうけど・・・」
火夢羅(ほむら)「夏休みの宿題っすね!」
火夢羅(ほむら)「ああ、それならこういう風に計算して・・・」
日野蒼「え、わかるの!?」
火夢羅は簡単に問題を解き始めた
大人の火夢羅には簡単だったのかもしれない
火夢羅を怒らせる作戦2──
日野蒼「宿題やったらお腹空いたなぁ。 かき揚げが入ったお蕎麦が食べたいなぁ・・・」
日野蒼「まあ、怪人はかきあげ蕎麦を知らないと思うけど・・・」
火夢羅(ほむら)「よっしゃ!昼は蕎麦っすね!」
火夢羅(ほむら)「はい、お待ちっ!」
日野蒼「え、美味しそう」
日野蒼「それにそば粉からそば作るなんて・・・」
日野蒼(うちの家政婦は最強過ぎる・・・)
日野蒼「い、いただきます・・・」
火夢羅(ほむら)「どうぞめしあがれっす!」
日野蒼(お店で食べるの同じくらい美味しい・・・)
日野蒼(でも、夏休みなのに宿題して、家でご飯食べていつもと変わらないな・・・)
日野蒼「夏休みらしいことしたかったのにな・・・」
火夢羅(ほむら)「夏休みらしいことってなんっすか?」
なんでも知っている火夢羅がはじめて質問してきた
日野蒼「え?そうだなぁ。例えばみんなでスイカ食べたり、花火をしたり、プールに行ったりとか」
火夢羅(ほむら)「スイカってイカっすか?」
日野蒼「違うよ!緑の黒の縞々のやつだよ!」
火夢羅(ほむら)「ああ、あれっすか!最近よくスーパーでみるやつ」
火夢羅(ほむら)「危険な爆弾かと・・・」
日野蒼「なんだよ、爆弾って。 スーパーで爆弾売ってるわけないだろ!」
日野蒼「火夢羅ってばおかしい!」
火夢羅(ほむら)「・・・」
火夢羅(ほむら)「これから夕飯の買い物行くんすけど、蒼も一緒に行かないっすか?スイカを買いに!」
日野蒼「いやだ!」
火夢羅(ほむら)「えっ・・・」
日野蒼「怪人なんかと一緒にいるのを友達に見られたくない」
火夢羅(ほむら)「そう・・・そうっすよね・・・」
火夢羅(ほむら)「じゃあ、俺ひとりで買い物に行ってくるんで、ちゃんと留守番してくださいよ」
日野蒼「言われなくてもわかってるよ! ぼくはもう小学生4年生だぞ!」
火夢羅(ほむら)「ハハハハッ・・・そうっすね」
〇高層マンションの一室
火夢羅が買い物に出掛けたので、ボクは宿題を放り投げてゲームをし始めた
日野蒼「ゲームし放題!これぞ夏休みだ!」
しかし、近くのスーパーに行ったはずの火夢羅がなかなか帰ってこない
日野蒼「火夢羅、なかなか帰ってこないな・・・」
日野蒼「別にあいつのことなんて気にしてないけど」
お母さん「ただいまー」
日野蒼「お母さん、おかえり。早かったね」
お母さん「ちゃんとお留守番していた? あれ、ほむちゃんは?」
日野蒼「あいつならひとりで買い物行った」
お母さん「・・・」
お母さん「ねぇ、蒼。わたしは蒼の目の色が好きよ。 私と同じ青い瞳」
日野蒼「急にどうしたの?」
お母さん「でもそれを悪く言ったり、馬鹿にするひとがいたらどう思う?」
日野蒼「嫌だし悲しい・・・」
お母さん「怪人たちはたしかに私たちとあまりに違う。容姿も考え方も」
お母さん「それでも、一緒に生きていくことはできると思うのよ」
お母さん「全てを理解しろなんて言わないわ。 お互いに相手の事を知って認め合うことが大切なんだと思うの」
日野蒼「ぼく火夢羅にひどいこと言っちゃった・・・」
日野蒼「怪人と一緒に出掛けたくないって・・・」
日野蒼「それなのに、火夢羅は僕を怒ったりしなかった・・・」
日野蒼(火夢羅にちゃんと、謝らなきゃ)
日野蒼「火夢羅を探しに行ってくる!」
お母さん「え、ちょっと!蒼!」
〇入り組んだ路地裏
路地裏──
日野蒼「火夢羅どこにいったんだろ・・・」
日野蒼「近くのスーパーにもいなかった」
日野蒼(怒って帰ってこないつもりじゃ・・・)
不審者「ねぇ、君!」
日野蒼(え、誰?)
不審者「さっき君の家族が君を探していたよ」
日野蒼「え、火夢羅が?」
不審者「そ、そう。ほむらが・・・君を探していたよ。君の家族のところに連れてってあげるよ」
男はぼくの腕を掴んだ
日野蒼(なんか怖い・・・!!)
火夢羅(ほむら)「俺ならここにいるぜ」
不審者「ひ!怪人じゃねぇか!」
火夢羅(ほむら)「蒼、知らない人にはついていくなって言われなかったっすか?」
不審者「ごちゃごちゃうるせぇな!ほら行くぞ!」
男は強くぼくの腕を引っ張った
日野蒼「いたっ!」
火夢羅(ほむら)「お前、蒼を傷つけたな!」
火夢羅は男に向けて火を放った
不審者「あちっ!」
男は慌ててフードに付いた火を消そうとする
騒動を聞き付けて野次馬が集まってくる
女性「怪人が人を襲ってる!」
男性「早く警察を呼べ!」
日野蒼「え、違うよ・・・」
女性「君、大丈夫?怪人に襲われたの?」
日野蒼「違うってば!」
男性「だから怪人は野放しにしとくべきじゃないんだ!」
日野蒼「火夢羅はなんにも悪いことしていない!」
日野蒼「火夢羅もなにか言ってよ!」
火夢羅(ほむら)「俺がその男に火をつけました」
日野蒼「え?」
男性「ほら、やっぱりこいつがやったんだ!」
日野蒼「違う。ぼくを守ろうとして・・・」
日野蒼「火夢羅はなにも悪いことしていない!」
男性「ほらついてこい!警察に突き出してやる!」
日野蒼「やめて!火夢羅をつれていかないで!」
ぼくの叫びは無視され火夢羅は男たちに連れていかれた
〇警察署の廊下
警察──
その後、火夢羅は警察で取り調べを受けたが、帰宅を許された
火夢羅(ほむら)「迷惑おかけしてすいません・・・」
迎えに来た両親に火夢羅は謝った
日野蒼「火夢羅のせいじゃないよ!」
日野蒼「火夢羅は僕を守ろうとして」
日野蒼「うぇ・・・」
火夢羅(ほむら)「蒼、泣くんじゃないっす!俺は大丈夫っす!」
火夢羅(ほむら)「蒼が無事ならおれはそれだけで十分っす!」
日野蒼(こんなに優しい火夢羅を傷つけようなんてなんて馬鹿なこと考えたんだろう・・・)
日野蒼「火夢羅、ありがとう・・・」
日野蒼「それと、ごめんなさい。酷いこと言って。怒ってうちに帰ってこないかと思った」
火夢羅(ほむら)「そんなこと俺は気にしてないっす!」
火夢羅(ほむら)「これを探していたら遅くなっちまって・・・」
日野蒼「花火だ!」
火夢羅(ほむら)「俺がこんな成りだから、中々花火を売ってくれるお店がなくて・・・」
火夢羅(ほむら)「蒼は夏らしいことしたかったんっすよね?」
日野蒼「うん!」
そうして僕と火夢羅の夏が始まった
ホムラくん、いい奴だなぁ…(T-T)
誘拐(未遂)犯は燃やし切って、証拠隠滅してもよかったのに…(汚物は焼却処分の過激派)
学校の冷やかしは、他国籍社会になった現在もありそうですよね…
ご両親は仕方ない面もあるとは思いますが、もう少し一緒に遊ぶ時間を持ってあげて〜
色々書きましたが、考えさせられるいい話でした。
なかなか帰ってこない家政婦の怪人に「何かあったのか」と、いつの間にか心配する気持ちで読み進めていました。
ラストに帰りが遅い理由が分かって感動しました。
なんだか心温まりました。
たしかにみんな外見が違ってても、同じなんですよね。
怪人に対する非難があっても、蒼くんがわかってくれたらそれでいい気もしました。